魔法世界の強制リライト――その影響は、オスティアのゲートと繋がっている麻帆良学園都市にもハッキリと現れていた。

「やれやれ…何と言う魔力だ、日没にはまだ時間があると言うのに、アレでは一般人にも目に付いてしまうではないか…」

ぼやくエヴァンジェリンの視線の先には眩いばかりに発行している世界樹の姿が。
事情をなにも知らない生徒や学生は、22年に1度の筈の発光現象が学園祭に続いて起きた言う事に湧いているが、実際にはそれどころではない。

「隙間から溢れだす魔力だけであれとは…アレが暴発したら、この学園丸ごと吹っ飛ぶぞ?そうなったら私は廃墟生活――ネギに養ってもらうと言う手もあるがな。
 其れは其れとして、師であり未来の伴侶たる私の危機に何をしているのだネギは?…流石に荷が重いか?」

「コッチカラジャ、テノダシヨウガネーシナ♪」

ぼやくエヴァとそれに茶々を入れるチャチャゼロだが……

「いえ、先生は稼津斗先生と共によくやっておられます。」

其れに口を挟んだのはザジだ。

「彼の力は、既に嘗ての父を超えたと言っても良いでしょう。」

「貴様…何故向こうが分かる?」

突如現れたザジにやや警戒しながらもエヴァは尋ねる――あくまで警戒しているだけで殺気等を出している訳ではないのだが。

「かの地に私の姉が居ます…姉を通して向こうが分かるのです。」

「成程……便利なモノだな……して状況は?」

あっさりと明かされた事の真相を聞いても、驚かないのは600年も生きて来た真祖の吸血鬼だからこそ成せる業だろう。
冷静に、只状況がどうなっているかのみを聞く。

「貴女の愛する人は、かの地の命運をかけて最後の戦いへと臨みました。」

「ほう?……くっくっく…はっはっはっは!!!そうかそうか、遂にネギは世界の命運を左右する戦いに介入できる程になったか!!
 ならば、恐れずにやるがいい!もしも、万が一ダメだったそのときは、私が後始末をしてやろうではないか!
 だから安心して、己の納得いくまで戦え!そして勝て!私が後始末に出張る必要が無い様に思い切りやってしまえネギよ!!」

エヴァの顔に浮かんでいるのは何時もの不遜な笑顔ではなく、ネギを信頼しきった純粋な笑みであった。










ネギま Story Of XX 127時間目
『全力戦闘!異論は聞かぬ!』











宮殿の最下層では、真名とポヨの戦いも続いていた。
XX+魔人化で能力を底上げした真名に対し、ポヨも持てる力の全てをぶつけて来た事で、戦況は意外にも拮抗していた……其れでも真名有利だが。

「……稼津斗にぃ、ネギ先生…!」

「気付いたポヨか?……2人は深刻な魂魄汚染から復活したようポヨ――マッタク驚きポヨが……」


――キィィィン…!


「!!此れは!!」

稼津斗とネギの復活を感じ取った真名だが、突然感じた嫌な予感には声を荒げてしまった。
……無理もない、其れは大凡『嫌な予感』で片付けられるレベルの物ではなかったのだから。

「まさか…」

「如何やら世界を救うには、遅すぎたようポヨね…」

絶望とも言える一言――全ては無駄な足掻きだったと斬り捨てる一言だが、其れを聞いても真名の顔には笑みが浮かんでいた。
諦めの笑みではなく、其れは最終的な勝利を確信した笑みだった。

「遅すぎた?……だが、まだロスタイムまでは消費しきっていないだろう?
 例え1秒でも残っているなら、タイムオーバーじゃない――そして、稼津斗にぃとネギ先生ならロスタイムで大逆転をかましてくれる筈だ。
 いや、あの2人なら必ずかますさ…2人とも世界最強の負けず嫌いだから、自ら膝を折る事だけは絶対にない。私はそう信じているよ。」

言いながらライフルを連射しポヨを追い込む。
残り時間は確かに少ないだろうが、其れでもまだタイムオーバーとなった訳ではない――まだ時間は残っているのなら其れで充分だ。
稼津斗とネギならば……そう信じて、最強の傭兵少女は己の任務を全うすべく、獲物をスナイパーライフルから二丁アサルトライフルに換装!

「お前の力は大体分かった……もうお前に攻撃はさせないよ、此処からはずっと私のターンだ!」

連射性能で勝るアサルトライフル二丁の息も吐かせぬ超連射となればポヨとて堪らない――直撃を喰らわないようにするのが精一杯だ。
真名は己の任である『ポヨの足止め』を的確かつ効果的に行っているようだった。








――――――








超次元バトルが行われている祭壇周辺だが、その祭壇中央では調が全く動く事が出来なくなっていた。
本来ならば、儀式から引き剥がされたアスナを儀式のあるべき場所に戻さねばならないのだが、立ち塞がる面子が其れを許さなかった。

いや、そもそもコントロールルームで自身を完封したのどかがこの場に居る時点で調の全ての詰め手は封殺されたと言っても過言ではないだろう。

「貴女達は何をしているか分かっているのですか!?
 姫巫女を祭壇から引き剥がし、中途半端に儀式が発動すれば魔法世界の全ての住人は生物の住めない世界に投げ出されるのですよ!?」

「だ〜ってろアホンダラ……そもそもテメェ等が下らねえ計画進行しなけりゃ、こんな事にゃならなかったろうが!
 其れによく見ろよ、アスナが祭壇に居なくても世界は崩壊してるかよ?」

調の言い分は千雨が一刀両断!
確かに、アスナが居なければ儀式が崩壊し魔法世界は滅びへの道を歩むしかないだろうが――其れにしては魔法世界は未だに健在だ。
より正確に言うならば、人造異界が一瞬剥がれるモノの、直ぐに再生しているのだ。

「!!これは…しかしなぜ?」

「……稼津斗さんとネギさんが戦っているからですわよ調。」

「栞…」

その疑問に答えたのは栞――彼女も結構深い所でネギと稼津斗がやろうとしている事を知っているらしい。


「魔法世界の崩壊は魔法エネルギーの枯渇……ならば其れを補う術があるとしたらどうです?
 現に、今も魔法世界は崩壊せずに維持している……稼津斗さんとネギさんが戦っている事で発生した魔力カスを吸収して。」

「!!」

思ってもいなかった事実に調は目を丸くする。
崩壊しかないと思われた世界に真の救済の術があると言うだけではなく、この戦いで生じた魔力や気の残りカスが魔法世界維持に一役買っているのだ。

「まさか……」

「調、少し視点を変えて信じてみませんか彼等を……真なる世界救済の術を考え出した彼等を…」

調は答えられなかった……この戦いですら魔法世界の維持に貢献していると言う事実が計画を根底から揺るがす物であったから。
同時に其れを認めてしまったら、此れまで自分達がして来た事は何だったのか……その思いが調に答えを口にする事を躊躇わせていた。








――――――








「う……らぁ!!!!」





XXVを解放した稼津斗は正に天下無敵、古今無双を地で行き、自ら体現していた。
セクスドゥムの変幻自在の水属性攻撃も何のその!圧倒的な力で、技を超えてセクスドゥムにダメージを与えていた。

「ぐ……!!」
――重い……此れが真なる強者の拳の重さ…!!


稼津斗の重い攻撃に、セクスドゥムは『真の強さ』の意味を掴みかけていた――とは言ってもまだ完全には理解できないだろうが。


「流石に強いわね……だけど状況は私達に有利。
 最早儀式は止まらない――そして姫巫女を欠いた状態で儀式が不完全に発動すれば魔法世界は崩壊よ?」

「らしいな…だが、崩壊を喰い止める術はあるし、そもそも儀式自体を停止させるのが目的だからな。」

「一度発動した儀式は止まらない……如何しても止めると言うなら私かフェイトを殺して儀式を解除するより他に方法わないわ!」

襲い来る無数の氷の剣を全て撃ち落としながら、稼津斗はまだ余裕があるようだ。
だが、殺して儀式を止めるしか方法はないと言うセクスドゥムの発言は容認しない……それ以外の方法を持っているのだから。

「誰が誰を殺すって?…俺もネギもお前達を殺しはしない――殺さずに止める!その為に戦っているんだ!」

「殺さずに止める?……貴方は意外に甘いのね……いえ、甘すぎるわ!
 貴方も彼も、その程度の覚悟で魔法世界を背負う心算!?」

「甘いだと?……確かにそうだろうな。
 だが、俺もネギも自分の信念は曲げない主義でな――お前達を殺さずに魔法世界の崩壊を阻止する……此れが究極の結論だ!」

強大な力がぶつかり、地面が抉れ稲妻が迸る。
そして戦いはインファイト状態になり、稼津斗もセクスドゥムも拳と蹴りの大応酬――戦いはまだ決着しない。








――――――








魔法世界の異変は、着実に麻帆良にも影響を及ぼしていた。
発光した世界樹だけでも大ごとだが、その真上の空に逆様になった宮殿が見えたとなれば只事では無いだろう。


「くはは!此れは中々に壮大な眺めだな?」

其れを目の当たりにしてもエヴァは一切危機を感じて居なかった……それどころかこの状況を楽しんでいるかのようだ

「ん?」

だが、蜃気楼のように見える宮殿の一部に、激しくスパークを起こしている部分を見つけ、僅かに眉をひそめる。
其れが起きているところに、稼津斗とネギの姿が見えたからだ。

更に、ネギの姿が自分の知らない姿であったとなれば尚更だろう。

「あの姿はまさか………間違いない、闇の魔法だ――何れ教える心算では居たが、まさか私が教える前に会得するとはな……
 短期間で力を手にするにはこれ以上ない方法だろうが……ふ、代償は受け入れたと言う事か……マッタク大した奴だ。」

何処か感心しながらエヴァはつぶやき……

「でだ、状況は中々に面倒なようだが、どうする心算だ雪広あやか?」

背後のあやかへと声を掛ける。
魔法世界に転送されなかったあやか達は一足先に麻帆良へと戻る事を決め、今しがたイギリスから帰還したのだ。

「そうですわね……如何やら向こうは大変な状況の様ですが、ならば私達に出来る事は只1つ!
 魔法世界で戦っている稼津斗先生とネギ先生達を、此方で出来るだけサポートする事だけですわ!!」

問われたあやかだって迷いはない。
ゲートポート破壊テロの一件で、魔法世界で只ならぬ事が起きるだろうと言う事はあやかだって予想している……だからこその麻帆良帰還なのだ。
あのままイギリスに居るよりも、麻帆良に戻ったほうが役に立てるかもしれない……その予感は見事に的中した。


そして委員長命令が下されたとなれば3−Aの面子はどうなるか?
言うまでもなく、それにかこつけて限界突破の大暴れをする事は間違いない。

「よ〜し!じゃあ先ずは情報解析ね!任せといて!!」

差し入れです。

葉加瀬は速攻で情報収集&解析に乗り出し、四葉は皆に力を付けてもらおうと大量の肉まんを差し入れ。
其れを皮切りに一気に盛り上がる!こうなった3−Aは止まらない、例え神や閻魔であっても止める事など不可能だ。

「やれやれ……相変わらずのアホどもだが、今は其れが頼もしいのかもしれんな。
 小難しい理屈よりも、その場の勢いが状況を好転させるのは珍しい事ではないし……ま、多少の事態ならば私が何とかしてやるからな。」

まるでお転婆な孫娘を見るような笑みを浮かべ、エヴァンジェリンもこの『大騒ぎ』に乗っかる心算は充分らしい。
天下無敵の3−Aがリミッター解除ではっちゃけ、更に其処に真祖の姫も加わるとなれば大概の事態に対処出来る事は間違いないだろう。








――――――








「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

「あぁぁぁぁ!!!」


ネギとフェイトの戦いもまた苛烈を極めていた。
雷と大地のぶつかり合いは、文字通り大地を穿ち空を切り裂く戦いとなっているのだ。

攻撃がかち合う度にスパークが発生して床が抉れ、周囲の瓦礫が余波で砕けていると言うのが、ドレだけこの戦闘が激しいのかを物語っている。

だが…

覇ぁ!!!!!!


――ドゴォォォォン!!!


近接戦闘に於いてはネギの方が絶対有利!
雷天双壮で常時雷化したネギの拳を見切る事は容易でなく、今もまた速さと重さを併せ持ったボディブローがフェイトに炸裂したところだ。


――!!これは、この拳の重さは!!


ネギの連撃を受けながらもフェイトはこの攻撃の重さを考えていた。
とは言ってもやられっ放しではない。

攻撃後の僅かな隙を見切り、オーバーヘッドキックを放ってネギに反撃する――闇魔法装填状態でなかったら蹴られた部分は吹き飛んでいただろうが。
更に追撃するが其れは通らない。

「見事だ…本当に見事だよネギ君!今の君の力はJ・ラカンに匹敵する!」

「君こそやるじゃないかフェイト…ラカンさんすら反応しきれなかった、僕の雷速格闘に対応するなんて信じられないよ。」

「ふ……ふははははははははは!!」

決して自分の攻撃を連続で喰らわないネギを称賛しながらも、フェイトは新たな魔法を展開して来る。

「何が可笑しいフェイト!!」

「何って…君こそ今笑ってたぞネギ君……実に楽しそうな笑みだ!」

「え!?ウソー…

指摘されても無意識の表情故に分からないだろうが、フェイトの言う通りネギは確かに笑みを浮かべていた――強者の笑みを。

「漸くわかったよネギ君!これが、これこそが――『楽しむ』って事なんだろう?」

「!?」

「J・ラカンがもっと楽しめと言っていた!
 君は今、僕の力を超えつつある!それはそうだ、何故ならば其れは闇の力!
 君の得た力は、正に我が主と同じもの―――だが分かっているのかい、其の力の代償……その大きさと言うモノを?」

更に、遂には闇の魔法の代償にまで話が伸びるが――ネギにとっては今更だ。
闇の魔法の代償などとっくにわかりきっている……其れを知ったうえで自ら選んだ道なのだから迷いなどない。

「あぁ、分かっているさ…その覚悟だ!
 僕もカヅトもどんな力だろうと使いこなして君達を止める、そして君達を殺さない!!」

だが、此処でネギとフェイトは(恐らく稼津斗とセクスドゥムも)気付いた――魔法世界の空がオカシイと言う事に。
本来青く見えて居る場所には何処かの大地が浮かび、その中心には眩く輝く樹木の様な物が見て取れる。

言うまでもなくそれは――


「そんな…まさかアレは!!」

「地形一致、間違いありません。」






「アレはまさか………」



「麻帆良…学園!!」


麻帆良学園だ。
麻帆良の上空に墓守の宮殿が現れたのと同様に、魔法世界の上空にも麻帆良の地が映し出されたのだ。


そしてそれは、儀式によって高められた膨大な魔力が、ゲートを超えて2つの世界を繋いだ事を意味する。
本来ならばゲートを使わねば繋がらない2つの世界が、常軌を逸した異常事態において繋がった――繋がってしまったのだ。



其れが意味するモノは只1つ……墓守の宮殿内の召喚魔が麻帆良の地に溢れ出すと言う事に他ならなかった…










 To Be Continued…