時は12月31日ぶっちゃけて言うならば大晦日。
その大晦日の日に於いて……
「稼津君この魚の開き、霜降りてんだけど…」
「腐ってる訳じゃないだろ?
だったら捨てるのも勿体ないからな……そのまま冷凍庫に入れておいてくれ……腐ってないなら、焼けば食えるだろ?」
「其れはそうかも知れぬが……」
稼津斗の家――と言うか、棚の中や冷蔵庫の中は半異界状態となって居た。特に冷蔵庫。
今はパートナー達が日替わりで来てくれるのだが、食材はその時に使いきり購入するので、冷蔵庫に保存する事はないのだ。
よって、冷蔵庫の中を見る事は先ず無いのだが、開けて吃驚……果たして食す事が可能なのかと言うようなレベルの物が数多多数。
だがしかし、基本的に料理は出来ず、パートナー達が出来るまで、出来合いモノや加工品で済ませていた故に此れは仕方ないのかもしれない。
恐らくは今の魚の開きだってその頃に買った物だろう……要するに9か月ほど冷凍庫で放置されていた訳だが。
「稼津斗殿、この化石は何でござろうか?」
「チーズだな。」
「一体何時買ったチーズよ!?」
「知らん……けどまぁカビてないなら食えるだろ?今夜の俺の酒の肴に出してくれても良いぜ。」
「いやいやいや、流石に化石化したチーズは如何かと思うよ、稼津斗にぃ!!!と言うかこんな物を食べたらた流石に歯が欠けるから止めてくれ!」
稼津斗宅における大掃除は、異界化した冷蔵庫のせいで、極めて濃厚な『阿鼻叫喚』と言っても差支えない光景が繰り広げられているようだった。
ネギま Story Of XX 145時間目
『ある意味此れも行く年くる年』
とは言え、稼津斗組に属するのは高い能力を持った者達ばかり。
すぐさま大掃除を再開し、異界化した冷蔵庫や棚の中を正常に戻していく――愛の力は無限とは良く言った物である。
序に言うなら異界化しているのはそれらの場所だけであり、後は其れなりに片付いているので掃除自体は面倒では無かった。。
「お疲れさん――まさか冷蔵庫と棚の中身が整頓されるとは驚きの一言だぜ。」
「全力全壊でやったでござるからなぁ……」
「稼津兄はもう少し整頓能力身に付けようよ……」
「善処する……とは言っても冷蔵庫が異界化する事だけはもうないだろうけどな。」
確かに日替わりでパートナー達が来てくれる今ならば、自分で食材を買う事もないので冷蔵庫が異界化する事はないだろう。
尤もそうなったらそうなったで、冷蔵庫が酒の貯蔵庫になるのは間違いないのだが……
「え〜〜〜〜!?大晦日は赤白歌合戦でしょやっぱり!!」
「確かにそれはお約束だが、俺としては裏番組の格闘技を見たいんだが?」
「稼津君以上の格闘家は居ないと思うんだけど、其れを見る意味ってあるの!?」
「試合でヒートアップするの最高なんだ……燃え滾るほどの接戦にはロマンを覚えるだろう!!?」
「あ〜〜〜〜〜……言えてるかもでざるなぁ。」
「せやけど判定勝ちばかりやと白けてまう気がするんやけどなぁ……?」
「だな。どうせならスカッとKO勝ちを見たいと言うのが観客の本音だろうからね?」
で、只今は大晦日をどう過ごすかで議論と言うか、意見のすり合わせ中。
確かに某国営放送の歌合戦も、民放の格闘技やバラエティーも大晦日のお約束で恒例のテレビ番組と言って過言ではないだろう。実際そうだし。
「年越しそばは……10人前で足りますかね?」
「足りないよ?
私は2人前食べるし、稼津斗さんは――多分5人前くらいはペロリと平らげるんじゃないのかな?」
「私と楓も2人前は食べるから……20人前ほど買っておく方が安全だろうね。トッピングの天婦羅も含めてね。」
また、のどか、アキラ、真名はこれまた年越しのお決まりである『年越しそば』の相談中。
確かに稼津斗が居て、更に一般的な女子中学生よりも身体の大きいアキラと楓と真名が居る以上10人前では足りないだろう。
「私は天婦羅じゃなくてお揚げを希望〜〜〜。」
「そっか、クスハはそっちの方が良いよね?」
「格闘技!!」
「歌合戦!!」
「私的には大晦日特番『超常現象嵐の大喧嘩バトル』を推奨したいのだが………」
「「この超常現象満載な麻帆良にて其れを見ようと言う感覚に脱帽である!!」」
結局、年末のテレビは公平な『総当たりジャンケン大会』の結果、和美が優勝しスタンダートな歌合戦になったとかなんとか。
――――――
場所は変わってエヴァンジェリンの家でも大晦日をまったりと楽しんでいた。
「うむ……関西風の薄味で出汁の利いた天婦羅そば……見事だな近衛木乃香!!」
「本当に美味しいです木乃香さん!こんな美味しいお蕎麦は初めて食べました!!」
で、ネギとエヴァンジェリンが絶賛木乃香特製の年越しそばを堪能していた。
元々料理の腕には定評のある木乃香が作った関西風と言うか、京風の年越しそばは英国紳士と真祖の姫をも虜にするほどの美味しさだったらしい。
「ついては近衛木乃香……このそばの作り方を教えては貰えないか?今年は兎も角、来年は私がネギに作ってやりたいのだが……」
「いや〜〜ん、乙女やなぁエヴァちゃん♪
えぇよ、そう言う事なら喜んで教えたるよ〜〜〜。来年は頑張ってなエヴァちゃん♪」
「う、うむ……」
そして来年の大晦日には、エヴァンジェリン特製の年越しそばがネギに振舞われるのは間違いないだろう。
矢張り、思い人には自分の手料理を『美味しい』と食べて貰いたいと言う気持ちは、エヴァンジェリンであっても変わりはないようだ。
実は、最近こっそりと料理の練習をしているのは最大の秘密だったりする。
序に言っておくと、其れを目ざとく勘付いた某ガイノイドが隠し撮りを敢行しようとして、某ネットアイドルに〆られていたのは言うまでもない……
――――――
「ふぅ〜〜〜……美味かった。
亜子の関西風も、裕奈の関東風もどっちも美味かったぞ?箸が止まらなかったからな。」
「そ、そうなん?……えへへ、せやったら頑張った甲斐があったなぁ♪」
「ほ〜〜〜〜んと、皆残さずこんだけ綺麗に食べてくれたら、作った側としては嬉しい事この上ないよね。」
再び稼津斗宅。
此方でもテレビを見ながら、ゆったりまったり大晦日を過ごしていた。
因みに年越しそばは、折角だからと言う事で亜子が関西風を作り、裕奈が関東風を作って2つの味を楽しんでいた。どちらも凄く美味しかったようだ。
「ほい、稼津斗殿。」
「お、悪いな。」
で、稼津斗は食事と一緒に晩酌も。
寒い季節故に熱燗である。
「ん……やっぱり冬は熱燗だな。
……にしても、こんなに穏やかな大晦日を過ごすのはいつ以来だろうな?……まさか、もう一度こんな年越しが出来るとは夢にも思ってなかった。」
「稼津にぃ……確かにそうなのかもしれないね……」
「全くの偶然で此方に来たんだからな……だが、悪くないだろう?」
「あぁ……麻帆良に転送されて、お前達と出会って……何やら色々あったが、こんなに穏やかな年越しを迎えられて……悪くないどころか最高だ。
まぁ、マダマダ魔法世界の事とか、始まりの魔法使いとか面倒な案件があるにはあるんだが……其れも何とかなるだろうからな。
少し早いが、来年も宜しく頼むぞ?」
少しばかり感傷に浸り、そして新たな年もまたよろしくと言う。
勿論それに応えないパートナー達ではない。
「言われるまでもないさね…寧ろ此方こそよろしくね稼津兄!!」
「和美の言う通り、ウチ等の方こそ宜しくお願いしますやで♪」
「まぁ、来年も全力全壊で突っ走る事だけは先ず間違いねーんだけどね?」
「我等は常にお前と共に在る……永劫の時を共に歩む、だろう?」
「此れから先、何年経とうとも拙者達は稼津斗殿と共に在る!!――其れは何があっても変わらぬでござるよ。」
「だから、来年もじゃなくて、此れからもですね?」
「そう言う事だよ稼津斗にぃ……私達は、未来永劫一緒さ。」
「そして其れを決めたのは私達の意思だから後悔はない……此れからも宜しくね稼津斗さん。」
「宜しく〜〜〜〜♪」
皆が己の思いを口にし、永劫稼津斗と共に在ると言う決意を示して見せた……何とも心の強い少女達である。
「そうか……マッタク俺は世界一の幸せ者だよ。
此れだけの美少女達が、俺と共に永劫の時を歩んでくれるって言うんだからな……此れで文句を言ったら罰が当たるな絶対に。」
「当たるよ〜〜〜〜?だから、私達の事は大事にするようにね〜〜〜?」
「善処するよ裕奈。」
――ゴ〜〜〜〜〜ン
其処でタイミングよく除夜の鐘が……新しい年へのカウントダウンが始まったようだ。
「除夜の鐘か……果たして麻帆良の煩悩が108つで払えるかどうか、著しく疑問ではあるんだが……多分神仏は何とかできるんだろうな。」
「その言い方身も蓋もねぇ……」
「つーか、何で108つなんだろうね?」
「分からんでござる!!!」
除夜の鐘もまた年越しに彩りを添えるお決まりの風物詩。
煩悩払いの云々はこの際おいておいて、この鐘の音が麻帆良に新たな年のカウントダウンを告げているのは間違いないだろう。
次第に街の喧騒も薄れ、代わりに龍宮神社には多数の人が………恐らくは年明けと同時に参拝しようと考えている初詣客だろう。
――ゴ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン……
厳かな鐘の音は、新たな年が始まるその時まで、麻帆良の地に独特の重低音を響かせているのだった……………
To Be Continued… 
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