夏休みまでは残り半月を切った7月の第2週に、麻帆良では1学期最後のイベントとなる『球技会』が開催されていた。
学園祭や体育祭と比べれば、些か劣る物の参加者である生徒が思い切り盛り上がって楽しんでいると言う点では、他のイベントと遜色ないだろう。

初等部、中等部、高等部、大学部が夫々別れて行われる球技会は、同じ競技でも学年の違いで受ける印象は大きく異なる。
そのせいもあって、学園祭や体育祭ほどではないにしろ、競技会場は多くの人で埋め尽くされているのだ。


そんな球技会に於いても、女子高等部1−Aの無双っぷりは矢張り健在であった。


「頼むよ亜子!!」

「任せとき!!とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」



――バスン!!!



『決まったーーー!1−Aのエースストライカー、和泉亜子の見事なドライブシュートが炸裂し、此れで3点目のハットトリックだーーー!!』


只今グラウンドで執り行われている女子サッカーに於いては、高等部の女子サッカー部期待のルーキーである亜子が大活躍のハットトリック!!
此れで得点は4−0!
後半の残り時間が10分を切っている事を考えると、この試合も1−Aの快勝である事は間違いない!最強クラスは、高校生になっても最強だった。











ネギま Story Of XX 153時間目
『消化イベント其の参〜球技会〜』











そして1−Aの無双っぷりは当然サッカーだけに留まらない。

体育館で行われているバスケットボールでも………


「頼むよ裕奈。」

「ほいさ!!どっせぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」


センターを勤める真名と、スモールフォワードの裕奈がチームを引っ張って完全無欠の試合展開になっている。
と言うか、果たして高校の女子バスケで所謂『アリウープ』が炸裂する事など有るのかと言う突っ込みを入れたい所だが、其れは言うだけ徒労だろう。


一つ言っておくと、一応戦力に偏りが無いように、サッカー、バスケ、ソフトボール、バレーと戦力は分散させては居るが、其れで居て此れである。
まぁ、バスケに関しては長身の真名と、バスケ部期待の新星である裕奈が担当する事になったのは当たり前のことかもしれないが。


だが、他の種目でも1−Aの無双振りは凄まじいモノがあった。








――バスン!!


「ストラ〜〜イク!バッターアウト!!」


ソフトボールでは、茶々丸と千雨のバッテリーが、相手打線をほぼ毎試合0封に抑えていた。
最早1−Aの風物詩となりつつあるボケと突っ込みのコンビ(千雨は激しく否定している)だが、その分馬が合うのか最高のバッテリーとなって居た。


《コイツは鋭い内角を2球続けた後で、外角一杯に放って3球三振だな。》


其処には千雨の鋭い観察眼も大きく生きているだろう。
打席に入った相手打者の構えから何処を攻めるのが効果的であるかを速攻で見抜き、其処を的確に茶々丸に攻めさせて三振の山を大量生産中だ。

そして、ピッチャーである茶々丸からしても千雨がキャッチャーであるのは有り難かった。
自分であれこれ考えなくても、千雨が常に的確な場所にミットを配置してくれるのだから、茶々丸は其処をめがけて投げれば其れで良いだけである。

此れもある意味反則だが、ガイノイドである茶々丸のコントロール精度は麻帆良の誰よりも正確であり、指示された場所に投げる事など造作もない。
見事なまでの0封を演じているが、稼津斗が『ソフト部の生徒が居ないのに優勝するのは拙い』との事で打撃力は低いチーム編成となって居る。
1点打もとれば勝てるが、千雨のリードミスや茶々丸のミス投球が原因で大量点差が付いた場合は追いつく事が難しくなっているのだ。

尤もその編成でも、最終的には3位になったのだから1−Aは矢張り侮れないと言う事なのだろう。





そして最後の1種目のバレーボールは、言わずもがな楓とアスナの独壇場だった。
高等部女子1年の中でもナンバー2の長身を誇る楓と、抜群の運動神経を持つアスナの2枚アタッカーを防ぎきる事は非常に難しいだろう。

それでも女子バレー部の生徒が居るクラスならば、其れを防いで反撃に出る事も有ったが、1−Aは攻撃だけではなかった。
バレーの方もまた、稼津斗とネギでチーム編成を調節したのだが、此方では意外な人物が目立たなくとも抜群の活躍を見せていた。


「えぇい!!」

「よいさ!」


其れは夏美と円。
1−Aの中でもこの2人はあまり目立つ方ではないが、その2人がレシーバーとセッターとして裏方に回る事で、アスナと楓の能力を引き出していた。
こぼれ球を夏美が拾い、円が絶妙なトスを上げ、楓が角度のある重爆スパイクを、アスナが鋭い高速スパイクを打ち込む連携が自然と出来ている。



と、まぁこんな感じで、サッカーとバスケは目出度く優勝し、ソフトボールは3位で、バレーボールは準優勝。
女子高等部1−Aは結果として総合優勝の栄冠を勝ち取るに至ったのだ。








――――――








さて、この球技会には『教職員用』の競技として『野球』が採用されていたりする。
初等部、中等部、高等部、大学部の教職員での総当たり戦!実はこれが意外と盛り上がったりするのだ。

去年の球技会はトンでも教師が密集している中等部の1人勝ちだったが、今年はそうとも言えない――高等部に稼津斗とネギが居るのだから。
序にっ言っておくと、瀬流彦もまた今年度から高等部の教師となって居るので稼津斗達と同じチームである。



――ズバン!!



「す、ストラ〜〜イク!バッターアウト!!」

「よ〜〜し、絶好調。」

で、その高等部チームvs中等部チームは現在1−0で高等部チームが優勢である。
と言うか、高等部のピッチャーが稼津斗である時点で、相手チームのバッターはファールを打つ事すら難しいのだ。……何でかと問われれば……


――バスン!!


『な、なんと今度は時速185q!?アンタ教師止めてプロ野球選手になった方が良いんじゃないと思わせるほどの超剛速球だ!!!』


稼津斗の異常なまでの剛速球にある。
此れでも手加減をしているのだが、其れでも前代未聞の180qオーバーなど打てる筈がない!と言うか反応する事すら出来なのではないだろうか?

稼津斗の球種はストレートのみだが、体重の乗ったこの剛速球を打てと言うのは幾ら何でも無茶振りが過ぎるだろう。
おまけに、稼津斗は此れでも力を抑えている――果たして本気で投げたらどれだけのスピードが出るのか少々恐ろしく感じてしまう。

現時点で、稼津斗から唯一ヒットを打ったのはタカミチただ1人である。

因みに捕手は瀬流彦で、ミットの内部に防御魔法を多重展開して衝撃を最小限に軽減していたりする――軽減しなかったら腕の骨がバラバラだが…



其れは兎も角、中等部の打席には9回裏2アウトでランナー1人と言う状態で5番のガンドルフィーニが入って居た。
ランナーはタカミチだけに、長打が出れば同点に追いつき、万が一ホームランが出ればサヨナラであるが故にガンドルフィーニの気合も凄まじい。


「稼津斗君、折角の良い場面なのだから、手加減抜きで勝負しようではないか!
 球速180qオーバーは確かに脅威だが、其れが君の全力でない事くらいは分かる心算だ!手加減抜きの君の球を見せて貰おうじゃないか!!」

「手加減抜き?俺は構わないが――本当に良いのか?」


――ドォォォォォン!!!


「すすす、ストラ〜〜〜〜ク!!」

ガンドルフィーニの挑発に稼津斗が不敵な笑みで応えた直後に放たれた一投は、誰の目にも留まらなかった。


『じじじ、時速243q!?まだまだ力を隠してたのか、稼津斗教諭は〜〜〜〜!!?』


その速度何と200qオーバー!!
此れはもう人間が反応出来る範囲を超えているだろう――尤もこれをちゃんと捕球している瀬流彦の防御魔法のレベルも相当なモノだが。


「今のが80%。今度は90%で行くぞガンドルフィーニ!」

「望むところだ!!」


――轟!――バスン!!



「す、ストライク2ーーーーーー!!!」

『こ、今度の時速は……うえぇぇぇぇえぇ!?に、289q!?稼津斗教諭は本当に人間なのか!?』


ぶっちゃけ人間ではない。本当に人間ではないが、其れを知るのは学園全体でも一握り故、何も知らない者がそう思っても致し方ないだろう。



「さて、ツーナッシングだぜガンドルフィーニ?……次は100%だが、本当に良いか?」

「無論だ!!」

そして3球目は正真正銘の100%での投球!球速が300qに達し、其れを超えるのは間違いないだろう。
稼津斗が振りかぶり、運命の第3球を投球!!


その瞬間に大砲を撃ったような轟音が鳴り響き、球速が300qを超えた事を知らしめる。
普通なら見逃すだろうが、稼津斗の球種がストレートのみと言うのがガンドルフィーニは好都合だった。

先の2球からコース軌道を読み取り、其れに合わせてバットを一閃!


――ガゴン……


が、鈍い音を立て、ボールは地面に!
タイミングはぴたりだったが、グリップ近くで打ったために全く飛ばずに略目の前に弾が落ちる結果となったのだが――其れだけでは済まなかった。


恐ろしいまでのスピードを備えた球には強烈な回転が加わっており、それが不完全な打撃で回転が複雑に変わって地面に落ちて、大きくバウンド!
そのバウンドの軌跡も読めるモノではなく……


――チーン!


「はぐあぁぁぁ!?」

ガンドルフィーニの股間を直撃!!
此れは痛い!寧ろ痛いどころの騒ぎではない!!

完全に偶然とは言え、男性諸氏にしか分からないであろう激痛に、稼津斗でさえもガンドルフィーニに駆け寄る。

「ガンドルフィーニさん!!気を確かに!!」

「おい、大丈夫かガンドルフィーニ!!」


「た、たわらば……」(ガクリ)


が、その衝撃は凄まじかったらしく、ガンドルフィーニは謎の断末魔(?)を呟くと同時に、白目を剥き、口から泡を吹いて失神!――正に合掌だろう。


結局は、ガンドルフィーニの代打として出た弐集院が三振に倒れ、教師の部は高等部が優勝と相成った。




因みに、ガンドルフィーニは男性器に全治1カ月の重傷を負ったが、機能不全には至らず何とか無事に退院した事を明記しておく。








――――――








「又しても……此れで今月に入って10件目ですか!!」

略同刻、魔法世界の総督府で、クルトは何とも言えない苦い顔で書類と向き合っていた。

いや、苦い顔になるのも無理はない――その書類の内容は、最近多発している『連続通り魔事件』に関する事なのだから。


1ヶ月ほど前から、突如として魔法世界で発生した連続通り魔事件は日に日に被害者を増やしていた。
無論クルトも如何にかせねばならないと警備体制やら何やらを強化して来たが、犯人は其れを嘲笑うかの如く被害者を次々と出していったのだ。

何よりもクルトを悩ませていたのは『遺体が存在しない』と言う事だ。
極めて少ない目撃者の証言によると、被害者は黒いローブの女が刀を一閃したその瞬間に切り裂かれ、その直後に光の粒になって消えたと言う。


「その様な消え方など『リライト』以外ではあり得ない……如何やら本格的に動き出したようですね、彼等が――!!」


そしてその情報から、クルトには通り魔の正体が何であるかの見当が付いていた――






そう、最後にして最大で凶悪な敵である『始まりの魔法使い』が、この連続通り魔事件の黒幕であると言う事に―――!!
















 To Be Continued…