茶々丸の衛星砲で大ダメージを受けたフェイトとセクスドゥムだが、しかし4と8を相手に屈する事はなかった。
被ダメージのせいで、序盤こそ攻め込まれていたが、突如4と8の攻撃を見切ったとばかりに攻勢に転じて来たのだ。
「ぐ…舐めるな出来損ない!!」
「今のは油断してのただの偶然…ラッキーパンチに2度目はないわ!」
もしも4と8が数多の戦場を経験した戦士であるならば、フェイトとセクスドゥムの攻撃が幸運のラッキーパンチでない事に気付く事が出来ただろう。
だが、2人とも基礎能力はチートレベルであるとしても、戦闘経験は皆無の戦闘素人と言っても過言ではない者だ。
だからこそ気付く事は出来ないのだ――自分達とフェイト達との差を。
「ラッキーパンチだって?…君は本物の戦いの中で、そんな運の一撃が存在すると本気で思ってるの?」
「だとしたら、アナタ達は私達には絶対に勝てないわよ?
本当の戦場でのラッキーパンチは有り得ない……つまり今の一撃こそが私達とアナタ達の差と言う事よ!」
言うが早いか、再びフェイトとセクスドゥムの拳が4と8に炸裂し、祭壇の奥まで派手に吹き飛ばす。
単純に戦闘力的な事だけを言うならば、この4人に決定的な差は無い――無い筈なのだ。
にも拘らず、手負いでありながらもフェイトとセクスドゥムは、4と8の攻撃をモノともせず、それどころか遥かに強い力でブッ飛ばす。
アーウェルンクス同士の戦いは、フェイト達の方が少しだけ有利な状況であるらしい。
ネギま Story Of XX 125時間目
『Get out of my site!』
だが、4と8だってブッ飛ばされて黙って居る筈がない。
すぐさま復帰し、4はフェイトに、8はセクスドゥムに反撃の拳を叩き込む――其れこそ一般人なら確実にKOされている一撃をだ。
「「…………」」
しかし、フェイトとセクスドゥムは無傷!そして健在!
超破壊力の一撃がまるで効いていないのだ――否、効いていないどころかその場から1ミリも動かずに攻撃を受けきったのだ。
「矢張り軽いよ4…君の拳は軽すぎる……破壊力は凄まじいが、君の攻撃には一切の重みを感じない。
ネギ君の拳は、君の拳の100倍は重く、そして効いたよ――だが、おかげで確信した…4、君は弱いぞ?君ではネギ君の足元にも及ばないさ。」
「なにぃ!?」
攻撃を受けきり、フェイトは更に4の精神を揺さぶる。
一撃KOレベルの攻撃を受け、しかし耐えきった事でフェイトは確信したのだ、『4は大した事がない相手』であると言う事を。
そしてそれはセクスドゥムもまた同じだ。
セクスドゥムも8からの攻撃を受けたが、倒れる事はなく、逆にカウンターの掌打を決めて、相手の行動を制していたのだ。
「妙なモノね…貴女も私と同様の調整をされているなら、稼津斗レベルの力は有して居る筈なのに、如何してこんなにも差が出るのかしら?」
「貴様……!」
セクスドゥムの物言いに激昂しそうになるが、ギリギリで8は怒りを押しとどめ、反対に気持ちが悪いほどの冷静さをその身に宿す。
或は彼女が氷の使い手であったから出来たことなのかもしれない。
「…セクスドゥム、お前とテルティウムは壊れているのではないか?
いや、間違いなく壊れている――私達の目的はこの世界のリライトだ。ならば其れを果たす事が全てだろう?
にも拘らず、あの小娘達を『自らの獲物』と称し、其れを送ろうとする私達に攻撃するなど正常ではない……再調整をしてもらった方が良い。」
「壊れている?……確かにそうかも知れないわ――アナタ達にあの子達が奪われそうになった時、酷く『苛ついた』のだから。
けれどね8、この状態が壊れていると言うなら私もフェイトも壊れたままで良い…私達は彼等と戦いたいのよ。」
そして、セクスドゥムとフェイトを『壊れている』と言うが、セクスドゥムにはそんな事は如何でも良かった。
兎に角、彼女もフェイトも、稼津斗とネギの仲間が、稼働したばかりの4と8にやられてしまうと言うのが許しがたかったのだ。
許せなかった、苛ついた、だからブッ飛ばした……実に単純で分かり易い行動理由と言えるだろう。
「私達と彼等の戦いは誰にも邪魔させないわ。
邪魔をすると言うのなら、誰であろうとも……例えそれが我等のマスターであったとしても、私は其れを排除する。」
「貴様…本当に壊れているようだな…ならば沈め!」
これ以上は無駄、とばかりに8はセクスドゥムに向かって氷の槍を無数に発射するが、其れがセクスドゥムを貫く事はなかった。
答えは簡単、盾で防いだからだ――其れも氷の盾で。
「!!馬鹿な、氷の盾だと!?なぜ貴様が氷の魔法を……貴様の専門は水だった筈!!」
「急ごしらえの稼働で頭の方はおバカさんなのかしら?
確かに私の専門は水だけれど、氷は水が凍った物でしょう?水を自在に操れる私にとって、水を凍らせて使うくらい造作もないわ。」
そう、水のエキスパートであるセクスドゥムは、単純に水を操るのみならず、水を蒸気や氷にして扱う事も出来る。
最初から氷と言う固体しか扱う事の出来ない8とはまるで違う、固定の型を持たぬ水故の自由度がセクスドゥムにはあったのだ。
「更に言うなら、貴女の周囲に高温の蒸気を展開する事も可能……そうなれば貴女は魔法の行使すら容易ではないわよね?」
「貴様……壊れた分際で!!」
「生まれたての『赤ん坊』にギャーギャーと喚かれるのも耳障りだわ……」
「な―――むぐ!?」
更なる攻撃をしようとした8だが、其れは叶わなかった――その全身が水で出来たキューブで包まれてしまったから。
既にセクスドゥムは準備を完了していたのだ。
霧状態にした水を8の周囲にばら撒き、そして水に戻して捕獲する――稼津斗との戦いを見据えて編み出した魔法だった。
無論効果は絶大。アーウェルンクスシリーズが誇る多重魔法障壁も完全に水に包まれてしまっては何の役にも立ちはしない。
己の力を知っているからこそ、その穴を抜く事が出来たのだ。
「ハッキリ言って、貴女では稼津斗の前の準備運動にもならない……凍れ。」
――カキィィン!!
そしてそのキューブを凍らせて完全封殺!
稼動したての8と、曲がりなりにも稼津斗との戦闘経験があるセクスドゥムでは思いのほか差が大きかったようだ。
「再調整が必要なのは貴女の方ね……さよなら。」
――パチン……バキィィィン!!
指を鳴らすと同時に、氷のキューブが8ごと砕け、粉々に。
完全凍結された故に、痛みも何も感じる事はなかっただろうが、8は己の得意分野である氷で倒されると言う最大級の屈辱で敗北したのだ。
「向こうもそろそろね…」
セクスドゥムの視線の先には、フェイトと4の姿――此方はまだ終わっては居ないようだ。
「調整不足の出来損ないが…!!」
「調整不足?……其れは君の方だろう?……此れだけ殴っても僕を倒せないんだからね。」
肉体雷化で猛襲をかけていた4だが、ドレだけ攻撃してもフェイトは倒れない――いや、倒れないどころか微動だにしないのだ。
「矢張り君の拳は軽いな。
うん…ネギ君の拳が『鉄球』だとしたら、君のは精々『ゴムボール』か?当たればそれなりに痛いが、ダメージにはならないよ。」
「!!!」
「まぁ、僕も同じなのかもしれないけれどね。」
――メキィィ!!!
何度目かの攻撃に合わせて決まった超絶のカウンター。
4は雷化のスピードが災いして、喰らったダメージは半端ではないようだ。
「取り敢えず、此処から先は君達が上がって良いステージじゃない…」
「!!」
――ガス!!
そして、動きを止めた4に中国拳法式の拳打一発!
その一発で、4の障壁は粉砕され、4の身体も両断されて吹き飛ぶ――勝負ありだ。
――馬鹿な!!
幾ら彼が膂力に優れる地属性だからと言って、多重障壁などの基本能力を同じとする私をこうも簡単に…!
「じゃあね…」
勝負ありだが、フェイトもまた4の行動には苛ついたのだろう――吹き飛んだ上半身に追いつき止めの一発!
此れで4は完全消滅……死の間際に感じた疑問の答えが出る事は永遠にないだろう。
「残るは彼か…」
――――――
フェイト達が4達を退けた頃、祭壇へと通じる廊下で、のどかは漸く目を覚ましていた。
「夏美…さん?………!!状況はどうなっていますか!?」
目を覚まして、即状況確認と来る辺り、のどかも確りと『戦う者』になっているようだ。
「わ、分からない……分からないけど、私達以外は多分やられたと思う。
私達もやられそうになったけど……ふぇ、ふぇーとと偽ふぇーとが戦い始めて、それで…!!!」
だが、夏美は相当に混乱しているのか話が要領を得ない――仕方のない事かもしれないが。
それでも、のどかは断片的な夏美の説明から大凡の事態を把握する事は出来たようだ……見事な洞察力と言えるだろう。
――私達以外の祭壇突入組は、新たに現れたアーウェルンクスに倒されたと言う事ですよね…
そして現れた新手のアーウェルンクス達とフェイト達が戦いを始めたと言う事ですか…
離脱するなら今なんでしょうけど――正直さっきの電撃の影響で、目は覚めたモノの身体が未だ痺れて動くのは困難……さて、如何しましょうか?
とは言え、余りにも強烈な雷だったせいで、のどかは目を覚ましたモノの身体の自由が微妙に効かない状態となっている。
早急に離脱しなくてはならないのだが、この状態ではそれも難しそうだ。
「と言うか、如何にもタイミングが悪いですねぇ?私の痺れが治るまで長引いてくれてもよかったんですが…」
「リライトまでの時間は少ないのよ……一緒に来てもらうわ。」
「拒否権…は無いですよね?未だ痺れてて動くのはきついんですけど…此れは仕方ないですね。」
難しいどころか、目の前にはフェイトとセクスドゥムの2人が――此れでは離脱は不可能だろう。
仕方がない。
本当に仕方がないとばかりに、のどかは一つ溜息をつき痺れる身体を何とか立ち上がらせる。
「立つのが精一杯ですね……スイマセンが、妙な事はしないので祭壇まで連れて行ってください。」
「『肝が据わってる』って言うのは、きっと貴女の様な事を言うのね…」
この状況に於いても、怯えない――それどころか気を確かに持ってるのどかに、セクスドゥムも思わず感心してしまうのは仕方ないだろう。
取り敢えず安全の為に、のどかの四肢を水の縄で拘束し、その上で水のクッションに乗せて祭壇まで。
なお、夏美も同様の状態で祭壇にだ。
取り敢えず、フェイトもセクスドゥムも2人を不要に傷つける気はないらしい。
程なく祭壇に到着し、そのほぼ中央に4人は居た。
円形の祭壇は中央部は、成程『決闘』の為のコロシアムと似ていると思えなくもない。
「さて、全ての準備は出来た……後は彼等が来ればそれでいい…」
「そうね……彼等は復活した……ならば必ずここに来るわ。」
そして己の相手を今か今かと待ちわびるフェイトとセクスドゥム……間違いなく2人は稼津斗とネギとの戦いを望んでいた。
「ねぇ、ミヤザキノドカ?貴女は如何思う?
所詮は造り出された私達が、計画の遂行以上に彼等との戦いを望んでいるのは矢張りオカシイ事なのかしら?」
「……オカシクなんてないですよ?寧ろ普通だと思います。
大義を超えた個人的な感情は誰もが持っている物だと思いますから、稼津斗さんとの戦いを望むなら其れをすべきだと思います。」
行き成り話を振られてものどかは慌てずに答える。
同時にのどかは確信した――フェイトとセクスドゥムには『心』があると。
もしも任務に忠実な人形ならば、大義を超えた個人的感情は優先しないし、そもそもそんなモノは持ちえない。
だが、フェイトとセクドゥムは本気で目的達成以上に夫々が望む相手との戦いを欲しているのだ――其れは心がなければ湧かない感情だ。
「ですが…稼津斗さんもネギ先生も強いですよ?
この状況…稼津斗さんとネギ先生は復活したんですよね?――だったら2人とも更に強くなってる筈ですから。」
稼津斗とネギに負けはない!のどかの瞳はそう語っていた。
普通なら、こんな状況でこんな瞳をされたら苛立ち激昂し、のどかに手を上げてもオカシクはないだろうが、フェイトもセクスドゥムも其れはしなかった。
只静かに『そうか…』と言って目を閉じるだけ――そう、望む強敵が現れるのを感じたかのように。
「スマナイ、随分待たせたみたいだねフェイト……遅刻料はどれくらい払えばいいかな?」
「来たね、ネギ君……遅刻料は君との全力の戦いで帳消しになるから心配いらないよ?」
「寝坊は遅刻の言い訳にはならないな……いや、それ以前にレディを待たさせるのは、男としてしてはならない事だったな。
悪いなセクスドゥム……その様子だと随分待たせたみたいだな?」
「気にしなくて良いわ……私も今丁度準備が出来たところだから。」
そしてその予感は大当たり。
稼津斗とネギが祭壇に現れ、そして中央部に降り立つ――最強のバトルのプレリュードが何処かで奏でられた気がした…
To Be Continued… 
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