夏休み前の最大の難関である期末考査も、1−Aは学年1位と言う最高の成績で終え、夏休みの補習をどこかに蹴り飛ばしてた。
って言うか夏休みに態々補習など冗談ではない!夏休みは遊び倒してなんぼ!!尤も、その意思が1−Aの面子を動かしたか如何かは不明だが。
ともあれ、最大の難関を突破したならば後は楽しい夏休みに向かって一直線!!
の筈だったのだが――
「取り敢えず1学期お疲れ様。
其れで夏休みなんだが、俺とネギは今年も去年と同様に魔法世界へ行こうかと思ってる――同行希望者は7月一杯で申し出てくれ。」
終業式のホームルームで、稼津斗はサラリとトンでもない事をのたまってくれた。
内容だけすればトンでもないかも知れないが、其れは同時に稼津斗とネギが魔法世界での彼是に決着を付ける為にでもあった。
アレから1年が経ち、魔法世界も大分安定して来た――だからこそ安定し始めたこの時期に最大の脅威を取り除かねばならないのだろう。
普通ならば、去年の夏休みの彼是を知って居るならば戸惑う事も有るだろう。
だがしかし、此処は旧3−Aのメンバーで構成された新生1−Aだ!稼津斗が言った一言に怯むような連中ではない!寧ろ怯む事など有り得ない!!
「魔法世界って、行くに決まってんじゃん!!」
「てか折角行けるなら行かな損損でしょ!!!!」
特に去年魔法世界に行く事の出来なかった面々は、これ幸いとばかりに行く意思をアピール!!――意図せずともホームルームは賑やかであった。
ネギま Story Of XX 154時間目
『提案:世界一充実した夏休み』
だがしかし、稼津斗の提案の裏をしっかり読んでいたのは、矢張り千雨だった。
「待てよ稼津斗先生、アンタがそう言うって事は魔法世界で何やらのっぴきならない事態が起きてるんじゃないのか?」
「……流石に鋭いな長谷川。」
勘が鋭いと言うのか何と言うのか、千雨の言う事は稼津斗の言った一言の裏に潜む物を表に持ち出していた。
稼津斗もやましい事があって伏せたのではなく、あくまでも『ドレだけの洞察力があるか』を試すためのモノだったのだが、千雨は看破していたらしい。
「のっぴきならない状況って?」
「魔法世界は割と大変っぽい?}
が、其れは逆に好効果を生んでいた。
元より人情派が集まる1−Aが、魔法世界で何やらのっぴきならない事態が起きているかもしれないと聞いて黙ってられるか?――否!断じて否!!
馬鹿で無謀で笑われようとも、人情を優先するのが1−A!
火種が一気に点火し、あっという間に『魔法世界に突撃』の空気がクラス全体を包み込む!!――全く恐るべき団結力である。
「アレから1年なんでな、最大の障害である始まりの魔法使い『造物主』とケリを付ける。
魔法世界の方のテラフォーミング計画も、軌道に乗って安定して来たからな、最後の不安要素を取り除くには良い時期だ。」
「有耶無耶になった決着を1年越しで付ける――燃えて来たぜ此れは!!」
「最終決戦かい?……柄にもなく、胸が躍るね。」
こと、1年前の魔法世界の彼是を知って居る面々にとっては、此れはあの時の完全決着を付ける最大のステージになる事は間違いない筈だ。
やる気充分な面々を見て、稼津斗も此れならと思うが――
「だが、行くのは良いとして、去年のテロみたいなことは起きねぇのか?」
またしても千雨がぶっこんでくれた。
確かに去年のゲートポートでのテロみたいなものがまた起きないと言う保証は全く無い……故に慎重を期すに越した事は無いのだ。
「其れについては大丈夫だ。」
だがしかし、その可能性ですら稼津斗は一刀両断の如く斬り捨てた。
「去年のゲートポートでの一件は、完全な奇襲と言うのもありましたが、それ以上にフェイトの物量攻撃によるところが大きいんです。
そのフェイトは今は此方側で、しかもアスナ姉さんが居て、ある意味切り札であるライフメイカーの最後の鍵も僕達の方にあります。
更にフェイトとディズを除いた造物主の手駒は、エヴァが永久凍結させてしまったので最早使い物にはなりませんからね?
流石の造物主でも、戦力の殆どを失った状態で攻撃を仕掛けては来ないでしょう?其れを踏まえれば、少なくとも安全に魔法世界には行けます。」
其れを引き継ぐ形でのネギの説明に、千雨も『確かに言えてる』と納得したようだ。
去年のアレはあくまでも奇襲とフェイトの物量攻撃があったからこそ出来た物だ。
もっと言うならば、クルトの計略が期せずして『完全なる世界』を支援した結果になったからこそ、あそこまで巧く事を進める事が出来た過ぎない。
だが今年は違う。
フェイトとディズは此方側で、切り札を持っているのも此方側。
更には、造物主の最大の天敵とも言える『黄昏の姫巫女』が居るのだ――其れを踏まえれば、流石に二番煎じのテロは仕掛けてこないだろう。
「だけどまぁ、魔法世界の旅行ってのも嘘じゃない。
テオドラ皇女から直々に『長い休暇が取れたら、教え子全員を連れて魔法世界に遊びに来い』って手紙がネギに来ててな?」
「丁度良い機会なので、夏休みに皆さんと行こうかと思った次第なんですよ。」
其れは其れとして、魔法世界旅行もまた真実であった。
まぁ、魔法世界の皇女様からの直々のお招きとあれば無碍に断る事も出来ないし、そもそも稼津斗もネギも断る心算はない。
「と言う訳で、改めて同行希望者は7月中に―――」
「「「「「「「「全員参加で!!!」」」」」」」」
「そ、即決ですか!?
分かりました!!では、つきましては委員長さん、今年も1機チャーターをお願いしても宜しいでしょうか?」
「お任せ下さいネギ先生!其れ位は造作もありませんわ!」
あれよあれよと言う間に1−A全員が魔法世界に行く事が決定されてしまった。
普通なら戸惑いやら何やらがあるだろう、だって行く先には最大級の厄介事が待っているのが分かり切っているのだから。
だがしかし、1−Aの面子にそんな事は関係ない。寧ろ問題にすらないない。
中等部の1年から付き合って来たこのメンバーには、『どんな困難でも自分達が結束すれば必ず超えられる』と言う思いがある。
最大の問題児集団は、同時に最強のチームでもある。
と言うか、そうでなければ稼津斗もネギもこんな事は言わなかっただろう――1−Aの生徒を信頼しているからこそ出来た事なのである。
「いぃよっしゃ〜〜〜〜!!燃えて来たぁぁぁぁ!!
高校最初の夏休みが、魔法世界旅行+最後の敵との決着とかワクワクじゃん!!
思いっきり楽しんで、そんでもって敵をぶっ倒して、魔法世界の未来を安泰にしてやろうじゃない!!異論はあるかテメェ等!!!」
でもって何時の間にか裕奈が教卓の上に立ち、テンションマックスのノリノリでクラスメイトに問いかける。
当然異論などはある筈もない!!
既にこのクラスの意志は固まっているのだから!最強の結束力を舐めてはいけないのである!!
「「「「「「「「「「異論な〜〜〜〜〜し!!!」」」」」」」」」」」
「よっしゃ、良く言った〜〜!!!んじゃまぁ、景気付けに一発いきまっしょい!!
馬鹿で無謀と笑われようとも、信念貫き通すが私等の花道!!」
「道がなければこの手で造る!壁があるなら殴って壊す!!」
裕奈の号令に稼津斗が乗っかり、クラス全体のテンションもドンドン高まって行く――矢張りこのクラスは一筋縄でいくクラスではないようだ。
「心のマグマが紅蓮と燃える!我等最強1−A!!」
「貴様等俺を――否!!」
「「「「「「俺達を!!」」」」」」
「「「「「「「「誰だと思っていやがる!!!」」」」」」」」
――ドガァァァァァァァン!!!
圧倒的なテンションが爆発し、その熱気は女子高等部の校舎そのものを揺るがすと言う凄まじい事態になって居た。
取り敢えず、この面子なら魔法世界でどんな事が起こっても大丈夫であろう――略間違いなく。
因みに、この騒ぎは余りにもすさまじかったが故に中等部にまで波動が伝わり、鬼の新田が突貫して来たのは言うまでもない。
――――――
その日の夕方、ネギはダイオラマ内の宮殿の一角でエヴァンジェリンとマッタリと過ごしていた。
去年とは違い、今年はエヴァンジェリンも最初から魔法世界に行くわけなのだが、取り立てて何をするわけでもなかったのだが――
「ふむ、矢張り教師業と魔法世界の彼是を同時にやると言うのは相当に負担があるようだな?腰も肩もガチガチだぞ?」
「手を抜く事は出来ませんから――って、痛い!痛いですよエヴァ!!」
「良薬口に苦しだ!少し我慢せいネギ!!」
――メリィィィィィィ!!!
「にぎゃぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!?」
「まったく、高々10歳で此処まで身体を固くするな……如何だ少しはスッキリしたか?」
「い、痛かったですけど身体そのものはスッキリしました。」
お疲れ状態のネギをエヴァンジェリンが、愛情たっぷりに整体を交えたマッサージを執り行っていた。
整体がプラスされているが故に、痛みもあるのだが、それ以上に施術後は身体がすっきりとして気分爽快!――ネギもまたスッキリしたようだ。
「ならば良かった。
してネギよ、造物主との戦いは避けられんんだろうが――大丈夫か?奴はナギを乗っ取っているようだが……」
そしてごく自然に話題転換。
エヴァンジェリンとしては、ナギが造物主に乗っ取られていると言うのは予想外であり、またネギにも少なからず影響があると思ったが故の問いだが…
「大丈夫ですよエヴァ、僕は迷わない。
父さんが造物主に乗っ取られているって言うなら、尚の事僕は造物主を倒さないといけない――父さんを解放する為にもね。
其れに何より、父さんと再会したら一発ブッ飛ばすって言うのは果たす事が出来なかったから、今度こそ一発かましとかないととは思ってるから。」
ネギはぶれない。
父を解放する為に――と言うか一発ブッ飛ばす方がメインな感じも受けるが、造物主がナギの姿だろうとも迷いはないらしい。
当然だ。
ネギが見ているのは今だけでなく、100年先の未来なのだから。
其れだけの未来を見通している者が、造物主が己の父を乗っ取っている事など些細な問題に過ぎないのである。
加えて言うなら、造物主とて無敵にして最強の存在ではない――こと黄昏の姫巫女には、笑えるくらいに無力であるのだから。
「くはははは!そう来たか――いや、そう来なくてはな!!!其れで良いぞネギ!其れでこそ私の生涯のパートナーだ!!
その意気でナギの阿呆を解放し、その上で一発かましてやるが良い!!」
「勿論その心算です!!」
「その意気だ――其れでこそ、私の生涯のパートナーに相応しい……なぁ、ネギよ……」
「僕はまだまだ未熟ですよ……でも、何時かはエヴァに相応しい人になって見せますよ!」
「ふふ、楽しみにしているぞネギ。」
一切の迷いを見せないネギに、エヴァンジェリンも薄く笑うと、どちらからと言う事もなく唇を重ねる――恋人同士の甘い時間の始まりだった。
となれば当然、物陰から茶々丸が覗いて良そうなものだが……
「放してください千雨さん!!マスターの素晴らしき映像をォォォ!!!」
「だが断る!!
恋人同士の至福の時間にデバガメかまそうなんぞ、私の目の黒い内は絶対にやらせねぇからなぁぁぁ!!!」
「そんな殺生な!!」
「取り敢えず沈んどけボケロボがぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!!」
――メリィィィ!!
「たわらば!?」
「今回も私の勝ちだ――満足したか茶々丸!!」
――○長谷川千雨(2分12秒 アナコンダバイス)絡繰茶々丸●――
こっちもこっちで毎度のお馴染みの事であった。
――――――
そしてあっと言う間に時は過ぎて8月3日。
1−Aの面子は本日魔法世界に旅立つ――その為には先ずはイギリスに向かう必要があるのだが、移動手段に関してはあやかが頑張ってくれた。
大きすぎず小さすぎずの絶妙な大きさの旅客機をチャーターし、全員がゆったりと空の旅を楽しめるようにと考えたらしい。
尤も、旅客機の外壁には1−Aの面々のイラストが描かれた特注の一機ではあるのだが、此れもまたあやかのサービスと言うところだろう。
「それじゃあ、此れからイギリスのウェールズに向かうが、体調の悪い奴は居ないな?」
「居ないよ〜〜〜♪」
出発に先駆けての稼津斗の問い対しても、体調不良者は居ないようだ。
ならば何の問題もない。
一行はチャーター便に乗り込み、思い思いの場所に座り早くもリラックスモードだ。
だが、其れで良い。
肩肘張らない自然体は、ある意味で最強なのだから。
其れに魔法世界に到着し、更に敵との交戦となればリラックスする暇などないだろうから、今此処でリラックスモードになっても誰も文句はない。
寧ろリラックスした状態で、最大の力を発揮できるとなれば其れに勝る武器はないのだから。
そしてフライトから数時間後、一行はイギリスの地に降り立っていた――
最終決戦の開始を告げる銅鑼の音が、何処かで鳴り響いた気がした……
To Be Continued… 
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