必殺の正拳突きで、7をブッ飛ばした稼津斗は今までとは明らかに違っていた。
明確に『何が違う』と聞かれたら、それは答えるのは難しいだろうが、ただ漠然と――しかし確実に今までとは『何か違う』事だけは確かだ。

「良い感じに『気』が充実してるな……だが、如何せん寝起きで少しばかり調子が出ないか……亜子。」

「へ?」

「寝起きの気付けに、お前のアーティファクトで『1本』出してくれないか?出来るだけ強いやつを。」

「出来るだけ強いて……まぁ、稼津さんやしなぁ……ほな此れでえぇかなぁ?」

その稼津斗は亜子に何かを要求し、投げ渡された其れを手に取る。

「流石は亜子、分かってるじゃないか。
 ロシア製のウォッカ、アルコール度65%――寝起きの気付けにピッタリだ…少なくとも俺にとってはな。」

其れは何と、極めて強い酒。
普通の人間がこんなものを飲んだら、其れだけでダウン確実の代物だが、生憎と稼津斗は天然ザルを超えた底無し。

故にこの激強アルコールも、稼津斗にとっては気付けの一杯にしかならないらしい。


「マジかおい……酒に強いのは知ってたが此処までか?…ガチで人間じゃねぇな稼津斗先生はよぉ…!

千雨の突込みも何のその、稼津斗は投げ渡されたウォッカ(750ml)を、何と1瓶丸々一気飲み!
と、同時に溢れ出す『気』が大幅に上昇したあたり、本当に『気付け』の効果はあったようだ。


「ふぅ……よし、気分爽快。
 さてと……おい、今の一撃程度でくたばった訳じゃないだろう?……出てこい7番――セクスドゥムとの戦いの前に先ずはお前で準備運動だ。」

「く…舐めるな…この私を準備運動の相手にするだと?……ならば、準備運動で終わらせてやるわ!!」

ブッ飛ばされた7が瓦礫の中から復活し、稼津斗を睨みつける。
その瞳に宿るのは、自らに屈辱の一撃を与えた相手を排除せよと言う呪詛にも似た怒りの炎のみだった。










ネギま Story Of XX 124時間目
『Let's rock Kill best!』











とは言え、果たして中身無き『刹那的な激昂』で稼津斗との実力差が埋まるかと問われれば、其れは間違いなく『否』と答える事になるだろう。
如何に調整を施されて稼津斗級の力をその身に宿しているとは言え、其れは所詮下地無き力の貼り付けであり、何百年も戦い続けて来た稼津斗の敵ではない。

まして、それが刹那的な怒り――それも、疑似的な怒りの感情に捕らわれた者では稼津斗に触れる事すら叶わないだろう。


「なんだ、俺のパートナーや仲間を相手に随分と粋がっていたみたいだが、蓋を開けてみればこの程度か?…準備運動にもなりはしないな。」

「馬鹿な……重力制御で私に掛かる重力は通常の1/100にまで軽減されている。
 その状態での私の動きは音速にも勝ると言うのに……どうして、どうして攻撃が掠りもしないの!?」

現実に、7の攻撃は1発たりとも掠る事すらしないで稼津斗に躱されてしまっている。
音速をも超えた攻撃だろうとも、所詮張り付けられた力を使っての攻撃など、稼津斗にしてみれば容易に攻撃の軌道を読む事が出来る。

其れこそ、7が攻撃体勢に入った瞬間にだ。
故に、至近距離で超音速のラッシュを仕掛けられても、全く問題なく対処する事が出来る。

「そんな馬鹿な…汚いぞ貴様、そんな強い力を行き成り手に入れるなど!!」

「全くどの口が言うんだ其れを?お前こそ碌に修行もしないで力を手に入れてるくせに。
 尤も鍛錬なくして得た力は所詮鍍金、あっと言う間に地金が曝されるもんだ――今のお前のようにな!」

瞬間、鋭い――まるで稲妻の如き回し蹴りが7の側頭部に炸裂。
攻撃モーション云々のレベルではない、蹴りの予備動作すら感知する事が出来なかった。それほどまでの超光速蹴りだ。

そして、其れだけでは済まさず、今度は踵落としで地面に叩き付ける。

Shall we dance?」

「舐めるな!!」

稼津斗の挑発に、更に激昂した7は、己に掛かる重力をより小さくして攻撃を繰り出すが…矢張り当たらない。
全ての攻撃を紙一重で躱し、それどころか時折攻撃モーション前の拳に触れるなどと言う離れ業までやってのけている――実力差は明白だ。

「Too easy……You're going down!」

そのラッシュの間を縫ってのカウンターのアッパー掌打…だが撃ち抜かず、そのまま胸ぐらを掴み――叩き付ける。
1回、2回、3回…連続での叩き付け攻撃だ。

「Catch this!」

5回目の叩き付けの後で、今度は片手で投げ飛ばし墓所の壁にぶち当てる。
普通なら…いや、アーウェルンクスと言えど稼津斗の力で此処までされたらダメージは相当なモノだろう。

だが、稼津斗は此処で終わらせない。
大事な己のパートナーと仲間達を苦しめた相手に慈悲を掛ける心算は毛頭ないのだ。

「Is that all you've got?Then down to hell you go!」

止めとなるであろう、極大気功波の力を溜めて発射準備は万全。
何とか立ち上がった7が目にした物は、己を消し去るであろう滅びの光が放たれんとする光景だった。

「ま、待って!降参するから…これ以上は…」

「What's you say?…Pray for help savior、you're gonna need it!」

7は焦って降参せんとするが、もう遅い……最強戦士は敵対者に慈悲をかけてやるほど優しくはないのだ。

「ま…」

「Get lost…Die.」

無慈悲な宣言と共に放たれた、極大の気功波『雷神覇王翔哮拳』。
攻撃範囲、威力共に激強の一撃を防ぐ事は不可能。
まして、蹴りと踵落とし、カウンターアッパー掌打に連続叩き付けからの投げで致死レベルのダメージを喰らった7が防げるはずがない。

宛ら波動砲の如き其れは、一瞬で7を飲み込みそのまま墓所の壁を貫通!!

「You need more training……その程度で俺に勝とうなど1000年早いと知っておけ。」

攻撃が終わった其処には塵すら存在していない……圧倒的な勝利の結果のみが其処にあった。
そしてこの結果には、アキラ達ですら唖然としている。

力の差は分かっていた……自分達では7に勝てない事は分かっていた――稼津斗でなければ倒す事は出来ないと言う事も分かっていた。
だが、復活した稼津斗のこの強さは尋常ではない。

自分と略同程度の強さを宿していた相手を完封したのだ――其れも未変身状態で。

「……チートも此処までくりゃ称賛モンだな稼津斗先生よぉ?つーか、イキナリ英語とかちょっとキャラ変わってないか?」

「別に…少しばかり人間だった頃の癖が出ただけさ。」

だが、唖然とすれども稼津斗ならば此れもまたアリかもしれないと思い、直ぐにいつも通りだ。
とは言っても、ゆっくりしている状況ではない……魔法世界の強制リライトまではもう時間がないのだ。

「さてと…時間に余裕があるなら、お前達と談笑するのも良いんだが、生憎とその時間はないみたいだ。」

「うん……だから貴方は先に行って、稼津斗さん。私達も直ぐに行くから。」

「アキラ……そうだな、そうだよなぁ……滅びゆく世界、今度こそ止めないと親父や爺さんに顔向けできそうにないからな!」


――ドン!!


気を解放し、稼津斗は一気に上層の祭壇へと消えて行った。








――――――








神殿の外ではネギが4と対峙していた。
雷天双壮を展開し、圧倒的な雷の力を纏ったネギは、正に『雷神』そのものだ。

「ネギ…先生…」

「もう、大丈夫ですよ。」

半壊した茶々丸を安心させるように微笑むと、今度は打って変って鬼神の如き怒りの形相で4を睨みつける。

「人形……君はさっき茶々丸さんをそう称したな?……違う、茶々丸さんは人形なんかじゃない…
 いや、茶々丸さんだけじゃない、この世界に生きる人も人形なんかじゃない………人形は君の方だろう…!!」

「!!」

その迫力は大凡10歳の少年が出せるモノではないだろう。
だが、だとしてもネギのこの迫力は本物だ、本物の強者のみが発する事を許される覇気だ――無意識に4が僅かに後退したのがその証だ。

「僕の仲間をこんな風にした……覚悟は出来ているんだよね?」

「…!ほざくなよガキが……英雄の息子とて、灰に変えてやる!」

だとしても4が退く筈がない。
元より極めて加虐的な性格で、相手をいたぶる事に悦びを感じる不遜な輩なのだ…ネギの覇気に怯んだとしても、上から目線には黙っていられないのだろう。

灼熱の炎を両の腕に宿して強襲するが、其処にネギの姿はない。


当然だ、雷天双壮状態のネギの動きは稼津斗ですら完全に捉える事は出来ないレベルに達している――其れを稼動直後の4が見切れるはずがない。

「何処を見てるの?」

「!!」

そして、消えたネギは背後から現れ、雷速瞬動を利用しての超絶ラッシュ開始!


――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド、ガガガッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


其れは最早『目にも映らない』程の速度。
稲妻が走るたびに4の身体が仰け反り、折れ曲がり、捻じれる――圧倒的なまでのフルボッコだ。


もしも相手が5であったならば、同系統の術を使う故にこうは行かなかっただろう。
だが、4は炎属性――攻撃力に重点を置いたアーウェルンクスでありスピードはネギに比べれば圧倒的に劣る相手だ。

だからこそ、ネギは圧倒する事が出来た。

如何に強い攻撃でも当たらなければ意味は無い……そして、攻撃させなければ問題ない。
其れを体現するかのごとく、己の最大の武器であるスピードにモノを言わせての雷速連撃、サンダーラッシュ。

この光景をハイスピードカメラで撮影してもネギの姿が映るかどうか、大いに疑問である。



「く…調子に乗るなよガキが!!」

しかし矢張りアーウェルンクスである以上は一筋縄ではいかないらしい。
爆炎を弾けさせると、4は自身の周囲に灼熱の紅蓮の炎を展開し、ネギの追撃をシャットダウンする――如何に雷化でも炎に飛び込むのは危険が大きい。

「少しばかり速いからって調子に乗りやがって……だったら避けようがないほどブチかましてやる。
 一瞬で100の人間を灰に変える、この炎をな!!」

更に4がブチ切れていると言うのもあまり宜しくない。
100人の人間を一瞬で倒すと言う炎を放たんとしている辺り、相当に怒りが募っているらしい。

「100の人間……其れは凄いと思うけど――君は高々100人を相手に出来る攻撃で、1000体の僕の一体どれを攻撃するんだ?」

されどネギは慌てず余裕綽々。
その答えは、何時の間にやら展開していた1000体の『雷囮』――己の魔力で生み出した1000体の囮だ。

ラッシュを止められた直後に生み出したこの囮の物量は半端ではない――一瞬で100を葬る炎も、此れでは1割の囮しか倒せないだろう。


「!!せ、1000体の…!!!」

「まぁ、君が焼くだろうから実際には900体まで減るだろうけど……だけど君を仕留めるには充分だ!!」


其れを合図に、1000体の囮を一斉掃射!
4も炎で其れに対処するが、如何せん数の差が凄まじすぎる……何とか100体は倒したが残る900体の囮と、本体のネギを倒すのは容易ではない。



いや、容易では無いどころか不可能だ。



残った900体の囮は次々と4に突進してその身体機能を奪いにかかっているのだ。
休む事のない波状攻撃に、4は反撃の魔法の詠唱すら出来ない状態になってしまっている……此れは最早『私刑』と言っても良いだろう。


「ば、馬鹿な…」

「君の敗因は、僕の仲間に手を出した事…そして、僕を甘く見た事だ!!」

残る囮も全て突撃し、4はもうボロボロだ……だが、此処で終わりではない…

「永遠の夢に沈むのは君の方だ!……雷の暴風!!


そしてその〆は、ネギの最強魔法である『雷の暴風』。
哀れ4はネギに碌なダメージを与える事が出来ずに此処でゲームオーバーだ。


「もう現れるな…君の顔は二度と見たくない。」

其れだけを言うと、ネギは決戦地である祭壇に。
船の皆を誘わなかったのは、彼女達には彼女達がすべき事があると思ったからだろう――一瞬だけ振り返っての笑みが、其れを肯定していた。



尚…


「ネギ先生…何とカッコいい…マスターへのお土産が増えました…」

「そんな状態でも、意外に余裕ですわね茶々丸さん…」


半身吹っ飛ばされながらも、茶々丸はエヴァンジェリンの為に、この戦闘の一部始終を録画していたらしかった。








――――――








稼津斗とネギが夫々の相手を撃破していた頃、フェイトとセクスドゥムもまた5と8を相手に戦っていた。

見てくれだけ言うならば、茶々丸の衛星砲をうけたフェイトとセクスドゥムの方が傷ついているだろう。
いや、そのダメージは肉体にも影響し、フェイトとセクスドゥムは5と8の攻撃を捌ききれないでいた――だが…!!

「浅いな…重みがない。」

「稼津斗の攻撃に比べたら、まるで水鉄砲程度の威力ね…」

その2人には焦りも何もない……それどころか5と8の攻撃も碌なダメージにはなっていないらしい。



ダメージになって居ないどころか…



――ガシィィィ!!!



何度目かの攻撃の時に、遂にフェイトとセクスドゥムは5と8を捕まえた。
そして逃がさないとばかりに力を込めて、5と8の腕を拘束し自由を奪う。

「「!!」」

「つまらないな…実につまらないよ君達は…」

「5、8………何故?如何して貴方達の拳はこうも軽いのかしらね……」




何気なく放たれたセクスドゥムの一言……この一言が、フェイトとセクスドゥムが他のアーウェルンクスとの決定的な違いである事は、誰も気付く事はなかった…













 To Be Continued…