3月……まだ肌寒い日が多いが、一日毎に春が近づいて来る事を感じさせてくれるこの季節。
初等部、中等部、高等部、大学部の最高学年にとっては新たなステップへと踏み出す季節……


梅の花が咲き、桜が開き始めた今日この頃――麻帆良学園都市では、麻帆良女子中等部の卒業式が行われようとしていた。



講堂には、既に来賓その他で犇めき合い、学園長である近衛近右衛門と、此れに参加する在校生も準備万端――後は主役の登場を待つばかり。


『其れでは此れより、第○○○回、麻帆良女子中等部の卒業証書授与式を開催いたします。
 ――卒業生入場、何方様も拍手でお出迎え下さい。』



アナウンスと同時に、吹奏楽部の演奏が始まり、主役である卒業生が入場して来る。

先頭を切って入場して来るのは、勿論ネギと稼津斗が担任&副担任を務める3−A。
流石の3ーAも今日と言う日は大人しく――


「お〜〜〜……こりゃ思った以上に人が来てるね〜〜〜?」

「如何考えても保護者と来賓だけじゃないっしょ?かっくじつに魔法関係のお偉いさんがいらしてるよね〜〜〜?」

して居る筈がなかった。
入場しながらも、講堂に集まった連中を観察するほどの余裕ぶりと言うか、何にしても卒業式特有の『哀』の雰囲気は一切ナッシングである!!

まぁ、4月からは高等部で同じ面子が揃う訳だから、此れもまた仕方ないのかもしれないが……


ともあれ特に問題もなく卒業生の入場は完了し、全国的にも稀に見る大規模な卒業式が、其の幕を開けようとしていた。










ネギま Story Of XX 148時間目
『卒業式!―そして最終章の序章』











尤も、規模がいかに大きいとは言え、卒業式の内容そのものに特別なモノがあるかと問われれば其れは否だ。
各種教師の挨拶や、来賓の祝辞や在校生からの贈る言葉に、卒業生から在校生に向けての言葉――そして卒業証書の授与と言う構成である。


だがしかし、更生自体は普通でも、進行が普通であるとは限らない!!
と言うか、卒業証書授与の最初のクラスが3−Aである時点で普通に済む事など有る筈がないのだ!!寧ろ済んで良い筈がない!!


「相坂さよ君!……って、ワシは如何すれば良いんじゃろう此れ……」

初っ端から問題発生!!
3−Aの出席番号1番は『相坂さよ』なのだが、彼女は幽霊であり、稼津斗によって半固着化がなされた後であっても基本は幽体生活上等である。

故にこの場でも幽体状態であり、魔法関係者でなくてはその存在を感知するのは不可能だ。
流石に近右衛門には見えているが、一般人が多数を占める保護者には感知は出来ない――と言うよりもまず不可能だろう。

だからと言って、用意した卒業証書を『間違いでした』とする事も出来ない訳だが――


「はいは〜〜い!学園長!さよちゃん体調不良で、今日は此処に来てないから、私が代わりに渡しとくよ♪」

此処で和美が機転を利かしてくれた。
存在が認知できない人が多いならば、最初からこの場に居ない事にしてしまえばいい。

学園長が欠席を知らなかったのは、体調不良が発覚したのが卒業式の時間ギリギリになってと言う事にすれば、多少苦しくても不自然ではない。


「其れじゃあ頼むぞい和美君♪」

「はいな〜〜♪」

ノリが軽いのは何時もの事であり誰も気にしない。
寧ろ『アノ』3−Aならば卒業式でも何かやらかすのは間違いないと思って居る生徒すら居るのだ――3−A恐るべし。


まぁ、講堂の生徒が何を考えていようとも式は続く。


「和泉亜子。」


「はい!」

「卒業証書、和泉亜子君!…以下同文!
 ……なんじゃけど、今日もその子は君の頭の上なんじゃなぁ?和むから別に構わないけど、幾ら子ぎつね状態とは言え重くないのじゃろうか?」

「平気やで学園長先生?」

「亜子の頭の上は和む〜〜〜♪」

そして今日も今日とて亜子の頭の上には子ぎつね状態のクスハが張り付いていた。
でもって、この光景は式に参加した他のクラスの卒業生や在校生、果ては保護者や来賓の心にも癒しを与えたのは言うまでもないだろう。



滞りなく式は進み、最後の『ホタルの光』斉唱と言うところに差し掛かって、其れは突然に起きた。



――フッ……



突如講堂の明かりが消え、そして――


『『ホタルの光』は確かに卒業式の定番だが、4月にはまた同じメンバーが高校で揃うんだ……だったら此処で旅立ちの歌は相応しくない。
 新たなステージを仲間と共に進む、未来へ向けてのハイスピードな曲こそが相応しいと思わないか?』

『だから、少しだけサプライズで割り込ませて貰いました!!
 皆さんの卒業式の最後を飾るのは『ホタルの光』ではなく……未来への道を示したこの歌で締めましょう!!』


『『明日への道〜Going My Way〜!!』』


稼津斗とネギの放送を合図に、壇上にスポットが当てられ、其処にはギターを携えた稼津斗と、キーボードに向かうネギ。
そして、高等部でも名のある軽音楽部の面々が!!


此れこそが最大のサプライズ!
ネギと稼津斗が近右衛門に『卒業式で何かサプライズ』を用意したいと提案し、其れを近右衛門が了承した結果実現した事だった。


ヴォーカルの力強い歌声と、バンドの素晴らしいビートが講堂を包み込み、何時の間にか卒業式は卒業記念ライブに早変わり!

此れには全員が大盛り上がり!!
卒業式特有の最後のしんみり感はどこぞに蹴り飛ばし、未来へと続く果てなき道を示す歌に皆が同調し、そしてともに歌い上げる。


少し視線をずらせば、教師の一部が近右衛門に事の是非やら真意を問うているのだが、そんなモノは些細な問題で無問題だ。

普通の卒業式では絶対にお目にかかれない盛大な盛り上がりと共に、今年度の卒業式は『伝説』として麻帆良で語り継がれていく事になった……








――――――








卒業式が終わり、時刻は夕刻。


「おいっし〜〜〜!イクラとウニ追加で〜〜!!」

「此れが本物のお寿司なのカ!?……カツオとエンガワと生タコを頼むネ!」

学園都市内のとある高級寿司屋で、3−Aの卒業記念パーティが行われたいた。
しかも只のパーティではなく、店一軒借り切って盛大な大パーティ!稼津斗とあやかが金を出したのは先ず間違いないだろう。

尤も、あやかは世界に名を連ねる『雪広財閥』の令嬢であり次期党首であるからして、クラスメイトの卒業パーティの為に多少散財しても無問題。
稼津斗はそもそも幾ら溜めこんでも自分で使う額などたかが知れているので、こう言う時に使ってやらないと宝の持ち腐れなのである。


因みにあやかは次女であるのだが、長女が別の財閥の御曹司の嫁に行った事で、彼女が党首継承権を得ていたりする。



「矢張り寿司は江戸前のネタに限るな……
 オヤジ、生サバと、イワシと、アジと、コハダをくれ。」

「はいよ!……てか兄さん光もの好きだねぇ?今日は伊勢海老と鯛の良いのも入ってるんだけどよぉ?」

「じゃあそれもくれ。
 まぁ、光もの好きなのは否定しないし、生サバなんぞ滅多に食えないだろ!?普通はしめ鯖だし……だから生サバは5人前で。」

稼津斗も心底楽しんでいた。
因みに本日のお供は『辛口純米吟醸』の熱燗である。


さて、卒業式を終えた3−Aはそのまま麻帆良女子高等部に持ち上がり、4月からは『麻帆良女子高等部1−A』になる訳だ。
そしてその担任だが――矢張りと言うか何と言うかネギと稼津斗が担当となった。

近右衛門が『このクラスを纏められるのはこの2人しか居ない』と判断したからなのだが、高等部では稼津斗が担任でネギが副担任である。
もっと付け加えると、ディズとフェイトも引き続き『担任補佐』と言う形で勤務する事が決まっている。


故にこの場に『別れの悲しみ』は存在せず、単純に『中学卒業したぞ〜〜』と言う祝いの雰囲気のみが存在しているのだ。


「クルマエビと、ホタテをお願いできるかな?」

「む?真名は海老は苦手でござったのでは?」

「丸ごとの有頭なら兎も角、刺身になって居れば食べられないレベルじゃない……海老のすり身で作ったエビカツは好きだしね。」


「赤貝と漬けと北寄貝を下さい!」

「ほう?中々に渋いモノを頼むなネギよ?
 特に漬けとしめ鯖はその店のレベルを量るのには丁度良いネタだ……ドレだけネタを殺さずに程よく漬け、締めてあるかで店のレベルがな。」


「おっちゃ〜〜〜ん!!赤貝とホタテと…え〜〜い、メンドクサイ!!あるネタ全部10人前追加で!!」

「そいつは大胆な注文だ!!任せときなお嬢ちゃん!!」


職人気質に麻帆良の気質がプラスされるとある意味で最強なのかもしれない……てか間違いなく最強である。
この寿司屋の大将も何やらリミッター解除したらしく、矢継ぎ早の注文に完全に完全に対処し、1分以上待たせる事なく次々と握りが完成!

弟子と思しき若手も頑張っているが対象と比べれば雲泥の差!正に次元が違うのである!!!


「オヤジ、熱燗をもう一本、それから姿ヤリイカと生げそ追加で。」

「おうよ!鱈腹食ってくんな!!」


3−Aの卒業パーティはこの寿司屋での宴のみでは留まらず、その後カラオケ店などをはしごして5次会にまで及んだ。


だがまぁ、思い出に残る卒業の日になった事だけは間違いないだろう。








――――――








そして、卒業式の翌日。


稼津斗は1人、図書館島の地下――アルビオレが居る場所を訪れていた。


「やれやれ……君から連絡が有るとは穏やかではないと思いましたが……まして関西呪術教会のナンバー2である彼女も同席とは……」

開かれた場所にはアルビオレの他に天ヶ崎千草の姿が。
他に人は見当たらないが、最強戦士の稼津斗、関西呪術教会のナンバー2である千草、そして魔法世界の生き字引とも言えるアル――

此れだけの面子が揃って只のお茶会と言う訳でもないだろう。


「天ヶ崎には居て貰った方が良いと思ったんでな……西洋魔術とは違う意見を言ってくれる存在は必要だしな。」

「まぁ、ウチも其れほど色々知ってる訳じゃありませんけど、呼ばれたからには其れなりの貢献はしますえ〜〜?」


剣呑――と言う訳では無いが、だからと言って安穏とした雰囲気でないのは間違いない。


「君が私に聞きたい事は大凡の見当が付きますが――その上で敢えて聞きましょう……『私に一体何の用ですか?』」

恐らくは稼津斗が何を問おうとして来たかくらいは予想していたのだろう。
なので、アルもあらかじめ用意していた問いに対する逆問を稼津斗に対して放つ――他意はないが、其れが必要だと思ったのだろう。


「何の用か……別に誤魔化す気もないから単刀直入に聞く――『始まりの魔法使い』……奴は一体何者だ?」


だが稼津斗から発せられた問は、アルの予想のはるか上を行く物だった。





麻帆良のどこか、或は魔法世界のどこかで『最終章の開始』を告げる鐘の音を聞いた――この時の事をアルビオレは後にそう語っていた………















 To Be Continued…