「馬鹿な…何故貴女が此処に…?いえ、だとすればモニターに映っている貴女は!?」
突然姿を現したのどかに、調は動揺を隠せないでいた。
無理もない――なぜならのどかは今この瞬間も、モニターの画面に映っているのだから。
にも拘わらず、目の前にものどかの姿が。
動揺するなと言うのが無理と言うモノだろう。
「便利ですよね『簡易ゴーレム』って……ハルナの画力の高さには本当に脱帽かな。私でも吃驚するくらいそっくりなんだから。」
画面の向こうののどかはハルナがアーティファクトで作り出した簡易ゴーレムだった。
能力面では大きく劣るが、外見だけならばマッタク見分けがつかない上にXXへの変身まで再現できている辺り、ハルナの才能に脱帽だ。
「アレは簡易ゴーレム!!…まさか、此処に来るまでに異様に派手な戦闘を行っていたのは!!」
「其方の注意を引き付けるためです。
稼津斗さん達が全力で派手に暴れてくれたので、私は誰にも気付かれる事なく此処まで来る事が出来ました。
見たところ此処が宮殿のシステム全てを統括する場所みたいですから――此処を制圧すれば、宮殿のコントロールは全て此方の物と言う事ですね?」
「く…させぬ!!」
――グン!!
そしてのどかの目的を知った調は、即座にコントロールルームの非常装置を作動させ、自身とのどかを別の隔離空間へと転移する。
コントロールルームを掌握されるなどは勿論あってはならない事だが、あそこで戦闘を行って機材を破壊してしまうなどもっての外だ。
「隔離空間…」
「此処ならば派手に戦っても宮殿には影響は皆無ですので…
何時ぞやの街中での戦闘で、貴女の力は十二分に分かっていますので……些か卑怯ですが、此れを使わせていただきます!」
更に、のどかを難敵と認識しているのだろう、調もまたあの薬を服用する。
「う…ぐ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そしてその効果のまま、能力が急上昇し、木霊が最大顕現状態で憑依して樹木の翼と角がその身に現れて来た。
だが、それを見て尚のどかは冷静だ。
「どんな力も使いたければ使えば良いですよ…其れで勝てると思うのなら。
ですが、どんな力を使おうとも、此れだけは言わせて貰います――貴女は私に勝つ事は出来ません、絶対に!!」
自信満々に宣言する姿に、嘗ての内気な読書少女の面影は最早無い。
逆立った金髪と透き通るような碧眼ののどかは、間違いなく『一流の戦士』の佇まいであった。
ネギま Story Of XX 117時間目
『隔離空間大決戦!』
「分断か…戦力がほぼ均等状態であるならば各個撃破は悪い手ではないと思うが……戦力差がありすぎる状態では逆に悪手ではないか?」
「―――――」
隔離された空間内で、イクサは環に問うが環は答えない。
ドーピングの影響で完全竜化したことにより、思考形態は兎も角として人語は話せなくなったらしい…念話は出来るのだろうが。
「如何に完全竜化したところで、お前では私に勝つ事は出来ない。
まして、ドーピングで得た付け焼刃の力が、私に通ると思ってか?」
「――――――!」
矢張り答えないが、声にならない咆哮を上げ、環はイクサに突進!
竜族として見れば小型の部類だろうが、その強靭な体躯より繰り出される体当たりは岩をも粉砕するだけの破壊力があるものだ。
当然、生身の人間がまともに喰らおうものならば即死は免れないだろう。
「…浅いな。」
「――――!?」
だが、あくまでそれが『普通』の生身の人間であればの話だ。
生憎とイクサは普通ではないし、まして純然たる『生身の人間』とは言えない存在であり、稼津斗のパートナーの中では特出した力を持っている。
いや、パートナー達の中で唯一タイマンで稼津斗と互角の勝負が出来ると言えば、その強さが如何程かは理解してもらえるだろう。
そんなイクサにとって、小型の竜の体当たりなど小石が跳んできた程度に過ぎない。
環の渾身の体当たりも難なく片手で止めてしまった。
「――――――!!」
だが環とて此れでは終わらない。
体当たりが駄目と見るや、今度は距離を放さないまま灼熱のブレスを発射!
略密着状態では幾らイクサでも回避行動に移る事は出来ない。
紅蓮の炎がイクサを包み込むが…
「……まあ、多少は熱いか。」
イクサは全くの無傷!
回避こそ出来なかったが、堅牢な魔力障壁で己を包み、灼熱のブレスを完全にシャットアウトしてしまったようだ。
「…今度は此方から行くぞ?」
攻撃を完全に防いだイクサが不敵に呟いたその瞬間…
――メキィ!!
環のボディに、イクサの重爆ボディブローが炸裂した。
如何に完全竜化で身体の耐久力が飛躍的に上昇したとは言っても、鋼鉄すら粉砕するイクサの拳をまともに喰らっては堪らない。
たった1発で視界が霞み、衝撃が全身を駆け巡っていることだろう。
だが、イクサには敵に対する慈悲などない。
いっそ冷酷とも思える重爆ブローを、的確に正中線に打ち込んでいく――恐らくこの連撃だけで環は戦闘不能確実だろう。
或は、完全竜化していない方が幸せだったかもしれない…生身だったら最初の一撃で意識が吹っ飛んでいただろうから。
だが強靭な肉体である竜の姿ではそうは行かない。
なまじ強靭なだけに、イクサの攻撃に耐える事が出来るせいで意識が飛んでくれないのだ。
「ハンマーシュラーク!!」
高速連続重爆ブローの〆は、渾身の力を込めたアッパーカット!
天空すら打ち貫くほどの鋭く重い一撃に、環の身体は錐揉み回転しながら吹っ飛び、そして地面に叩き付けられる。
「終わりだな…これ以上の戦闘は意味をなさない。幾ら頑丈な竜の身体でも、これ以上私の攻撃を受ければ――死ぬぞ?」
「―――――……!」
何とか立ち上がろうとするが、最後のアッパーに脳が揺さぶられ立ち上がる事が出来ない。
圧倒的な力の差……勝負は誰の目にも明らかだった。
「折角拾った命をこんな形で散らせてはダメだ。
幸い、私の仲間に世界レベルで優秀な治癒魔法使いが居るのでな…今から最速で船に戻れば完治して貰えるはずだ――――!?」
『もう止めよう』と環に近づこうとした瞬間……異様な魔力の増大を感じた。
考えるまでもなく、発生源は環だ。
しかも只魔力が増大しているだけではない――その姿が、武骨な竜だったその姿が端正な竜人の少女に変わっていた。
「…此れが薬の真の力…此れが私の本当の力…」
――ガッ!!!!
「!?」
環が何かを言い終わる前に、イクサの身体は吹き飛んでいた。
瞬間的に防御姿勢をとったおかげでダメージは皆無だが…
「く…素早さの超強化か!!ネギの雷天大壮には劣るが、何と言う速さだ!」
「遅い…」
「!!」
更に今度は後ろからの攻撃!
此れは幾らイクサでも防ぎきれず、まともに喰らって壁に激突!!
「……成程、凄まじいスピードだ。
正直に大したものだ――が、スピードは凄くても打撃には重さが足りないな?それでは私を落とす事は出来ないぞ?」
それでも頑丈さに定評のあるイクサには大したダメージではなく、防護服にも傷1つ付いてはいない。
「其れでも絶えずスピードで攻め続ければ、何れは押し切れる。」
「お前のスタミナが其れまで持つとは思わないが?」
「…ふっ。」
再び消えたかのような高速移動。
だが今度はイクサも初動を視認した――となれば対処は楽だ。
――ガキィィン!!
全身を強固な障壁で覆えば環の攻撃が何処から来ようとも一切ダメージを受けることは無い。
が、同時にこの状態では防御のみで攻撃が出来ない事にもなる。
事実、マシンガンの如き素早さで繰り出される環の攻撃に、イクサは障壁を解いて反撃する事が出来ないで居る。
持久戦か?――――――否!
――バキィィィン!!
「な!?…拘束魔法だと?」
何度目かの攻撃を仕掛けようとした環の身体が、魔力で構築された鎖に雁字搦めにされたのだ。
其れはイクサの罠。
防戦一方に見せかけながら、自分を中心に実に50個もの拘束魔法『封縛』を設置していたのだ。
環に気付かれない様に慎重に1個ずつ設置し、50個目が設置した瞬間に一斉発動をし、その結果、環は雁字搦めに。
此れでは如何足掻いても動けないだろう――イクサの封縛は1つでも巨大な竜の動きを完全に止められるのだから。
「言っておくが私の『ソレ』を外す事はお前には出来ない――故にこの攻撃から逃げる事も不可能だ。」
「なにを…………!!!!………ななな、何だ其れは!!」
更に環は驚愕する。
其れはイクサの手元に収束する魔力…その圧倒的質量に!宮殿の外に浮かぶ浮遊岩をも凌駕するほどにまで膨れ上がった魔力の塊に。
「集束砲…嘗て私のオリジナルを救ってくれた白き少女の最強必殺魔砲だ…お前には耐えられん。」
「そんな馬鹿な…こんな魔法が…!!」
「…咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け閃光!スターライト……ブレイカーーーーーーー!!!!」
星光の殲滅者の名を冠した一撃必殺の集束砲。
鈍い銀色の魔力の光が、隔絶された空間内を埋め尽くしていった…………
――――――
別の空間では、アキラが強化状態の暦を相手に少しだけ、しかし確実に有利に戦いを進めていた。
正直な事を言うと、アキラの体格と基礎能力の高さを駆使すれば経験の差はある程度埋める事が出来るのだ。
それがオリハルコンの力を得て、ダイオラマ内で2年間も稼津斗の修業を受けた事で秘めていたポテンシャルが開花し一線級の闘士となっていた。
「其処!!」
「にゃ!?…この…!!」
更に闘い方も実に見事なものとなっている。
自身の長い手足を生かして、ギリギリ相手に届く攻撃のみを繰り出しているのだ。
アキラと暦では覆しようのない体格差があり、当然手足の長さも格段に違う。
と、言う事はつまり、アキラがギリギリ攻撃が届く間合いを維持していれば暦はアキラに攻撃する事が出来ないと言う事になる。
ならば離れた間合いから魔法を使えばいいだろうとも思うだろうが、其れがそうも行かない。
如何に能力をドーピングで底上げしても、魔法を使用する際の詠唱まではカットできない……無詠唱魔法は覚えていないのだから当然だが。
そうなると、如何に間合いを離そうとも詠唱の最中に間合いを詰められてしまう。
更に悪い事に、暦のアーティファクトはその特性である『時の操作』を行うにもタイムラグがある。
発動から効果成立までに時間が掛かるため、1vs1では極めてハイリスクハイリターンの能力なのだ。
だが、其れを知って尚、暦はアキラを上回れるはずだった。
1vs1ならば獣化した自分の方が肉体的能力は上になり、速さを武器に翻弄できるはずだった。
其れが蓋を開ければまるで違う。
完全に戦いの場はアキラの独壇場になった――されてしまったのだ。
「ふざ…けるにゃぁぁぁぁ!!!」
「斬烈脚!」
何とか懐に入り込もうと飛び込んでも、それは空を切り裂くように鋭い横蹴りで迎撃される。
そして間髪入れずに3連続の跳び蹴りで追撃――アキラは稼津斗から教わった蹴り主体の格闘技の数々を完全に自分のものにしていた。
「え〜と……まだやる?」
「うにゃ〜〜〜!!当然にゃ!!只の1発もまともな攻撃を当てられないで終われるかぁぁっぁぁぁ!!」
「目的が入れ替わってないかな…?」
確かに、目的が『アキラの撃破』から『アキラに一発入れる事』に変わってしまったようだ。
この空間での戦闘が始まってから今に至るまで、まともな一撃を入れる事も出来ず一方的に攻撃されていればそうもなるだろう。
「うあぁぁぁぁぁぁっぁ!!」
「…っ!」
――ピキ…
そして、暦の再度の突進と、空間に罅が入るのは略同時だった。
――――――
更に別空間のクスハと焔の戦いは…
「「燃えろ!!」」
――ドゴォォォン!!!
文字通り『熱い戦い』となっていた。
XXには変身できないクスハだが、九尾として覚醒した事で、その力は大きく増強され炎術師としての能力も上がっている。
焔もまた、フェイトの配下の中では最も攻撃系能力が高い。
互いに炎術使いと言う事で、更に戦いはヒートアップしているのだ。
手加減なしの黒炎を操るクスハと、ドーピングで強化された事で顕現した蒼炎を操る焔。
黒と蒼の炎が飛び交い、空間内は殆ど火の海と化しているが、そんな事でさえこの2人にはお構いなしだ。
「やるね…妖狐って言うのは炎術に長けた種族なんだけど――その私と炎術で互角に渡り合うなんて驚きかな?」
「お前もな…正直、同じ炎使いの私だから戦えていると言うべきかもしれないな。
樹木の精霊を操る調だったら、相性的に瞬殺されていたかもしれん……だが、だからこそ私はお前に負ける事は出来ん!!」
炎使い同士、何か通じるものがあったのか互いに互いの腕は認めた様子。
だが、矢張り焔は其れとは別に負けたくない、負けられないとの思いが強いようだ。
「オォォォォォ……蒼炎龍破!!」
力を更に解放し、最大級の蒼炎を撃ち出す。
其の炎は龍の形となり、全てを喰らい尽くさんばかりにクスハに襲い掛かる。
「全力の攻撃…なら其れには答えるのが礼儀だね!!」
だがあくまでもクスハは冷静、かつ大胆にも其れと正面からやり合う心算のようだ。
「ふぅぅぅぅぅん!!…妖狐炎術最大奥義…炎殺黒龍波ーーーーーー!!」
クスハが放ったのは黒炎の龍!
奇しくも最大奥義は似たような一撃となったようだ。
――ゴゴゴゴゴゴゴ
黒炎の龍と蒼炎の龍がぶつかり、其れに呼応するように周囲の炎も燃え上がり猛る。
だが最後は地力の違いが出てしまったようだ――クスハの放った黒炎龍が、焔の蒼炎龍を飲み込み始めたのだ。
そして、飲み込み始めたのと同時に…空間が弾けた。
――――――
――バリィィィン!!
まるでガラスが激しく砕けたかのような音と共に、墓所には隔離空間内に分断された面子が戻ってきていた。
「…どうやら楽勝だったみたいだが…」
「其れが何か?」
其処から戻っていた面子を見れば何方に利があるかは一目瞭然。
環は完全にKOされ、暦と焔も満身創痍。
対して、イクサ、アキラ、クスハの3人は殆ど完全無傷!隔絶空間内での戦闘で何方に軍配が上がったかなど考えるまでもないだろう。
だが、それを見てもデュナミスに焦りも何もない。
殺意の波動を覚醒した稼津斗の攻撃をギリギリで耐えながら、しかし影装で覆われた顔には笑みが浮かんでいるように見えた。
「あの小娘共に渡した薬が只の強化薬だとでも思っているのか?…甘いな。
あの薬の真髄は此処からだ――一定時間が経過した時、あの薬は服用者を最強の戦闘マシーンへと進化させる!!」
「なんだと…?」
――ドクンッ
「「「うぅ…うあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
それはドーピング薬の特性を知っていたから。
服用して一定時間が経過すると、服用者の自我を奪い去り只闘うだけの戦闘マシーンと化す事を知っていたから。
「外道が……イクサ、楓、裕奈!!」
「任せろ…連戦だろうと負けはしない!!」
「やれやれ…難儀にござるが――此処は抑えるでござるよ!!」
「つーか、暴走して勝てると思うなっての、このウスラトンカチ!!」
自我を失い、その目から光を失った3人にイクサ、楓、裕奈の3人が対抗。
この3人ならば負ける事もないだろうが、其れとは別に――稼津斗が纏う殺意の波動がその殺気を濃密なものにしていた。
いや、稼津斗だけではなくネギも雷天双壮で纏っている雷に僅かに闇色が混じっている。
余りにも外道なデュナミスのやり方に『プチッ』と来たようだ――それでも暴走していないのは大したものだが。
「幾ら何でも…仲間を利用するなんて許せません!!」
「あの3人は撃破後に亜子の魔法薬で治すとして――デュナミス、貴様は生かしてはおかん…!!」
仲間に厚情なこの2人にとってデュナミスの所業は許せるものではない。
最大級の一撃を放とうとするが…
「むぃぃぃつけたぞぉ、ドゥアァブルエックスィ!!」
何処から入って来たのかルガール登場!!
稼津斗の姿を見つけるや否や、周囲がどうなっているかなどお構いなしに襲い掛かってきた。
「お前か…裕奈の話では自爆したと聞いていたんだが…?」
「私の趣味はぁ、復活どぅあぁ!!」
まるで意味が分からないが、兎に角面倒な相手が現れたのは事実。
ルガールが稼津斗を攻撃し始めた以上、デュナミスにはネギが対抗しなくてはならない。
だが不安は無い――稼津斗が居なくても、古菲やまき絵達が居る、そして亜子にアキラにクスハが居る。
ルガールが介入してきたとはいえ、戦局が不利になると言う事は無いようだ。
――――――
「く…何故だ…!!」
コントロールルームからの隔離空間で戦っていたのどかと調…だが、不思議な事に調が一方的にダメージを受けていた。
のどかは一切攻撃をしていないにも拘らずだ。
「おの…れぇぇぇ!!」
「何度やっても無駄です。」
得意の音波攻撃を放つが――
――バガァァァァァァァァン!!
「ぐあぁぁぁあぁ!!」
ダメージを受けたのは攻撃を放った調の方だった――幾ら何でもおかしい、おかしすぎるだろう。
何故に攻撃した方がダメージを受けるのか?
見たところ、のどかが攻撃反射の障壁を張っている訳ではない。
だが、だとしたら何故?
「音は確かに最強の攻撃手段です――絶対振動数さえ合えば、対象物が例えダイヤモンドだって粉砕出来ます。
ですが、同時に音である以上は防ぎようのない弱点が存在もしているんですよ。」
宛ら絶対強者。
一切のダメージを受けずに、宙に浮くのどかの姿は正に戦場の支配者。
その支配者にして絶対強者と化したのどかの周囲には、魔力で作り出した長短様々な鉄の棒が浮かんでいた…
To Be Continued… 
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