ギリギリと力を込め、始まりの魔法使いはネギの首を絞めつける。
如何に強くとも、まだ10歳のネギが満身創痍の状態で、その絞首吊りから逃れる事は極めて難しい――と言うか先ず無理だろう。

「あぐ……」

「く……ネギ!!!」

苦しげに呻くネギに、エヴァンジェリンも思わず叫ぶが、身体の自由が効かないのではどうしようもない。



フェイトの協力を取り付け、完全なる世界の残党を片付けたと言うのに此処で終わってしまうと言うのか?
いや、この場の誰もがそんな事は考えてはいないが、状況は極めて最悪極まりないのもまた事実。

特に最強の稼津斗が動きを封じられたと言うのは痛すぎる。
稼津斗も稼津斗で、全身に突き刺さった『魔力の剣』を破壊しているが、如何せん突き刺さった数が多過ぎるせいで破壊にも手間取っているようだ。


このままではあと数分とかからずネギは窒息死か、首の骨を折られての昇天かの二者一択しかない。




………あくまでこの状況を打開できる存在が居なければの話だが。


「ネギ……!!」


――ズバァァァアァァァァァアァ!!!!!


突如、閃光にも似た大剣の一閃が煌めき、ネギを拘束していた始まりの魔法使いの右腕を一刀両断!
不滅の魔法使いに決定的な一撃を与えられる存在など、稼津斗を除いたら1人しか居ないだろう……

「ネギ……大丈夫?」

「アスナ……お姉ちゃん……」

希望の担い手は『黄昏の姫巫女』ことアスナ!
委員長や千雨の必死の呼びかけが功をそうし、ギリギリの……本当にコンティニューカウント1のギリギリで覚醒が間に合ったのだ。











ネギま Story Of XX 132時間目
『蘇れ魔法世界、有るべき姿に』











「ネギ……こんなにボロボロになるまで頑張って……本当に頭は良いくせに馬鹿なんだから…
 だけど、そんなになってまで私を助けようとしてくれてのよね?……ありがとう、嬉しかったよ。」

ネギを救出したアスナは、そのままネギの事を抱きしめてやる。
姉として、弟が此処まで――文字通り『身を粉にして』自分を助けようとしてくれた事は素直に嬉しかったのだろう……瞳に僅かに浮かぶ涙がその証だ。

「お姉ちゃん……」

ネギも何も言わずなされるがまま―――――だが!


「だけど、其れとは別に、またとんでもない無茶をしたわねネギ?
 貴方ねぇ、さっきの攻撃は何?無意識とは言え、私が力を貸さなかったら貴方かフェイトのどちらか一方は確実に吹き飛んでいたわよ?
 自分の計画に必要な相手を吹き飛ばしてどうするの?少しくらいは加減をしなさい。」

ネギの無茶と無謀は姉として見過ごせないレベルであったらしい。
すぐさま先刻のフェイトとの『シェイクハンドデスマッチ』の事を責められるが、ネギとて黙ってはいない。

「僕が無茶をするのは何時もの事でしょう!?そんなのは『明日菜さん』の時から分かりきってる筈です!
 それに、あの場面で手加減なんてできる訳ないじゃないですか!フェイトを此方側に付けるには全力全壊で僕が勝たないと意味ないんですよ!」

「相手がフェイトで全力全壊?
 取り敢えずいろいろ問題があるから、全世界の『リリカルファン』に土下座してお詫びして来なさい。」

「何を言ってるのかさっぱり分かりません!!!」


何のことやらサッパリである。
だがしかし、アスナの覚醒が状況を好転させたのは間違いないだろう。


「弟との再会を喜ぶのは結構だが……来るぞアスナ!」

「分かってるわキティ。」

だが、始まりの魔法使いとて馬鹿ではない――ネギとアスナのやり取りの隙を見逃すほどの木偶の棒ではないのだ。
既に多重魔法陣を展開し、大規模な魔法を放たんとしているが……


「チェックメイトを宣言するにはまだ早い!」

全身に刺さった剣を処理した稼津斗が、始まりの魔法使いに顔面パンチ一閃!
その影響で魔法陣は崩れ、極大魔法を撃つ事はもはや不可能な状況だ。

「貴様……」

「幾ら不死身と言っても、アレだけ全身に剣を刺されると流石に痛くてね……余りにも痛いんで、少しばかり頭に来た。
 まぁ、其れは其れとしてだ……お前、最後の最後で出て来てラスボス気取りか?甘すぎる。
 主役とヒロインが揃った今、悪のラスボスは成す術なく葬られるって言うのがお約束――変わる事のない、この世の不文律だろ?」

始まりの魔法使いに左ハイキック→右裏拳→左正拳突きのコンボをかましながら、稼津斗は『ネギとアスナのコンビには勝てない』と言い切る。



800年超を生きた達人の観察眼は半端ではない。
闇の魔法を己のモノとしたネギと、黄昏の姫巫女にして魔法世界の絶対支配者たるアスナが一緒ならば負けはない――其れが決定打だったのだ。

「ぬん……」

だが、敵は魔法世界の……否、全ての魔法使いの頂点に君臨し、『不滅』とまで称される文字通り最強の魔法使い。
稼津斗の流れるようなコンビネーションも、微妙に点をずらす事でダメージを軽減し、それどころか完全無詠唱で極大魔法の魔法陣を0秒起動!
しかも今度は途中で中断させられないように『簡単には壊されない多重障壁』を纏っての攻撃体勢だ。

稼津斗の結界破壊技で攻撃しても、完全なる世界の残党が張っていた多重障壁の数倍の超多重障壁を叩き破るには少しばかり時間が掛かる。
最大級の魔法を放つのは最早止められないだろう。


しかし、始まりの魔法使いが『最強の魔法使い』だとして、此方には其れを上回る『最強の魔法使い殺し』であるアスナが居る。
黄昏の姫巫女の象徴である『完全魔法無効化』の前には、其れがどんなに強力で強大な魔法であろうとも一切の意味をなさない。

稼津斗の『覇王翔哮拳』にも匹敵する破壊力と攻撃範囲を持った魔法も、天魔の剣を掲げるだけで難なく霧散させてしまった。


「終わらせるわよネギ。」

「はい!!!」

始まりの魔法使いは、もう驚異の存在たり得ない。
終止符を打つべく、ネギとアスナが2人で天魔の剣を握ると、剣は倍以上に巨大化し、赤黒い刀身は眩い白銀に変化。
其れに合わせるように、攫われた際にあてがわれたアスナのドレスも純白の物に変化していく。

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

放たれる魔法も、アスナの前には全て掻き消される上に超多重障壁とて意味は無い。


――斬!!


天魔の剣を真横一文字に一閃し、始まりの魔法使いを一刀両断!
魔法世界の住人がリライトされるが如くその身体は消え始める……とは言え『不滅』と言われる存在故に、何時また復活するかは分からないのだが…

それでも、この場で退ける事が出来たのは大きいのは間違いない。
此れで本当に敵方の戦力は殲滅したのだから。



だが、如何にも『全て終わってハッピーエンド』とスンナリ行くと言う訳でもないらしい。
ネギとアスナの一閃を受けて、始まりの魔法使いは消え始めているが、攻撃の余波で目深に被ったフードが捲れ、その素顔が明らかになったのだ。


「!?」

「な!!!」

「う…そ?何で……?」

その素顔を見てネギもエヴァンジェリンもアスナも驚きを隠せない。



当然だ、現れたその素顔は3人にとって極めて深い関係にある人物――ナギ・スプリングフィールドだったのだから。


「……ネギ…」

「父……さん?」

「ネギ、俺を殺しに来い………今はもう俺の相手をしてる時間はねぇだろうから、この場はトンズラこかせて貰うけどよ。
 だが、必ず俺の所に来い……アスナの力で今は眠ってるが、コイツはまた暴れ出す………だから俺を殺せ、其れで全てが終わる……」


全てを終わらせるために己を殺しに来い……其れだけ言って、ナギの姿は霧散し、消えた。
思いもよらなかった、余りにも予想外の展開にネギも一瞬呆然とする―――が、スグサマ自分の頬を引っ叩いて気合を入れ直す。

感傷やら何やらにふけるのは何時でも出来る、今はなすべき事が有るのだ。

「アスナさん……今はやるべき事が!」

「ネギ……大丈夫よ止めたから……後は元に戻すだけ。」

アスナも其れは重々承知している。
既に崩壊は自らの黄昏の姫巫女の力で止めてある――あとは元に戻せばそれで終いだ。

「今回の事で消された人達を取り戻さないと…人と亜人合わせて12万8607人……うん、大丈夫。
 削られたり抉られたりした地形は元に戻せないけど、それは魔法世界の人達の手で可能な限り直してもらうとして……」

「アスナ……お前、まさか全部把握してるのか?」

「当然よ稼津斗……私は正真正銘、魔法世界の伝説の姫巫女なんですから。」

稼津斗の問いに、自信たっぷりに……明日菜だった頃を思わせる笑顔でそう答える。
アスナでやるとやや違和感があるが、この上なく頼りになり、そして安心できる笑顔である事は間違いない……魔法世界はもう大丈夫だろう。


「お〜〜い!!!」
「アスナ〜〜〜〜〜!!」
「ネギく〜〜〜〜〜ん!!」
「稼津斗兄〜〜〜〜〜!!!」



祭壇から仲間達の声が!
其れに思わず、戦っていた全員の頬が緩む……此れは、そう――全員で戦って掴み取った勝利なのだ。

「ありがとう皆、声……届いたよ。
 特にチサメ……私の居ない間、ネギの面倒見てくれてありがとね……」

軽く、仲間達に頭を下げると、アスナは世界を元に戻す最終儀式を発動する。

造物主の掟 最後の鍵
 我 黄昏の姫巫女 創造主の娘 始祖アマテルが末裔 アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアの名に於いて命ずる
 世界を……元の姿に。世界をあるべき姿に……

極大の魔法陣が展開され、其処から光が溢れ、其れが魔法世界全体に広がっていく。




それと同時に、魔法世界各地で起きていた竜巻などの崩壊現象は止まり、代わりに青空が広がっていく。
更に石化したベアトリクスも元に戻り、ユエ達と再会している。

「此れは一体…?」

「大丈夫、全て終わったですよ……」

「全て?……お嬢様は?」

奇しくもベアトリクスの問いに答えるように、更なる変化が起きた。
委員長ことエミリィが、消えてしまった時を逆再生するかのように再構築され、ユエ達の前に現れたのだ。

「あ、あら?此れは一体……」

「「委員長〜〜〜〜!!!」」

「お嬢様〜〜〜〜!!!!」

「!?ちょ、何ですか貴女達は〜〜〜〜!?
こら、離れなさい〜〜〜〜〜!!!!!」

其れにユエ達が思わず抱き付いてしまったのは仕方のない事だろう。








儀式はまだ終わらない。
最後の鍵と天魔の剣を宙に浮かせ、アスナは其の力を存分に奮い、魔法世界をあるべき姿に再構築していく。

「あ、動く。」

其れに伴い、エヴァンジェリンとラカンを拘束していた金縛りも解除されたらしい。

「……此れは、お世辞抜きに凄いな――ネギ、本当に凄い奴だな、お前の姉上様は…」

「うん…本当に、スゴイ……」

純白の衣に身を包んだ姫巫女は、歌い、舞うように儀式を続ける――極大魔法陣から溢れ出る光と相まって、其れは実に幻想的な光景であった。





同時に世界の再構成も凄まじいスピードで続く。
総督府で消されたトレジャーハンターのクレイグとアイシャ、舞踏会のスタッフとして参加していたトサカもあっと言う間に再構成。

再生したばかりのトサカには、亜子とアキラが突貫!
自分達を庇って消されたトサカには、言っても言いきれない感謝があるのだから当然かもしれない――トサカはポカーンとしていたが。
なお、呆けていたトサカを笑った同僚のスタッフ2名は、予想通りと言うか見事なワンパンとエルボーをかまされていた……からかうのは相手を選ぼう。



トレジャーハンター達の許には、当然のどかが駆けつけていた。
何時も自分を気に掛け、そして自身が姉の様に慕っていたアイシャに涙ながらに抱き付き、アイシャもそんなのどかの頭を撫でてやる。
クレイグ達も其れを優しく、温かく見守ってくれていた。




そして、世界は再生し、稼津斗達一行は連合軍の船で総督府に凱旋。

テオドラ皇女をはじめ、オスティア、アリアドネー、メガロメセンブリアのお偉いさん方と兵士達が揃っての手厚い出迎えだが、この面子に緊張は無い。


で、凱旋となれば祝勝パーティー。
総督府の特別室には、祝勝会の会場が設けられ、料理や飲み物が準備されて祝勝会の準備は万端だ。

あの激戦を戦い抜いた3−A+αの面々は、もう今にも飛び出さんばかりの勢い……戦い終わって、急激に空腹感が湧いて来たのだろう。

ネギの音頭で乾杯し、いざ祝勝会開始!
飲み物にアルコール類も見て取れるが、今回は堅い事は言いっこなしだ……既にウォッカを瓶で3本飲み干したバグった酒豪が居るのだから。

更にその酒豪――稼津斗が『お前も飲め立役者。』と、ネギの口にジンの瓶を突っ込んだからさぁ大変!
とは言っても、どうやらネギは意外とアルコールに強かったらしく、怯むどころかワインを片手にエヴァンジェリンを誘う始末。

其れを皮切りに、ラカンとエヴァンジェリンの飲み比べが始まり、会場は大盛り上がり!




だが、その大盛り上がりの原因を作った稼津斗は、4本目のウォッカを手に取ると、1人テラスに出て行った。
そしてそれを見たイクサとアキラの2人も其れを追ってテラスに…


「稼津斗……如何かしたか?」

「一応とは言え終わったのに、浮かない顔をしていますね……」

「まぁ、アイツを倒しきった訳じゃないって言うのが大きいが――どうにも妙でな。」

退けはしたが、始まりの魔法使いを倒したわけではないと言うのが、稼津斗の中では引っかかっていた――そして、其れとは別の違和感にも…

「妙?」

「あぁ……アイツを殴った時、何て言うか手応えが無かったんだよ……その癖妙な重さを感じてな。
 巧く言えないが、アレはまるで『流体金属』を殴ったような感じだった……姿形は兎も角、アレは本当にナギ本人だったのか気になってね。
 今は大人しくしているだろうが、ナギが言っていたように近い内に必ず奴は復活する……その時こそ完全に叩かないとな。」

「其れは確かにそうですけど……ですが、今は魔法世界を護れた事を祝いませんか?」

まだ、戦いの気が解けていない稼津斗に対し、アキラはそう言う。
其れに対し『それもそうだな』と薄く笑うと、稼津斗は4本目のウォッカを一気に飲み干し空にする。

何とも凄まじい光景なのだが、イクサもアキラも何も言わない……慣れとは恐ろしいモノである。

「ジャック、マクダウェル、俺を外して飲み比べなんてするなよ………酒の飲み比べするなら俺を入れなきゃ真の勝者は誕生しないぜ?」

「あぁん?ハッハッハそりゃそうだ!!おっしゃ、兄ちゃんも加えてもう一発行くぞロリババア!!!」

「貴様、舐めるなよ筋肉達磨と空手バカが!格の違いを見せてやるわ!!」

そうして始まった無敵チートバグ3人による人知を超えた飲み比べ!
飲みに飲んで飲みまくり、挙句の果てには稼津斗が樽でウィスキーを飲み干す始末……まぁ、3−Aの面々は大いに盛り上がっていたが。

一部カオスな雰囲気を撒き散らしつつ、祝勝会は夜遅くまで続いた。








――――――








――翌日


オスティアの神殿の屋外大広場兼バルコニーでは、今回の事件の説明がなされていた。

『……ご存じの通り2日前、20年前と同等の危機が我々を襲いました。
 しかし、今回も我々は手を取り合う事で、此れを乗り越える事が出来たのです。』


演説をするのはクルト……まぁ妥当な人選だろう。
この光景は魔法世界全土に中継され、全ての人々がこの演説に聞き入っている――尤もその真の目的は全く別だが。


『さて、前置きは此処までにしておきましょう。
 現在の皆さまの興味の核心――事件以来皆様の間に流れる噂は真実か?……その通り、真実です!』

そう、皆の目的は事件解決の立役者についての噂が本当であるか否かだったのだ。
そして、その噂は真実との事――期待に胸が膨らむのは無理もないだろう。

『今事件解決の立役者、その正体とは?
 ……ご紹介致しましょう!彼等こそが魔法世界の危機を救った最強の戦士!氷薙稼津斗、そしてネギ・スプリングフィールド!!!



名を呼ばれた2人は神殿の奥からその姿を現す。
ネギはキッチリとスーツを着込み、稼津斗は何時も通りの黒のジーパンに黒のレザージャケットと言うラフな姿でだ。

そして前に歩み出た2人が軽く手を上げると、神殿とその周囲に集まった人々から、割れんばかりの歓声が上がるのだった――













 To Be Continued…