9月1日――2学期が始まる日であっても、日常に戻った稼津斗の日課が変わる事は無い。
今日も今日とて早朝のランニング+軽めのシャドーを終えて帰宅し、此れから朝食と言うところだ。
「あぁ、おかえり稼津斗にぃ、良いタイミングだね?丁度出来たところだよ?」
「みたいだな?……美味そうな匂いがしてるじゃないか――って、此れじゃあまるで夫婦の会話だな?」
「ふふ、まぁ私としては今直ぐ本当の夫婦になっても良いと思てるんだけれどね?多分楓達も同じように思ってるんじゃないかな?」
「……何度も言うが、お前達が中等部に在籍してる間は、デートやキス以上の事をする心算は全く無いからな?普通なら其れだってアウトなんだから。」
で、部屋で朝食の準備をしていたのは真名。
日替わりで稼津斗の家に泊まりに来るパートナー達だが、夏休みの最終日に泊りに来たのは真名だったらしい。
泊まりに来たパートナーが翌日の朝食を用意するのは最早お約束――と言うか用意せざるを得ないのだ。
文武両道、容姿端麗、性格最高の稼津斗だが、ただ一点料理の腕だけは壊滅的!其れこそどこぞの湖の騎士とタメ張れるくらいに凄まじいのである。
尤も稼津斗からすれば必要な栄養が摂れれば十分なので、缶詰や食材を調理しないでそのまま食べるなんて事をしてた事も有るのだが…
だが今は、こうして美味しい食事と作ってくれる人が居る――必要な栄養が摂れればと言っても、其れが美味しいに越したことは無いだろう。
「今日は焼き魚か?」
「あぁ、稼津斗兄が大好きな『サバの塩焼き』。それからご飯と豆腐の味噌汁にキャベツと胡瓜の浅漬けだ…如何かな?」
「申し分なし、見事なまでの和食の朝飯ご苦労様でした!」
尚、彼女達の料理のスキルが凄まじい勢いで上限知らずの上昇をしている事は最早言うまでもない事なのだろう……恋する乙女は天下無双である。
ネギま Story Of XX 134時間目
『2学期始動!新たな仲間達』
――AM8:00・麻帆良学園学園長室
「ふむ……成程のう……魔法世界の色んな事を解決するとなると、稼津斗君とネギ君は確かに此れから出張扱いで向こうに出る事は多くなるの。
まぁ、2人が同時にと言う事は出来るだけ避けるようにするとしても、確かに担任不在の際の臨時教員は必要じゃな。」
近右衛門は手にした書類に目を通しつつ、自分の前に立っている詰襟を着た1組の男女を見やる。
この2人は稼津斗とネギが『魔法世界の事で留守にする時は、この2人を3−Aの臨時教員として使ってくれ』と連れて来た者達だ。
「しかしじゃ……ぶっちゃけ大丈夫なのかの君達?」
「問題ないよ…ないからこそネギ君は僕にこの仕事を頼んだんだからね。」
「必要な知識は既にインストールしてあるわ……尤も状況に応じて臨機応変な対応をする必要はあると思うけれど。
だけど、少なくとも『教師』をやるのには何ら支障がない位の知識や技術は『上辺』だけでも身に付けたから、其処は安心してくれていいわ。」
その2人は殆ど感情の起伏を感じさせずに、近右衛門の問いに的確に答えて来る。
近右衛門も、この感情の起伏の薄さには驚いたが、スグサマ『まぁアノ2人の代理が務まるんじゃったら問題ないじゃろうな♪』と思考を切り替えていた。
………果たして学園の最高指揮官である学園長が其れで良いのかと言う疑問は残ってしまうのだが…きっと近右衛門的にはアリなのだろう。
或は魔法使い的にアリなのかもしれない。
まぁ、ある意味では『物事を徹底的にシンプルに考えた結果』とも言えるし、何よりも歴戦の勇士である近右衛門の『人を見抜く目』は未だに健在だ。
もしもこの2人が嘘を吐いていたとしても、歴戦の勇士であり策士である近右衛門には直ぐにばれ、その場で取り押さえられる事だろう。
だがそうなって居ないのは、この2人は近右衛門が『信用するに値する』と判断したからに他ならない。
何よりも魔法世界の一大事に最も活躍した稼津斗とネギからの提案を受け入れない手は無い……結果として2人の臨時教員は正式採用となった。
「まぁ、分からない事が有ったら何でも聞いてくれい…出来る限りの事はするからの♪」
「貴方みたいな人が、そう言う言い回しをするのは何とも妙な感じだね…」
「寧ろ不気味って言うのよこの場合は…」
「君達意外と容赦ないの!?……まぁ其の位でなくては3−Aの臨時教員など勤まる筈もないからのう……ほっほっほ、まぁ頑張りたまえよ♪」
髭を弄りながら笑う姿は『好々爺』その物なのだが、今のその姿は誰が如何見ても『絶対何か言葉以上の物を考えてる』のが丸分かりである。
恐らく『アノ3−A全員を相手に何時までクールで居られるかのう♪』とか考えているのだろう……このぬらりひょん中々良い性格をしているようだ。
――コンコン
「爺さん、俺だが入っても良いか?」
「おぉ、稼津斗君か!無論入って来て貰って結構じゃよ。」
其処にやって来たのは稼津斗。
ネギが魔法世界に行っている本日は、稼津斗がこの2人の担任代行を3−Aに紹介する事になるのだろう。
もっと言うならば、2学期からは3−Aに栞が『留学生』としてやって来る事も決まっているので、2学期初日の今日は中々に大変そうである。
「SHR前にどうしたんじゃ稼津斗君?其れに栞ちゃんとやらも一緒に。」
「SHR前だからコイツ等を迎えに来たんだ。
序に言うと、栞の編入に伴っての書類で、1枚だけ判子貰い忘れてたからそいつを貰いにね。」
「あ〜〜〜…そう言えば何か足りないと思ったんじゃが、やっぱりあったのかの〜〜……そいじゃあコイツをペタッとな…此れで良いじゃろ?」
「あぁ、これで完璧だが――碌に読まずに判子捺しても良いのか?」
「文面全部暗記しとるし、その子が何の問題ないと言う事は分かりきっとるから態々読む必要なんてないも〜〜ん♪」
「其れで良いのか学園長……まぁ、面倒な事をしないで許可印が貰えたってのはありがたいがな。」
一応不備のあった書類の補足と言う目的があったようだが、担任代理を迎えに来たのも当然の事なのだろう。
判子を貰った稼津斗はそのまま担任代理の2人を引き連れて学園長室を出て行こうとする。
「そうじゃ稼津斗君、今日は始業式だけの半日授業じゃから、午後は久しぶりに碁でも打たんかの?」
「……久しぶりに良いかもしれないな、魔法世界ではそんな事をしてる暇はなかったし、戻って来てからの1週間は残りの夏休みを遊び倒したからな。
偶にはじっくりと碁を打つってのも悪くない――茶菓子は持ってくるから、少し濃い目の日本茶を用意しといてくれよ?」
「あい分かった♪」
稼津斗と近右衛門……中々に『良い友人関係』を築いているようである。
――――――
ところ変わって3−Aの教室内は、夏休み明けと言う事も有り大いに賑わっていた。
特に魔法世界トリップ組は、魔法世界未訪問組(とは言っても最終決戦の大詰めには全員が来ていたのだが)から魔法世界の事を聞かれ大変そうだ。
まぁ、其れを聞いた者達は一様に『稼津斗先生とネギ君マジパネェ……』との思いを抱いたようだが。
「それにしても亜子はすっかりそれがデフォになってるよねぇ?」
「まぁ、そうやな……なんでかクスハは私の頭の上がお気に入りの場所みたいで、毎度子ぎつね状態で頭に張りついとるからなぁ?」
「だって此処が落ち着くんだも〜〜〜ん♪」
そして毎度お馴染みの『亜子の頭に張りつくクスハ』は最早3−Aでは常識の見慣れた光景であるらしい。
普通に考えれば、生徒の1人が頭に子ぎつねを張り付けた状態で授業を受けているなど、この上ない異常事態な筈だが実害0故に誰も何も言わない。
流石に初めてこの光景を見た『鬼の新田』こと新田教諭は唖然としてたらしいが…
「てか桜子だけずるいよ〜〜!1人だけ魔法世界で大冒険してさ〜〜〜!」
「なはは〜〜〜〜…でも、跳ばされた先でカヅっちと一緒じゃなかったら、魔法世界のトンでも生物の栄養になってかもしれないよ〜〜〜?」
「いや、アンタの謎の幸運力を考えると、どんな事態に陥っても幸運に幸運が重なって絶対に無事な気がするわ…」
「っかし……夏休み中に魔法世界の危機を救うとかマジ有り得ねぇ……私等以上に濃い夏休み過ごした奴は居ねぇって断言できるぜマジで…
まぁ、そのお蔭で、ブログの方に魔法世界での体験談書き込んだら滅茶苦茶反響あって今日までの1週間で月間アクセスぶっちぎりの1位だけどな。」
「私も見たけど、日のアクセス数が1万件てマジ凄いよねぇ…流石はナンバー1ネットアイドルちう様ですこと…」
「朝倉〜〜〜!テメェ、リアルで私の事を『ちう』って呼ぶんじゃねぇ!良いか、ネットとリアルを使い分けるのはネットの住民にとってはマナーで常識だ!!
ネットにリアルの己を持ち込まず、ネットでのキャラををリアルに持ち出さない!此れは鉄則だぜ、分かったか!!!」
「あ〜〜〜…はいはい……てか千雨ちゃんも1年の頃から比べると随分変わったねぇ…」
「こんだけ異常な事態に囲まれまくって、挙句の果てにはどっぷりと其れに浸かっちまってんだ……受け入れて開き直るしかねぇだろ?
だけどまぁ、受け入れちまったら此れは此れで悪くねぇって奴だ……思いのほか私もこの状況を楽しんじまってるみたいだしよ。」
「まぁ、良いんじゃないか?
人生は一度きりなんだ、ならば楽しまねば損だろう?私達と違い、命が有限であるお前は……な。」
「やっぱそうだよな……」
「楓姉、ドラゴンの肉ってどんな味だったの〜〜〜。」
「イメージとしては固そうだけど〜〜〜?」
「ん〜〜〜〜……少し歯応えの強い鶏肉のような感じでござったなぁ〜〜〜〜♪」
そして、HRが始まるまでの間、思い思いにクラスメイト達とお喋りを満喫。
序に言うと、ある意味で毎朝恒例となって居る『さっちゃんの肉まん売り』は1個100円で今日も今日とて完売であった――恐るべし五月印の肉まん。
「さぁて、HR始めるから……別に席に戻らなくても良いから全員こっち向け。」
で、そんなにぎやかなクラスに、稼津斗が栞を引き連れて登場。
普通なら『席に着け』と言うところだろうが、今日はこのHRが終わればそのまま解散であるため特に席に戻す事もないらしい。
「取り敢えず、魔法世界で一緒じゃなかった面子は随分と久しぶりだ。
そして、魔法世界渡航組は向こうでは本当にご苦労様だった――だが、夏休みは終わって今日から2学期だ、全員気力体力は充分か?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
誰よりも濃い夏休みを過ごしたとは言え、その疲れが残っているかと問われればそんな事は有り得ないのが3−A。
稼津斗の問いにテンションマックスの気合マックスで応えてるあたり、本当に気力も体力も各々の限界値まで完全回復しているのだろう。
「良い返事だ。
さて、魔法世界渡航組は既に知ってるだろうが、2学期から3−Aに新たな仲間が加わる事になった………さ、自己紹介だ。」
「え〜と……久しぶりな方と、初めましてな方が居るのですが…栞・ルーナ・月影です……宜しくお願いします。」
そして新たな仲間の紹介。
魔法世界渡航組からすれば見知った顔だが、そうでない者達からすれば最終決戦地でちらりと見た程度でしかないので新鮮だろう。
因みに『栞・ルーナ・月影』と言う名前は、留学生として此方に来る際に『栞だけじゃアレだろ』との理由から稼津斗とネギで考えたフルネームである。
「やっぱ来たね栞〜〜〜!」
「此れからはクラスメイトや、宜しくな栞ちゃん♪」
「おぉ〜〜〜、リアルエルフ耳!!此れは貴重だ〜〜〜!!」
「新しいクラスメイト来た此れ!!取り敢えず…漲って来た!!此れであと10年は戦える!!!」
「……と、まぁ見たまんまぶっ飛んだ連中の集団だが、此れからはアンタも此処の一員なんだ……よろしく頼むぜ栞さん?」
「はい♪」
新たなクラスメイトの登場も何のその、栞は全く問題なく3−Aに受け入れて貰えたようだ。
「ん?そう言えば稼津斗先生、ネギ君は?」
だがよくよく見れば、教室に入って来たのは副担任の稼津斗であり、担任であるネギの姿は無い……始業式に担任が不在など普通は考えられない事だ。
「ネギは今日は魔法世界の方に出払ってて出張扱いになってる。
同様にアスナも魔法世界で……こっちは政治的な事が色々あってなんだが、公欠扱いになってる。」
如何やらネギは魔法世界の安定化の件で其方に出向いているらしい。
アスナもまた、魔法世界の様々な政治的事由があり、2学期が始まってもしばらくは魔法世界の方に留まる事になるらしい。
「さて、ネギの事は今言った通りだが、俺もネギも2学期の間はしばしば魔法世界の方を訪れる関係で学園を留守にする事が多くなると思う。
一応、俺とネギの両方が居ない事態だけは可能な限り避ける心算だが……魔法世界の安定化は面倒な事も多い故に其れも絶対とは言えない。
其処で、2学期からは3−A限定の『担任代理教師』を設ける事になった!……2人とも入ってこい。」
稼津斗が教室の外で待って居る2人に声をかけ、その2人が教室に入室。
そしてその瞬間に魔法世界渡航組の表情は凍り付いた。
何故なら入って来た2人はフェイトとディズ――魔法世界で稼津斗とネギと死闘を繰り広げた相手だったから。
だが、だからと言って即座に臨戦態勢――と言う訳ではない。
最大級の警戒をしつつ、しかし一切の気を抜かずにフェイトとディズの2人を見やっているのだ。
「あ〜〜〜…魔法世界渡航組は取り敢えず臨戦態勢を解除してくれ……此れじゃあおちおち話も出来ないからな。」
言われ、魔法世界渡航組は臨戦態勢を解除し、人によってはアーティファクトも解除する事態であったようだ。
「さっきも言ったが、俺とネギは2学期中の出張扱いでの不在が多くなる。
その際に、ディズ達に担任代行を務めて貰おうかと思っているんだ………それが2人への教育の一環にもなるからな。」
如何やら稼津斗は、この実習を通して、フェイトとディズに『より深い人間の心』を理解してほしいと考えているらしい……果たして巧く行くかは謎だが。
「さて、取り敢えず自己紹介ぐらいはしてくれ。」
「……フェイト・アーウェルンクスだ…好物は珈琲……後は特にないね。…其れじゃあ次は君の番だセクスドゥム。」
「ディズ・アーウェルンクスよ……」
フェイトに続き、ディズもまた最低限の事しか告げはしない……
夏休み明けの9月1日――如何やら3−Aの2学期は下手をしたら、魔法世界以上の異常事態が待って居るのかもしれない。
To Be Continued… 
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