コントロールルームからの隔絶空間内における戦いは、誰が如何見てものどかの絶対優勢な状況だった。

無傷で宙に浮くのどかと、満身創痍で其れを見上げる調――何方に利があるかは考えるまでもないだろう。
だが、疑問は尽きない。

如何にのどかがオリハルコンの力を持ち、更に日々の修業で地力を底上げしているにしても、不可視の音波攻撃を完全に防ぎきる事は難しい筈。
にも拘らず、のどかは無傷で、調は攻撃する度にダメージを負っているのだから。

「音の弱点…?」

「音の弱点の最もたるものは、『絶対値を同じにする逆位層の音』での打消しです。
 貴女の攻撃は超音波ですから、絶対値を同じにする極低音の音波をぶつければ相殺できます…前に市街地で裕奈さんがやったのが此れですね。
 けど、それとは別に…共鳴現象――ハウリングって聞いた事ありませんか?
 例えばスピーカーから発せられる音をマイクで拾うと、結果として無限に音を増幅し、最終的にはスピーカーが壊れてしまうと言うアレです。
 此れは自然界でも普通に起こりうる現象ですが……其れを、この魔力で作り出した鉄棒で再現させてもらいました。」

「!!まさか、その鉄棒は!!」

「はい…音を増幅して反射する『音叉』です。」

のどかが無傷だったその答えは、周囲に浮いた魔力で作り出した、様々な長さの鉄棒。
これが音叉となり、調の音波攻撃を増幅して反射していたのだ。

音を武器とする調にとって、此れは堪らない。
言うなれば己の持つ武器を完全に封じ込められた訳なのだから。

「降参してください調さん……音を武器とする貴女の攻撃は、私には一切通じません。
 貴女がどんな攻撃を繰り出しても、私には一瞬でその攻撃の特性が分かるから対策が出来ます……終わりにしませんか?」

「…出来ない…そんなこと、出来る筈がない!!
 如何に貴女が強かろうと、私には…私達にはフェイト様の計画こそが全てなのだ……其れを諦める事など出来る筈がないだろう!!!」

もう止めようと言っても調は応じない。
其れを見たのどかは諦めたように溜息をつき…

「なら、少しだけ眠ってもらうほか無いみたいですね…」

XX2ndを解放。
此方の隔絶空間での戦闘も、決着が近い事は間違いないだろう。












ネギま Story Of XX 118時間目
『立ち塞がるなら砕く!』











一方で、墓所での戦いは混沌とした様相を呈してきたのは否定できない状況となっていた。
何処から現れたのか、ルガールの参戦で、ネギと稼津斗が分断され、フェイトガールズの暴走に、月詠の完全闇堕ち――如何見ても真面ではない。

尤も、戦闘能力的に言うならば誰も負けることは無いだろうが。


大会ではユニゾンした俺に負け、総督府では殺意の波動に目覚めた俺に負けた……それでもまだ俺の前に現れるのかお前は?

「わぁたしはぁ、わぁたしぬぃ屈辱をぉ、与えた相手ぬぃ、完全報復せねぶぁ満足できぬのどぅあぁ!
 故にドゥアブルエックスィ、お前の命はぁ、このオメガ・ルガール改め、ゴッド・ルガールぐあぁ、貰い受けてやるぃ!」

…呆れてモノが言えん……だが、良いだろう――そんなに俺に倒されたいと言うなら相手をしてやる。
 だが、覚悟は決めておけよ?……此れはユニゾンや殺意の波動の暴走とは比べ物にならない力だからな!


――轟!!


ルガールと対峙した稼津斗は、殺意の波動を落ち着かせ、XXVへと変身。
XXの最強形態でルガールを葬り去る心算なのだろう。

「さぁ来いルガール……二度と復活が出来ない様に、分子レベルで葬りさってやる。」

「ほざくか……やってみるが良い!!」

それを合図と言わんばかりに、2人は地を蹴り稼津斗の拳と、ルガールの拳が交錯する。
拳がぶつかった、只それだけで衝撃波が発生するほどの凄まじい一撃だ。

勿論此れは挨拶代りの一発に過ぎない。
すぐさま目にも留まらぬ高速戦闘が開始され、無数の拳と蹴りが交錯してぶつかり激しいスパークが発生する。

「ほう…このスピードに付いて来るか…『ゴッド』の名も伊達じゃあないようだな?」

「言った筈どぅあぁ…貴様の命ぃ、貰い受けるとぬぁ!
 どぅあがどぅをぉしたぁ、ダブルエックスィ…見た目は弩派手に変わったぐぁ、大会の時よりも力ぐぁおぉちているのではないか?
 すうぉれとも、この私のパワーアップが予想以上だったと言う事かぬぁ?ならば其れはぁ、わぁたしにとっても嬉しい誤算だったぁ。」

「誤算…確かに誤算だろうな――この状態の俺の本気は。」


――メキィ!!


「むごわぁ!?」

調子に乗っていたルガールの脇腹に、突如鋭く重い痛みが走った。
見れば其処には稼津斗の蹴りが突き刺さっている――

「試運転は御終いだ。
 確かに、お前は大会や総督府の時よりも遥かに強くなってるみたいだが――生憎とこっちは精神世界で死闘を体験して来た身でな。
 その死闘を制したおかげで、格段に力を増す事が出来た……悪いがお前等相手にもならん。」

言うが早いか、今度は拳が突き刺さる。
其れも1発ではない――誇張ではなく『無限』とも言える拳がルガールの身体に叩き込まれていく。

今の稼津斗は、まるで拳と言う名の弾丸を只管に撃ち出すガトリングキャノンだ。
何よりも、この異常なまでの拳を全て左腕1本で放っていると言うのは驚愕に値する。

左腕のみで此れならば、両腕を使ったら一体どれだけの連射が出来ると言うのだろうか?――考えたくもない。

「そろそろ終わりにするか…アキラ!」

「うん、準備は出来てる。」


――ガキィィィン!!


更に、稼津斗に呼ばれたアキラが、自身のアーティファクトを掲げたその瞬間、ルガールの四肢は拘束された――強固なる水の鎖で。

アキラのアーティファクトは液体を操る事が出来る。
其れこそ、生物の体内を流れる血液を除けば、ありとあらゆる液体を操る事が出来る。

其れを応用し『大気中の水分』を使って水の鎖を作り上げたのだ。
勿論簡単な事ではないが、アキラは待機中の水分を無理やり『液体』と認識する事で、この難技を成功させたのだ…見事なモノである。

「言っておくが、アキラの水の鎖は力では切れんぞ?
 水は力で制する事は出来ない……どれだけ力を入れて砕いても、水の鎖は壊れた瞬間に再生するんだからな。」

「ぶ、ぶわぁかぬぁ!!こ、こぉんな事が認められるくわぁ!
 この私が……グォッド・ルガ〜〜ルが、三度貴様にやぶるぇるぬあぁど!!」

「…己の敗北を認められない奴に真なる成長など無いと知れ――終わりだ…覇王翔哮拳!!!

拘束されて喚き立てるルガールに向かって、最強最大級の気功波を容赦なく発射!
同時に此れはこの戦闘の幕が下りた事を意味する――覇王翔哮拳の軌道上には何も残っていなかったのだから。

普通に考えればルガールは再び消滅した事になるが、『復活が趣味』と自ら宣言する彼が、果たして今後また現れる事があるかは定かではない。



さて、稼津斗がルガールを危なげなく撃滅したすぐ傍では、イクサ、楓、裕奈の3人もまた自身の戦闘を終わらせようとしていた。

自我を失い、肉体の限界を超えた120%の力を引き出し、潜在能力を解放されて尚、暦、環、焔の3人はイクサ達の相手ではなかった。

「響け終焉の笛…ラグナロク!!」

「撃ち貫くでござる…紅血刃!!」

「もう落ちろ!このままじゃアンタ等の身体が持たねぇっての!!スクリィィィン…ディバイドォォ!!」

イクサの三連直射砲、楓の翡翠を使用しての全方位からの射撃攻撃、そして裕奈の魔力斬撃。
それらが一気に纏めて焔達に炸裂する。

夫々が一撃必殺級の威力を持つ技であるが、それが3つも纏まったとなっては堪らない。

「「「あぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

圧倒的な物量と威力に、避ける事も防ぐ事も叶わず、3種の攻撃が直撃――此れは如何考えても決着が付いただろう。


――ドサリ


圧倒的な攻撃を受けた3人は意識を刈り取られてダウン。
少なくとも暫く目を覚ますことは無いだろう――こうでもしなければ止める事は出来なかったのだ。

「変なモン使ったらアカンて……此れで元通りになるからな?」

そして、意識を失った3人に亜子が『魔法薬の効果を中和する魔法薬』を注射していく。
これで、少なくとも焔達は薬の影響から解放された筈だ。

残るはネギが戦っているデュナミスのみだが…

「はぁぁぁぁぁぁ!!!雷華崩拳!!!!」

「ふふふ…良い一撃だ少年、流石は彼の英雄の血を引く者だ――いや、今の君ならば或は父君を超えていると評価すべきかな?」

戦いは拮抗していた。
ネギが雷天双壮を展開しても押し切れないとは、デュナミスは可成りの難敵と言う事なのだろう。

焔達は倒したが、此処から先に進むにはもう少しだけ時間を有するようである。








――――――








場所は再び隔離空間。

「まだやりますか?」

「あぁ…あぐぅぅ…」

戦いの結果は言うまでもないだろう――のどかの圧勝だ。

己の最大の武器を封殺された調には勝つ術など残されてはいなかったのだ。
アーティファクトでの攻撃を捨て、木精霊を最大顕現で憑依しても、一切のどかには通じなかった。

どんな魔法を繰り出しても、どんな攻撃をしようと、同じ攻撃が2度と決まることは無かった。
初撃はヒットしても、2撃目は必ず対処されカウンターを喰らう――のどかの反則クラスのアーティファクトと魔法具を駆使した戦闘は圧倒的だった。

全ての詰め手を封殺された調は拘束魔法でその動きを封じられてしまい、今に至る。

だが、それでも調の瞳に宿る炎は微塵も衰えていない。
この状況に於いて尚、調はまだやる心算で居るのだ。


「う…ぐあぁぁあっぁぁぁぁあっぁぁぁぁ!!!」

魔法薬で底上げされた力で拘束をぶち破り、のどかに向かって突進し――


――しゅぅぅん…


そして消えた。

「転移魔法!!……裏を掛かれましたね…。
 稼津斗さんからコピーした瞬間移動を使えば此処から脱出する事は容易でも、多分コントロールルームに調さんは居ませんよね?
 それ以前に、コントロールルームのあらゆる機材にプロテクトが掛けられるでしょうから……此れは墓所に移動した方が良いですね。」

調が消えた事で、コントロールルームの機能奪取は不可能と判断し、のどかは稼津斗達が戦っている墓所へと瞬間移動。


そして、移動した先では…

「おぉぉぉぉぉぉ…楓忍法、天魔覆滅、縛鎖地網陣!!

「縛符!!」

「特別製にござる。」

デュナミスとの戦いにも決着が付こうとしていた。
楓が蛟でデュナミスの動きを完全に止め、更に縛符まで使って一切の動きを封じる。

「来たれ深淵の闇 燃え盛る大剣 闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔!
 我を焼け 彼を焼け 其はただ焼き尽くす者!!奈落の…業火!!」

「消し飛べ…雷神覇王翔哮拳!!」

そして其処に、ネギと稼津斗の必殺の一撃が炸裂し、大爆発!!
幾ら何でも此れだけの攻撃ならば、デュナミスが異常な耐久力を有しているとしても耐える事は出来ないだろう。


「よし…稼津斗殿、ネギ坊主!此処は拙者等に任せて先に進むでござる!
 フェイトとセクスドゥムのもとへ!そして最後の鍵を!!」

「楓…分かった、任せるぞ!!」


そして此れは絶好の好機。
この場を楓達に任せ、稼津斗とネギは先に進む事が出来るのだ。

如何に難敵とは言え、稼津斗組とネギ組のパートナー達が力を合わせれば倒せない相手ではない。

ならば、此処は主戦力を先に進ませるべきなのだ。

「あすなさん、千雨さん!!」

「アキラ…のどかも戻ってきてたのか。」

一瞬で戦闘を行っていないメンバーの前に移動し、共に行く者を選抜する。
とは言っても、実に都合よく連れて行きたいメンバーが其処に集結してくれていた。

アキラとのどか、そして千雨とあすなこと栞。
戦闘面とサポート面でのバランスと戦力分散を考えた場合、此れが一番いい組み合わせなのだ。

「杖よ!…乗ってください、あすなさん、千雨さん!!」

「このまま一気に本丸に切り込む。
 フェイトとセクスドゥムが今この場に居ない――最後の鍵は必ず奴等の下にある…そして恐らくアスナも…!!」

「コタロー達の救出は間に合わなかったって計算か……よし分かった、行こう!!」

状況は大体分かった。
この場に2体のアーウェルンクスが居ない以上、最後の鍵は此処にはないだろう――同時にアスナも。

ならば小太郎達の人質救出は間に合わなかったと見て行動するのが上策だ。

ネギは自身の杖に千雨と栞を乗せ、稼津斗とのどかとアキラは自身の力で飛行する。

「ホール上部からの縦坑からが近道よ。」

「了解!!」

栞(人格はアスナ)から最短ルートを教えてもらい、一行は一路最上部へ。




だが…



――ギュルル…


突如歪んだ空間が稼津斗達の前に現れる。
考えるまでもなく、空間超越の攻撃だ。

「「!!!」」

文字通り、突如目の前に現れた攻撃に、如何に稼津斗とネギでも完全に対処しろと言うのが無理な話だ。


――ドスゥゥ!!


そして、歪んだ空間から現れた巨大な腕の貫手が稼津斗とネギの身体を容赦なく貫いたのだった…








――――――








時間は僅かに遡り、稼津斗がルガールをフルボッコにしていた頃…

「此処やな……どないな感じや朝倉さん?」

「多重障壁が鍵の役割を果たしてるけど、1つ1つはそんなに強くないね…」

小太郎達は、人質が収容されている部屋の前までたどり着いていた。
このまま扉を蹴破って突入し、人質を解放すれば、それでミッションコンプリートだ。

だが、そうは問屋が卸さない。
多重障壁が鍵となって部屋を覆い、更には多重障壁を無視して扉を蹴破ろうものなら、扉に仕掛けられた罠が発動してゲームエンドとなりかねない。

だからこそ全員が真剣な表情と相なっている。


「うし…罠は全部解除出来たよ。」

「マジでか?…ホンマに朝倉さんは最高のバックアップやな――こりゃ兄ちゃんも心強い筈や!」

程なく罠はと鍵は解除され、後は開けるのみ。
とは言え何が飛び出してくるかは分からないので、先ずは小太郎が扉を開け――


「でりゃあ!!」

「むべら!?」



――飛んできたのは炎を纏った拳だった。

「アーニャ、フレイムバスタァ…キィィィック!!」

「落ち着けやアホ。」

更に追撃の一発は見事に防御し、攻撃をしてきた少女――アーニャを宙吊り状態に。

「敵やない、救出隊や。」

「へ?救出?」

如何やらアーニャは助けに来た小太郎達を敵と勘違いしたらしい――其れでこの先制攻撃と言う訳だ、納得。

救出と言う言葉にアーニャも落ち着きを取り戻したようだ。


が、状況は如何やら悪い方向に向かっているようだ。
部屋の中にアスナの姿は無い――居たのはアーニャただ1人なのだ。

「アスナが居ない…?」

「後れを取ったみたいやな…こりゃもしかすると…」


――計画は最終段階に移ったのかもしれない。



浮かんだのは、出来るだけ考えたくない内容だった。
















 To Be Continued…