のどかとの戦闘から、辛くも離脱に成功した調は、フェイトとセクスドゥムが居る『儀式の場』へと転移していた。
事はいよいよ大詰め……その最後の一手に携わろうと言うのだろう。

「来たんだね、調さん――なんか、満身創痍みたいだけど大丈夫?」

「何とか……正直言って、あの読心術士である彼女は反則過ぎます…アレに勝つのは並大抵の者では不可能では?」

身をもってのどかの力を味わった調がそう思うのは無理ないだろう。
己の考えは全て読まれ、攻撃の特性は見抜かれて即座にコピーされる……のどかはトンでもないチートキャラなのだ。

「でしょうね…あの子は戦闘力は大した事ないけど、アーティファクトと魔法具のせいでトンでもないチートキャラになってるわ。
 まあ、あの子がどれだけ策を弄したところで、氷薙稼津斗の純粋な力は其れを超えるんでしょうけど…」

が、其れを知って尚、セクスドゥムは稼津斗には通じないと言う。
稼津斗の圧倒的な戦闘力の前には、如何なる策を弄しても意味は無いと言うのだろう――純粋なるパワー恐るべしだ。


「彼女の契約主たる彼ならば其れも納得ですが――其れよりもフェイト様、セクスドゥム様……いよいよなのですね?」

「うん…姫巫女は完全に此方で掌握した。」

「全ての準備が整うまで、あと1時間20分――その時間を護りきる事が出来れば私達の勝ち。
 調、貴女には姫巫女の力のコントロールを任せるわ――私とフェイトは、彼等が来たときに迎え撃つ役目があるからね……良いわね?」

其れとは別に、魔法世界全てをリライトする準備は着々と進んでいる。
アスナは薬で意識を奪われ、目覚める気配はない。

儀式を邪魔する物は何もないのだ……稼津斗とネギの2名を除いては。
故にアスナの力のコントロールを調に任せて、フェイトとセクスドゥムは、何れ此処に辿り着くであろう稼津斗とネギとの戦闘に神経を集中する。

制限時間は残り80分――












ネギま Story Of XX 119時間目
『Falling Down K&N』











稼津斗とネギを貫いた一撃は、間違いなくデュナミスが放ったものだろう。
その証拠に、バトルモードとなったデュナミスの肘から下が消えてなくなっている。


自らの身体の一部を転移して攻撃すると言う、超高等魔法を使って2人への攻撃を行ったのだ。

「不覚…よもや、そんな攻撃手段があるとは…!!」

デュナミスと戦っていた楓も予想外の攻撃に歯噛みする。
ただ、幸いと言うか何と言うか、パートナー達は一切無事だ。

ネギの杖に乗っていた栞と千雨は真っ逆さまに落下するが、其れはのどかとアキラが確りフォローしているので問題ない。


寧ろ問題はネギだ。
稼津斗は例え身体を貫かれようとも、オリハルコンの力で瞬時再生するので問題は無い。

だがネギは、闇の力をその身に宿しているとはいえ稼津斗のような不死身の再生能力は有していない――故にこの一発は致命傷になるのだ。


其れを見越したのだろう。
同じく身体を貫かれた稼津斗は、一瞬姿を消し、今度は再び木乃香を連れてこの場に現れた。

瞬間移動でフライマンタに戻り、木乃香を連れて戻って来たのだ。

治癒と言う一点に限れば、木乃香のソレは亜子がアーティファクトで出す治癒系魔法薬よりも遥かに効果が高く即効性も有る。
だからこそ必要なのだ。

恐ろしい速さで戻って来れたのは、『ネギが致命傷を負ったから来てくれ』とでも言ったのだろう。


「ネギ君、確りしてぇ!!今ウチが治したるさかい、死んだらあかんよぉ!!」

木乃香自身、ネギの事を実の弟の様に可愛がっている。
そのネギが瀕死の重傷を負ったとなれば黙って居られないだろう――直ぐに治癒を開始しようとする。



が、その瞬間に異変が起こった。


――ズズズズズズ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「「「「「「!!!!!」」」」」」

致命傷を負った筈のネギに、どす黒い魔力が集まって来たのだ。
そして、その魔力はネギに吸収され、負った傷を癒していく。

其れだけならば何も問題は無い。
だが、その黒い魔力は傷を癒すだけではなく、ネギ自身を黒く染め上げて行く……まるで浸食して乗っ取るかのように。

「ぐぐぐ…」

其れに合わせ、ネギの身体も変化していく。
そう、闇の魔法が暴走した時の魔物如き外見へと……


「う…ぐ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」


咆哮一発!
其れのなんと凄まじい事か……ネギの咆哮だけで、墓所の柱や壁に罅が入り、モノによっては崩れているのだ。

「ふぅぅぅぅぅぅ…」

黒く染まった肌と理性を失った眼は、紛れもない野獣…否、魔獣の姿そのものだ。



まさか、此処で暴走とは誰も思わなかっただろう。
確かにネギは強固な意志で闇の暴走を抑えていたが、それが今は仇になった。

致命傷を受けたその瞬間――闇は宿主を生かそうと蠢き、そしてネギを乗っ取ったのだ。




そしてこの闇の余波は神殿の別の場所にまで伝わっている。



「!!…ネギ先生、其れはダメだ――戻れなくなるぞ?」

ポヨと戦っている真名にも、


「ネギ!!…お前まさか…」

アーニャを救出した小太郎にもだ。







「うぐ…がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そんな事はお構いなしに、暴走したネギはデュナミスへと突進!
稼津斗が止めようとするが、暴走ネギのスピードを捉える事は幾ら何でも無理があったようだ。


「だぁぁぁぁぁぁ!!!」


――バキィ!!!!


稼津斗の静止をすり抜けたネギは、そのままデュナミスに一発進呈!



するが、其処は流石に組織の幹部。
影装術で作り出した剛腕で、ネギの一撃に対して拳を突き出し動きを止め――


「がぁぁ!!!」

「むぅ!?」


られなかった。
暴走したネギは、デュナミスの多重障壁を物ともせずに砕き、殴り飛ばす。

ネギの制御下を離れて暴走した闇の力には、倍近くある体格差などまるで問題にもならないようだ。


攻撃の手を休めず、更に殴る!蹴る!!ブッ飛ばす!!!
今のネギには理性は皆無。
有るのは魔獣の凶暴性と、最も本能的で原始的な闘争心――『敵を殲滅せよ』と言う衝動的な感情のみだ。

「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「少し落ち着け、ネギ!!!」

だが、更なる攻撃を仕掛けようとしたネギを、今度は稼津斗が確りと背後から羽交い絞めにして喰い止めた。
いや、稼津斗でなければ止める事は出来なかっただろう。

XXV状態の稼津斗に羽交い絞めにされて尚、ネギは其れから逃れようと暴れているのだから。

「確りしろネギ!このまま闇に堕ちる心算か?
 今堕ちたら二度と戻ってこれなくなる。如何に死ぬ確率は低いとはいえ…今堕ちてしまったら、人の心を失った魔物として生きる事になるんだぞ!
 お前は其れで良いのか?魔法世界でのラストバトルの結果がそんなモノで、お前は本当に満足なのか?」

「がぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!」

呼びかけてもネギは只暴れるのみ。
致命傷を受けた状態での闇の浸食暴走は相当に深いモノであるらしい。


「…ほう、此れは面白い…」

逆にそれを(仮面のせいで表からは全く分からないが)面白そうに見ていたのは、暴走ネギにブッ飛ばされたデュナミスだ。
誰が如何見ても『碌でもない事』を思いついたのだろうと推測できるモノの言い方だ。

「彼の少年は放っておいても闇に堕ちる……ならば、君にも闇に堕ちてもらおうか?」

その視線は、ネギを抑えている稼津斗に注がれている。

「КГАБДМЁЙф。」

そして、何とも不思議な呪文を唱えた瞬間……


――ドクン


「!?」
――な、なんだ?……此れは、殺意の波動と暗黒パワーが活性化している?


稼津斗に異変が起こった。
此れまで抑えていた殺意の波動と暗黒パワーが暴れはじめたのだ。

暴走ネギを拘束しながら、更に暴走しようとしている2つの闇パワーを抑え込むのは、如何に稼津斗でも不可能に近い――と言うか無理だ。

「ぐぅ……お前、一体何をした?」

其れでもなんとかネギを拘束しながら、デュナミスに問う。
この状況でこんな事になるなど、外部からの何かが無ければ有り得ない事だ――故にその原因は即刻分かったと言うところだろう。


「なに…私は少しばかり他者の内包する力に外部から干渉出来る力が有るのでね…其れで君の殺意の波動と暗黒パワーを弄らせてもらった。
 本来は英雄の息子たる彼を闇に落とすための物だったが、どうやらその少年は放っておいても闇に堕ちるようなので、君に使わせてもらった。
 正直、即座に暴走しなかったのは驚愕に値するが――其れも長くはもたないだろう?
 闇に飲まれた少年と、自らが内包する闇パワーの暴走を同時に抑え込むのは容易ではないだろうからな。」

「外部から……確かに、此れを押さえつけるのは無理だろうな……だが、お前は間違った。
 俺の殺意の波動と…暗…黒パワーを暴走させた…事が……………汝敗北理由也。


――轟!!!!


限界が来たのだろう…荒れ狂う殺意の波動と暗黒パワーを抑えられず、稼津斗は殺意の波動暴走状態に。
其れも只の暴走ではない。

此れまで、殺意の波動が発動した時は真っ赤だった髪が真っ白に染まり、背に現れた文字は『獄』。
更には、話し方も漢字のみと言う異常な状態なのだ――誰が如何見ても異常暴走である事は間違いない。

愚劣…汝冥獄葬送確定也。」

「がぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁ!!!」

其れでも不幸中の幸いか、稼津斗は敵味方の判別はついているようだ……だからと言って安心かと言えば絶対『否』だが。

滅殺…

「ごがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「むぅ!?」

暴走稼津斗と暴走ネギは、揃ってデュナミスに攻撃開始。
其れはこの場を押し通るための物ではなく、明らかに『殺す』事を目的とした一撃必殺、一撃絶命の攻撃。

稼津斗の『滅殺剛昇龍』がデュナミスを穿てば、間髪入れずにネギの『鶴打頂肘』が炸裂する。
互いに暴走状態にあるとはいえ、共通の敵を滅する為に不思議な連携が出来上がっているようだ。


――これ程とは…だが!!秒間2000撃、巨竜をも葬る拳の連撃…受けきれるか?…芥子粒に変えてくれる!!!


予想以上の強さに驚愕するデュナミスだが、影装で更に腕を増やし千手剛腕での超光速連続パンチ炸裂!
その量たるや、宛ら拳のスコールだ。


だが、その拳を撃ち込んだ場に稼津斗とネギの姿は無い。

愚物…

「ふぅぅぅぅ…」

稼津斗が阿修羅閃空でネギ共々デュナミスの背後に移動していたのだ。

「!!馬鹿な!!!」

滅殺…努圧羅亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜!!

「がぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁ!!!」

そして炸裂した、略零距離での『滅殺剛覇王翔哮拳』と『雷華崩拳』。
如何に多重障壁が有るとはいえ、此れだけの一撃を至近距離で放たれてはデュナミスとて堪らない。

2つの最大級の攻撃は、障壁を突き破りデュナミスの下半身を吹き飛ばしてしまった。


尤も、それでも生きているデュナミスは矢張り人間では無いのだろうが…



「…成程な…君達は如何やら私が思っていた以上の存在だったようだ。
 くくく…さぁ、遠慮なくやり給え――私は君達に討たれるだろうが、この戦いは我々の勝ちだ。」

影装も解け、上半身だけとなったデュナミスは何かを確信したように呟く。
其れが聞こえたかどうかは不明だが、稼津斗は『瞬獄殺』、ネギは最大級の『雷華崩拳』を放たんとしている。



が、此処で予想外の事態。

「…私は?…!!!貴様等!!デュナミス様はやらせん!!やるなら私をやってからにしろ!!」

気を失っていが焔が目覚め、デュナミスを護るように立ち塞がったのだ。

「焔か……止めるな、此れで我々の勝ちだ、計画は成る。」

「ですが!!」

「熱いぞ。」

余程慌てていたのか、焔は炎精霊化していたためデュナミスは触れられて熱かったらしい。
まぁ、そんな事は如何でも良い。

焔が立ち塞がろうとも稼津斗とネギは止まらない。
只デュナミスを滅する為に最大の一撃を―――


「駄目ですネギさん!!」

「駄目だ稼津斗!!」


放つ直前、ネギの前に栞が、稼津斗の前にイクサが立ち塞がった。
だが、それでも攻撃に移っていた2人は止まらない――止まれない。

「駄目だ先生!!!!」

千雨の叫びも虚しく、ネギの拳は栞を貫き、稼津斗の瞬獄殺はイクサに炸裂してしまった。


「…良くやった栞…そして強き少女よ…我々の勝ちだ、彼等は堕ちる…」


「あぐ…あぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!!」

何故……居苦鎖…具嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚!!!!」


デュナミスの言葉に呼応するように、ネギと稼津斗の闇の咆哮が。
其れは其れだけでこの場を全て破壊しつくさんばかりの勢いだ。


「させぬぞネギ坊主!!」

「落ち着け稼津君!!!」

だが、その咆哮で漸く2人の動きが止まり、その隙をついて楓がネギを、裕奈が稼津斗を止める。

いや、この2人だけではない――月詠と交戦状態の刹那を除く全員が稼津斗とネギの2人を止めようとその身体に抱き付いて止めていた。


「まだや!まだ終わらせへん!私が栞さんとリインフォースさんを治す!ネギ君と稼津斗さんを闇になんて堕とさせへん!!」

更に木乃香が栞とイクサを治療せんとする――まぁ、イクサは放っておいても即時再生するのだが…


とは言っても暴走状態のこの2人を抑えるなど並大抵の事ではない。
稼津斗のパートナー達がXX2ndの状態になって、漸く抑え込めて居ると言えばその凄まじさが分かるだろう。

「落ち着け…この大馬鹿もの!!」


――ぱあぁん!!


しかし、切り札はどんな時でも意外なところから来るものだ。
千雨の渾身の平手打ちがネギに炸裂し、僅かながらネギの理性を取り戻させることに成功したのだ。

「慌ててんじゃねぇ…アイツは無事だ。
 稼津斗先生も落ち着いてくれ…アンタの従者のリインフォースが、身体貫かれたくらいで死ぬ訳ねぇのはアンタが一番よく知ってんだろ?」


千雨の言葉に、稼津斗もネギも己が攻撃してしまった相手を見やる……


「…だ、大丈夫です…ネギさんは直前で手をそらして…」

「私は大丈夫だ稼津斗…如何に瞬獄殺と言えど、不死たる私を滅するには至らない…そうだろう?」

其処には、重傷を負いながらも生きている栞とイクサの姿が。


貫かれたと思われた栞は、ギリギリでネギが手をそらして脇腹を切り裂くにとどまったようだ。
其れでも重傷である事に変わりはないので、木乃香の治癒は必須だろうが。

そしてイクサは、瞬獄殺を喰らってボロボロの状態ながらも無事だった。
元々頑丈な身体にオリハルコンの力が加算されたチートボディには殺意の波動の究極奥義すら決定打にはならなかったのだろう。

受けた傷もオリハルコンの力で瞬時回復している。


「う…ぐ…あぁぁぁぁぁ!!!」

「……馬鹿だな俺は…」

その無事を見て安心したのだろうか?稼津斗とネギから闇の力が霧散し、姿が元に戻っていく。






だが、暴走の代償は大きかった。
闇の力が霧散した後に残ったのは――石膏像の様に真っ白になって横たわる、稼津斗とネギの姿だった…
















 To Be Continued…