新たに現れたアーウェルンクスシリーズ…その力は無変身の稼津斗に匹敵すると言っても良いだけの力を有しているだろう。
特に墓所に現れた2体は、氷と重力と言う極めて強力な属性を有した存在故に、その強さは格別高いと見て間違いない。

「…先ずは修復をマスター…」

「うむ、ご苦労…だが、貴様等のマスターはあくまでもあのお方…其れを忘れるなよ?」

更には半身が吹っ飛んだデュナミスを難なく修正してしまった――此れは脅威だろう。

「さて…先刻の契約で、私は貴様等に攻撃する事は出来ん…だが其れはあくまでも私のみだ…コイツ等は如何であろうな?」

「無駄な抵抗は止めなさい…」

「大人しくしていれば苦しまずに夢の園に旅立てますよ…」


如何にデュナミスが戦闘行為が出来ないとは言っても、新たに現れたアーウェルンクスはその限りではない。
7と8は夫々重力場と氷の槍を展開し、隙あらば攻撃する気満々。

だが、其れでも退かないのが3−A。

「うおりゃあぁぁぁぁあ!!」

古菲がアーティファクトで殴りかかる!普通の相手なら間違いなくKO出来る一発だが――相手が相手だけに効果は皆無だった。


――ドシャァァ!!


その一撃が7に炸裂する瞬間、古菲の身体は十数倍の重力で地面に押さえつけられ身動きを完全に封じられると言う結果に。
状況は言うまでもない…正に最悪としか言いようが無い絶体絶命だった。










ネギま Story Of XX 122時間目
『絶対窮地の捨身戦法!』











「やれやれ…漸く目覚めてみれば、相手は脆弱な小娘達とはね――まるで張り合いがない、これじゃあ纏めて消し炭にするのは造作もない事だな。
 早速闇に―――ん?『人間は殺害不可』?…理解できない程に下らないね。」

同じ頃、グレートパル様号の甲板では炎のアーウェルンクスである4が、加虐的な目で甲板にいる面子を見ていた。
その目に浮かぶのは殺戮欲求只1つ。

とは言え、如何やら一応のリミッターが設定されているらしく、フェイト達と同様に人間を殺す事は許可されていないようだ。
それならば、たとえ負けても死ぬ事はないし、やられたらやられたでお気楽な夢の世界に行くだけの事だ。

だが、其れは逆に言うと『人間でない者』に対してはどんな事をしても構わないと言う事にもなるだろう。

「だったら『人形』は破壊しても構わないよね?」


――ドスゥ!!


「ガハ…!!」

其れを示すように、4は炎の槍を身動きできない茶々丸に放ったのだ。
辛うじて急所である動力炉は外れているが、突き刺さって尚燃え滾る槍は、間違いなく茶々丸の身体を破壊していくだろう。

「君の火力は中々に脅威だ人形君…消えてもらおうか?」

「あぁぁぁぁぁっぁ!!」

更に火力を上げ、一気に焼き消そうとする。

このままでは茶々丸は焼き殺されてしまうだろう……しかし、この船の艇長の機転はアーウェルンクスの実力を少しだけ上回ったようだ。

伏せて!

「へ?」

何か掴んで!!

「く…!!」


――ドォォォン!!


艇長――ハルナからの念話が入ったその瞬間に、グレートパル様号はバックで急発進!
それも、浮上しないで行き成り推進力最大でだ。

それはつまり、地面を抉るようにして走行する事になる訳で、その衝撃は想像を絶する。
事実、この急発進の衝撃で、4は船から振り落とされてしまったのだから。

「逆噴射、フルスロットル!!!振切るわよ!!」

『なにアレ!?偽フェイト!?』

「知らないわよ!だけど、私等が敵う相手じゃないって事だけは嫌でも分かる!何が何でも逃げ切るっきゃないでしょうが!!」

しかし、事態が好転した訳ではない。此れはあくまで4と間合いを離したに過ぎないのだ。
そもそも、この船に乗っている全員が束になって掛かっても倒せる相手ではない――兎に角今は逃げるしかないのだ。


「ぐ…しっかりしなさい茶々丸さん…!!」


――ジュウ!!


逃げる間にも茶々丸へのダメージは尚続いている――その元凶である炎の槍を高音は迷うことなく掴み、引き抜こうとする。
が、如何に影装を纏っているとは言え、燃え盛る炎に手を突っ込んでは無事では済まない……影装の下の腕は、酷い火傷を負う事だろう。

其れでも仲間を見捨てる事など出来る筈がない。
文字通り肌を焼かれる痛みを気合で耐え、槍を引き抜き捨て去る。ギリギリだが、茶々丸は死なずに済んだようだ。


「駄目だ…バックじゃ速度が出ない!!追いつかれる!!」

「くぅ…一か八かネ!ハルナさん、そのまま最大速度を維持してくレ!」

「ちょ、超りん!?」


――瞬!!


このままでは如何あがいてもジリ貧は間違いないが、此処で超が動いた。
時間跳躍機『カシオペア』を起動すると、同時に船が一瞬掻き消え、4との距離を少し離したのだ。

「く…矢張りこの物量と人数では僅か3秒後の未来に跳ぶのが精一杯か…此れでは逃走の役にも立たないネ…」

「んな事ないって!少しでも距離が離れれば僥倖!!」

試みたのは時間跳躍を利用した瞬間移動――が、効果はあまり期待できなかったようだ。


「ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト。契約により我に従え、炎の精霊、集い来たりて……紅蓮蜂!!!」

その必死に逃げるハルナ達に対して、まるであざ笑うかのように炎を纏った蜂を無数に射出して来る。
圧倒的な物量故に、喰らえば撃墜は必至…ハルナも其れを本能的に感じ取り、船を略横倒しの状態にすることで其れを回避。



したのは良いが、躱した蜂が命中した宮殿の壁は大爆発を起こして崩落!
ハルナの勘はバッチリ当たっていたのだ。

『あの小さいので!!…アイツフェイトより性質悪くねぇっすか!?』

「分かってるわよ!!急速回頭!!」

兎に角、逃げ切るには本来のスピードが出せる前進姿勢を取らねばならない。
だが、方向転換を行えばどうしたってスピードは落ちてしまうのは避けようがない――此処での速度低下はそのままゲームエンドを意味するのだ。

事実、速度が緩んだのを狙って4は第二陣を放っている…此れは避けようがないだろう。

「く…黒衣の夜想曲!!」

ハルナだけだったならば。

百の影槍!!!

旋回の隙をフォローすべく、高音が自身の最大魔法を展開し、4の魔法を完全迎撃!!
無数の影の槍が、無数の炎の蜂を貫き、着弾前に誘爆させ1匹たりとも船には到達させない!此れは高音の魔法技術を褒めていいだろう。


「良く凌いだね…生け捕りにするには火は加減が難しいな…」

其れでも状況は良くならない。
加虐的な冷笑を浮かべた4の左腕は十数メートルはあるであろう炎の大剣に変化している…此れで両断する心算なのだろう。

「まぁ、形はどうなろうと魂が残っていれば向こうには送れる――精々消し炭にはならないでくれよ?」

幾ら何でも、高音では此れを防ぐ事は出来ない。
まして、此れだけの巨大な攻撃ともなれば避けるのだって簡単ではないだろう。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

炎の大剣が振り下ろされるその刹那、4とグレートパル様号の間に、1機の飛空艇が割って入って来た。
長距離輸送屋のジョニーが操るフライマンタ――それがハルナ達を護るように4の攻撃の矢面に立ったのだ。

「ジョニーさん!?…なんで…!!」

「何でって…乗り掛かった船だしよ――何より女の子は守らねえとな…」

だが、たかが飛空艇でこの極大攻撃を防げるはずもない。
機体は爆発し、魔法世界の住人であるジョニーは、リライトされ夢の世界へと送られてしまった…魔法世界の運命を担う者達を護って…








――――――








儀式の祭壇の場でも、状況は最悪の一言に尽きた。
新たに現れた5は稼津斗級の実力を有した敵でありながら、此方はイクサと小太郎が事実上の戦闘不能状態。

裕奈と和美と楓がXX2ndに変身して挑んでも、恐らく勝つ事は難しいだろう。
何よりも鍵を奪取され、更に唯一鍵を使えるのどかが意識を失っていると言うのは幾ら何でも逆境すぎるだろう。

「こりゃ追いつめられたね…裕奈、アンタさっき目に見えて動きが良くなってたけど何とかならない?」

「なはは…ダメっぽいね〜〜…新しい力でも覚醒したかと思ったんだけど、アレって『火事場の馬鹿力』がオリハルコンでブーストされただけっぽい。
 フェイトとセクスドゥムの攻撃を全部撃ち落としたら効果切れちゃった…」

先程の裕奈の覚醒も、一時的な物で持続性のあるものではないようだ。
そして、状況が悪い時と言うのは如何言う訳か更に悪くなってくれるモノである。


「なんだ、君も来たのか?」

「えぇ、向こうは7だけで何とかなるでしょうし…寧ろ鍵とお姫様の奪取の方が大事でしょう?」

「確かにね…」

墓所に居たはずの8が、この祭壇に!
5だけでも手に余ると言うのに、此処で更なる戦力が注ぎ込まれたのでは堪らない。


だが――

「絶体絶命の逆境か……だが、諦めるにはまだ早いな…」

「イクサ殿!!」

此処でイクサが立ち上がった。
全身に目一杯攻撃を受けた身体は、傷は塞がってもダメージは甚大であるにも関わらずにだ。

「裕奈、和美、楓…お前達3人は私とユニゾンできる……其れを利用すれば…!!」

「ユニゾン!!…しかし、幾らユニゾンをしても彼奴らを倒せるとは思わぬ…!!」

ユニゾンを提案するイクサだが、其れをしたところで勝率は碌に上がらないだろう。
実際、此れまでの修業の日々で、裕奈も和美も楓も、イクサとのユニゾン状態であっても稼津斗には勝つ事が出来なかったのだから。


「誰が、お前達に私がユニゾンすると言った?」

「「「え?」」」

「逆だ、お前達の内の誰か1人を私にユニゾンする。
 融合騎の最終奥義…禁断の最終手段――融合騎主体の逆融合、リバースユニゾンを使う!!」

無論イクサにも策はあった。
融合騎の最終手段である、ある種『禁断の奥義』とも言える、リバースユニゾンを使うと言うのだ。

「リバースユニゾンて…其れ大丈夫なの!?」

「知らん…私のオリジナルとて1度しか使った事のないモノだ……だが、現状打破する手段はそれ以外に思い付かない。」

「一か八かの大博打って?…OK、乗ろうじゃないのそれに!
 私がイクサにユニゾンする!楓はもう1人を…裕奈は最後の防衛線として待機しといてくれっかな?…夕映ちゃんはのどかの回復を頼むよ!」

リバースユニゾンを使ってどうなるかは分からないが、やらないで終わるくらいならやる事をやってとことん足掻くがある意味で正解と言える。
リバースユニゾンには和美が名乗りを上げ、楓にはどちらか1人の相手を頼み、裕奈は最後の防衛線として待機を。

ユエにのどかの回復を任せるのだって忘れない。

「和美……!!私等は死なない身体だけどさ…だけど…死ぬなよ3人とも!!」

「あぁ…言われるまでもない!!和美!!」

「オーライ!ユニゾン…」

「「イン!!」」


――轟!!!


そしてリバースユニゾン発動!!

融合完了さね!

「あぁ…如何やら巧く行ったようだ!!」

リバースユニゾン+XX2ndの効果で、イクサの力は大幅に上昇しその身から膨大な魔力と気が逆巻いている。
とは言え、此れは融合騎の最終手段故にあまり長時間の持続が出来るモノではないだろう。

「最大で5分か…ならばその間に!!」


――ガッ!!


先手必勝!
其れを体現するかのごとく、ユニゾンイクサは5に、楓は8に先制攻撃を決め、残るメンバーから距離を開ける。
こうすれば、少なくとも待機メンバーが行き成り狙われる事はないだろう。

「…悪足掻きだな。」

「何とでも言え。悪足掻きだろうとも、足掻かずに終わるくらいなら、足掻ききって1%でも可能性を残して終わる方が100倍の価値がある!」

制限時間は最大5分。
ならば、初手から全力で攻めるは道理であり、またそれ以外には手はない。

5を護る積層多重障壁をシュバルツヴィルクングで破壊し、稼津斗直伝の空手の技で殴り飛ばす。


手応えはあった。


だが相手は稼津斗レベルの難敵。
すぐさま復帰し、間合いを詰めて来た――あろうことかネギの雷天大壮と同様の肉体雷化を使った状態で。

「此れは!!」

ネギ君の闇魔法と同じ!?

最悪にも程がある。
イクサでも、雷化したネギの動きは完全にとらえる事は出来ないモノだった――ユニゾン状態でも其れは変わらない。
其れと同様の状態にある相手など、最悪も良い所だ。

「ちぃ!!」

拳を繰り出すも、雷化した5には当たらない。
反対に、雷速をつかっての0.5秒ごとに繰り出される蹴りや拳にタコ殴り状態だ。



楓もまた、8を相手に奮闘はしているが、圧倒的な実力差に落とされるのは時間の問題だろう。



「終りだ…轟き渡る雷の神槍!」

最大級の一撃…決まれば終わりだろうが…





「佐々木、此れを。」

「へ?リインフォースさん?」

「まんまと奪ってやったさ…最後の鍵をな!」

待機メンバーの前に、最後の鍵を手にしたイクサが!
だが、5との戦闘も続いている…恐らくは――

「へ?それじゃああれは分身!?」

「まさか…魔力で作った身代わりで相手が出来る奴じゃない…こっちが分身で向こうが本物さ…」

此方が分身なのだろう。
戦いの最中の僅かな隙をついて最後の鍵を強奪し、其れをまき絵達に渡しに来たのだ。

だが、其れは逆に言うなら、戦闘では敵わなかったと言う事に他ならない――リバースユニゾンを使っても勝つ事は出来なかったのだ。

「後は頼むぞ…」

「ちょ…イクサ、和美、楓ーーーーーーーー!!!!」


裕奈の叫びも虚しく、5と8の最大魔法が炸裂!!








その最大攻撃が終わった所では、ボロボロになったイクサと和美、そして楓が倒れ伏していた…








――――――








其処は、僅かに風が吹く程度の荒涼とした、そして闇の帳が世界を覆っているような場所だった。

そんな世界の中に、稼津斗は佇んでいた。

「………………よりにもよってこの場所か…殺意の波動と暗黒パワーに呑まれたんだろうが…さて、如何したモノかな…」

こんな場所に居ても稼津斗は己を見失わないでいた。
いや、ある意味では己を見失ってしまった方が楽であったかも知れない――闇にその身を委ねる事が出来るのだから。

だが、其れでも自我を保っていただけのようだ。

「…如何でも良いか…800年以上も生きて来たんだ…そろそろ終わっても良いだろう…」

普段の稼津斗ならば絶対に言わないであろう諦めの言葉を紡いでいた。
それ程までに殺意の波動と暗黒パワーの浸食は稼津斗を蝕んでいたのだ。

「確かに、お前は800年以上も頑張って来た…此処で終わっても誰もお前を責めはしないさ――だが、本当に其れで良いのか?」

そんな稼津斗に語り掛ける声。
顔は見えないが、その声は間違いなく己の友である事は分かる。

「良いも何も…どうしようもないだろ?
 結局俺は闇に飲まれ、あろう事か愛する者をこの手で貫いてしまった……今更何をどうしようって言うんだ?」

「彼女があの程度で死なないのはお前が一番よく知っているんじゃないのか?…其れなのに、お前は此処で終わるのか?」

「………良い訳ないだろう……だが、あれから――人でなくなってから800年超…幾ら何でも疲れたよ…」

闇に蝕まれた事で、稼津斗が抱える心の闇もまた増幅してしまったようだ。

「そうか…其れじゃあ仕方ないな…」

周囲を覆う闇は、更にその強さを増したのだった…












 To Be Continued…