裕奈の話を聞く限り、間違いなく自爆して消え去った筈のルガール――其れが目の前に現れて、しかし稼津斗の心は波風一つ立って居なかった。

ある意味で当然だろう。


とっくの昔に人と言うカテゴリから外れ、人外相手に500年も戦い続けて来た稼津斗にとって、死んだ筈の存在が目の前に現れても驚きはしない。
ルガールのパートナーが誰であるのかは若干気になるが、其れでも尚、稼津斗の顔には余裕の表情が浮かんでいた。


「ふ………ご苦労な事だなルガール?」

「ぬあぁぁぬぃ?」


いや、余裕どころか皮肉と挑発の意味を込めた失笑さえ漏らして見せるレベルである。
此れはルガールも無視出来る事ではない――平たく言えば『復活したのは無駄だった』とも取れるセリフだったのだから。


「裕奈から自爆して果てたと聞いていたが、それにも拘らず復活して、三度俺の前に現れるとは大した執念だ、尊敬に値する。
 だが、それを承知で敢えて言おう――そんなに俺に叩きのめされたいのか?……良いだろう、お前の望み通りにしてやろう、ルガール!!」

「つーか、パートナー食い物にしやがった外道はこの世から消えるべきだぜコラ。
 自爆して吹っ飛んだってんなら、どんな方法で復活したかは気になるが、んなこたぁ如何でも良いこった……この最強タッグに勝てると思うなよ?」

更にはラカンも指をボキボキ鳴らして臨戦態勢。
既に稼津斗は最強のXXVに変身している上に、ラカンもやる気は充分!この2人の気の流れだけで会場全体が震えているのは間違いなさそうだ。


だが其れを見てもルガールは余裕綽々。

一度死んで恐怖と言う感覚がマヒしたのだろうか?――其れとも或は、復活した己の力と、新たなパートナーの力に余程自身があるのか。


何れにしても、2回戦の最終試合は普通にだけは終わらないだろう……略間違いなく。











ネギま Story Of XX 157時間目
『Violence Fighting to Again』











「う〜〜む、みぃごとな闘気だ氷薙稼津とぅぉ、ジャァック・ラクワァン。
 去年の私ならぶわぁ、どぅうぉ〜足掻いても勝てなかったかもしれんぐぁ、復活して更なる力を身に付けた私ならばどぅうぉ〜だろうぬぁ?
 加えとぅえ、今年の私のパ〜トヌァは去年とは一味も二味も、足して三味くらいは違うずうぉ?……さぁ、見るが良い、我が相棒の姿うぉ〜〜!」


――バッ!!


ルガールは己のパワーアップを誇りつつ、新たなパートナーのお披露目を観光。
その相方は、纏っていたマントを脱ぎ捨て、その姿を顕わにする。


「その首ぃ、掻っ切る!」

脱ぎ捨てられたマントの下から現れたのは、赤い軍服のような服に身を包んだ、顎の割れた如何にも悪役全開な格闘家。
ルガール同様、奥の見えない濁った眼をしているが、だがしかし強い事は間違いない――其れは間違いなく死臭漂う邪な強さではあるのだが。


「へ、コイツはまた中々に強そうな奴が出て来たじゃねぇか?
 あの赤服野郎も、ルガールとか言う奴と同レベルの強さであるのは間違いねぇ――聞くまでもないだろうが、如何するよ兄ちゃん?」

「決まってるだろ?
 ジャックは赤服の方を頼む。ルガールの方は俺が今度こそ完全に粉砕する――二度と復活が出来ないようにな。」

其れを感じて、しかし稼津斗&ラカンと言う『超絶チートバグタッグ』に限っては、大した脅威にはなり得ないようだ。
確かに凄まじい強さを秘めた相手であるのは間違いないし、何よりも全身から立ち上る負の闘気は相当に強く、並の相手ならば速攻粉砕確定だ。


だがしかし、其れに対応するのがこの2人となればその限りではない。


果たして作戦と言えるかどうかも怪しいモノだが、各個撃破で攻める事を即座に決め、ルガールと赤服を睨みつける。
その視線だけで物理的圧力すらあるのかもしれない……真相の程は不明であるが。


「すうぉ〜いえぶわぁ、我がパ〜トヌァの名前を名乗って居なかったぬぁ?
 まぁよい、ではたった今から、我がパートナーの名を貴様らぬぉ、脳細胞に焼き付けるがぁ良い!!――さぁ、名乗れ。」

「ムアッハァァァァ!!我ぁが名はブウェェガァ!貴様等を倒し、そして我が配下としてくれるぅぅ!!」

そんな中でルガールは相方に名を名乗らせ、赤服の男の名は『ベガ』だと認識された――非常に聞き取りずらい言い方だったが。

しかしながら、千雨は観客席で1人思っていた『ボイス・オブ・WAKAMOTO』……と。


まぁ、其れは如何でも良いだろう、試合にはあまり関係ない。
今大事なのは、どんな手品を使ったか不明だが、ルガールが去年とは比べ物にならない力を秘めたパートナーを引き連れて、再び現れたと言う事。


「去年の恨みぃ、はぁらさせて貰うずをぉ!!」

「やってみろ、出来るモノならばな。熨斗付けて閻魔に送り返してやる!」


「ムアァッハ〜〜!行くずぉお!!」

「そいじゃあまぁ、適当にブッ飛ばしてやるとするかねぇ?」



『なんだか盛り上がっているようなので、ちゃっちゃと行きましょう!
 全力全壊手加減なしでフルスロットル!!なんか結果は分かり切ってる気がしなくもないけど、取り敢えず試合開始〜〜〜!』



各員闘気は既にMaximum!
実況の合図を皮切りに、各員飛び出し、稼津斗とルガールの拳が、ラカンの拳とベガの蹴りがかち合い、其れだけで衝撃波が闘技場に吹き荒れる。

そのまま稼津斗とルガールは手四つの力比べ状態になり、反対にラカンとベガは激しい乱打戦へと移行。

完全なる分断戦闘――故に、ドレだけ早く自分の相手を倒すかが勝敗の分かれ目になるのは間違いない。
自分の相手を仕留めれば、其れだけで数の上で有利になるのだから。


「ハッハー!やるじゃねぇか、俺様のパンチで吹っ飛ばなかっただけでも大したモンだぜテメェ?」

「貴様こそ、さぁすがは伝説の傭兵とぉ、いぃわれるだけの事はある、みぃごとな強さと褒めておこう。
 どぅあがしかし、わぁがサイコパワーは無敵だぁ。貴様には此処で沈んでもらうとしよぉう。」

乱打戦を行っているラカンとベガは、相容れるかどうかは別として互いに互いを強敵と認識していた。
元より、相手の素性云々よりも純粋に戦いを楽しむのがジャック・ラカンと言う人間であるが故に、自分と真面にやりあえる相手は嬉しいモノなのだ。


「サイコパワーねぇ?何ともオカルトちっくだが、是非とも見せて貰おうじゃねぇの!」

「良かろう、ぬぁらばぁ、めぇに焼きつけてしぬぐぁ良い!!」

ラカンの挑発とも取れるセリフを合図に、ベガの攻撃が目に見えて激しさを増した。
鋭い跳び蹴りから、着地と同時にジャブを繰り出し、素早くローキックに繋げ――

「死ねい!!」

「おぉ!?」


前方宙返りをしながらの連続踵落としを炸裂し、更に踏みつけるような蹴りを2発叩き込み、締めに後方宙返りをしながらの蹴り飛ばし!
そして其れだけでは終わらず、

「デッドリースルー!!」

のけぞったラカンを無理矢理掴んで叩き付け投げを炸裂!!
更に、其処に青白い炎を纏った手刀を叩き込み、足で掬い上げてそのまま吹き飛ばし――

「ムアァッハッハ……サイコクラッシュアァァァァァァッァァァァアァァァッァァアァッァァ!!!

自らに青白い炎を纏って、高速錐揉み回転しながらの体当たり!!
吹き飛ばされたラカンに其れを回避する術はなく真面に喰らい、そして大爆発!!普通に考えれば絶対に生きてる筈のない大爆発が起きたのだ。


「ムハハハハハ!死うぉ、くれてやるぃ!!」

ベガも決まったと思ったのだろう、完全に勝ちを確信しているようだ。





だがしかし、忘れてはいけない、相手はかのジャック・ラカンなのだ。
始まりの魔法使いが相手でなければ、正真正銘無敵にして不死身で、千雨が『チート無限のバグキャラ』と称したラカンが、今の攻撃で撃沈したか?


「ふっふっふ……やるじゃねぇか、流石に今のはちぃとばかし効いたぜオイ!!」

「ぬあぬぃ!?」

答えは否!!
勿論無傷ではなく、頭からは血が吹き出し、鼻血も垂らしているが、其れでもラカン本人がダメージを受けたようには見えないのだから恐ろしい。

普通なら満身創痍の見てくれになっていながらも、ハッキリ言って元気溌剌状態!其れこそ流血が血糊での演出ではないかと思うくらいに。


「あのオッサン、やっぱチート無限のバグキャラだな……」

「なんで、あんな人が生まれちゃったんだろうね……」

「造物主の設定ミスか、色々造り過ぎて生まれたバグか――何れにしてもあのオッサン強過ぎだっての…!!」


観客席では当然の如く突っ込みが発生していたが、何と言うかラカンの事は『こう言う生物』なのだと思う以外には納得する方法が無いようである。



「んじゃまぁ、今度は俺様の番だよなぁオイ!!」

「むぅ!?」

そしてそのバグキャラは今度は攻勢に転じ、お返しとばかりに右ストレート一閃!!
その威力たるや、拳の振りだけで鎌鼬が発生するレベルであり、拳が直撃した際の衝撃は推して知るべしだろう――伝説の名は伊達ではない。


「コイツに耐えるとはやるな?だがしかし、コイツに耐えられるかよ!!?
 覇王!!炎熱……轟龍咆哮!爆裂閃光!!魔人斬空!!羅漢拳!!!

追撃に、非常にアホっぽい技を炸裂してくれたが、その威力はすさまじく、攻撃の軌道に沿って闘技場の地面が抉れてしまうと言う結果を残した。

尤もベガも此れの直撃は拙いと感じたのか、すぐさま緊急回避で攻撃を躱したが、ラカンはその上を行く。
鍛えに鍛え抜いた肉体を持つからこそ出来る高速移動で、緊急回避したベガの背後を完璧に捕らえていたのだ――此れは歴戦の勘の賜物だ。


「馬鹿な!?」

「舐めんなよ?こちとら命懸けの戦場を数多の数駆け抜けてるんだぜぇ?
 確かにテメェは強いが、テメェの拳からは死の匂いしかしねぇ……そんな外道の拳じゃ俺様を倒す事なんて絶対に無理だぜオラァ!!!」

驚愕するベガに対し、渾身の力を込めたアッパーをお見舞いし、その身体を遥か上空に吹き飛ばす。
同時に此れは、ラカンが一発かますための予備動作でもあった。


「ラッカーン……適当にどこかで見た事のある48の殺人技+1!!!!」

「ブルアァァァァァッァアァアァァッァアッァァァ!?」

吹き飛ばしたベガを空中でキャッチしたラカンは、そのまま変則ツームストーンパイルドライバーの体勢を取り、一気に地面に突き立てたのだ。



そしてその効果は絶大!!
脳天から真っ逆さまに突き立てられたベガは、完全に意識を失っていた――伝説の傭兵ジャック・ラカンの不死身無敵伝説は疑う余地もなかった。



――○ジャック・ラカン(8分12秒 キン肉ドライバー)ベガ●――



しかしながら、伝説の傭兵と称されるラカンの圧倒的な強さを見せつけると言う意味では、悪くない戦いだったのかもしれない。








――――――








一方で、ルガールと力比べ状態になっている稼津斗は、微妙ながらも違和感を感じて居た。


己に復讐する為に蘇ったルガールは、成程確かに力を増している――この力比べで押し切る事が出来ないのだから。
だが、其れが稼津斗には納得いかない事だった。


去年のルガールならば、両腕を使ってきても片手で対処できる程度の強さであり、実際に試合では圧倒した。

其れが今年は力比べの段階とはいえ略互角。

復活して直ぐに鍛錬を重ねたかとも思ったが、最大でも1年程度の鍛錬で稼津斗と互角の力比べが出来るようになるとは考え辛いだろう。

となれば、何らかの外的要因が大きくなってくるのだが――


「ルガール……お前、殺意の波動をその身に宿したな?」

「ほう、さぁすがに分かるくわぁ!!」


稼津斗はあっさりとそれを看破してくれた。
僅か5分足らずの力比べから、ルガールが殺意の波動に魅入られたのを読み取るとは、或は稼津斗だから出来た事なのか――


「愚かな……力を求めてそいつを呼び覚ますか?」


しかし、容赦はない。
稼津斗もまた内に殺意の波動を宿しているが故に、ルガールの行為は大凡見逃せるものはない――此れは悪戯に持ち出して良い物じゃないから。


「俺に勝つために殺意の波動をその身に宿したか。ある意味凄まじい執念だが――その程度で俺に勝てると思うなよ?
 お前は殺意の波動がどんなものかまるで理解していない……殺意の波動を極めて己の力にするとは、つまりこう言うのを言うのだと知れ!!」

手四つ状態から、ルガールに横蹴りを喰らわせて吹き飛ばした稼津斗は、すぐさま己の内に眠る殺意の波動の力を覚醒させる。



瞬間、XXVの状態で伸びた髪は真紅に染まり、肌も暗めの茶褐色へと変化。
此れだけならば嘗ての殺意の波動暴走状態とさほど変わりはないが――しかし目が違った。

眼球全体が鮮血の様に真っ赤に染まっていた暴走状態とは違い、今の稼津斗は黒目部分だけが真紅に輝いている――暴走でないのは明らかだ。



「恐らくは蘇った直後に殺意の波動を内に宿したんだろうが――如何せん弱すぎる。
 いや、より正確に言うには荒いと言う方が正しいか?兎に角お前は、身に宿した強大な力を使いこなせてはいないと言っても過言ではないぞ?」


その稼津斗はルガールに視線を移し、しかし油断はない。
それどころかルガールに向けて本気の殺気と闘気を叩きつけるおまけつきだ。


「覚悟は出来てるよな、弩阿呆が……」


そして、気を纏った正拳突きを一閃!!
其れは寸分たがわずルガールに直撃し、大きくその巨体を吹き飛ばす!!


更に肉薄し……



「殺意の波動をその身に宿したとて、その程度の事では俺を超える事などは土台無理だと知れ!!!」


裏拳からの後ろ回し蹴りでルガールを吹き飛ばして、追撃に重爆ボディブロー一閃!!



正に圧倒的!!
数歩後退したルガールに対して、しかし稼津斗は冷静だ――お前の持てる全てを掛けてかかって来い!!と言わんばかりの雰囲気なのだから。




「来いよルガール、こんなもんじゃないだろう?」

「小僧が……死をくれてやるぅ!!」


かくして稼津斗とルガールは再び一閃!!!
しかしながら、今の稼津斗ならば負ける事はないだろうと言うのが、大体の客の予想であった――其れだけ強いと言う事だろう。


ラカンの一撃を喰らってベガは芥子粒状態だろうが、稼津斗と交戦しているルガールは未だに健在。


2回戦最終試合の第2ラウンドのゴングが、闘技場の何処かで鳴り響く!!



――バキィ!!



「むべらぁ!?

「戦いの最中に顔を逸らすな。注意一秒怪我一生ってな――!!」


同時に稼津斗の左拳が空を裂き、ルガールを吹き飛ばす。


稼津斗とルガール――この2人の戦いは、寧ろここからが本番であるのかもしれない……少なくとも観客の大半はそう思っていた。
















 To Be Continued…