フェイトがネギに対して敗北を認めた頃、宮殿内での他の戦いも決着が付こうとしていた。

「私から逃げられると思うなよ!?」

「ちぃ!!」

真名とポヨの戦いもそろそろだろう。
隙のない正確な射撃でポヨを追い詰める真名だが、ポヨも全ての銃撃をギリギリ紙一重で回避しクリーンヒットを許さない。
だが、回避は出来ても余りにも凄まじい連続射撃に間合いに入り込めないのも事実――このまま戦闘を続ければ真名が押し切るだろう。

しかし真名もまた別の意味で後がない状況となって居た。
時間跳躍弾は残りマガジン1個分……其れを撃ち尽くしたら実弾で相手しなくてはならない。
そうなると足止めの難易度も跳ね上がるのだ――稼津斗からは『足止めをしろ』とは言われたが『殺せ』とは言われていない…無駄な殺しはゴメンだ。


――ドガガガガガガガガガ!!!!カシュン…


――ザッ!!



遂に時間跳躍弾を撃ち尽くし、マガジンをリロードしたところでポヨが強襲し、真名の顔にはポヨの爪が、ポヨの顔には真名のライフルが向けられる。

「ふむふむ…時間跳躍弾とやらは今ので撃ち尽くしたようポヨね?
 仮に魔力を込めたとしても、只の銃弾ではどれほど効果があるか分からんポヨよ?」

「其れは其方も同じだ……その爪で私の喉を切り裂いたとて、その程度では私は死なないのでね。」

互いに睨み合う……が、ポヨが爪を収め『戦闘続行の意思なし』と言うのを示した。

「止めておこう……如何やら其方の勝ちのようポヨ。
 ……マッタクやれやれポヨよ……お前の様な半魔に止められてしまうとは……おまけにお前は本気でないときたポヨ。
 態々時間跳躍弾など使わずとも、お前のアーティファクトを使えば私を完封するなど簡単だったろうに……やってくれるポヨ。」

「私の目的はあくまでお前の足止めなのでね……決着が付くまで抑えられれば其れで良い――そう言う依頼だったからな。」

「成程……だが、この世界には此れから物凄い混沌が待っているはずポヨ……」

「だろうな……だが、私は其れでも稼津斗にぃに付いて行くさ……彼とネギ先生が描く未来を、私も見てみたいのでね。」

そう言って真名はXXと魔人化を解除。
宮殿最下層での戦いは、真名に軍配が上がったようだ。











ネギま Story Of XX 130時間目
『土壇場で蘇った悪夢と――











一方墓所では、魔道に堕ち切った月詠が刹那を圧倒していた。
刹那は満身創痍の状態……対する月詠はほとんど無傷の状態だ。

「あ…ぐ…あぁぁあぁ…!!」

「あはぁ……良い声ですわ先輩……ホンにその悲鳴を聞いてるだけで、ウチは堪りまへん……先輩とのこの戦い、一生の思い出になりましたわ。」

恍惚の表情を浮かべ、月詠は刹那の足に妖刀を突き差し、更に刀を回して抉る……大凡正気では出来ない所業だ。

「あっちも決着が付いたようですなぁ?
 勝ったのはネギ君かフェイトはんか……まぁ、どっちが勝とうともウチには如何でも良い事ですがなぁ?」

「……如何でも良いだと?……其れが私とお前の違いだな……」

「ん?そうですなぁ?先輩はちょっと色々背負うモノが多いんとちゃいます?
 背負うモノが多過ぎて、足取りが重くなってるんとちゃいますやろか?せやから一切の柵も何もないウチには勝つ事が出来へんのですよ〜。」

余りにも利己的な月詠の物言いだが、刹那は其れに失笑を漏らし己の足に突き立てられている妖刀を掴み、強引に抜き去る。
無論素手で掴んだのだから、手の平からも出血が起きるがそんな事はお構いなし。

「いや違う……其れこそがお前の敗因だ月詠!!」

「な!?」

妖刀を掴んだまま立ち上がり、己のアーティファクト『建御雷』を展開する。
更にそれだけでなく、建御雷の見た目が変化したのだ……武骨な諸刃の剣から、翼の紋様をあしらった細身の片刃剣へと。

覇あぁぁぁぁぁぁ!!!


――バキン!ズバァァァァァァァァ!!!


そのまま妖刀を砕き、月詠を袈裟掛けに斬って捨てる……目にも留まらぬほどの超高速斬りだった。

「青味掛かった白き翼の剣……!!」

「……月詠、私は決して大した人間じゃない……何方かと言えば人間としても妖怪としても中途半端な存在なんだろう。
 だが、そんな私を必要としてくれるお嬢様が居る、そんな私を信じてくれる仲間達が居る……其れが私の剣に芯と重さをくれるんだ。
 背負うモノが大きく大切なほど、人は何処までも強くなれるんだと私は思う――何からも自由な事が強さへの道だと言うのは間違いだよ月詠…」

剣は己の心を映す鏡……そんな言葉があるが、正にその通りだろう。
護る為の強さを求め仲間との絆を心に宿した刹那と、柵を取り除き心には強さを求める邪念しかなかった月詠……この結果は然るべきものだ。

だが、如何に死んでいないと言え人斬りの快楽を覚えた殺人中毒者が己の流した血の中で意識を失うとは何たる皮肉だろうか?
……因果応報――今の今まで己の欲求を満たすためだけに人を斬り殺して来た月詠に、遂に天運も尽きたと言う事なのだろう……哀れである。

「……サヨナラ月詠……もう会う事もないだろうな…」

倒れ伏す月詠を一瞥すると、刹那は祭壇へと向かって行った。








――――――








さて、その祭壇だが……

「く……!」

「フェイト!!」

流石のフェイトも度重なるダメージに限界が来ていたのだろう、手を差し出したまま片膝をついた状態になってしまう。
ネギもそんなフェイトに対し手を出すが……其れは軽く払われてしまう。拒絶……ではないだろう。

「フェイト……?」

「……僕が負けを認めたのは、君達の代替案が僕の予想するモノだとしたら、其れは確かに正しい事だからだ。
 魔法世界を滅びの道から救い出して安定化させる事が出来れば、其れは真の救済だろうが――魔法世界が安定しても問題は残る。
 否、安定したからこそ問題が残る……20年前の大戦後から残る紛争や格差は未だに解決されていない。
 魔法世界が安定して残ったら、今度はそれらの問題が残る――君達は其れすら何とかしようと思っているのか?…出来ると思うのかい?」

そう、完全なる世界がこれ程に強硬な手段に打って出た背景には魔法世界の消滅の他に大戦後から消えてなくならない争いが原因でもあった。
如何足掻いても争いは絶えず、其れに巻き込まれた孤児も居なくならない……ならば全て消してしまえと言う事なのだ。

だが、其れを聞いてもネギは動じない。

「出来るさ。
 勿論僕1人じゃ到底無理だけど、この魔法世界での戦いを生き抜いた3−Aと麻帆良の皆、其れに稼津斗とエヴァンジェリンさんが居れば出来るさ。
 根拠なんて無いよ?けど、この面子なら出来ない事は何もない……そう思えるだろう?」

どんな困難でも解決する事は出来ると信じているからだ。
そして、この物言いにフェイトも一瞬呆気にとられるが、すぐさま薄い笑みを浮かべる……『此れは勝てないね』とばかりに。

「ふぅ……やっぱり君は彼の息子だなネギ君……性格は全く似ていないくせに根っこの部分は良く似ている。
 ……調さん、姫巫女を祭壇に!儀式を反転する!時間がない、急いで!!!」

そのまま、祭壇で待機していた調に儀式反転の準備を命ずる。
調も其れを受けて、スグサマ準備に取り掛かる――フェイトがこういうと言う事は敗北を認めたと言う事だと言うのを理解したのだろう。


「フェイト……」

「約束は守ろうネギ君……君達の計画にも力を貸そうじゃないか。
 だが、もしも君達が失敗したその時は、改めて今回の計画を再発動する――其れが絶対条件だ。」

「あぁ、構わない……僕達の案が失敗したらその時は、君達の計画を遂行する以外に手は無いだろうからね……」

「……結局のところ、最終的に僕達は相容れない存在と言う訳だね?」

「かもね……だけど、この計画は10年は掛かる大仕事だ。
 どんなに合わない奴とでも、10年も一緒に居れば時たま一緒にお茶を飲む機会くらいはあるんじゃないか?」

あくまで相容れる事はないと言うフェイトに、ネギはそう言って改めて手を差し出す。
ある意味屁理屈とも言える言い分だが、同時に『確かにそうかも知れない』と思えるセリフでもあるだろう。

「……僕が珈琲派だと言うのは知ってるだろう?……だが、君の言う事にも一理あるかも知れないね。」

今度は手を振り払わずに、フェイトもその手を掴んで改めて本当の握手。



「ネギ君…!」

「今度こそ本当の本当に…!!」

其れを見ていた仲間達からも歓声が上がる。
この握手が意味するのは、ネギの勝利であり魔法世界の強制消去が回避されたと言う事だから。





――ズドォォォォォォン!!!


「「!?」」

だが、握手を交わした2人を突如一筋の閃光が貫いた。
立ち込める濃厚な魔力の霧の向こうから放たれた奇襲の一撃……其れを喰らったネギとフェイトは当然ダウン。

いや、ネギとフェイトだけではない。
儀式反転の準備をしていた調すらも貫き……調は敢え無く強制リライトされてしまった。

そして明らかになる襲撃者の姿……

「お、お前達は……!!!」

「くくく……久しいなぁテルティウム……」

其れは嘗てナギ達に倒された筈の完全なる世界の残党達――どうやらデュナミスが、宮殿を取り巻く膨大な魔力と儀式を利用して復活させたようだ。
良く見れば、先程倒された4、5、7、8の姿まである。

ハッキリ言って冗談ではない……この土壇場でフェイト級の敵が複数体現れるなど悪夢以外の何物でもない。



「よく頑張ったが、君達も此処までだね旧世界のお嬢さん達…」

「げ!初代フェイト!!!」

更に祭壇の方にも、初代フェイトこと1が……!
正直言って、アキラと亜子、そして激戦で消耗しきったネギとフェイト、楓達で太刀打ち出来る相手ではない……状況は一変して最悪だ。





「くくく……あの時とは立場が逆になったなテルティウム?
 全く無様なモノだ……貴様も送ってやろう、あの女の許へ……其処で永劫珈琲でも飲んでいるが良い。」


――ズドン!!


現れた二代目アーウェルンクスの2は、倒れ伏すフェイトを更に魔法で貫く……如何にフェイトでも此れは堪らないだろう。

「それ以上は……やらせない!!」

更なる攻撃をしようとする2を止めたのはネギ……己も貫かれていると言うのに歯を食いしばって抵抗する。
大ダメージを受けようともネギの目はまだ死んではいないのだ。

「僕の計画が受け入れられた以上、君達の計画の正当性は最早無い……お引き取り願おうかな?」

「ち……アイツのガキか……虫唾が走るな。
 調子に乗るな小僧が!そんなボロボロ状態で私達を止めようだと?寝言は寝てから言えクソガキ!!」


――バキィィィ!!


そんなネギを殴り飛ばし、更に極大の雷魔法炸裂!!
『殺す事は許されていない』とは言え、逆に其れは拷問的攻撃をするには絶好の条件だろう。

そして、このまま攻撃を受け続けたらネギは兎も角フェイトは………


――カキィィィン!!!


「なに!?」

消えていただろうが、そのギリギリで氷のドームが発生しネギとフェイトに対する攻撃を一切シャットアウトした。

「此れは……この氷はまさか!!!」

「……やれやれ、随分とボロボロではないかネギ……折角生涯のパートナーが来てやったと言うのに何とも晴れない姿だな?」

エヴァンジェリンさん!!

その氷のドームを造り上げたのは、最強の魔法使いである真祖の吸血鬼エヴァンジェリン!
ネギの危機に最強の援軍が駆けつけてくれたのだ。

「だが、よく頑張った!此処からは私に……私達に任せておけ。」

其れだけ言うと、雷を放っていた2を睨みつける……其れこそ『闇の魔王』と称されていた頃の冷酷で一切の慈悲を感じさせない笑みを浮かべてだ。
ハッキリ言って怖いとか言うレベルではない――矛盾した言い方だが恐怖を超越した恐怖を与える笑みだ……迫力が違いすぎる。

「貴様……私のネギを随分と可愛がってくれたようだなぁ?……その礼として、貴様には死よりも恐ろしい恐怖をくれてやるぞ…!

「真祖の姫か……はぐれ魔法使いと聞いていたが、ナギに負けて自由を奪われたそうだな?……間抜けな魔法使いなど怖くない!」

「ほざけ小童が。奴の呪いなどはとっくに解かれた!でなければ私が此処に居る筈なかろうがアホンダラ。
 なんだ?人造の人形風情はその程度も分からん低脳共の集まりか?まぁいい……やってしまえ!!」

壮絶な笑みを向けられても挑発して来る2に対し、その挑発をバッサリ切って捨てると逆挑発。
そして何やら合図をしたかと思うと……2以外の残党連中が吹き飛んだ!

「な…あ…タカミチにクルトさん!!其れにクウネルさんも……!!」


「お爺ちゃん!お父様!!!」

更なる助太刀は麻帆良にいた近右衛門と詠春とアルビレオ、そして宮殿外で戦っていたタカミチとクルトだ。




「お前等はお呼びじゃない……お帰り願おうか?」

「最後の最後で出て来て水を注さないでくれるかしら……不愉快よ。」


「「稼津斗さん!!」」

「え?……アンタも一緒に!?」

祭壇の方には稼津斗とディズの姿が!
ディズもフェイト同様に負けを認め、稼津斗の案を受け入れた――其れゆえの加勢だろう。

「貴様……!!」

「まぁ、俺のパートナーと仲間達に手を出そうとしたんだ……大人しく帰す気は更々ないがな!」


――バキィィィィィィ!!!


思い切り殴り飛ばし、其れを追ってネギ達の居る場所へと向かう。
『直ぐに終わらせてくる』と、一度だけ仲間達を見て……。


此れだけではない。
儀式反転の準備をしていた場所では……

「…おい、アンタどうして……!!」

「こいつぁ姫子ちゃんの力だな……半分は俺様の気合いだがな……」

消された筈の『あの男』が!

「気合ってマジか!?……ったく本気でバグキャラだなアンタって……頼むぜオッサン?」

「オウよ、任せときな!!」

男もまたネギの許へと飛び出していった。






「ば……馬鹿な!!此れだけの者達が……!!」


「マクダウェルだけじゃない…俺達も忘れるなよ?」

「カヅト…!!」

「おぉっと!俺様も忘れて貰っちゃ困るぜぇ!!!」

「!!!!!!ラ、ラカンさん!!!!」

戦いの場は、驚きに満ち満ちている……特にネギは、ラカンの登場に文字通り『目を皿にして』驚いている。
だが、此れにて形勢は再逆転したのは間違いない。

何せこの場には、地球と魔法世界の双方で特Aクラスとなる実力者が集っている上、うち3人は双方の世界でのトップ3なのだ。

「延長戦は予定外だったが、態々やられに出て来てくれたんだ……望み通りにしてやる。」

「さぁて……寝起きの準備運動には丁度良いなぁオイ?行くぜオラァ!!!!!」



最終決戦エクストラバトル勃発!――――魔法世界のリライトまで、残り数分……














 To Be Continued…