「今更ながら、本気で人間じゃねぇな稼津斗先生とあのオッサンはよぉ…」

「まぁ、稼津斗にぃに限って言うなら本気で人間ではないんだがな……」

「其れを踏まえても、見事なまでに圧倒的にござるなぁ♪」


客席で観戦している1−Aの面子は、恐らく異口同音に同じ事を思ったであろう。

殺意の波動をその身に宿して強化されたルガールを相手取り、しかしながらXXVの状態で更に殺意の波動を覚醒させた稼津斗は余裕そのものだ。
嘗ての暴走状態とはまるで違う、正に『殺意の波動を極めた者』としての力が、ルガールを圧倒していた。


「まぁ、稼津さんが負ける事だけは考えられへん。
 せやけど、其れとは別に何とも嫌な予感がするんは私だけやろか……?」

「ううん、私も其れは感じたよ亜子……稼津斗さんは負けないだろうけど、何か嫌な予感がする……」

しかしながら、言いようのない『嫌な予感』を稼津斗のパートナー達は感じ取っていた。
別に稼津斗がやられるとかそう言う類のモノではないが、漠然と――そう、巨大な力が制御を失って暴れ出すのではないかと言う予感がしたのだ。


「私も其れは感じたけど、多分大丈夫じゃね?
 仮に何か起きても、稼津兄が居るから大概の事は如何にかなるっしょ?いざとなれば私等とネギ君達が出ればいいだけの事だし。」

「そりゃそうか。」

が、忘れてはいけないのが1−Aの異常で過剰な戦闘力!
この面子が力を合わせれば大概の事態には対処する事が可能だろう……と言うか、対処出来てしまうのだから。

とは言え、そんな事態が起きないに越した事はない――1−Aの視線は、再び闘技場に向かい、圧倒的な格闘戦に釘付けになって居た。











ネギま Story Of XX 158時間目
『極めし者と、喰らわれた者』











闘技場での戦いは白熱し、しかし稼津斗の優位は揺るぎない。


「如何したルガール?もっと本気でやってくれていいんだぜ?
 其れとも何か?本気を出してこの程度だったのか?――なら失礼な事を言ったな、謝るよ。」

「舐めるな小童がぁ!!」

嵐の如く、ルガールは拳と蹴りを繰り出すが、その内の只の1発も稼津斗には掠りもしない――完全なる見切りとは、正にこの事だろう。
稼津斗はルガールの攻撃を、すべて紙一重で最小限の動きを持ってして回避しているのだから。


「攻撃のスピード自体は大したモノだが、そんな丸分かりの軌道じゃ俺には通じない。
 殺意の波動をその身に宿したとは言え、下地の強化は皆無の様だな?――其れで俺に勝つなんて片腹痛いぜルガール。」

「貴様わぁぁぁあぁあ!そぬぉ、減らず口うぉ、二度と叩けなくしてくれるぃ!!」


――ブシュゥゥゥゥゥ!!


その最中、稼津斗のあまりにも挑発的な態度にブチ切れたルガールは、気で煙幕を張り一切の視界をシャットダウン!
視界が利かない状態ならば、稼津斗に対しても奇襲が仕掛けられると思ったのだろう。――その選択そのものは悪くはなかった。

確かに並の武道家ならば、視覚情報をシャットダウンされては如何する事も出来ないだろう。


だがしかし、稼津斗は一流を超えた超一流の武道家なのだ――故に視覚情報の完全シャットダウンなど大した問題ではないのである。



――バキバキバキ!ゴスゴスゴスゥ!!



「ぐが……ば、馬鹿ぬぁ…な、なずえぇ……」

「戦いに於いて大事なのは、相手の気の流れを掴む事だ。
 貴様は視覚情報にだけ頼るから、俺の動きを読む事が出来ないのさ。」


煙幕が晴れると、其処には無傷の稼津斗と、満身創痍となったルガールの姿があった。
圧倒的な実力差――其れを如実に物語る『結果』が其処に再現されていた。――尤も、ルガールはマダマダやる気充分であったが。


「ほぜくぇぇぇ!貴様はぁ、此処でころしてやるぅぃ!!」

「やってみろよ、三下が!」


再び攻防再開!
だが、矢張り勝負になって居ない。


常人の目では追う事も叶わない攻防だが、ルガールの攻撃は一切合切稼津斗には通らない。
いや、通じるどころか渾身の一撃を放つたびに、ルガールには稼津斗の的確なカウンターが突き刺さっている……実力差は明らかだった。


「大事なのは相手の気の流れを掴む事だと言っただろう?――貴様、俺の話を聞いてなかったのか?」

「だまれえぇ……貴様如きにぃ!!!」


だが、ルガールとて簡単には引き下がらない。
並の攻撃では稼津斗に通じないと悟るや否や、殺意の波動の究極奥義である『瞬獄殺』を発動!

刹那の瞬間に地獄を垣間見せる極滅奥義は、如何に稼津斗とて回避する事は出来ない。


一瞬の閃光の後で、其処には結果だけが残されていた。
闘技場中央で腕を上げているのはルガール。そしてその足元に横たわる稼津斗……此れは決したかと1−A以外の誰もが思ったが……


「温いな……」

「貴様…瞬獄殺を喰らって…そんなぶわぁかぬぁ!!!」


氷薙稼津斗、完全無欠で余裕綽々!
ルガールの瞬獄殺を、全弾紙一重で捌き切って凌いでみせたのだ――真の達人の技量の深さをマジマジと見せつけてくれた結果と言えるだろう。

ゆっくりと立ち上がり、ルガールを見据えるその視線は鋭い事この上ない。


「この程度で殺意の波動を極めた心算か?……だとしたら呆れて笑う気も起きないな。」

「!?」

そして気を解放したその瞬間に、稼津斗の姿は消え――


――バキィィィィ!!



「ぶるあぁぁぁぁぁ!?」

ルガールの横っ面に、強烈無比な飛び蹴りが突き刺さった。

言うまでもなく、稼津斗の一発である。殺意の波動を宿したルガールですら反応出来ない程の超光速の跳び蹴りが炸裂したのだ。


「く、一体何処くあぁるあぁ……ぎゃぼわぁぁぁ!?」

姿を認知する間もなく、今度はルガールの身体が『くの字』に折れ曲がり、その身体には稼津斗の重爆ボディブローが突き刺さっている。


と、思った次の瞬間には延髄切りでルガールを後頭部から蹴り飛ばし、更に息を吐く間もなく水面蹴りで足を払い、その勢いのまま裏拳で殴る。
そしてマダマダ止まらず、吹っ飛ぶルガールを超高速で追いかけ――


「龍流暗殺拳奥義……瞬滅殺!!

暗殺拳法家・龍の編み出した暗殺拳の奥義を擦れ違いざまに叩き込み、洒落にならないダメージをルガールに与えて行く。
この戦いを見ている誰の目にも、稼津斗とルガールの実力差は明らかだった。





が、この稼津斗の戦いに少しばかりの違和感を覚えて居る者も居た。

「兄ちゃんは、何だってこんなに『遊んで』やがるんだ?」

他でもない、稼津斗のパートナーを務めているラカンである。
既に自分か完全KOしたベガの上に腰掛けながら、稼津斗とルガールの戦いを見ていたのだが、一方的ながら決着しない戦いに疑問を持ったのだ。

確かに稼津斗はネギや小太郎の様な発展途上の者達と戦う場合に限っては、成長度を見る為に適当に加減をする事は少なくない。
だがしかし、圧倒的な実力差があろうとも既にある程度の完成形に至った相手に対しては、一切の手加減なしで戦うのが稼津斗なのだ。

無論ラカンも其れを知って居るが故に、この戦いには違和感を感じたのだ。


「普段の兄ちゃんだったら、こんな戦い方は絶対にしねぇ……何か狙ってやがるのか?」

とは言え、其処は流石に歴戦の勇士。すぐさま何か狙っているのではないかと言う事に思い至る。
確信はないが、大きく外れてはいないであろうその予感は、しかしラカンの口元に笑みを浮かべさせるには充分なモノだった。
因みに、ベガの猛攻で受けた傷は何時の間にか治って血も止まっている。


「何を狙ってるか知らねぇが、精々思い切りやっちまいな。
 闇の魔法を選んだ坊主とは違って、なんの覚悟もなしに只只管強い力を求めた馬鹿野郎に、覚悟なき力は役に立たねぇって教えてやんな!」


思わず大声で吼えたラカンに呼応するが如く、稼津斗の攻撃は更に激しさを増していく――あくまでもKOしないレベルではあるが。
尤もそうであっても、稼津斗の拳は軽く打っただけでもコンクリートブロックを粉砕するだけの威力があるのだから、ルガールは堪らないだろう。


「オォォォォォォ……無闇神楽ぁ!!!

「ぶるごぶわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

その超猛攻の締めは、XX限定時の究極の寸勁『無闇神楽』!
炸裂した気が火花放電を散らして闘技場内を荒れ狂い、観客保護の為のセーフティバリアに罅を入れて行く。

そんな凄まじい気の暴風が吹き荒れる中で平然としているラカンは流石と言うべきであろうが……




「うぐ…が……ぶわぁかぬぁ……こ、このわぁたしが、殺意の波動を身に付けて尚貴様に敵わないなどと言う事ぐわぁ……!」

「何とでも言え。だが、此れが結果だぜルガール。」

気の暴風が治まった先には、稼津斗の言うように只一つの結果のみが残されていた。
殆ど無傷の稼津斗と満身創痍のルガール――何方の方が強かったなど今更問うまでもない結果が其処には示されていた。


「だがなルガール、まさかとは思うが今までので本気なのか?
 だとしたらがっかりだが、もしそうでないなら本気の一発を撃ってみろ――俺は避けないから。」

「貴様ぁぁぁぁ!!」

だが、この局面に於いて、稼津斗は更にルガールを挑発。
あからさまな挑発ではあるが、だからと言ってルガールが其れに乗らない道理はない――苦汁を舐めさせられた事には雪辱しておきたいのだから。


「良いどぅぁろう!だがしかしぃ、この一撃こそぐぁ、きぃさまの命に終焉を告げる鐘とぬぁるぅ!!
 わぁたしを挑発した事を後悔するが良いすがぬぁぎかづとぅおぉ!所詮貴様等下等生物ぬぃ、未来など有り得ぬのどぅあぁ!
 更なる高みへと昇るとぅむぇの進化の権利を行使できるのは神に選ばれたぁ、こぉの私だけ!
 地に帰るがぃぃぃ!!カイザー……」


持てる全ての力を終結しての一撃を放たんとするが……



――ドクン!

『足りぬ……』


「ぐ!?」

放とうとしたその刹那、ルガールは己の内部からの謎の意識によって攻撃を強制的に中断されてしまった。

『貴様の自我のみでは足りぬ、貴様の意思のみでは足りぬ……』

「ぐが…此れは一体!?」

「……やっと始まったか……殺意の波動の終末暴走だよ。」

其れが何であるのかを明かしたのは稼津斗だ。
自身も嘗て殺意の波動に苦しめられただけに、殺意の波動を飼い慣らせなかったの者の末路は大体見当が付いていたのだろう。

「し、終末暴走だトゥおぉぉ!?」

「そうだ。
 殺意の波動を宿した者は強烈な破壊と殺戮の衝動に駆られ、時には意識を殺意の波動に乗っ取られる事も少ないない。
 故に、殺意の波動を極めて己の力とするには、何よりもメンタル面の強さが求められる――単純に、お前にはその強さが足りなかったのさ。」

淡々と、しかし残酷な現実を突きつける稼津斗だが、力に溺れた愚者にかける情けはない。

「お前は弱いぜルガール。
 なんの覚悟もなしに、只只管強い力を求めて殺意の波動に手を出し、その挙げ句に自我諸共乗っ取られようとしているんだからな。
 お前如きでは、俺のパートナーの中で最も直接的な戦闘力の低いのどかにすら勝つ事は出来ん。
 武を舐めるなよルガール……覚悟も目標もなしに強い力を求めるだけで極められるほど、本物の武は甘くない!
 此れで決めるぜルガール……その身に宿した殺意の波動諸共この世から消え失せろ!……滅殺――失せろ!極滅奥義・瞬獄殺!!

トドメとばかりに、今度は稼津斗がルガールに対して瞬獄殺を炸裂させる。
瞬間、眩いばかりの閃光が発生し、ルガールが使った時とはまるで違う圧倒的な闘気が闘技場全体を包み、セーフティバリアを粉微塵に粉砕する。


我、拳極めたり……!

「ば、ばかぬぁぁぁぁぁ……」


そして決着!
倒れ伏すルガールと、胴着の背に『滅』一文字を背負って威風堂々佇む稼津斗――完全に勝負は決していた。


「くくく……良いだろう……この場は及ばず退くとしよう。
 だが、私は必ずやまた復活すると言う事をわぁすれるぬぁ!いや、そぉれ以前に私ほどのキャラが簡単に消える筈がぬぁい!きっとまたいつか!」

「やられても口は減らないな……取り敢えず御託は良いから大人しく消えろ、そして二度と復活するな。」

最期の最後まで諦めの悪いルガールに対し、稼津斗は攻防の最中で拝借した自爆装置のスイッチを迷わずオン♪



――バガァァァァァァァァン!!



「ちにゃ〜〜ん!」

「取り敢えず、自爆オチ野郎には相応しい最後を飾ったな。」

瞬間、ルガールは爆発四散し、身に宿した殺意の波動諸共この世から消え去った――尤も、また復活する可能性はゼロではないのだが。


ともあれ戦いは稼津斗ラカン組の完勝!
そしてこの大会は、以降このタッグが順当に駒を進めて、見事優勝の栄冠を掴み取ったのは言うまでもないだろう。

序に、ルガール達との戦い以外は、全て2分以内で料理したと言う事を明記しておこう――矢張り混ぜてはいけない2人だったのだ。


しかしながら、稼津斗ラカン組の超絶快進撃は、魔法世界の格闘ファンには大受けし、後日発売されたこの大会のDVDは飛ぶように売れたらしい。








――――――








さて、大会の結果を受け、総督府でも動きがあった。


「此れはまた何とも…去年よりも相当に腕を上げましたね稼津斗君。
 ネギ君の力を見る事が出来なかったのは残念ですが、恐らくは相当に修業を積んで、去年とは比べ物にならない程の力を身に付けてるでしょう。
 それ以前に彼等が教え子を伴って此方に来たと言う事は、最終決戦が起こると言う布石……一度正式な会談の場を設けた方が良いでしょうね。」

大会をリアルタイムで見ていたクルトは、稼津斗のパワーアップに感心し、同時にネギもまた鍛えられてると感じて居た。


「最終戦までもう間もなくか……
 魔法世界と旧世界――2つの世界の未来はたった2人の男の双肩に委ねられたか……頼みますよネギ君、稼津斗君、そしてその仲間達よ――」

決して大声ではないが、クルトの心底の願いは風と共に星空に溶ける。






最終決戦開始のゴングの鐘が打ち鳴らされる時は、刻一刻と迫っていた……
















 To Be Continued…