季節は移ろい、そろそろ秋から冬に変わろうかと言う時期、麻帆良学園では2学期恒例の学園行事が迫っていた。
如何でも良いが学園行事の多い学校である。本当に如何でも良い事だが。限りなく如何でも良い事だが。


その学園行事とは『音楽祭』。
元々は『合唱祭』として始まった学園行事なのだが、何時の頃からか、クラス毎の合唱ではなく、軽音楽部やバンドクラブがメインとなった行事に。

まぁ、コーラス部なんかも参加して居るし、申込みさえすれば誰でも演奏できるので、ある意味で合唱祭よりも盛り上がるのは間違いないだろう。
そして麻帆良学園でも屈指のお祭り好きクラスである3−Aが此れに喰いつかない筈がない!!


「また柿崎達で『でこぴんロケット』結成して参加するの!?」

「いや、今回は亜子ちゃんが別行動だから、私等は観客で。」


「稼津斗先生とネギ先生も出場するかな?」

「あ〜〜〜…カヅっちは兎も角、ネギ君は止めた方が良いと思うよ〜〜?あぁ見えてネギ君て超弩級の音痴だからね〜〜〜。」


話題はすっかり音楽祭の事で持ちきりである。
流石に全員が参加と言う暴挙には出ないだろうが、其れでもバンドにして3組くらいは出場はするだろう――先ず間違いなく参加する筈だ。


「ホームルーム始めるぞ〜〜。」

「カヅト、その格好は流石に如何かと思うよ!?」

で、ホームルームに現れた稼津斗は、ジーパンと革ジャンにギターを背負ってという、音楽祭に参加する気バリバリの格好であった。











ネギま Story Of XX 142時間目
『ビートを刻むぜ音楽祭!!』











「おぉ!稼津君もやる気バリバリだね!!」

「ふ……俺の趣味はギターだぞ?自慢じゃないが、腕前はプロ並だ。
 世界中を旅してた時は、ストリートミュージシャンで稼いでた時期もあったからな……自然と演奏技術も向上するって言うモノだ。
 と言う訳で、俺は参加するから、真名と裕奈と亜子とのどかは俺とバンドを組んで参加するように。」

裕奈の賛辞に応えつつ、行き成りであった。
唐突にも程があるだろうが、しかし指名を受けた4人にとってそんな事は些細な問題、無問題!

亜子は元々稼津斗を誘って参加する心算だったのだが、真名と裕奈とのどかにとっては予想もしていなかったバンドへの勧誘!寧ろ御指名!!

己の愛する相手から直々に指名を受けて断るか?


否!!断じて否である!!!


まぁ、稼津斗としても、今指名したメンバーならバンドとして機能するだろうから指名したのだが。
和美と楓とイクサとアキラの場合は、歌はうまいのだが楽器はからっきしなのである。

現実に、音楽祭の参加を考えていた稼津斗が、個々に楽器を演奏させ、その後でセッションさせたら和美、楓、イクサ、アキラは不協和音の発生源!

反対にベースが得意な亜子は言うに及ばず、真名のサックスに裕奈のドラム、のどかのキーボードは実に見事であった。


故にこの選択は当然とも言えるのである。

其れを知ってか、誘われなかった4人も特に何か言う事は無い――当日は観客として楽しむつもりなのだろう。


「参加を希望する人は、指定日時までに実行委員会の方に届け出て下さい。」

「うむ!ではネギ、お前は私と共に組んで出場しろ!歌はダメでも、お前なら適当な楽器を少し練習すれば使えるようになるだろう?
 序にアスナと、長谷川千雨も私と共に組んで出場するが良い!異論は認めん!此れは決定事項だ!!」

……何ゆえか、今回暴走したのはエヴァンジェリンであった。
ネギを『楽器担当』として誘ったかと思うと、そのままアスナと千雨をも誘う――と言うよりも強制参加と言う暴挙を持って出場する気満々!!
アスナはまぁ、親友と弟が出るなら自分が出場するのはやぶさかではないが、千雨は言うまでもなく速攻で反論!全力全壊の反論である!!


「待てコラ、勝って決めんなエヴァンジェリン!!何で私が出場しねぇといけねぇんだよ!大体私は楽器の演奏なんて出来ねぇ!!
 其処の学習能力チートレベルの英国紳士と一緒にすんな!当日まで半月程度の練習じゃ付け焼刃にもならねぇだろうが!!分かんだろオイ!」

「アレ?でも千雨さん、ネットアイドルとして某動画サイトに『歌ってみた』を随分投稿してますよねぇ?」

「余計な事言ってんじゃねぇよテメェは!!つーかチェックしてたのかよアンタはよぉ!!!」

「無理です!僕はネットアイドル『ちう』の大ファンですから!!其れに千雨さん歌は上手いじゃないですか!
 折角ですから僕達と一緒に出場しましょう!!あの美声をネットだけで公開するなんて勿体ないです!!寧ろこの機会に麻帆良中に!!」

「るせぇ!!私はネットの中だけで良いんだよ有名なのは!!」

「千雨ちゃん歌上手いの!?聞いてみた〜〜い!!」

「私も聞いてみた〜〜い!!って言うか千雨ちゃんてあんましこういうイベントに積極的に参加しないよねぇ?
 今年で中学最後なんだから、最後位は思いっきり楽しもうよ〜〜〜!楽しまなきゃ損損だよ?」

「私は観客として楽しむ方が性に合ってんだよ!!……まぁ、少しは出場しても楽しいかとは思わない事もないけどよ……。

「言いましたね?確りと記録しました、言い逃れは不可能ですよ千雨さん!!」

「テメェ、ボケロボ何してやがる!無駄に廃スペック曝してんじゃねえ!」

「良くやった茶々丸!!ネギよ、早速出場届を実行委員会に出せ!!」

「分かりました、任せて下さいエヴァンジェリンさん!!」

「ふ……何時まで敬称付きで呼ぶ気だネギ?……私の事はエヴァと呼べ!」

「……分かりましたよエヴァ……」

「うむ、其れで良い。」

「究極レベルのラブ臭来た此れーーーーーーー!!」

「テメェは黙ってろ腐女子!!」


で、あっという間にChaosdimension(混沌次元)発生!流石は3−A!HRで此れが普通に起きると言うのだから驚きである。
そして、この騒ぎを聞いた他のクラスが『また3−Aか……何時もの事だから放置』としているのが更に驚きである。此れで良いのだ3−Aは。


「一瞬で混沌空間構築……此処まで来ると、此れも才能のレベルだな。」

「拙者等にとっては此れ位は日常にござるよ〜〜〜♪」

それが3−Aだからで片付くのだからある意味凄いだろう。


結局、千雨は押し切られる形で渋々ながら(内心は結構楽しんでいたが)出場を決め、この日のHRはお開きとなった。
尚、騒ぎを聞きつけた『鬼の新田』が突貫して来たのは言うまでもないが、此れもまた何時もの事である。








――――――








さて、出場するならば最優秀賞を取りたいと思うのは当然の事だ。
稼津斗達も其れを手にするために、放課後は練習に精を出している。

「ん〜〜……もう少しバランスを取りたいな?
 真名はもう少し周りの音を聞け、裕奈は少しばかり先走るきらいがあるな…のどかはもっと自己主張しても良いぞ?お前はボーカル兼任だし。」

稼津斗の指導の下、夫々が猛練習!
バンドを組んでいない和美と楓とイクサ、序にクスハも観客からの意見と言う事でこの練習を観賞と言う形で参加して居る。


「そう言う稼津兄は少しギターの音大きいよ?」

「左様でござるなあ…もう少ししぼらないと、裕奈殿のドラムのビートが生きないでござるよ?」

「反対に、真名はもう少し音量を大きくした方が良い、其れでは音が潰れてしまっているぞ?」

的確に修正箇所を上げ、そしてバンドを完成させていく。
キーボード兼ボーカルを務めるのどかは大変だろうが、此れはある意味花形の役割なので、自然と気合が入っているようだ。


「OK、それらを意識してもう一本行くぞ!裕奈、音くれ!!」

「そう来なくっちゃ!!ガンガン行こうぜ!!」


そして、納得いくまでとトコトンやると言うのもまた3−Aの特徴であり、稼津斗のパートナー達は特にその気質が強い連中だ。
すぐさま新たに音を出し、注意点を意識して演奏を開始!!


特訓は音楽祭の前日まで続いていた。








――――――








そして当日、お約束的に世界樹前の特設ステージは超満員札止め状態!所謂一つの『満員御礼』である。
参加するバンドや吹奏楽やコーラスは総勢100組は下らない……流石は丸1日使った一大イベント言うところだろう。

AM9:00からぶっ続けで続いたイベントも、夕刻となった今はそろそろ終わりの時間が近い。
尤も、出場者と観客が休みを取らずにイベントに参加して居ると言うのは何ともすさまじい事なのだが、麻帆良に於いてはある意味普通である。


熱気が興奮を高め、僅かな中断をも許さない独特な雰囲気で、祭りの熱は上限知らずだ。


『48点!ん〜〜〜、残念!!
 さぁ、今年の音楽祭も残すところあと2組!!先ずは麻帆良中等部3−Aからネギ、エヴァ、アスナ、千雨のスペシャルバンドから行きましょう!』


残った2組はネギ組と稼津斗組である。
何かと話題の3−Aの担任と副担任が夫々組んだバンドは、其れだけで誰もが注目のバンドである事は間違いない。

其の2つをラスト2に持って来るとは、運営側も中々分かっているらしい。



程なくネギ達がステージに現れ―――


――カンカンカンドン!



アスナの軽快なドラムを合図に演奏開始!!
ドラムのビートに、ネギのキーボードとエヴァのギターが合わさり、何とも言えないハーモニーが!そして其れに乗るように千雨が歌い出す。


得意げに呟いた 心配ないからと
人の少ないホームで ヘタクソに強がった

唐突に鳴り響く 僕を呼ぶ別れの音
見慣れたその泣き顔も しばらくは見れないね

声が遮られていく 身振り手振りで伝える
「いってらっしゃい」のサイン

少しずつ小さくなってく 全部置いたまま
悲しくなんかないさと イヤホンで閉じ込めたよ

見えたんだぼんやりと 暖かい昨日のビジョン
右と左に広がって 僕を連れて行くのさ

僕の横をすり抜けて 遠ざかっていく景色
あの日の僕を置いてく

こぼれた涙一滴(ひとしずく)の 意味も分からずに
タイムマシンにゆられて 明日も元気でいるよ

こぼれた涙一滴の 意味も分からずに
タイムマシンにゆられて 明日も元気で

溢れる涙抑え切れず 意味も分からずに
タイムマシンにゆられて また戻ってくるよ……



何処か儚げな歌詞と共に、千雨の力強い歌声は会場を支配する。
本人が聞いたら間違いなく否定するだろうが、長谷川千雨と言う少女は天性のカリスマ性を備えた人物なのだ……その歌声は正に神の声だ。

伸びと張りに長けた歌声は、野外であるにも拘らず会場全体に余すことなく響き渡る……


『何と言う素晴らしい歌声……採点は……なんと98点!!今大会最高得点が出ました〜〜〜〜〜!!』


その結果は大会最高得点と言う快挙!
並み居る強豪バンドやコーラスを圧倒したその歌声は誇っても良いだろう……尤も千雨の場合は誇らずにお蔵入りにしそうだが。

ともあれ此れが大会最高点マークは間違いない事である。
そして、其の後に登場するのはいよいよ大取である稼津斗達だ。


『其れではいよいよ最後の1組!!大取を務めてくれるのはこのバンド!!
 稼津斗、裕奈、亜子、のどか、真名による夢のスペシャルバンドです!!!』



アナウンスに会場は割れんばかりの大歓声!!
大会の一番最後と言うのは、其れだけで盛り上がるモノなのだろう。


キーボード兼ボーカルののどかを中央に配置し、そして――演奏開始。


先ずはキーボードの独奏に始まり、のどかの柔らかい歌声が会場に響き渡る。
そう、まるで語り掛けるかのような優しく、それでいて力強さを感じさせる、宛ら大地の如き強く優しい歌声が、会場を包み込んでいた。



I've been watching you a white
Since you walked into my life
Monday morning, when first I heard you speak to me

I was too shy to let you know
Much too scared to let my feeling show
But you shielded me and that was the beginning

Now at last we can talk in another way
And though I try, "I love you" is just so hard to say
If I only could be strong
And say the words I feel

My beating heart begins to race
When I turn to see your face
I remember that sweet dream which you told to me

I wanted just to be with you
So we could make the dream come true
And you smiled at me and that was the beginning

Now at last we can talk in another way
And though I try, "I love you" is just so hard to say
If I only could be strong
And say the words I feel

Tell me what you are thinking of
Tell me if you love me now
I had so much I loved to ask you
But now the chance has gone

While you are picture fades each day
In my heart the memory stays
Glowing bright, you are always smiling
And I hold it close




英語の歌詞を流暢に歌い上げるのどかに、其れをリードするギターの稼津斗。
亜子のベースは全体の調和を取り、真名のサックスは其処に少しばかりの彩りを加え、裕奈のドラムがそれらを包み込んでハーモニーを作る。


最後の旋律が終わった時、会場は静寂に包まれ……


「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁあぁ!!!」」」」」」

然る後に大歓声!!
それこそ、先程のネギ達に負けるとも劣らない大歓声だ!!!此れは高得点が期待できそうである。


『何と言う歌声!!これは高得点か〜〜〜!!得点は……98点!!今大会の最高得点とタイ記録だ〜〜〜〜!!!!』


結果はネギ達と同点であり、そしてダブル優勝と言う結果だ。


何方が上かは観客には甲乙がつけがたかった――其れだけこの2つのバンドは素晴らしかったと言う事なのだろう、他の出場者を考えても。

他の出場者が決してダメだった訳ではなく、出場者は何れもプロレベルの腕前だが、単純に稼津斗達が其れを上回ったに過ぎないだけだ。



「ダブル優勝か……まぁ、こんなのもありか。」

「だね……だけど楽しかったから、結果は言いっこなしだよ。」

「そうだな。」


後に、この音楽祭は、麻帆良史上最高の音楽祭として歴史にその名を残す事になるのは遥か未来の話だ。



そして季節はそろそろ冬が近づいてきている――2学期も残すところはあと2ケ月と少しである。











 To Be Continued…