「去年来た時も思ったが、相変わらずウェールズは空気が美味いな。
 何よりも緑に囲まれ、澄み切った魔力と気が充実してる場所なんて早々あるモンじゃない――お世辞抜きに素晴らしい場所だよ此処は。」

イギリスに到着した一行は、そのまま今度はネギの故郷であるウェールズに一瞬で転移してた。
其れは勿論、稼津斗の使う瞬間移動を使ったからであり、そうでなければウェールズに到着する為に、もう一日時間を取る事になっていただろう。

計測不能なまでに無限チートを繰り返した天然バグとは、稼津斗に対する千雨のダイレクトな思いだろう。
むしろそう言って差し支えない実力を有しているのだ稼津斗は。


だがだからと言って油断と慢心だけは絶対にしない。

油断は敵対する者にチャンスを与え、慢心は自ら隙を生み出す愚行の極みであるから、そんなモノはない方が良いのに越した事は無い。
故に、敵対者に襲撃の機会を与えないように、途中経路をブッ飛ばして、空港から直接このウェールズに転移していたのだ。



「ネギ〜〜〜〜!」

「お姉ちゃん!!」


そして此れの到着を把握していたのではないかと思わせるほどの全力疾走で突貫して来たのは、ネギの姉分であるネカネ。
一応手紙で帰省予定は知って居たので、或は今か今かと到着を待ちわびていたのかもしれない。


ともあれ、ネカネの突貫を持って、1−Aの面々はウェールズの地に降り立ったのだった。











ネギま Story Of XX 155時間目
『魔法世界に乗り込め、1−A!』











「そう、エヴァンジェリンさんと……」

「うん、エヴァは僕の大切な人なんだ――ダメかなネカネお姉ちゃん?」

所変わって、場所は適当な大きさのあるウェールズに於いては一般的とも言える家屋内部。
其処でネギは、ネカネに対し、エヴァンジェリンと本格的に交際している事や、互いに愛し合っている事等を包み隠さず大っぴらに話していた。

不安はあったのだろう――エヴァンジェリンと言えば、魔法世界で『なまはげ』扱いされて居るほどの『悪』の魔法使いの代表格なのだから。

だがしかし、その不安は如何やら杞憂であるらしい。


「エヴァンジェリンさん、貴女は本当にネギで良いんですか?
 下世話とは思いますけれど、貴女のその容姿ならば引く手は数多――ネギよりも良い殿方を得る事だって難しくはないんではなくて?」

「ふん、私の見てくれに群がってくるような有象無象など此方から願い下げだ。
 大体にして、私はネギの見てくれに惚れたのではない――ネギの魂に、心の奥底に秘めた燃え滾る思いに惚れたのだ。
 だからこそ後悔など有り得ん!――此処に来て理解したのだ、私が追い求めていたのはナギの幻影ではなく、ネギ自身であったのだとな。」


少しばかりの疑いを内包したネカネに対し、しかしエヴァンジェリンは迷いなく言いきって見せた。
自分はネギを愛している、ネギの中に眠る熱き魂に惚れたのだと。


「そう……だけど、ネギは其れで良いの?」


だがネカネもさるモノであり、今度は矛先をネギへと向ける。
並の少年ならば答えに詰まるだろうが、生憎とネギは並の子供でない――故に答え位に迷う事などありはしないのである!!


「良いとか悪いとかじゃなくて、僕はエヴァじゃないと嫌だ!!」

「じゃあ了承♪」

「一秒了承って、早いなネカネさんよぉ!?」

一切の迷いなく言いきったネギに対し、ネカネは『あらあら、ごちそうさま♪』とでも言うような笑みを浮かべて速攻了承。
余りにも速い!その速さ故に、脊髄反射で突っ込みを入れた千雨の言う通り、文句なしのキッカリ一秒ジャストでの高速了承であった、見事也。




「まさか、ネギ君の家に着くなり交際許可の話になるとは思わなかったけど、此れは丸く収まったって事で良いのかね?」

「良いんじゃないか?ネカネさんも拒否する気はないみたいだし。
 大体、ネギもマクダウェルも互いに好き合ってるんだから、其処に第三者が彼是言うなんてのは、其れこそ無粋の極みってもんだ、違うか?」

「違わないでござるなぁ♪」


まぁ、こんな話になったのを、稼津斗をはじめとした当事者でない1−Aはどうなるかと事の成り行きを見守っていたが、如何やら問題ないらしい。


無論、ネカネだって魔法使いであるからエヴァンジェリンが魔法世界や正義の魔法使いの間で如何扱われているか等は百も承知している。
だが、そんな風評等は実際に会って言葉を交わした事でネカネの中では如何でも良い事になったのだろう。

心底ネギの事を思っている目の前のブロンド美女は、闇の福音なんかではなく、頼れる大人の女性だとしか思えなかった。
そして何よりもネギ自身が、エヴァでなければ嫌だと言うのだ――ならば却下などと言う決断を下す理由など何処にもなかったと言う事だろう。


「ではエヴァンジェリンさん、弟の事をどうか宜しくお願いします。
 ん?……って、そう言えば実際にはアスナさんがネギの実の姉と言う事になるのよね?アスナさんは如何なの?」

「とっくに了承、と言うか是非もないわ。
 最大限歯に衣を着せずに言うなら、私はネギとキティのおかげでコーヒーを砂糖なしでも飲めるようになったわ。」

「あらまぁ♪」


取り敢えず、問題はなかった。



さて、一行がネギの実家に滞在するのは実は明日まで……より正確に言うならば明日の未明までだ。
去年と同様に、夜が明ける前から移動を開始しなければゲートの開放に間に合わないのである。

如何せん不便とも思うだろうが、地球と魔法世界――火星との間には自転周期と公転周期の差異による凄まじい時差が存在しているのだ。
流石に月単位、年単位の差異はゲートを繋ぐ際に調整され、最大でも12時間の時差に留められているが、其れでも埋められない時差がこれだ。

魔法世界のゲートポートの営業時間は、どうしても地球時間では夜間になってしまうのである。(無論ゲートの存在する国によっても違うが。)
一番時差が小さいのは麻帆良の地下のゲートだが、アレは本当に緊急用なので平時には使えないから、此れはもう仕方ない。

また、アジア圏内は過去の歴史から西洋魔法使いとの折り合いが悪くゲートが1つも存在していなかった。
なので、ネギの帰省もあって丁度良いからウェールズのゲートを使おうと言う事になったのだ。

尤も、日本とイギリスの時差もあるし、何より1−Aのバイタリティを考えれば、未明の出発であっても一切問題はない。
現実に去年は、未明の出発について来た事で桜子やまき絵は、あの魔法世界大冒険に巻き込まれる事になったのだから。


まぁ、何が言いたいかと言うと、明日が未明起きだとしてもそんなモンは1−Aには全く関係ないのである!


「それじゃあ、ネギ君とエヴァちゃんの交際がネカネさんに認められた事を祝って、どんちゃん騒ぎだ〜〜〜〜!!」

「明石ーーーーー!!テメェ其れ如何考えても後付けの理由だろ!?
 折角イギリスに来たんだから、どんちゃん騒ぎしたいと思ってたところに良い肴が舞い込んできたから其れに便乗しただけだろ絶対!!」

「否定はしない!だが、だからと言って辞める気はない!!」

「最終的には開きなおりかコラ!!」


あっと言う間に、どんちゃん騒ぎの様相を呈し、然る後に『祝・ネギ×エヴァ交際了承記念宴会』(仮)が始まり、文字通りのどんちゃん騒ぎ!
まぁ、ネカネが事前にネギの帰省に合わせ、更に1−Aの面子が全員来ると聞いて持て成しの準備をしていたから出来た事ではあるのだが。


だが、此れは此れで悪くない――だって、魔法世界での最大の戦いに向かう者達に対する『出陣の宴』にもなったのだから。



「ウォッカ、ジン、ラム、スコッチ、ブランデー、リカー、ビール………此れ全部稼津斗先生が飲んだんだよな?」

「間違いないよ長谷川……そしてたった今、ワインを飲み干した。」

「マジかよ!?……わりぃ大河内、稼津斗先生のアルコール分解能力に限っては、流石の私も突っ込みが間に合わねぇ……如何なってんだあの人は…



で、当然と言うかお約束的に、稼津斗が相変わらずの『酒好き』を見事に披露してくれていた。








――――――








そんな宴から約6時間後、1−Aの面々は朝霧すら発生していない薄暗い世界をゲートポート目指して歩いていた。
案内役は、これまた去年と同様にドネット・マクギネスである。

去年魔法世界に行かなった者達でも、日本に残っていた者達以外は凡そ1年ぶりとなる懐かしい道のり――其れを今年は堂々と歩いている。

適当に雑談しながら進む一行だが、その中で裕奈はふいにドネットに話しかけた。


「ねぇドネットさん、本気で私のお父さんの再婚相手になってくれる気はないの?」

「へ?行き成りどうしたのユーナ?」

振られたのは、予想もしていなかった明石教授と結婚する気はないかと言う突飛もない事。
此れには流石のドネットも面食らったのは仕方ないだろう。まさか、裕奈からそんな事を言われるとは夢にも思っていなかったのだから。


「如何したって言うかさ、ぶっちゃけ私のお父さんて生活力は悲しいほどに無いと思う訳よ?実際今も私が居ないと何も出来ないし。
 だけど私だって何時までもお父さんの面倒見れる訳じゃないし、稼津君とこに永久就職したらそれどころじゃねーでしょ?
 だからさ、せめて身の回りの世話をしてくれる人が必要だと思うんだよね〜〜……お母さんが居ればそれで万事解決なんだけどさ。
 それらを考えた時に、お父さんの再婚相手ってドネットさん以外には居ないと思うんだよ私は。
 ドネットさんなら、多分お母さんの次くらいにお父さんの事知ってるだろうから安心できるし、何よりドネットさんが『お母さん』てのも悪くないし♪」

無論裕奈も戯れで言ったわけではなくちゃんとした理由はあったのだ。
決してぐうたらのものぐさと言う訳では無いが、日常生活の多忙さから明石教授の生活はお世辞にも良い状態であるとは言えない。
其れこそ裕奈が土日を利用して掃除やら何やらやって無かったら、あっという間に明石教授の部屋は人の生活できない腐海となるだろう。

此れには裕奈も悩んでいたが、絶好の再婚相手は意外と身近にいたのを思い出したのだ。
去年出会ったドネットは、少なくとも明石教授の事を嫌ってはいない――いや、或は明石夕子の存在がなかったらドネットが――

そう思うくらいには明石教授とドネットの仲は深いと思っていた。


「其れに、ドネットさんなら多分お母さんだって認めてくれると思うんだ。
 ま、私もドネットさんの事は好きだしさ――選択肢の一つとして考えといてくれないかな?」

「そう、ね――考えとくわユーナ。」

そんな裕奈の提案に、ドネットは薄い笑みを浮かべて答えてみせた――如何やらこちらも、良い結果になる事は期待しても良さそうだ。



「さて、着いたわ。」

程なくゲートポートに到着し、一行は其れが開くときを待つ。

神秘的なストーンサークルがゲートポートになって居るとは、ゲートを此処に設定した人物は意外とセンスが良いのかもしれない。


時間になり、ストーンサークルが光り、その中央部から眩い閃光が現れたと思った瞬間に、1−Aの面々は魔法世界のゲートポートに居た。


先程のウェールズとはまるで違う、ともすれば近未来的な雰囲気すら漂っている魔法世界のゲートポート。
去年の参加組は別として、初めて見る者は想像以上の光景に暫しフリーズしてしまったようだ――流石に1−Aと言えど衝撃は大きかったらしい。


とは言え、既に渡航許可は得ているので、魔法世界は自由に動く事が出来る。――だから問題は一切ないのだ。


更に――


「よう坊主と兄ちゃん、そして嬢ちゃん達!待ってたぜぇ!!!」

魔法世界側の迎えとして、天下無敵の無限チートのバグキャラことジャック・ラカンがやって来ていた。


「ラカンさん、お久しぶりです!」

「無沙汰にしていたなジャック………また腕を上げたか?」

「おうよ!!だが、兄ちゃんと坊主も1年で随分と腕を上げたみたいじゃねぇか!
 ガッハッハ!やっぱり男なら強くなくちゃ始まらねぇ!大体強くなきゃ、テメェの惚れた女を護る事なんざ出来ねぇからな!!」

約1年ぶりの再会。
魔法世界の彼是で稼津斗とネギは此方に来る事は多かったが、ジャックと顔を合わせるのは本当に1年ぶりなのだ――実に懐かしいモノだ。


「だがまぁ、お前さん達が来たって事は、奴さんとケリを付ける心算なんだろう――決戦の時は、俺も参加させてもらうからな?」

「無論その心算だ――アスナが此方側に居る以上は造物主の鍵は魔法世界人にとっての劇薬にはなり得ないからな――頼りにしてるぜ?」

「任せときな兄ちゃん、せめてオジサン世代の拭き残しを拭き取る位はしないとカッコ悪いにも程があるからよ。」


だが懐かしむだけではない。
最終決戦を見据え、稼津斗とラカンの目には既に『闘争の炎』が宿っていた――つまり、何時でも撃って出る事が出来ると言う事だろう。


或は超一流の戦士同士故に言葉にせずとも伝わる物があるのかもしれない……流石に其れは推測の域を出ない事ではあるが。



「だけどまぁ、良い時期に来てくれたぜお前等は。
 丁度今から1週間後に、今年の『ナギ・スプリングフィールド杯』が開催されるんでなぁ……俺と組んで出場してみねぇか兄ちゃん?」

そんな中で、しかしラカンは何時でも何処でもマイペースなのだ。
時期が良かったと、稼津斗に対し今年のナギ・スプリングフィールド杯(去年弩派手にやりあった武闘大会)に出場しないかと言う。


普通ならばこんな提案は無視しても一向に構わないだろう。

だがしかし、生粋の武闘家である稼津斗はジャックの申し出を断るなどと言う答えは持ち合わせてはいない。


「お前とだと?――そいつは何とも面白い事になりそうだ。」

「って言うか稼津兄とラカンさんのタッグなんて、其れってドンだけの最強×最強!?
 ぶっちゃけ誰も勝てねー……つーか下手すりゃ触れる事すら出来ずにコンマ5秒で叩きのめされるだけじゃね!?……恐るべしチートバグ…!」

「つまり喧嘩は間違っても売っちゃいけねぇよな……」


稼津斗の答えが最強タッグをこの世に送り出したのだ。


最終決戦前に、如何やら格闘大会で天下無双の鎧袖一触が行われるのは、最早間違い事だろう。


「取り敢えずあの2人と戦う奴に合掌だな……」

そして、この2人と戦う事になるであろう大会参加者に対して、千雨がひそかに胸の前で十字を切っていた事は、誰一人気付いてはいなかった。












 To Be Continued…