其処は軽く100人は入る事が出来るであろう大部屋――恐らく80畳は下らないだろう。
その大部屋にて、1−A担任の氷薙稼津斗と、1−A生徒の長谷川千雨は真剣な顔で向かい合っていた。

互いの手には5枚のカード……そう、今正に決着が付こうとしているのだ!!

「俺の手札交換は済んだ……さぁ、コールかドロップか……」

「コールに決まってんだろ!!喰らいやがれ、スペードの『フルハウス』だ!!これ以上の役は早々出るもんじゃないぜ?」

2人が行っているのは要するに『ポーカー』。
とは言っても何か賭けてる訳では無い、只のお遊びだが、其れでもやってみると意外と白熱するらしく、遊びであっても真剣そのものである。

で、千雨が揃えたのは『スペードのフルハウス』……中々に強力な役であり、此れを上回る役は少なくないとは言え早々揃うモノではないのも事実。
故に千雨も勝ちを確信しているようだが……


「スペードのフルハウス……成程、確かに強力な役だが、俺は今の手札入れ替えでこの5枚のカードが揃った……!!」

「何だと!?」

「俺の手札に揃った役は………『スペードのロイヤルストレートフラッシュ』!!」

「んな!?あの入れ替えで、最強の役を揃えやがったのか!!!」

稼津斗の役はその上を行く正に最強の役!!これ以上の役はジョーカー投入で実現する『エースのファイブカード』しか有り得ないだろう。


「其れを揃えるとは流石は稼津さんや………」

「てかさ、『エクゾディア』風にカードを曝す意味ってあったのかね?」

「……多分、無いと思うよ?」

とまぁ、こんな感じで大型フェリーの大部屋は大層盛り上がっていた。











ネギま Story Of XX 151時間目
『消化イベント其の一〜修学旅行〜』











さて、この面々が何故にフェリーの大部屋に居るのかと言うと、単純に麻帆良高等部1年の修学旅行――『北海道への船中泊』の真っ最中だから。
昨日の22時に出港して、現在は太平洋のど真ん中!特にする事もないので、大部屋で皆思い思いに過ごしているのだ。


と言うか、この大部屋も実は1−Aだけのモノであり、他のクラスは班毎の『個室』だ。
普通に考えれば、ベッドのある個室の方が良いと思うだろうが、1−Aに関しては『皆で騒げる大部屋』の方が遥かに価値があるのだ。

ぶっちゃけ大場屋になるとベットは無いので雑魚寝になるのだが、彼女達に限ってはそんなモノは些細な問題、無問題!寧ろ問題にもならない!!
大切なのは北海道までの道のりを、如何に仲間達と楽しく過ごせるかの方が重要なのだ。

なので、近右衛門も1−Aだけは大部屋設定にしたのだ。
……まぁ、その裏に『大部屋1個借りた方が、班毎に個室を借りるよりも安く上がる』と言う『大人の事情』が後押ししたのも事実ではあるのだが……

ともあれ、この大部屋は大盛況で、少なくとも北海道の苫小牧港に到着するまでの間に退屈する事だけはなかったと言っておこう。


「……リーチです!!」

「甘いぞネギ!!其れはロン……大三元だ!!」

「えぇぇぇぇ!?」

「おぉ〜〜〜、エヴァちゃんスゲェ!!」



………退屈だけはしなかった筈だ。








――――――








北海道の初日は、到着が夕刻だった事も有り、そのまま宿に直行して其れで終わりであった。(1−Aは例によって大暴れしていたが……)
なので、2日目からが本番!!

その本番当日に1−Aがクラス別行動で訪れていたのは函館!!
海の幸と夜景で有名なあの函館である!!


「で、この蒸かしたてのアツアツの男爵芋に、イカの塩辛をたっぷりと乗せて………食す!!如何だ?」

「「「「「「「「「「まいう〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」」」

で、早速地元の味覚を堪能していた。
場所を選ばず、北海道と言うのは露店と言うか、屋台的な店が多く、この函館も例外ではない。
特に港が近い場所だとその数は探さなくても見つかるレベルだと言うのだから驚きである……で、結果1−Aは『函館食べ歩き』状態な訳だ。

まぁ、此れもまた修学旅行の楽しみ方の一つであるのだろうきっと。


「うむ、実に美味いが、少しばかり残念だったのではないか稼津斗よ?」

「藪から棒だなマクダウェル?残念て、何がだ?」

「此れだけの美味なる物が揃っているのだ、勤務中でなければ一杯欲しい所だろう?――と言うか凄いなお前の右手は!?」

「まぁな……だが仕事中だから仕方ないだろ?
 でもって、どうせだから色んな味覚を堪能しようとした結果、こんな事になったと言う訳だ。」

矢張り稼津斗的には勤務中でなかったら一杯やりたかったらしい。流石は天下無敵の酒豪である。
そしてその右手には、握られた拳の指の間にいか焼き、ホタテ焼き、焼きエビの串があり、更に魚やら何やらが刺さった串を握っているのだ。
この食べ歩きをもっとも堪能しているのは若しかしたら稼津斗であるのかもしれない。


「時に、こう言うのは初めてだと思うが楽しんでるかネギ?」

「勿論楽しんでるよカヅト、京都の時とはまた違った面白さがあるし、新鮮な海の幸って言うのも美味しいよね?」

「?……イギリスは『フィッシュ&チップス』の本場だと思ったが?」

「そうだけど、新鮮なモノをシンプルにって言うのは早々なかったんだよ〜〜。」

またネギもネギで、初めての北海道を心行くまで楽しんだいるようだった。



因みに……


「此れと此れと此れを航空便で麻帆良学園都市の『天ヶ崎千草』宛に――はい、出来れば即日配達で。」

刹那がこの旅行に同行できなかった千草宛てに、函館の新鮮な海の幸を航空便で送っていた――何とも師匠思いの弟子である。
で、序に此れを受け取った千草が弟子の心遣いに感涙ぶっこいた事を追記しておく……まぁ、良い師弟関係であると言えるのだろう。








――――――








あっと言う間に時は進んで夜。
夕食も入浴も済んで、就寝時間まではあと少し――だが、1−Aが就寝時間を護って大人しく寝るなんて事は、天地がひっくり返ったって有り得ない!


「ターゲット発見!!全軍突撃ぃぃぃぃ!!!」

「予想はしてたが、矢張りか!!」


ぶっちゃけて言うならば去年の京都で起きた一大狂宴の第二弾が、この北海道の地で執り行われたと言う訳だ。
尤も京都の時とは違い、言うなれば『稼津斗とネギをターゲートにした大規模鬼ごっこ』でしかないのだが、ハッキリ言ってターゲット2人は大変だ!!


「ネギ、去年の体育祭を思い出したのは俺だけか?」

「ううん、実を言うと僕も思い出してたよ。」


勝手に鬼登録された2人には、矢張り同じように特定ターゲットに指定された去年の体育祭が思い出されていた……まぁ、仕方ない。
だがしかし、あの時と今では決定的に違うモノがある。其れはネギと稼津斗は本気での反撃が出来ないと言う事だ。

同じ事態が麻帆良で起きていたならば、稼津斗はXXに、ネギは雷天双壮状態になり一撃の下に吹き飛ばしてケリを付けた事だろう。
だがしかし此処は北海道のホテル!!稼津斗とネギが本気で一発かましたら、其れこそ比喩とか誇張ではなくこのホテルは吹っ飛ぶ事間違いない。


そいでもって、更に悪い事に最強のストッパーになるであろう『鬼の新田』は昨年度同様に中等部の担当故にここには居ないのだ。


「もう何度思ったか分からないが、俺のパートナー以外の連中もオリハルコン搭載してたりしないよな?」

「其れはない……と思うよ……多分、きっと……恐らく……」

ネギの答えはどうにも頼りないが仕方ない事だろう……だって、1−Aの面子は全員がオリハルコン搭載と言われても全く否定できないのだから。
大体長時間を掛けての船旅を終えた次の日に、昼間散々楽しんだにもかかわらず夜でもこのテンションは驚きだろう。


「ホテルそのものには一切被害が出ないから、いっそ瞬獄殺で全員沈めるか?」

「生徒に殺人拳使うのは拙いと思うよ!?」

教師2人も中々に『悪友』的な良い関係を紡いでいるようである。

して、ストッパー不在の狂乱の宴は、『これ以上はダメだ』と判断した稼津斗が、龍直伝の暗殺拳で1−A全員をKOしてお開きとなった。
だがしかし、此れで懲りる面々ではなく、狂乱の宴は北海道を発つ日まで続いたらしい……1−Aのテンション恐るべしだ。


ともあれ、この修学旅行もまた忘れられない思い出になる事は間違いない筈だ。








――――――








「最終決戦が近いな……」

同じ頃、魔法世界の飲み屋にて、ラカンは誰に言うでもなくそう呟いていた。
意識した訳では無い――ただ単純に、本能的に『最終決戦が近い』と言う事を感じ取ったのだろう……流石、無敵のチートバグは並ではない。


「まぁ、あん時の激戦から何時かはと思ってたが、一年程度とは少しばかり早い……いや、野郎の能力を考えれば妥当なところか?
 ……何にしても兄ちゃんと坊主が出張る以上、仕損じる事はねぇだろうが――おじさん世代の拭き残しも拭わねぇと、格好がつかねえか……」

だが、ラカンはラカンで思うところが有るのだろう。
グラスを持つ手に無意識に力が入り、お約束的にグラスが粉々!!割れたのではなく粉々である……チート無限のバグキャラは伊達ではない。

もっとも相手が相手だけに店側が弁償を要求して来る事だけはなかったが。


取り敢えずそんな事はラカンには別分如何でも良い事だ。
彼にとって最も大事なモノは『楽しくケンカ』が出来るかと言う事に終始する……要するに面倒がなくて楽しめれば其れでOKなのだ。


「ま、何が起きても、俺等が負けちまう…全滅するって事だけはないだろうから……」

一言そう呟くと、ラカンは銀貨2枚をカウンターに置いて店を後にする。



お膳立ては既に出来ているだろう……だがしかし、最終決戦の幕が上がるまではもう少しだけ時間が必要であるらしい……
















 To Be Continued…