絢爛豪華な総督府宮殿の大広間に流れる、荘厳かつ軽快なワルツのメロディーは舞踏会の楽曲としては極めて質が高い物と言えるだろう。
作曲者こそ不明(あくまで地球ではの話であり、魔法世界に於いては結構有名な作曲者)だが、その旋律は聞く者を魅了するだけの力がある。


「ククク……まさか、600年以上も生きた果てに、思い人と舞踏会で踊る事が出来るとは思ってもみなかったな?
 ナギの奴が無茶苦茶な魔法で15年も麻帆良に縛り付けてくれたお蔭で、こんな経験をする事が出来た思えば、其れもまた悪くはないか。」

「確かに、そう考えれば父さんがエヴァを麻帆良に縛り付けていた事も悪くないのかもしれません。
 僕だって、こうして舞踏会で大好きな人と踊る事が出来る日が来るなんて言うのは、有ったとしてももっとずっと先の未来だと思っていましたから。」

「そうか?……では、尚の事この舞踏は楽しまねばな。」

「……はい!」


その旋律に乗せられてかどうかは分からないが、この一曲を躍っている恋人達は実にいい雰囲気である。


「えっと……思ったより、リード上手だね小太郎君?」

「そらまぁ、ネギの奴に『女性をエスコートする彼是』を半ば強制的に教え込まれたからなぁ?
 まぁ、俺はガサツでアレやけど、其れなりに形にはなっとるやろ?……少なくとも、夏美姉ちゃんに恥を掻かせん位のレベルにはなっとる筈や。」

「そんな……恥を掻かせないどころか、自慢したくなるレベルだよ。」

「そ、そうか?せやったら良かったわ。」


ネギとエヴァンジェリン、小太郎と夏美は実にいい雰囲気である。
尤もそれを見た他の女性参加者から、エヴァンジェリンと夏美に対して嫉妬と羨望が此れでもかと詰まった視線が向けらていたのだが……

だからと言って実害がある訳でもなく、舞踏会は取り敢えず平穏無事に進行されているようである。











ネギま Story Of XX 160時間目
『最終決戦のプレリュード』











さて、ネギ&エヴァンジェリンと小太郎&夏美は実に良い雰囲気だとして、稼津斗とラカンは如何であろうか?



「普通の舞踏会なのが何とも残念だな?
 此れが氷上の舞踏会だったら、お前をリフトした上でフィフスアクセル(五回転半)の超大技を披露する事も出来たんだけどな……残念だ。」

「5回転半て……幾ら何でも回り過ぎだ。」

「まぁ、やろうと思えば10回転位できると思うがな?」

「絶対やるな、色々と問題が発生するから!!
 と、冗談はさておき、お前はダンスのエスコートも巧いな稼津斗?……此れならば女性の方だって、安心して身を委ねる事が出来ると言うモノだ。」

「そうかい?……ま、色々と経験豊富なもんだから此れ位はな。」


先ず、稼津斗とイクサは適当に冗談を交えつつ、見る者を魅了するような見事なダンスを披露してくれている。
長身の稼津斗とイクサが舞う様は其れだけでも美しいが、舞う度に揺れる稼津斗のコートと、イクサの銀髪が其れに更なる華を添えているようだ。




「……無限チートのバグキャラな脳筋かと思ったら、意外とダンスも堂に入ってんなオッサン?」

「坊主と比べりゃ大分無骨だろうが、此れ位なら悪かねぇだろ?」

「ま、及第点て所だな。
 戦いにおける力量は兎も角、紳士としての力量は多分ネギ先生の方がアンタよりも遥かに上だぜ?――ま、アンタのとダンスも悪くないけどさ。」

これまた軽口を交えつつ、千雨とラカンもダンスを堪能中。
此方は余りにも体格差があり過ぎるが、其処はラカンの適当なフォローと、千雨の素人とは思えない見のこなしで何とかなっているようだ。


三者三様と言えるこのダンスは、しかし良い思い出には成っただろう。





「鳥のモモ肉……じゃないよね?よく似てるけど……」

「え〜と……『幼ドラゴンのモモ肉のロースト』やて。」

「幼ドラゴンのモモ肉……んじゃ、柔らかくて美味しいよね〜〜!いっただきま〜〜〜す!!!」

「「「「「「って、食うのかよ裕奈!!!」」」」」」

ダンスに参加して居ない面子も、立食式の晩餐会を心から堪能している様子。
特に地球では先ずお目にかかる事は出来ない『ドラゴンの肉』は、ホンの少しばかりの戸惑いはあれど興味を引くモノであるのは間違いないらしい。


加えて食した経験のある裕奈と亜子と千草が、さも当たり前の様にそれを手にしている事から、1−Aの面々が其れに手を出すのは必然だった。



「おぉ!?此れは予想外に美味しい!!てか、鶏のモモ焼きよりもずっとイケる!!」

「此れがドラゴンの肉の味――忘れられない味だわね……!!」


そして其れは予想以上に嵌ったらしく、皆次々と皿にとって食していく。
此れだけ美味しく食べて貰えたならば、調理されたドラゴンも大いに本望だろう。



さて、そんなこんなで先ずは1曲目が終了し、2曲目と言うところで……


「ナギ様、ダブルエックス様、ようこそおいでくださいました。」

クルトの側近である少年がやって来た。
恐らくは会談の準備が出来たので、稼津斗とネギを呼びに来たのだろう。呼び名が偽名の方なのは……まぁ、本名だと色々問題だからだ。

偽名の方でも充分有名なのだが、本名となれば其れは、今や魔法世界を救った救世主の名なのだ、大混乱は免れない。
その辺も考慮して、ネギは大人モードになり稼津斗も髪型を大幅に変える事で一目では『そう』だと分からないようにしていたのである。


「久しいな……元気だったか?」

「僕も総督も其れなりに――尤も総督は過労で倒れるのではないかと思うくらいに激務な時もありましたけれどね。
 其れはさてとおき、クルト総督が特別室でお待ちですので付いて来てください。」


――漸くか。
その意味を込めて、稼津斗とネギは互いを見て頷く。


「同行者は矢張り3名までで?」

「はい、慣例ですので、総督が其れを破ったとなれば政治的な問題に発展しかねませんし、何よりも貴方達の仲間全員が入るには狭いですから。」

「成程、説得力のある理由だ。」

そして、矢張り同行者は3名と言うのを聞いて、即座にメンバーを選出する。


「となると、俺が連れてくのは和美だな。
 会談の録画と、それからこっちに残るメンバーへの中継を頼む。」

「OK、任せといてよ稼津兄。」

「其れから真名。
 去年の様な事が無いとも限らないし、連中がクルトを狙ってくる可能性も充分にある――もしもの時の戦力として来てくれるか?」

「勿論さ稼津斗にぃ。」

先ずは稼津斗。
情報を全員に伝えると言う事で、怪談のリアルタイム中継が出来る和美ともしもの時の戦闘要員として真名を選出。まぁ妥当なところだろう。


「其れじゃあエヴァ、同行願えますか?」

「無論だ。」

「ありがとうございます――其れから千雨さん、朝倉さんのサポートと情報解析をお願いします。」

「オーライ、そう来ると思ったぜ。
 ったく、私がこんな事につき合うなんざ夢にも思ってなかったが、どっぷり浸かっちまった以上はとことん付き合ってやるよ。」

「其れでもう1人は――」

「おいオッサン、今度はアンタが私に付き合え。」

続いてネギは、エヴァンジェリンと千雨を選出し、そして3人目を選ぼうとしたところで、千雨がラカンの強制参加に打って出た。


「俺が?いや、俺よりも姫子ちゃんが行った方が良いんじゃねぇのか?」

「かもしれねぇが、アスナにはやる事が有るんだよ、だからアンタが来い。
 ぶっちゃけアンタだって私等と一緒に来る心算なんだろ?だったら付き合え。」

「……其処まで熱烈に誘われちゃ断れねぇな?――坊主、悪いが俺様も同行させてもらうぜ?」

「いえ、ラカンさんが一緒なら千人力ですよ。」

とは言え、ラカンとて無粋な詮索はしない。
簡単なやり取りだったが、其れだけでも自分が行く理由は良く分かったのだろう――まぁ、要するにいざと言う時の最強戦力だと。

同時に千雨の言った『アスナのやること』も大体の見当が付いていたが故に其れを受けたとも言えるだろう。


ともあれ、此れで会談に臨むメンバーは決まった。

一行は少年に案内され、総督府特別室へと足を運んで行った。


その際に、ネギがアスナに僅かに視線を向け、其れを受けたアスナがこれまた僅かに頷いていた――恐らくは『アスナの役目』の事だろう。


そのアスナは、ネギ達が会場から居なくなるのを確認すると、誰にも聞こえないくらいの声で呪文を紡いでいた……護る為の呪文を。








――――――








「さて、お久しぶりですねネギ君、稼津斗君。
 尤も君達は、割と此方の世界に来ていたようですが、こうして顔を合わせるのは凡そ1年ぶりですかねぇ?元気そうで何よりです。」

「お前も元気そうだなクルト?」

「代わり無いようで何よりですクルトさん――それで、何があったんですか?」


特別室に到着した稼津斗達一行は、挨拶もそこそこに本題に入っていた。
いや、此れもある意味当然と言えるだろう――少なくとも稼津斗もネギも、否1−Aのメンバー+α全員が決戦の為に魔法世界に来たのだから。


そしてクルトもまた、稼津斗達が此方に来ていると知り、そして武道大会を観戦した上でこの総督府での宴を開いたのだ――2人が来ると信じて。
故に、無駄な言葉は要らない。


「君達がアレだけ大勢の仲間を引き連れて此方に来たと言う事は、始まりの魔法使いと決着を付ける為と思いましてね。
 決戦に先駆けて、此方で起きてる事を幾つか話しておこうかと思いまして。」

「こっちで何か起きてるのか?
 生憎俺もネギも、計画の方にかかりきりで此方の社会的事件とかは良く分からないから、其れを知る事が出来るのは有り難いが………」

「ただそれだけならば、此方の世界の新聞のバックナンバーを読めば事足ります。
 其れだけでは済まない事が起きてるんですね、クルトさん?」



――相変わらず鋭い。
その事にクルトは感心しながら、眼鏡の位置を直すと此方で今何が起きているかを話し始めた。


「その通り、其れだけでは済まない事態が起きているんですよ――最大限簡単に言えば、ここ最近『通り魔殺人』が相次いでいるんです。
 しかも只の通り魔じゃなく、被害者は全て『リライト』されていると言うトンでもない事件が、既に今月だけでも5件も発生しているんですよ。」

そしてその内容は確かに只では済まない事だった。
通り魔殺人と言うだけでも厄介だが、被害者がリライトされてるとなれば、犯人は間違いなく始まりの魔法使いの手先と見て良いだろう。


「凄まじい数だな?……けどよ、そんな事件を誰も知らねぇのかよ市民は?」

「知らないですね……いえ、報道しない訳ではなく、報道できないのですよ。」

「報道できないとは如何言う事だ?」

「……リライトは人知を超えた力、限定的ながら世界を書き換える魔法と言っても過言ではないでしょう。
 故に、リライトによって消された人々は、実体を持たない魔法世界の住人の記憶から消されるのですよ――存在そのものをね。
 だから報道しようがないし、伝えようもないのですよ。消された者を知るのは私を含め、限られた数の実体を持つ者だけなのですから。」

更に明かされた事実。
リライトが限定的な世界改変であるならば、消された人の事が記憶に残らないと言うのも頷けるだろう。

言い方は悪いが、魔法世界の住人は言うなれば殆どが『作られた者』なのだ。
それ故に、造物主の力を使えば如何とでも出来てしまうのだ、其れこそ人々の記憶を書き換える事すら容易だろう。



「その程度の事くらいは出来るだろうと思っていたが、実際聞くと胸糞悪い事この上ないな。
 そんな事件が起きてるって事は、始まりの魔法使いとやらが本格的に動き出したって事だろう?――そして件の通り魔は多分月詠だろう?」

「多分、その可能性が一番高いよカヅト。
 月詠さんだけが、あの戦いの後でも所在が不明のままだったから、あの場から逃げ果せた始まりの魔法使いと一緒に居ても不思議はない。」


だからと言って稼津斗とネギが焦るかと言われたら其れは否だ。


気の遠くなるような時間を一人で戦い続けて来た稼津斗と、僅か10歳で世界を背負う覚悟をしたネギがこの程度で焦る筈がないのだ。
極めて冷静に状況を分析し、始まりの魔法使いが本格的に動き出したと言う事を看破していた。



「Good!流石ですね、其処まで分かっているならば話は早い。
 君達のお蔭で、魔法世界の最大の懸念であった『解決不可能問題』は最早解決不可能ではなくなり、略間違いなく解決されると見て間違いない。
 故に、私も迷う事は無い――最大の敵である始まりの魔法使いを打ち倒し、この魔法世界の全ての民を救う。此れが我々の共通目的でしょう!
 そしてネギ君、君はもう下準備を完了していますね?」

「鋭いですねクルトさん。」


だが、だからと言って焦る必要は何処にもないのだ。
来るとも何かを感じ取ったのか、ネギに問えば答えは『是』である――果たして何をしたのか……


「アスナ姉さんに頼んで、この総督府を中心に半径1km以内に存在している魔法世界人に対してプロテクトを施して貰いました。
 アスナ姉さんの力はリライトをも上回る強力なモノ――如何に始まりの魔法使いと言えど、黄昏の姫巫女が施したプロテクトは破れません。」

「其れはまた何ともすさまじいですね……!!」


その答えは、この総督府を中心に半径1km以内に存在している魔法世界住人にリライト無効のプロテクトをアスナが掛けたと言う事になる。
ネギが会場にアスナを残して来たのは、一刻も早く此れを完成してほしかったからだ。


そのネギの願いに呼応するようにアスナも可能な範囲内に居る者達にプロテクトを掛けて見せたのだ、見事と言う他ないだろう。



「魔法世界人にリライト無効のプロテクトを施すとは、流石は黄昏の姫巫女と言ったところですね。
 だが、彼女のプロテクトが施されたならば魔法世界人は取り敢えずリライトされる事は無いでしょう。故に決戦は近い――覚悟は宜しいですか?」


「是非もない…参加させて居らうぜ俺は。」

「僕も行きます!他の誰かだけに任せっきりになるんなんて、そんのは絶対に認めない!!!


稼津斗とネギの闘気は既にマックス状態
いや、この場に連れ来られた者達もまた同様に闘気はマックス状態だろう


そして其れを見たクルトは、僅かに口元に笑みを讃えていた。
其処から読み取れるのは最強の戦士を得てこの世界のを真に平穏な地に出来ると言う安息と安らぎからか……


だがまぁ、取り敢えずクルトは敵ではない。
成ればある意味でこれ程頼りになる仲間も他には居ないだろう――取り敢えず1−Aと魔法世界の戦力が出会うのは間違いないだろう。







――――――








同刻、月詠は怪しげな輝きを放つ二本の脇差を携えて其処に居た。
その目に浮かぶのは一切の混じりけが無い純粋なる『狂気』――そう、只只管に人を斬り殺す快楽のみを求める異常者の狂気だ。

「あはは……こんなにも斬り殺していい連中が居るかと思うと、其れだけで達してしまいそうやわぁ♪
 精々足掻いてくれますかなぁ?どんな状況に陥っても生きようと足掻く者を斬り殺すのは何とも言えない快感やからなぁ……ウフフフフ……」

「相変わらずの異常性癖だね月詠さん……残念だけど、貴女の望みを成就させる心算は無い。」

「って言うか、貴女みたいのを手元に置かないといけないなんて、始まりの魔法使いは相当に切羽詰まっているのかしらね?」


だがその月詠の動きは唐突に止められた。
何故なら右手の小太刀は石に絡めとられ、左手の脇差は腕ごと凍らされてしまったのだから。



「アンタ等は……フェイトはんとディズはん!!――邪魔立てする気おすか!?」

「態々聞くまでもないだろう月詠さん?
 僕もディズも、ネギ君と稼津斗の計画が成就か頓挫するまでは彼等の仲間だ――故に、その障害となる貴女を見過ごすわけには行かないんだ。」

「藪をつついて出て来たのは大蛇だったみたいね?
 貴女は確かに強いだろうけど、私達アーウェルンクスを2人も相手取って果たして勝てるのかしら?…其れを含めてじっくりと見せて貰うわ月詠。」



人知れず、バトル開始。
そしてこの戦いが最終決戦開始の狼煙であったと言う事を多くの人が知るのは、此れから更に数年後の事である。



何れにしても戦いの火蓋は切って落とされた。
此処か先は言葉は不要で、要するに戦うだけであり――そしてこの戦いは同時に、魔法世界最終決戦開始のゴングでもあったのだ……











 To Be Continued…