総督府の宮殿で行われている、煌びやかな舞踏会とは裏腹に、その外では一触即発の空気が漂っていた。
突如現れた月詠に対峙するはフェイトとディズのアーウェルンクスの2人であり、己の自我を確立した最強レベルのアーウェルンクスだ。
「やりあうのは望むところやけど、ホンマにえぇんですかフェイトはん?
ウチ等が本気でやりあったら、総督の宮殿諸共吹っ飛んで多くの人が犠牲になりますやろなぁ?――死者が出る可能性すらありますえ?
まぁ、ウチに言わせれば魔法世界の人形がドレだけ犠牲になろうとなんの関係もない事おすけどなぁ?」
「呆れたわね月詠……大凡『人』の口から出て来るセリフとは思えないわ。
確かに仮初の幻想に過ぎない魔法世界の住人だけど、けど彼等は間違いなく此処で生きているのよ?
私達が言っても説得力はないかもしれないけど、だけどだからこそこの世界の人々を消す事は許さないわ!」
だが其れを相手取って、月詠は怯むどころかさらに狂気の笑みを深くしていく。――其れこそ『斬り甲斐のある相手が来た』と言わんが如くに。
更に、月詠はこの世界の住人がどうなろうと知るところではないと言う………その考えがあるからこそ、単身でこの場に乗り込んで来たのだろう。
「せやけど、本気でなければウチは倒せません。
言うなれば100人以上の人質を取られたにも等しいこの状況で、ネギ君の軍門に下った『正義のアーウェルンクス』はドナイな判断をしますの?」
「其れは実に簡単な答えだよ月詠さん。」
だが、其れでも慌てる事は無い。
あくまでも冷静に月詠を見据えながら、フェイトが指を鳴らすと、その瞬間に4人の少女がフェイトの前に降り立った。
「お呼びですかフェイト様?」
「我等はフェイト様直属の契約者……何なりとご命令を!」
其れは焔、調、環、暦の4人――通称『フェイトガールズ』と呼ばれるフェイトの契約者達であった。
栞のみがネギとの二重契約を経て、1−Aのメンバーと化しているが、残る4人は1年前の決戦後もフェイトの従者として活動していたのだ。
「命令は2つ、先ずは僕とディズが加減なしで戦える隔離結界を発動する事。
そして、月詠さんの襲撃をネギ君か、或はその仲間達に伝えて何時でも戦闘に入れるように準備しておくように言う事だよ。」
「御意に。」
そしてフェイトの命を受け、すぐさま結界が展開され、メンバー4人はこの事態を伝えるべく会場へと急ぐ。
「此れで一切の気兼ねがなく出来る……やろうか月詠さん?」
「私達との戦いを望むなら、せめて腕の一本は覚悟しておけと言いたい所だけどね!」
「うふ……うふふふふふ……なんや、やっぱり心があったんおすなぁ2人とも?
こんな全身が震えるほどの心地良い殺気と闘気は、感情のない人形が纏える物やおまへん……あは、此れは何とも襲撃かまして正解でしたわ。
所詮は刹那先輩との戦いの前哨戦に過ぎませんが、其れでも楽しい殺し合いが出来そうやわぁ………あは♪」
――次の瞬間、結界内で光が弾けた。
其れは開幕のゴング!……即ち、フェイトとディズのタッグが月詠と戦闘を開始したと言う証明に他ならなかった。
ネギま Story Of XX 161時間目
『舞踏会転じて武闘会なり!』
一方で舞踏会上の方は、相変わらず賑やかなパーティが続いている。
曲も既に3曲目に突入し、1−Aの面々もダンスパートナーが同性になる事など気にせず、適当にダンスを楽しんだりしている。
「うわぁ……せっちゃんホンマにダンス上手やねぇ?若しかして習ってたん?」
「いえその様な事は。
ですがお嬢様の従者として、お嬢様に恥を掻かせる事は出来ません……その気持ちが、私のダンススキルを高めているのかも知れませんね?」
「そっか〜〜〜……せやけど、せっちゃんとこうして踊れるんは、ホンマに嬉しいわぁ♪」
「其れは私もですよお嬢様。」
その中でも目を引くのは木乃香と刹那だ。
和装の木乃香に、その相手の刹那はスーツを纏った『男装の麗人』状態なのだから目を引くなと言うのはそもそも無理な注文であろう。
そして、木乃香と刹那のペアと同じくらい注目を集めているのが――
「若しかしてダンスは初めてかしら?」
「……お恥ずかしい事ですが、心得がなくて……」
アスナと栞のコンビだ。
嘗てアスナを模した栞と、ネギの実姉であるアスナには不思議な友情が構築されているらしかった。(単純にアスナが栞を気に入っただけだが。)
まぁ、それはさておき、戦災孤児であり尚且つフェイトの下でずっと暮らして来た栞に社交ダンスの心得があるかと聞かれれば、其れは断じて否だ。
故にこの様な場所に来ても栞は暇を持て余してしまう結果になってしまうのだが、アスナは其れを見越して栞をダンスに誘ったのだろう。
例え心得はなくとも、存外こう言うモノは場の雰囲気で踊る事が出来るモノなのだ。
「心得がなくて此処まで踊れれば上出来よ。
マダマダ危なっかしい感じはするけど、踊りそのものは堂に入ってると思うわ――そうでなきゃ、私のステップについて来る事は不可能よ?」
「言い得て妙ですわね……」
ゆったりとした旋律が続くが、しかしこの時間も長くは続かなかった。
「栞。」
「わひゃぁぁぁ!?し、調!?お、驚かさないで!!」
「そんなに驚くほどの事でしょうか?」
「……背後から、行き成り声を掛けられたら、普通は驚くと思うわよ?」
アスナと踊っていた栞の背後に、突然調が現れたのだ。
あまりに唐突故、栞の反応は至極当然だが、しかしこの場に調が現れたと言う事は『何かあった』と察し、栞は直ぐに落ち着きを取り戻す。
「流石に驚いたけれど、貴女が此処に来ると言う事は何かあったのね調?」
「付き合いが長いと、いちいち説明せずとも察してくれて助かりますね。
えぇ、貴女の言う通り問題発生です調――単刀直入に言いますと、この総督府に敵が現れ、フェイト様とディズ様が結界内で戦闘状態に。
あの御二人が負けるとは思えませんが、襲撃をかけて来たのは『アノ』月詠ですから、警戒をするに越した事は無いでしょう。」
「!!其れは確かに大変ですわね!?」
そして明かされた情報は敵の襲撃。
それも色んな意味で『特Sレベル』でヤバイ月詠が来たと言うのだから、確かに警戒レベルをMAXにまで引き上げても警戒し過ぎではないだろう。
更に、環、焔、暦の3名もこの場に現れ、稼津斗やネギのパートナー及び、1−A+αの面々に事の次第を伝えて行く。
この事に、当然ながら去年の一件に参加した面子は警戒の陣形を組み、すぐさま戦闘に移れるように態勢を整える。
また去年不参加組も『なんだかやばい事になりそう』と言うのは分かったのか、何があっても直ぐに行動出来るように気持ちを切り替えている。
因みに、稼津斗組でもネギ組でもない去年の不参加組には、千草が『初心者でも簡単に使える式神符』を10枚ほど渡しているので大丈夫だろう。
そして、この面子の気配の変化を感じ取った者も当然いる。
トレジャーハンターのクレイグ達と、給仕係として参加して居るトサカは彼女達の雰囲気の変化を敏感に感じ取り、自身も警戒を強めていたのだ。
とは言え、舞踏会参加者の多くは戦いとは無縁の生活を送って来た上流階級のセレブなだけに、此処で何かが起こる等とは考えていないだろう。
故に、多くが何も感じないまま新たな一曲が始まろうと言うところで………
――ガシャァァァァアァァァァァァァァァァァァン!!!!
「「「「「「「「!!!!????」」」」」」」」
其れは起きた。
舞踏会場の天窓やら何やらを粉砕して、異形のモンスターが、其れこそ数えきれない程会場に侵入して来たのだ。
其れにより、優雅な雰囲気に包まれていた舞踏会場は、あっという間に阿鼻叫喚のパニック空間へと変貌してしまった。
「ば、化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「に、逃げろォォォ!!」
「いやぁぁぁ!来ないでぇぇぇ!!!」
あまりの事態に逃げ惑う者が続出!!
普通なら、此処で大混乱が巻き起こり事態はより悪い方へと進むだけだろう――だがしかし、此処に最強級の戦力が居るのを忘れてはならない。
「紅血刃!!」
「極星の勅命!!」
「雷神の鉄槌!!」
「スクリーンディバイド!!」
「穿て、ブラッディダガー!!」
即座に稼津斗組が迎撃に乗りだし、現れたモンスターを凄まじい勢いで掃滅していく。
その姿たるや、正に一騎当千の戦乙女の如く、力強く美しい。
「平和に暮らす人達に危害を加えさせなんてしない!!」
――轟!!
更にアキラが、この状況に於いてXX2ndに覚醒!
元々かなり強い力を持っていたアキラだが、この状況に於いて『去年みたいな事は絶対に嫌だ』と言う思いが爆発して2ndの覚醒に至ったらしい。
そしてそうなれば、戦力は更にアップして正に敵なし!
「あん?なんだこりゃ、前と違って攻撃が効くぜ?」
「此れなら行けそうね!」
加えて、この総督府に居る魔法世界人はアスナの加護を受けてリライトされない状態になっており、同時に相手への攻撃が有効にもなって居た。
何よりも脅威なのはアスナだろう。
「邪魔。」
天魔の剣を一閃しただけで、10体近いモンスターが塵と消えているのだから。
流石は黄昏の姫巫女と言うか、魔法世界に対して絶対の力を持つアスナの前では、召喚されたモンスターなど只の塵芥に過ぎないのである。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!
我が召喚の呼び掛けに応じ、今こそ此処に顕現せよ!裏式神符、禁符の零式『八岐大蛇』!!!」
更に千草が八つ首の大蛇を呼び出し、その圧倒的な力でモンスターを粉砕!玉砕!!大喝采!!
圧倒的と言うのも生温いだろう、この面子の前では召喚モンスターが何体来ようとも敵にすらならないと言う事を、見事に見せ付けてくれていた。
そしてこの圧倒的な力が、一般参加者の落ち着きを取り戻し、迅速な避難に繋がった事は言うまでもないだろう。
――――――
同時に、同じ事は総督府特別室でも起こっていた。
会談の最中に、巨大な異形のモンスターがガラス張りの天井や窓ガラスをブチ砕いてやって来たのだが……
「斬魔剣・弐之太刀!!」
「マッタク、雁首揃えてご苦労な事だ。」
「所詮は雑魚に過ぎん、消えるがいい!!!」
何と言うかマッタク持って相手になって居なかった。
ある者は切り裂かれ、ある者は撃ち抜かれ、またある者は圧倒的な力で攻撃態勢に入る事も出来ずに一撃紛滅!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!喰らえ、雷華崩拳!!!」
「ルァッカーン……適当に気を込めた右ストレートォォォォォォォ!!!!」
――ドッガァァァァァァァァッァアァァン!!!
当然の如く、ネギとラカン天下無双状態!
まぁ、コイツ等が負けるところを想像できるもんならしてみやがれと言う意見が聞かれそうだが、其れは其れ、此れは此れで、兎に角強過ぎる!!
「そんな温い攻撃が、俺に通ると思ってるのか?」
稼津斗もまた、召喚モンスターの攻撃を片手で受け止め、そして余裕の表情。
千雨曰く『史上最強の無限チートのウィルスバグ』の名は伊達でないようだ。
「この程度じゃ相手にもならないぜ……調子こいてんじゃねぇぞコラァ!!」
其れは兎も角、稼津斗は攻撃してきたモンスターをそのまま吊り上げると、ローキックを炸裂して床に強制ダウンを執行!
そして其処から、その相手を強引に投げて地面に叩き付ける事合計7回!――一切手加減する心算は無いらしい。
「その命、貰った!!」
トドメとばかりに気の柱を発生して、召喚モンスターを消し去った――序に言うなら、この稼津斗の一撃は多くの召喚モンスターを巻き込んでいる。
正に一騎当千!
突然の襲撃であろうとも、稼津斗は慌てる事はない。
己の圧倒的な力を持ってして殲滅する!――稼津斗の瞳には武闘家特有の闘気と、血に飢えた肉食獣の殺気が混ざって見える事だろう。
「さぁて、来いよ雑魚共?次にぶちのめされたいのはドイツだ?
俺やネギに叩きのめされたい奴から出てきな――望み通り、欠片も残さずに消滅させてやるからな!!」
――轟!!
更に稼津斗はXXVを解放し、圧倒的な力の差を召喚モンスターに見せ付ける。
『来るなら来い』と言わんばかりの稼津斗の視線には、不敵な笑みと、絶対強者の余裕と、武闘家の魂が宿っていた。
――――――
場所は再び結界内。
フェイト&ディズvs月詠と言うこの組み合わせだが、誰が如何考えてもフェイトとディズが負ける事は無いと思うだろう。
にも拘らず、フェイトもディズも月詠には一切の必殺攻撃が効かなかったのだ。
言っておくが、フェイトとディズの攻撃が温い訳ではない。
地と水の力を併せ持ったタッグは確かに脅威極まりなく、現実に水と砂を用いた『泥の魔法』で月詠の攻撃を尽く阻んでいたようだ。
「くふ……あはははああははははははははは!!
面白い、面白いおすなあ、フェイトはん、ディズはん!こんなに楽しい事が有るさかい、人斬りは止められまへん!!
せやから、もっと楽しみましょ?力の限り殺し合いましょう?……もっともっと……お二人の殺気と闘気でウチはもう何度も達してもうた……
やからなぁ………もっともっと愛し合いましょ、フェイトはん、ディズはん……ウフフフフ…アハハハハハハハッハハッハハハハッハハハハハ!」
――轟!!
そして、この状況に於いても思考がぶっ飛んでる月詠は動揺もせず、それどころか更なる力を発揮してくれた。
「此れがウチの全力や……これが、此れこそが、只一つ望んだ事こそがウチの全てやぁぁぁぁぁ!!!」
瞬間、月詠の姿は変わって居た。
日本人には珍しい、色素の薄いブロンドの髪は、ベタを塗ったかのように真っ黒くなって、そして瞳は反転して狂気を際立たせている。
だが、この変化に反応したのは他の誰でもなく、フェイトとディズだった。
「な!!そんな馬鹿な……こんな事が有り得るのか?」
「月詠……頭髪と目の変化――まさか此れは、稼津斗とその従者達の最強状態である『XX』の変化そのものじゃない!!」
言われてみればさもありなん。
頭髪と目の色彩変化に加え、全身に纏った稲妻オーラは、成程確かにXXの特徴と言えるだろう。
「あはは……ウフフフフ……さぁ、時間の許す限りもっともっと殺し合いましょ……其れがウチの望みやからなぁ……」
月詠の強化については謎が残るが、だからと言って其れに思考を奪われたのでは元も子もない。
一度深呼吸をして、ディズとフェイトは改めて月詠と対峙する――最終決戦開始の鐘は、まだ鳴らされたばかりであった。
To Be Continued… 
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