「あふ……っと、失礼。」

「眠そうでござるなぁ稼津斗殿、昨日は日付が変わる前に寝た筈でござるが……」

「いや、此れは睡眠不足じゃなくて、多分軽い時差ボケだな――地球と火星を行き来すると、ゲートを使っても時差がな。
 この前は向こうを出たのが夜だったのに、こっちに戻ってきたら朝だってんだから…そりゃあ幾ら俺でも時差ボケくらいは起こすか…」

ネギも麻帆良に顔を出すようになったある日の日曜日、稼津斗は楓と連れ立って渋谷へと繰り出していた。
まぁ、平たく言えばデートなのだが、一緒に居るのが昨日泊まった楓なだけで、他のパートナー達は現地集合と言う事になって居る。

偶には大人数で麻帆良から外に出てみるのも良いだろう。


「お〜い、楓〜〜、稼津兄!こっちこっち〜〜〜〜♪」

「お〜〜〜……相変わらず見目麗しい華が揃ってるな、待たせたか?」

「ううん、私達も今集合したところだから。」

で、待ち合わせ場所に到着すると、夫々外出用にお洒落したパートナー達が。(クスハはお約束的に亜子の頭の上。)
夫々が夫々の魅力を最大限に引き出す格好で実に似合っている……矢張り稼津斗とのデートとなると気合が入るらしい。

「イクサも、大分服装のコーディネートが巧くなったんじゃないか?」

「そうかな?今日は騎士服をアレンジしてチャイナ風の装いにしてみたんだが、似合っているだろうか?おかしくないか?」

「いや、よく似合ってるぞ?」

未だデートも始まって居ないと言うのに此れである。
稼津斗達を中心に『恋愛感情すら超越したもっと別のラブオーラ』が発生し、道ゆく人の口の中を『糖度+70%』状態へと陥れている…不死者恐るべし。

尤も、此れだけの美少女を8人もはべらせている(クスハは子ぎつね状態なので除外)稼津斗には周囲の男から殺意混じりの視線が注がれていたが…
まぁ、その程度には動じないのが稼津斗である――と言うか、そんな連中には『コイツ等に手を出したら潰す』的な視線を返して返り討ちである。

はてさて、この超絶軍団のデートは如何なるものになるのであろうか…











ネギま Story Of XX 136時間目
『偶にはこんな日曜日も如何?』











取り敢えず一行は、先ずはぶらりと渋谷の街をウィンドウショッピングをしながら適当に散策。
賑やかな場所で店も多い事から、適当にぶらつくだけでも此れが結構楽しいのだ――序に日曜ともなるとその辺に露店が出ていたりして尚更だ。

「……誰が買うんだろうな、此れ?」

「マニアやないかなぁ……まぁ売れる見込みがあったからメーカーも作ったんやろうしね?」

「でもこんな物を作った所で置き場所に困るどころの騒ぎじゃないと思うんだが……」

「一般家庭には居ても迷惑なだけでござろうなぁ………UG(アルティメットグレード)1/10スケール『ストライクガン○ム』など…」

まぁ、この様に時たま謎の代物を売っている店もあったりするのだが、其れは其れとして楽しみ事が出来るから無問題としておくべきだろう。
確かにこのガン○ラは大きさもさる事ながら、値段も20万円と言うとんでもないモノ故に、果たして本当に買う人間が居るのかと疑問は尽きないが…


ともあれ、街歩きは続き――ちょっと意外な再会があった。

「アレ?何時かの兄ちゃんじゃないの、久しぶりだね〜〜〜?」

「お前は……相変わらず、露店で呉服屋さんか?」

「そんな大層なモノじゃないけどネ、今日も良いのが入ってるぜ?良かったら見て行かないか?」

其れは、修学旅行前に現在愛用している黒いジャケットを購入した露天商との再会だ。相変わらず、露店で服を売っているらしい。
他にも以前にはなかったシルバーアクセサリやら、何に使うのか良く分からない骨董品の様な物まで……服屋から殆ど雑貨屋へと変貌したらしい。


「其れにしても相変わらずモテるね兄ちゃん、この前は3人だったけど今日は8人も美女連れて。」

「何か勘違いしてるみたいだが、この前の3人は偶々あそこで会っただけだ……と言うか、分かってて言ってるだろ?」

「そりゃあねぇ?」

そしてこの店主、中々良い性格をしている。
この間とはつまり修学旅行前の事で、その時一緒に居た……と言うよりも偶然出くわしたのが美砂、円、桜子のチア部3人娘である。

偶然会ったのだと言う事は、この店主とて分かっているが、分かっているからこそからかってみたくなるのだろう。


「稼津君……どゆ事?」

「ん?あぁ…修学旅行前に買い物に出かけた時に、偶然コイツの露店で柿崎達に会ってな。
 色々有ってどれを買おうか迷ってた所だったんでな、選んでもらったんだよ。因みにその時選んでもらったのが何時も着てる黒のアレな?」

「そんだけ?」

「そんだけ。」

だが、稼津斗とパートナー達のダイヤモンドすら超越する信頼関係を甘く見てはいけない。
一応裕奈が口火を切って質問するも、稼津斗は焦る事もなく只『事実』を正確に伝えるのみ――其れだけで寧ろ充分とも言えた。

「あら、意外と冷静だね兄ちゃんの彼女達……てか、其の8人はマジで兄ちゃんの彼女なのかい?リアルハーレムとは羨ましいなー!
 しかもその子達の様子を見る限り、兄ちゃんが複数の子と付き合ってるのもまるで気にしてねぇし、君達の信頼関係ドンだけーーーー!?」

「俺達の信頼関係?――的確に説明してやれ和美。」

「了解♪
 私等と稼津斗兄の信頼関係がどれ程か問われれば……燃え滾るマグマよりも熱く、クリスタルよりも濁りがなく、ダイヤモンドよりも強固さね♪」

「おっしゃー気に入った!!
 兄ちゃんとお嬢ちゃん達には特別に全品半額で提供してやるぜ、持ってけドロボー!!」

その予想外とも言える展開に露店の店主もスッカリ稼津斗達の事を『色んな意味』で気に入ったらしく全品半額での提供と言う出血大サービスを!!
まぁ、其れで売っても元手が取れると言う事なのだろうが、全品半額ともなれば此れは買わない手は無い。

「太っ腹だな……なら、其れに乗らせてもらおうか?
 全員好きなモノを3つまで買って良いぞ、支払いは俺がするから遠慮せずに買うと良い。」

「「「「「「「「お〜〜〜〜〜〜♪」」」」」」」」
「わ〜〜い♪」

其れに稼津斗が乗っかり、パートナー達も買う気満々。
子ぎつね状態のクスハまで喜んでいたが、この場で『子ぎつねが喋った』事を気にする者は誰も居なかった。

そして各々、自分が気に入ったモノを3つまで選んで即刻購入!!
この露天商が、この日一番の売り上げを得たのは間違いないだろう――稼津斗達が露店の前から居なくなっても店主の顔は満足そうであった。








――――――








さて、露店で予期せず良い買い物が出来た稼津斗達は、これまた少し開けた場所で人だかりが出来ている場所に足を運んでいた。


「さぁ、さぁ、この最強流を極めた俺様に挑む奴はもう居ねぇのかぁ?」

其処では趣味の悪いピンク色の空手胴着を身に付けた見るからに頭の悪そうな奴が、ストリートファイトの挑戦者を募っていた。
ご丁寧に看板まで用意して、その看板には『来たれ挑戦者、俺に勝てたらアンタが最強』とか言う訳の分からない一文が書き殴られていた。

「な〜〜んか、稼津君と前にデートした時とデジャヴなんですけど……稼津君、アレって強い?」

「一般人よりは強いが、武闘家として見れば――普通なら三流なんだが、何と言うかテンションが上がって調子に乗ると面倒な奴だな多分。」

学園祭後のデートで何か似たような事が有ったなぁ、と裕奈は思いながらも矢張りその強さは気になるらしい。
で、その強さは流石に一般人よりは上だが武闘家としては三流――しかし調子付かせると面倒と言う、何ともアレな相手であるらしい。


「おぉ?おい、其処の長身黒髪傷痕野郎!中々に貫禄たれるじゃねえか、俺と勝負しろオラァ!!」

そして、その男は人だかりの中から稼津斗を見つけ出して、挑戦者に逆指名ときた。
出来れば関わり合いになりたくなかったが、指名されたとあっては逃げる事など出来ない――まして、パートナー達が居る手前尚更だ。


「御指名とあれば…仕方ないか。」

「え〜と……まぁ、気を付けてね?」

アキラの気を付けては果たして相手に気を付けろと言う事なのか、其れともやり過ぎないように気を付けろと言う事なのか……恐らく後者であろう。
其れに片手を上げて応え、稼津斗は男のいる場所に。


「おぉ?テメェ中々強そうだな……だったらどっちが上か決めようぜ!行くぞオラ!!」

「まぁ、やると言うには相手になるが――な!!」

ゴングも何もあったモノではない……男のセリフを開始の合図と取り、稼津斗は正拳突き一閃!
だが、三流であっても相手も武闘家、其れを後転で躱して間合いを取り――

「どうしたどうしたぁ!!」

行ったのは何と挑発――アホとしか言いようが無い。
普通に考えれば、折角躱してチャンスを得たのだから此処は攻撃するべきだ――にも拘らず挑発してくるとはアホにも程があるだろう。

しかもそれだけではなく…

「行くぞオラァ!!
 オラオラァ!如何した如何したぁ!!舐めんじゃねぇぞ!!こっちこっち〜〜♪あ、そ〜れ!ひゃっほ〜〜い!オーイエーイ!!
 ひゃっほ〜〜、ひゃっほ〜〜〜い!!超余裕っち!!!……決まったぜぇぇ!!!」

訳の分からない挑発をこれでもかと繰り返した挙げ句に『ビシィ』と音の付きそうなくらいの見事なサムズアップ!!正に挑発伝説である。
そしてその挑発は効果抜群であり……

「愚物が……」

稼津斗が殺意の波動を完全制御の元に覚醒。
そして…

「滅殺…!」

「ほへ?……みぎゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!?」










――只今アホをフルボッコ中、少しお待ちください。








――バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ!!







――少々お待ちください






――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッドオドドドドドドドドド!!





――もう少しだけお待ちください。






――メキ!バキ!!ドゴガァァァアァ!!!……シャキィィィン!!!



「紛い物が、死にも値せんな…」

「お、お花畑が見えるッス……」

威力を1/1000に抑えた状態で瞬獄殺が炸裂!!……此れでもアホなピンク胴着には効果抜群だったらしく、微妙に死に掛けているのだが……


「…手加減したとは言え、瞬獄殺とは容赦はしなかったんだね稼津斗にぃ……」

「武道の何たるかを分かってない阿呆に容赦は必要ないだろう?――もっともあの手の輩程しぶといってのも世の常だがな。」

果たして、このピンク胴着は一体何がしたかったのだろうか…
だが、稼津斗達が居なくなった10数秒後に復活し、何事もなかったかのように再びストリートファイトの挑戦者を募っていた辺り普通ではないのだろう。








――――――








折角のデートが街の散策とウィンドウショッピングだけでは物足りない!と、一行がやって来たのは有名カラオケボックス『B○gエ○ー』。
和美が此処の会員であり、10人部屋をフリータイムで借り切ってのカラオケ三昧となって居るらしい。


そしてこの大人数ともなれば、オンラインの全国ランキングに繋いで、更に得点を競うのもお約束と言えるだろう。

祝福の風、旅路を微笑み行けるから〜〜…

今もまた、イクサが選択した曲で全国ランキング2位となる97点を叩きだしたところだ。
と言うか、全員が全員選択した曲で全国ランキング3位以内にランクインしているとは、彼女達の歌唱力もまた相当なモノなのだろう。

「して稼津斗殿、1曲くらい歌わないでござるか?
 折角カラオケに来たと言うのに、拙者達の歌だけを聞いて、稼津斗殿が歌わないと言うのは…と言うか、稼津斗殿の歌を聞きたいのでござるが?」

「ん?…まぁ其れもそうだな――なら一曲歌うか!」

稼津斗も、楓に促され1曲披露する事に。
選んだ曲を転送すると、ドラムの軽快なビートが始まりやや軽めのイントロがスタート。
そして、数秒の後に其れが一気に激しくなり、派手なドラムと共に歌がスタート!!

太陽が、陰るほど  熱く激しく燃えてる、情〜熱!
 限界に、期待する 俺は何を乗り越えて行ける?
 Just The Piece of The Earth 訳もなく転がるだけ!Piece of The Earth永遠より遠い場所へ〜!
 込み上げる思い、終わりが見えな〜〜い……この胸に…


 悔しさを、飲み込んで 苦く突き抜ける痛み、覚え〜た。
 足元の、石ころは 何時かデカくなる君と俺さ!
 Just The Piece of The Earth ジタバタと転がるだけ!Piece of The Earth1人じゃない気付いたなら〜〜。
 ちっぽけな未来は、潰すために有る……この腕で


 Just The Piece of The Earth 訳もなく転がるだけ!Piece of The Earth永遠より遠い場所へ〜!
 込み上げる思い、終わりが見えな〜〜い……Just The!
 Piece of The Earth ジタバタと転がるだけ!Piece of The Earth1人じゃない気付いたなら〜〜。
 ちっぽけな未来は、潰すために有る……この腕で〜〜〜!!



少し低めの声が迫力あるロックジャズを歌い上げ、その姿にパートナー一同は見とれていた。
更に驚く事に、なんとこの曲で稼津斗は押しも押されぬ全国ランキング1位の100点をマーク!!チートな男はカラオケでもチートだった。


「学園祭の時も思ったけど、稼津さん歌も上手やなぁ…」

「本当ですよね〜〜……何て言うか、事あるごとに惚れ直しますね〜〜…」

「まぁ、この歌は俺の世界にもあったし、俺の好きな曲でもあったから此れ位はな。
 っと、なんだよ飲み物がなくなってるじゃないか?ドリンクバーで取って来るか――みんな何が良い?」


「然らば拙者は抹茶オレを。」

「アイスコーヒーをお願いできるかな?」

「私と裕奈はコーラで。」

「私とのどかはジンジャエール。あ、私のは英国辛口の方で宜しく♪」

「私は………えっと、カルピスソーダを。」

「私はアイスミルクティ……って、1人じゃ大変だろうから私も一緒に行くよ。」


歌っていれば喉も乾く、全員のグラスが空になった事に気付き、稼津斗は全員のオーダーを聞いてドリンクバーに。
流石に全員分は大変だろうと思ったアキラが一緒に来てくれたのはある意味でありがたいだろう。


そうしてドリンクバーに来たのだが…

「椎名?」
「桜子?」

「あ、カヅっちとアキラだ〜〜〜♪」


其処には先客として椎名桜子が居た。
1人でとは考え辛い…恐らく円や美砂も一緒なのだろう。


「2人もカラオケ〜〜?」

「ううん、私と稼津斗さんだけじゃなく、裕奈達も一緒だよ。」

「お前は釘宮と柿崎が一緒か?」

「そうなんだけど……カヅっちヘルプミ〜!!
 街中歩いてる時にフェイト君が大人の姿になったのを見つけたんだけど、円と美砂が其れに気付かないで逆ナン敢行しちゃって〜〜!
 更に大人モードのネギ君とコタ君も一緒に来て、挙句の果てにはディズちゃんまで合流してちょっとピンチ〜〜〜!
 円も美砂も、大人モードの3人がネギ君達って気付いてないし、円に至ってはコタ君に気がありそうなんだけど、どうしよ〜〜〜!?」

だが面倒な事になって居るらしかった。
不幸にも巻き込まれなかったせいで、円と美砂はネギと小太郎の大人バージョンはご存じないし、フェイトの大人バージョンなどもっての外だ。

桜子としても何とか誤解を解きたかったのだが、1対2では分が悪く、更にディズが止めに入らないせいで完全に詰んでいた。
天下無双、宇宙の法則を無視した強運を持つ桜子であっても覆せない事案と言うモノは有ったらしい――そっちの方に驚きである。

「また面倒な…てか、何でネギ達は大人バージョンなんだ?何時も通りなら誤解もされなかったろうに…
 OK、分かった椎名――要は誤解を解けばいいんだろ?…其れ位なら力を貸してやるさ。」

「ありがと〜〜…うぅ、神様仏様稼津斗様…」

稼津斗が桜子より神に認定された。別に其れは如何でも良いが。


で、桜子に付いて行ってネギ達の居る部屋に入ると…


――ポン!


実にタイミングよく、ネギ達の変身が解けていた。

「「へ?」」

当然、変身魔法の事を知らない円と美砂は目が点に。
2人とも、今にも交際を申し込みそうな勢いだったが故にこの反応は仕方ないのだろうが……だが、この場には鬼が居た!!


「ふむ…では、担任代理の権限で我がクラスは午後6時以降の外出を全面的に禁止しようかな。」

「マテやこらフェイトーーー!お前この状況で其れ言うか!?囮捜査かっちゅーねん!!」

「幾らなんで横暴だよフェイト!!そんな事は正規担任の権限で認めないって!!」

「便乗して、副担任権限で最大限却下だ阿呆。」

「稼津斗に便乗して副担任代理として反対ね。」


散々ぱら楽しんだ挙句に外出禁止とは鬼な事この上ないが、其処はネギと稼津斗とディズが阻止!!
突然現れた稼津斗に特に驚く事もなく、フェイトへの非難轟々!!

まぁ、高々担任代理風情が生徒の外出制限など出来る筈もないのだが……此れはフェイト的なブラックジョークだったのだろう。
真顔で言う辺り、ジョークに聞こえないので性質が悪すぎるが。


結局、ネギと稼津斗をはじめ、何時の間にかアキラが呼んでいた裕奈達も加わり、フェイトの外出制限案は素案の段階で廃案に。
結果として、3−Aにおけるフェイトの株はまた下がってしまったらしい――本人はそんな事は全く気にしていないが。


「ガチガチすぎると嫌われるぞフェイト?」

「ガチガチなのは仕方ないね…何せ僕は『地のアーウェルンクス』だからね。」

「いや、其れは関係ないやろ…」


この後で、折角だからと全員が合流して大カラオケ大会が勃発!
とある日曜日は、こうして過ぎて行くのだった――偶にはこんな日が有っても良いだろう……世は平穏事もなしである。













 To Be Continued…