2学期が始まって早10日。
つまり、フェイトとディズが担任代行に就任してからも早10日が経った事になる訳だが――


「つまりこの場合『――』は『――』を指しているのだけれど、よく似た単語に『――』があるから注意して…こっちはまるで意味合いが異なるからね。
 それから、良くある和訳の間違いだけど『○○of☆☆』は『○○の☆☆』じゃなくて『☆☆の○○』だから間違えないように注意して。」

意外にもディズもフェイトも確りとその仕事をこなしていた。
ただ、栞以外の3−Aの面子にはフェイトよりもディズの方が受けは良いらしい……まぁ、フェイトの場合は私語等に異常に厳しいせいもあるのだが。

以前にフェイトが授業を担当した時は、その時居なかった稼津斗とネギの事を話していた裕奈と千雨にチョーク投げを喰らわせた位だ。
尤も、そのチョーク投げはヒットする前に裕奈が鬼の超反応で撃ち落とし被弾には至らなかったのだが、この一件からフェイトは『怖い』と認定されたらしい。

まぁ、この辺は元々の性格の違いもあるのだろう。
何処か杓子定規なきちっと感のあるフェイトと、真面目だがフェイト程はガチガチでは無かったディズ……要するにディズの方がより人間くさいのだ。


――キ〜〜ン、コ〜〜ン、カ〜〜ン、コ〜〜ン


「あ、もう時間?其れじゃあ今日は此処まで……号令を。」

「きりーつ!礼!!」

一見すると何事もないような授業風景に見えるが……

《如何やら教師の資質は私の方があるみたいねフェイト?》

《興味がないね……所詮僕達はネギ君達の留守を預かる身でしかない……最低限の事が出来れば問題ないだろう?》

《甘いわね……留守を任されたからこそ、しっかりやらなくちゃダメなのよ?……そんな事も分からないんじゃ貴方一生、彼には敵わないわよ?》

水面下でディズとフェイトは静かに火花を散らしていた――ここ数日で、ディズが微妙に3−Aに染まり始めているのは確かだろう。


「………やっぱ普通じゃねぇよな、如何考えても……」

「普通じゃないよ……あの2人が担任代行とか絶対普通じゃないって……!!」

千雨と夏美の突込みは、当たり前の事だろうが、しかし誰も聞いちゃいないだろう――それでも突っ込んでしまうのは最早本能と言う物かもしれない。

「まぁ、最終的には慣れるしかねぇだろうけどな。そうじゃないと身が持たねぇぞ村上…

「達観しないで長谷川〜〜〜〜!!」











ネギま Story Of XX 135時間目
『惑星地球化で世界を救う?』











「そういやよ、稼津斗先生は兎も角、ネギ先生は2学期が始まってから一度も学校に来てねぇけど、一体何をしてるんだ?
 アスナの奴は、まぁ何となく政治的な彼是面倒な事が有るのは大体予想が付くんだが……ネギ先生から何も聞いてねえかのかエヴァンジェリン?」

「フン……私も詳しくは聞いていない――と言うより科学的な話のようだから聞くのを辞めた。どうせ聞いても分からんしな。
 私としては一緒に行ってやりたかったんだが、ネギも稼津斗も居ない時に何かあっては面倒なのでな……仕方なく残ってやる事にしたのだ。」

話しは変わり、千雨の言うようにネギは2学期が始まってから1度たりとも学校には来ていない。
稼津斗も出張する事があったが、其れでも精々1日留守にする程度の事で、此れだけ長期の休みは取って居ない。(ネギは長期出張扱いだが。)

そうなると何をしているのかは当然気になるが、ネギの事情を一番知ってそうなエヴァンジェリンも良く知らないらしい。
科学的な話は良く分からないので聞かなかったとの事だが、実を言うと其れでもエヴァンジェリンは付いて行く気満々ではあったのだ。

だがネギからやんわりと『麻帆良の最終防衛ラインとして残って欲しい』と言われ、渋々残る事にしたのだ。
まぁ、此れを言ったのがネギ以外だったら絶対に聞かなかったであろう。ネギだからこそ聞いたのだ!ネギだからこそ聞いたのだ!!此れ重要である!


「まぁ、なんにせよ滅びの道しか残されていなかった世界を無理矢理救おうと言うのだから並大抵の事ではあるまいよ?
 其れに、奴が一度も此方に戻ってきていないと言う事は、今はまだ私達の力が必要な段階ではないと言う事だ……ならば今は待つしかなかろう?」

確かに一理ある。
ネギも稼津斗も、必要な事は必ず伝えて来る――其れがないと言う事は、今は未だ3−Aの面々の出番は無いと言う事なのだろう。
エヴァンジェリンも『これ以上は今は良いだろう?』と言わんばかりに自分の席に戻り、頬杖をついて窓の外をぼんやりと眺めはじめてしまった。


「まぁ、確かにアイツの言う通りかもな……」

「今は待つしかないでしょう。
 ……ですが、ネギ先生の事を思って愁いを帯びた表情を浮かべながら窓の外を見やるマスター…あぁ、もう可愛すぎます!!
 此れはキッチリ録画して撮影して、葉加瀬でも閲覧と削除が出来ないレベルでの特Sプロテクトを掛けて永久保存しなくては……!!!」

「どわぁぁ!?行き成り現れたと思ったら、久々にかましてくれやがったな茶々丸さんよぉ!!!
 つーか、毎度毎度盗撮紛いの事は止めろって言ってんのが、未だ分からねぇのかアンタはよぉぉ!!!!」

「此れだけ堂々と撮影しているのですから、此れは断じて盗撮などではありません!!
 寧ろ此れは私個人の趣味であり、他人が口を出すべきモノではありません。千雨さんもネットアイドル活動に口出しされたくはないでしょう?」

「るせぇボケロボ!私のネットは誰にも迷惑かけてねぇから良いんだよ!
 テメェのそれは思いっきりエヴァンジェリンの個人情報、プライベート盗み撮りだろうが!いい加減にしねぇとテメェのメモリー世界にばら撒くぞ!!」


そしてそれを撮影する茶々丸……魔法世界ではすっかり大人しくしていたせいか、何と言うか久々に容赦がない。

「む…私の記憶は私だけの物です、何人たりとも触れされはしません!!」

「一端の事言ってんじゃねぇ!!だったら、エヴァンジェリンの彼是云々もアイツだけのモンだろうが!てか撮影禁止だボケ!!」











――只今戦闘中









「はぁ、はぁ……つ〜訳で、今後一切ネギ先生とエヴァンジェリンのプライベートは撮影禁止な?」

「く……負けてしまっては仕方ありません…」


――○長谷川千雨(3分43秒卍固め)絡繰茶々丸●――


そして千雨の勝利である。
ガイノイドを関節技で仕留めるとは、千雨も大分染まってきているようである……まぁ、この戦闘力は突っ込み限定ではあるのだが。


「魔法世界でも思いましたが、ここぞと言う時の行動力とかそう言うのは凄まじいモノがあるです…」

「るせぇ綾瀬……ん?そういやお前記憶は戻ったのか?」

「いえ…まだ断片的にしか…と言うか魔法世界を訪れる以前の記憶は殆ど残っていないです……のどかと親友であったと言う事くらいしか…」

「あ〜〜〜〜……そうなると綾瀬って呼ばれっと違和感ありか?」

「其れは大丈夫です。コレットが居たおかげでずっと『ユエ』と呼ばれていましたので、私の本来の名字で呼んでいただいても平気です。」


魔法世界での一番の面倒事は片付けたが、夕映の記憶など所々微妙な問題が残っている。
まぁ、夕映の記憶に付いては『忘却魔法の暴発』が原因なので、其の効果が消えれば何れ記憶は取り戻すだろう。

「ま、アンタも色々大変だよな。
 てかよ、私等の出番が未だないってのは兎も角として、具体的に稼津斗先生とネギ先生は何をしようとしてるんだ?
 ぶっちゃけ仮想現実を被せた世界とは言え、元は火星なんだろ?何かするにしたって地球並に規模が大きい事になるんじゃねぇのか?」


「実際に大きな事になってる……まぁ、その辺を次のホームルームで伝える心算だったんだけどな。」

千雨の問いに答える形で教室に入って来たのは稼津斗。
休み時間も終わり、6限目のロングホームルームを行うために来たらしい…まぁ、流石に此れは担任代行に任せる事も出来ない。

「5限の時に魔法世界に行って、ネギにクラス全員に計画の基本的な事を伝える許可を取り付けて来た。
 一応、未だ他のクラスに知られるのは拙いんでな――悪いがマクダウェル、教室全体に広域の認識阻害魔法を掛けて貰えるか?」

「ふん…まぁ、仕方あるまい。」

一瞬風が吹き抜けるような感じがして、3−Aは認識阻害魔法に包まれ、此れで外に情報が漏れる事はなくなった。
此れから色々な説明が始まる訳だが、特に席に着く事もなく、休み時間の時の状態のままで居るのも3−A的であると言えるだろう。


「さて、今しがた言ったように今から魔法世界で俺とネギが何をしようとしているのかを説明する。
 端的に言って、火星を媒体にした魔法世界を強制リライト以外で救う手段は――言うなれば宇宙開発って事になる。」

そして初っ端から話がぶっ飛んだ。
魔法世界が如何たらかと思った矢先、出て来た言葉は宇宙開発!!ファンタジーを通り越して、今度はSFの世界に強制ダイブ状態である。

「ちょっと待った稼津兄!宇宙開発って何!?
 幾ら何でも話しぶっ飛び過ぎでしょそりゃ!?てか出来んの!?仮に出来たとして、んな技術があったらNASAが絶対ほっとかないと思うんだけど!?」

「その辺は大丈夫だ、NASAの科学技術力とか無視した方法だから。
 ――其れに何もぶっ飛んだはなしじゃないぞ和美?極めて現実的な話さ……正確に言うなら、こっちと魔法世界の協力があって現実になる。
 そして、その現実化の目途が立った――だからこうして皆に話す事にしたんだよ。」

だが、決して伊達や酔狂の話ではない。
本より稼津斗もネギも、出来もしない事を見栄やカッコ付けで『出来る』等とは絶対に口にしない……と言う事は宇宙開発の話も決して嘘ではないのだ。


「心して聞けよ?俺達の最終目標、それは――両世界の協力による火星緑化『惑星地球化計画』…所謂テラ・フォーミングだ。」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「テラ・フォーミング!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「名前くらいはSF映画やらで聞いた事はあるだろ?簡単に言えば、地球以外の惑星を地球人類が住めるようにする超巨大計画だ。
 無論、コイツは今まで机上の空論で空想の世界の事とされてきたが――魔法の力と、そして俺と言う存在が可能にするってのがネギの考えだ。」

「稼津斗さんが居るから?……若しかして、火星と稼津斗さんを仮契約させるんですか!?」

如何にもな感じで説明していくが、ふと気になったのが『稼津斗の存在があって可能なる』と言う部分。
其れに逸早く気付いたのがのどかであり、考え付く最大の可能性を躊躇せずにぶつけて来た……確かにのどかがこう思うのも当然だろうとは思うが。

だが、其れはそうでもないらしい。

「いや…最初は俺もそうする心算だったんだが、イキナリ火星のコアをオリハルコンにすると其れは其れで環境が急変し過ぎて良くないらしいんだ。
 俺が時たま出張で居なかったのは、オリハルコンの力で魔法世界の大地を浄化し、既存の植物の活性化を行っていたって所だな。」

流石に星との契約とは行かなかったようだ。
それでも、オリハルコンの力を使ってと言う事なのだから、のどかの言う事も全く間違いではなかったと言えるだろう。


「だけどよ先生、テラ・フォーミングって……緑化なんて事で魔法世界の崩壊が喰い止められんのか?緑化の規模がケタ違いってのは分かるんだが…」

「可能だ、魔力の源は生命力だからな。
 魔法世界の崩壊は、この魔力の枯渇が原因――となれば、そのより依代たる火星を人の住める大地にしてやれば崩壊は止められるって理屈だ。
 無論問題は山積してるし、魔法を世界に知らしめた際の事も考えなきゃならない……まぁ、緑化技術は地球の砂漠にも使える利点もあるがな。
 だが、ネギの話では30年後――最速なら10年以内に、火星は両世界の人間が共存できる豊かな大地になるって事らしい。」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

湧き上がる歓声。
千雨の疑問にも淀みなく分かり易く答え、問題は未だ有るが魔法世界の崩壊は確実に止められると言う事を聞いたのだから此れは当然の事。

更に此れを話してくれたと言う事はいよいよ自分達にも『魔法世界救済計画』での出番があると言う事に他ならない。
基本人情派が集まったこのクラス的に『自分の力が誰かの為になる』この状況はテンションが上がって然りだ――寧ろ上がらない筈がない。


「来たよ此れ、世界救済のお手伝い!!」

「学園長公認の魔法クラスが此れに出張らないって手は無いでしょ!!此れはやるっきゃないって!!」

「ったくファンタジーの次はSFか?
 まぁ、向こうも現実なんだが……こうなっちまった以上は仕方ねぇ…乗り掛かった船だしな、最後まで付き合ってやるよ。」

「火星の地球化とは……くくく、つくづく予想の斜め上を行く奴だ……だが其れが良い!
 よかろう、科学的な事は無理だが、魔法的な事ならばこの闇の福音が最大限の力を貸してやるわぁ!!!」

「ネギさん…稼津斗さん……此れで魔法世界は本当に…!!」

「いよっしゃ〜〜〜!!!行くぜ皆〜〜〜〜!!!!救っちゃうよ魔法世界〜〜〜〜〜!!!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「All right!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


一気に盛り上がり、各々思う事を口にし、最後には裕奈の号令で皆の心は1つに!
具体的に3−Aの面々が何をするかとかそう言う事は不明だが、このやる気とギガテンションがあれば障害が出ても勢いで突破してしまうだろう。

取り敢えず、魔法世界救済の事を伝えたのは間違いではなかったようだ。








――――――








放課後、稼津斗は1人校舎の屋上に来ていた。
非常に珍しく、煙草を吸いながら(1本だけタカミチから貰った)沈みゆく陽を眺めている――非常に絵になるのだが、何やら考えているようだ。


――魔法世界の崩壊は何とか食い止める事が出来るし、魔法世界を恒久的に維持する方法もある。
   だが――アイツの……始まりの魔法使いの方は現状は何も分かっていない……何故奴はナギを……いや、それ以上にあの感覚は…


如何やら魔法世界のラスボスであった『始まりの魔法使い』の事が気になって居るらしい。




確かに、一時とは言え自分を行動不能に追い込み、更に近右衛門、タカミチ、詠春、クルトの同時攻撃をも寄せ付けなかった相手は気になるだろう。
そしてそれ以上に引っ掛かっていたのが、始まりの魔法使いを殴り飛ばした時の妙な感覚だ。

まるで手応えが無いのに殴った重みは感じると言う、ある種矛盾した感覚――稼津斗にはその感覚に覚えがあったから。


「現実には考え辛いし、あるとは思えない……だがあの感覚は――

「感覚がドナイしたんや稼津さん?」

「!!…亜子か。」

「あ、驚かせてしもた?」

「いや……大丈夫だ。」

だが、それも亜子が現れた事で思考が中断。


「如何かしたか?態々屋上に………」

「いや、なんでもあらへんよ?……今日は部活で特にする事もないから、少しばかり夕陽を拝もう思て来たら稼津さんが居ったって訳や。」

「そうか……なら、一緒に拝もうか?」

「うん♪……あ、せやけど煙草は勘弁や…」

「コイツは失敬……何となく吸いたくなってタカミチから1本貰ったんだが、失敗だったな。」


――ボウ



一緒に夕陽を拝もうとするが、亜子からのダメ出しで煙草は一瞬で灰に……女の子の意見は尊重しなくてはだ。


「うん……此れで心置きなくや………ホンマ、綺麗な夕陽やね…」

「あぁ…そうだな…」


そして、亜子の登場が稼津斗の中の疑問を一時霧散させてくれた……パートナー乙である。


「ん〜〜〜〜…シチュエーション的にはキスしてほしい所やけど…」

「学校では勘弁してください、他の教師に見つかったら俺は懲戒処分にされちまう!」

「あはは……分かっとるって♪」



――マッタク……まぁ良いか――もしアイツが俺の予想通りの相手だとして……その時は正面切って叩きのめすだけだからな…!



同時に、不要な思考を完全カットするにも至ったようだ。








後日、学園長の近右衛門より3−Aに『魔法世界救済プロジェクトチーム』の辞令が下り、3−Aの面々はより本格的に魔法に係わっていく事になる。



尤もそれ以上に2学期は学校でのイベントが多いので、本格始動はまだ先になるだろう。
だが其れでも、このチームの公認が魔法世界救済に大きな役割を果たしてくれるのは、きっと間違いないだろう。













 To Be Continued…