魔法世界の強制リライトの影響を受けた麻帆良学園は、未だ嘗てない事態に見舞われていた。
ゲートを介さずに繋がったせいで、本来ならば此方には現れる事のない召喚魔が麻帆良の地に溢れ出してきているのだ。

「此れは…グレムリン!!」

『何と言う数だ……構わず撃ち落とせ!此れは只事ではないぞ…!』

「り、了解!!」

麻帆良大学部の航空部のメンツが異常に先駆けて召喚魔の駆除に打って出るが、余りにも物量が違いすぎる。
空に現れたグレムリンですら、優に数百を超えているのだから。

加えて地上にも魔法陣から巨人やら獣人やら良く分からない召喚魔がうじゃうじゃと湧きだしてきている。
個々の能力はそれほど高くなくとも、それでも数が揃えば其れなりの脅威となる事は否めない――まして相手が理性無き破壊者となれば尚の事だ。

だが、此処は麻帆良学園都市――日本でもぶっちぎりの『常識が通用しない場所』だ。


『グガァァァア!!』

「させません!!」

一般生徒に襲い掛かろうとした召喚魔を消し去ったのは、高音の契約者の1人であるナツメことナツメグ。
『状況が状況だけにぶっちゃけちまえ』とばかりに、魔法の秘匿も何のそので、バリバリ魔法を使っての援護射撃!
更に…

「うらぁ!!真・必殺漢魂!!」

麻帆良武闘会の予選でネギと一騎打ちした豪徳寺がお得意の気を使った技で召喚魔を撃破!
いや、豪徳寺だけではなく麻帆良格闘部の猛者達が日頃の鍛錬の成果を遺憾なく発揮して、この異常事態に対処している――麻帆良学園恐るべし。

此れならば、少なくとも一般生徒に多大な被害が出る事はないだろう……魔法先生も迎撃活動に参加しているのだから。


「全くアホには勝てんとはこの事だな…」

そんな中でエヴァンジェリンは、心底呆れながらも感心したように呟く――が、その切れ長の双眸は鋭く近右衛門を睨みつけていた。

「おい爺…この辺でハッキリさせておいてもらおうか?……世界樹の下――図書館島の奥深く、其処には一体何が封印されているのだ?」

そして問う……だが、この問いが世界に影響を与える可能性のあるモノだとは、エヴァンジェリンですら感知する事は出来ないでいた。











ネギま Story Of XX 128時間目
『魔法世界vs麻帆良学園』











「図書館島の地下?……はて、何の事じゃ?」

「しらばっくれるのは止めろ爺……私の問いに関する答えは貴様が一番よく知っているだろう?…あそこは考えられないほどの魔力溜まりだ。
 魔法世界からの召喚魔も、図書館島と地下でつながっているある一か所を目指しているのは分かっているのではないか?」

「むぅ……」

エヴァンジェリンの鋭い突込みと切口に、近右衛門も動揺を完全に消し去る事は難しいようだ――事が事なだけに尚更に。

「答えられんと言うのか?……なんなら身体に聞いてやっても構わんのだぞ?」

「近衛学園長……事態が事態です、話してしまっても宜しいでしょう。
 大丈夫ですよ、彼女は最早嘗ての闇の魔王ではありません。ネギ君達のおかげで随分丸くなりましたからね。
 今の彼女は…そうですね、愛しい人の勝利を信じて帰りを待っている、ちょっぴり素直じゃない可憐な恋する女子中学生です♪」

「丸くなり過ぎてるわ、このエロナスビ!!」

剣呑な雰囲気を醸し出すエヴァンジェリンだったが、アルの横槍によって敢え無くその雰囲気は霧散。
まあ、アルの言った事に突っ込みはすれど否定してないあたり完璧なまでに事実なのだろうが……本当に変われば変わるモノである。

「まぁ、純情可憐な乙女をからかうのは此れ位にしておいてと……キティ、貴女も嘗てはごく普通の少女であった筈ですよね?」

「あん?……何を言い出すかと思えばそんな事か?それ以前に昔話は禁句と言わなかったか?」

だが、ふざけた調子をひっこめたアルの問いに再びエヴァンジェリンの雰囲気が剣呑なモノとなる。
知られて不都合な過去ではないが、矢張り『人でない物にされた』と言う過去は彼女の中では消す事の出来ない『傷』である事は間違いないのだ。

切れ長の眼で睨みつけるが、そんな事にも構わずアルは続ける――其れだけ大事な事なのだろう。

「貴女を『今の貴女』にしてしまった人物について、何かご存知ですか?」

「知るか。
 大方不死の秘法にでも嵌った、頭の悪い魔法使いだろう?…もう殺した、興味もない。600年も前の事だしな。

「その人物が、死んでいなかった……としたら?」

「あ……?」

「そして、その人物が今もなお生きて、あそこにいる……としたら?」

「な……に…?」

そして明かされたのは、600年を生きたエヴァンジェリンであっても驚愕に値する内容であった…








――――――








麻帆良学園に溢れ出した墓守の宮殿の使い魔は、ハッキリ言って麻帆良生の敵ではなかった。
と言うのも、あやかを筆頭とした3−Aの面々が、この異常事態を『夏休みサプライズ企画』と称し、学園祭の時の全体イベントの第2弾としていたから。

絶え間なく溢れ出る召喚魔を魔法先生と魔法生徒だけで抑え込むのは無理がある――ならば麻帆良生全てを戦力にしてしまえと言う事だ。
幸いにも魔法具は麻帆良祭の時に使った物が有るので、其れを使えば問題ない。

更に、こんなイベントには目が無い麻帆良生ならば速攻参加は間違いない――実際略全ての生徒が参加し召喚魔を撃破しているのだ。

そして、其れを告げたあやかの姿は葉加瀬の技術でリアルタイムソリッドヴィジョンとして現れて居る事も効果が大きい。
更に防衛対象が異常発光している世界樹となれば尚の事だ。


最強のお祭り好き集団、麻帆良の事を誰よりも知り尽くし、尚且つ魔法関係クラスの3−Aだからこそ出来た究極の裏技と言えるだろう。



――ネギ先生、稼津斗先生、皆さん……そしてアスナさん……どうかご無事で…


其れでも、あやかは魔法世界に残っている仲間達の安否をずっと気にかけていた…








――――――








麻帆良と魔法世界が繋がった影響は、当然ながら魔法世界にも起きていた。
墓守の宮殿のすぐそばで強烈な魔力乱流が起き、其れが周囲の物を巻き込みながら麻帆良へ繋がっているホールへと吸い込んでいるのだ。

だが、其れでも戦いは終わらない。

「ゲートの向こうと此方が繋がったのは想定外だけれど……今は其れも如何でも良い事だわ。
 私が勝つにしろ、貴方が勝つにしろ2つの世界の命運はこの戦いに委ねられた―――今は、この戦いこそが全てよ!」

「だとして『はいそうですか』と受け入れられる筈がないだろう!覇ぁぁぁぁぁ……飛燕烈風脚!!」

戦いは激しさを増し、攻撃の余波で浮遊石が粉砕されるほどだ。


「どわぁぁ!!カヅっちもセクスドゥムも容赦ないわね…!茶々丸さん、状況は!?」

「いけません、精霊路出力不調、操舵不能。」

「はぁ、この程度の竜巻で!?」

「只の竜巻ではありません、魔力乱流です。」

そして影響は母艦状態となっているグレートパル様号にも及ぶ。
異常なまでの魔力乱流に巻き込まれ、操舵不能となった船ではどうしようもない――事実魔力乱流にされるがまま浮遊石と共に吸い込まれていく。

更に悪い事に、麻帆良と魔法世界の境界には凄まじい圧力が発生している……このまま突っ込んだら高確率でペシャンコの御煎餅だろう。
だが、だからと言ってハルナには諦めも何もない。

茶々丸の計算によれば圧壊する可能性は76%……逆に言うなら圧壊せずに済む可能性が24%も有るのだ、其れに賭けない手は無い。

「エンジン全停止!流れに身を任せてこのまま降下するわ!船内の全員、何か適当なモノに捕まって衝撃に備えて!!!!」

覚悟を決め流れに身を任せるが、其れは浮遊石とて同じこと。
左右両舷から巨大な浮遊石が!エンジンを停止している状態では回避は不能だが――


「これしきのピンチ…アデアット!!真・炎の魔人DXダブルインパクト!!」

即座にアーティアクトを展開し、人知を超えた描写速度で巨人2体を呼び出して巨岩を粉砕!

「流石はパル艇長……ですが、前方に更なる巨岩が!!」

「うっそ〜〜〜ん!?」

一難去ってまた一難!両舷に現れた浮遊石よりも更に巨大な浮遊石が!此れを喰らったら一撃死は間違いないだろう。
だが……


「うおりゃぁぁぁあぁっぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


――バガァァァン!!!


気合たっぷりの咆哮一発と同時にその巨岩が砕けた。
稼津斗がセクスドゥムの足を掴んで、ハンマー代わりに巨岩に叩き付けて其れを粉砕したのだ。

だが、其れは同時に稼津斗とセクスドゥムもまた離脱不能の魔力乱流内に捕らわれた事を意味している――





遂にパル様号と稼津斗達は、境界を超えて麻帆良に!
当然それは召喚魔に対処している麻帆良生達にも認知されている。

同時に浮遊石も麻帆良に降り注いで居る訳だが、其処は見事にガンドルフィーニやらが対処しているので大丈夫だろう――大丈夫なはずだ。


其れ等に紛れてパル様号も麻帆良に落下!もとい不時着!!
奇しくも不時着した場所は3−Aの何人かが召喚魔と戦っている場所だったが……(不時着の衝撃で召喚魔が何体か逝った)

ハルナは24%の賭けに勝ったのだ。


不時着の衝撃と境界を超える際の圧力で船はボロボロ……其れでも1人の死傷者も出さずに惑星間超超越の不時着をしてみせたのだ。

「いや〜〜〜!懐かしい!……戻って来たんだね……」

「早乙女!!」

そして、船外に出たハルナを待ってたのは何よりも大事な仲間達。
ゲート襲撃テロからずっと安否を気にかけていたかけがえのない仲間達だ。

「偉い事になってるみたいだけど、取り敢えず無事で安心したよ…てか、ボロボロじゃん?魔法世界とやらは結構やばそうだね?」

そう言って手を差し出してくる円に……

「え?……あ、アレ?」


――ポロリ…


ハルナの中の緊張の糸が切れ、涙が一筋……如何にはっちゃけた日常を送っているとは言え、其処はまだ15歳の少女……矢張り不安だったのだ。

「え?あ、早乙女!?」

「よ、良かった……無事だったんだ……」

思わず円を抱き留めてしまったのも無理はないだろう。
円もまた、自分に抱き付いて来たハルナの事を抱きしめてやる……安心させるように。


「そっか……アンタも……お帰り早乙女、無事でよかったよ…」

円からすれば半月、魔法世界に飛ばされたハルナからしたら数ヶ月ぶりの再会だった。

そんな中でも、委員長であるあやかは敢えて動じない態度を貫いていた……其れが自分の役目であるからだ。

「ハルナさん…状況はどうなっているか聞かせて頂けますわね?」

あくまで『司令官』として、戦況がどうなっているかを問うのみ――彼女の鋼の精神力と自制力に敬意を表しても決して罰は当たらないだろう。








――――――








パル様号の不時着から遅れる事数秒、稼津斗もまたセクスドゥムと共に境界を超えて麻帆良に来ていた。
そして、ただいま絶賛降下中!稼津斗がセクスドゥムの足を掴んで、凄まじい勢いで地面に向かって降下しているのだ。

此れは自然落下ではない、明らかに稼津斗が気を解放して落下速度を速めている。
自然落下の数倍……並の人間ならば気絶するほどのGが掛かっているのは間違いないが、それでも降下速度は落ちない。


「おぉぉぉぉぉぉぉ……砕け散れ!!!!」


――バガアァッァァァン!!


その勢いのままセクスドゥムを石畳に叩き付ける!
叩き付けられた場所が、半径5mのクレーターとなっているあたり、相当な破壊力であったのは間違いないだろう。


「覇ぁぁぁぁ…天地覇王拳!!!!」

更に止めになるであろう正拳突きを一閃!
この衝撃で更にクレーターが広がったが、少なくともセクスドゥムはもう動く事は出来ない筈だ。


「がは……く……はは、所詮私は人形……真なる最強に勝てる筈もなかったか…」

「人形?……其れは違うな、お前は人間さ……俺に勝つために研鑽を積んだ1人の人間だ。
 人形って言うのは、己の意志を持たずに、只機械的に目的を成そうとする奴の事言うんだ……お前は人形じゃない。」


決着はついたが、稼津斗はセクスドゥムに存在の意味の一端を説いていた――伏せられている部分は多いが。


「もう、己が主に従う必要はないんじゃないか?
 今は俺が勝ったが、修業して強くなったら何時でも挑んで来い……俺は逃げも隠れもしないからな。」

「何故…?」

「さぁ?……だが、少なくとも俺はお前を此処で殺すには惜しいと思ったのさ。
 出直して来い、今度は世界の命運とかそんなのは関係なしに、純粋に力比べをしようじゃないか――其れを待ってるぞ『ディズ』。」

「ディズ?」

「お前の名前だ……何時までも『6番目』じゃさえないだろ?……俺からの敢闘賞だと思ってくれ。」

聞いた事もない名で呼ぶ稼津斗に訝しむが、此れは稼津斗からのプレゼントだったらしい。
思っていた以上の強敵に何かしらの贈り物をしたかったと言う事なのだろう―――尤も送られた側は少しばかり硬直していたが…




「ディズ……悪くない名前だわ…」

稼津斗が去った後で、セクスドゥム改めディズがそう呟いた事には誰も気づいていなかった。








――――――








「死んでいなかっただと?あの状態で…?
 其れはおかしいぞ、元々不死を得ていたのならば、態々私を使って実験する必要などない筈だ。」

「其れについては俺も聞きたい所だな…」

アルの言った事に即座に反論するエヴァンジェリンに、今しがたディズを倒したばかりの稼津斗が加わる。
本来ならば驚く場面だろうが、稼津斗の『ありえなさ』は既に麻帆良全土と言っても過言ではない程に知れ渡っている故にこの程度では驚かない。

アルもまた『相変わらず規格外ですねぇ』などと思いながらも問いに答えて行く。


「確かに其れは矛盾ですが――『不死』ではなく『不滅』であるとしたらどうです?」

「!!!!!!」

一件言葉遊びの様に思えるが、不死と不滅は似て非なる事であり、其れに気付いたエヴァンジェリンは戦慄した。
何故なら、だとしたらあそこに居るのは…

「『紅き翼』も20年前に討伐に失敗し、10年前に何とか辛うじて封印に成功しました――1人の英雄と1人の聖女の犠牲によって……」

「おい、其れじゃあまさかあそこに居るのは…」

「そうです、あそこに眠っているのは――

















 始まりの魔法使い『造物主』です。」


アルの口から告げられたのは確かに『とんでもない』真実であった…











 To Be Continued…