「ねぇ、真っ暗だけど本当にこっちで良いの?」

「あぁ、この先の部屋に捕らえられとるはずや…おそらくな。」

「おそらくって…」

殆ど灯りのない道を人質救出組は進んでいた。
目的地まではあと少し――此処に至るまで、一切敵に気付かれていないと言うのは、矢張り恐るべきステルス性能と言うべきだろう。

「まぁ、情報源は確かやで?」
――なんせ、敵のスパイやった偽アスナ姉ちゃんからの情報やからな。


そして、迷わずに辿り着けたのは栞から齎された情報も大きい。
それを基に、和美が最短ルートを割り出したからこそ、最速のスピードで到達しようとしているのだ。

「まぁ、さよっち姉ちゃんに先行して確認してきてもらえば確実なんやが、流石に危険やからな?
 待ち受けてる敵は最強レベルで、正直何が起こるか分からん場所や。―――言うてるそばから来たみたいやしな…」

その暗い道の先を行き成り睨みつける小太郎……その視線の先にはフェイトとセクスドゥムの姿が!
計画の最終段階に向かう途中なのだろうが…どうやらこの2人も人質救出組には気が付いていないようだ。


《き、気付いてないの?》

《らしいな……せやから絶対手ぇ離すなよ?なんぼ俺と朝倉さんでも全員を護る事は出来へん!!》

だが、気付かれて居ないとは言ってもやり過ごすには、完全に此方の横を通り過ぎてもらわねばならない。
そうなると、フェイトとセクスドゥムが発する無言のプレッシャーに晒される事になる訳で――それは最近まで一般人であった夏美には恐ろしい事だ。

《ふ…ぐ…》

《スマン…耐えてくれ夏美姉ちゃん!!此処をやり過ごせば…!!》


――カツン…カツン………


其れでも夏美は耐えた――2人が通り過ぎ、姿が見えなくなるまで。
顔を真っ青にし、目に涙を浮かべ、脂汗を流しながらも耐えきったのだ――此れは称賛に値するだろう。

「よく耐えてくれた、夏美姉ちゃん!!ホンマに見事や!!」

「はぁ、はぁ……わ、私1人が足手まといなんて嫌だもん……そ、其れにもうすぐ目的地なのに、失敗は出来ないでしょ?」

ギリギリで恐怖を乗り越える事が出来た少女の頑張りで、一行は無事に目的地に着く事が出来るようだ。











ネギま Story Of XX 116時間目
『Un Limited Strike!』











墓所での戦いは、暦、環、焔の3人が魔法薬でその力をブーストさせ、今までとは比べ物にならない魔力をその身に纏っている。
しかも、その上昇値はマダマダ止まりそうは無い……或はこのまま上昇し続ければ稼津斗のパートナー達のXX第1形態くらいには到達するかもしれない。

薬の効果が切れた後で、身体がどうなってしまうのかは分からないが。


其れとは別に、1対1の斬り合いになった刹那と月詠の戦いは、取り回し面で不利な野太刀を扱う刹那が圧倒していた。
余りにも速く重い攻撃の連続に、月詠は防ぐか辛うじて弾くのが精一杯の状況。

長さの違う2本の刀で行う、攻防一体の殺人剣も今の刹那には掠りもしない。

「く…!!」

辛うじて繰り出したカウンターの一撃も、刹那の髪を数本斬るに留まり、逆に膝が深々と突き刺さる。
更に逆足で蹴り飛ばされ、

「神鳴流奥義…百裂桜華斬!!」

大技が炸裂!!
京都の時とはまるで違う…今の刹那の剣には、淀みも迷いも何もない――静寂に満ちた湖の如く、刹那の剣は澄み切っていた。

「うふ…うふふふふ…見事、見事ですわ先輩…そうでなくては斬り甲斐がありまへんなぁ…」

其れを受けて尚、月詠は平気――ではないだろう、明らかに大ダメージレベルの負傷をしている。
だが、それであってもその狂気と狂喜の歪んだ笑みは顔から消えていない……既に精神が肉体を凌駕しているのだろうか?

「!?…この黒い気は…まさか『妖刀ひな』!?」

其れもあるだろうが、刹那が気付いたのは全く別のモノ――月詠が使っている黒い刃の刀だ。
さっきまでは『変わった刀』程度にしか思っていなかったが、今其れから発せられているのは、間違えようもない闇と魔の力。

修業時代に神鳴流の師範代より聞かされた、人の魂を喰らい、魔道に落とす代わりに力を与える東の魔剣『妖刀ひな』が其処にあった。

「貴様…何故その刀を…?力を求めて魔道に堕ちたか…愚かな。」

「力?…違いますわ…先輩を心行くまで味わい尽くすためですわ……味わわせてもらいますえぇ…先輩の全て…」


――ドン!!


「く!!!」
――重い…!!これがひなの妖力に取り付かれた者の力……かつて神鳴流が絶滅しかけたと言う師範代の話もあながち誇張ではないな!!


うふうふふふふふ!!あはははははははっははは!!!
 良いですわぁ〜〜先輩…その鬼気迫る必死の表情〜〜……それが死の間際には如何歪むのか…はぁ、想像しただけでも…あは♪

ひなの妖力を得た月詠は肌が浅黒く染まり、瞳の色も反転し、その姿は地獄の悪鬼羅刹そのもの。
何より恐ろしいのは、この状態にあって尚、月詠は自我を保っていると言う事だろう。
既に人斬りの狂喜と狂気に取り付かれている月詠の魂は、外道と魔道に堕ち切っている――故に、逆にひなの力を純粋に使う事が出来るのだ。

更に厄介な事に、ひなではない方の脇差にも妖力が纏わり付き、宛ら其れは妖刀二刀流と言うところ。
闇の正気を纏って放たれる狂気の刃に、今度は刹那が防ぐので精一杯の状態に。

其れでも神鳴流剣技と陰陽術、烏族特有の素早さでクリーンヒットを許さないのは見事と言えるだろう。

秘剣…一瞬千撃・弐刀黒刀五月雨斬り!!

「ぐ…うああぁぁぁあぁっぁぁぁ!!」

だが、其れも回避と防御を上回るスピードで雨霰と斬り付けられては堪らない。
障壁ごと吹き飛ばされ、壁に叩き付けられるギリギリで体勢を立て直すが、一瞬で背後に現れた月詠が更なる追撃!
墓所の壁を削るように、刹那は落下してしまった。

うふふふ…いまさら何を驚いてはるんですか先輩?
 闇と魔で力を増幅させてるのは、稼津斗はんやネギ君かて同じですやろ…うふふふふふふふ…

このまま刹那がやられることは無いとは思うが、少なくとも苦戦する事だけは間違いないだろう。



「ふむ…月詠はあの力を使いこなしたか……人斬りの異常性癖も時には役に立つらしい。
 して…助けに行かなくて良いのか?あの妖刀を手にした者をたった1人で相手にするのは至難の業と考えるが?」

「だが、倒せない訳じゃない。
 あまり桜咲を甘く見ない事だな…今の桜咲なら、苦戦する事はあっても人斬り如きに負ける事など有り得んさ。」

其れでも稼津斗は刹那の助太刀には入らない…入る必要はないと考えているからだ。
そして、同時に自分やネギが刹那の助太刀に向かおうものならば、デュナミスが千雨、まき絵、栞を狙ってくることは目に見えてるのだから。

また、フェイトガールズ3人と交戦していた稼津斗ガールズ+古菲は異常に力をブーストさせている相手に警戒を解いていない。

「成程成程……此れは良い――フン!!」


――バリィ!!


「「?」」

「「「!!!」」」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

その状況で、何を思ったかデュナミスは頭のフードと顔の仮面以外の着衣を吹き飛ばして頭以外素っ裸に。
突然の事に、流石の稼津斗とネギも虚を突かれ、千雨達は目が皿になり、裕奈に至っては『なんか見たくねぇもの見ちまった』的な凄い顔になっている。

「ふむ…英雄の息子と最強の戦士よ、君達は嘗てのサウザントマスターと違い、この世界の危機を救う代替案があるようだ。」

「何で脱いだの?ねぇ、何で脱いだの?」

「ヘンタイだからさ…ははは、又してもヘンタイか…」


取り敢えず千雨の精神疲労は半端では無いようだ。

「其れは良い…だが私の見たところ――矢張り我々に歩み寄りの余地は無かろう。
 根本にあるのは『魔法世界崩壊の危機』だが、この場において、其れは本質的な問題ではない。
 そして、私にも悪の秘密組織幹部としての矜持がある故、自らを貫きたくば――拳で語れ。」

ヘンタイかどうかは別として、流石にそこは幹部級の使い手。
独特の印を結ぶと同時に、魔力の影が集い――丸太程の巨大な剛腕となってネギを殴りつけた。

無論それはネギからすれば『見える』スピードの一撃(一般人には目視不可能)であり、ギリギリで点をずらしたが子供の身体では威力を殺しきれない。
勢いに飲まれるように吹き飛ばされ、墓所の一角に激突!

同時に魔力の影はデュナミスを覆い尽くし、巨大な腕を備えたモンスターの様な姿へとその身を変えていた。
身体も一回り程大きくなっているようだが――恐るべきはその能力だろう。

身体が大きくなったにも係わらず、スピードは死んでいない。
その場から消えたと思う程の高速移動で、ネギに追撃を敢行!!


「…高音の影装術と似たようなモノか?…尤も精度と強度が段違いに高いようだが…」

だが、その拳が再びネギを捉える事はなかった。
稼津斗が割って入り、その巨大な拳を片手で止め…そして砕いた。

「ほう…見事なものだ。」

「…厄介だな、再生速度も段違いか。」

しかしその拳も即復活。
デュナミスの影装術は、高音のそれをはるかに上回るものであるらしい。(尤も高音の影装術も魔法世界では超上級レベルではあるのだが。)

「此処は簡単には通さぬぞ?
 このデュナミスの大幹部バトルモードを心行くまで味わってもらおうか。」

更にこの状態では戦闘能力も強化されるらしい――バトルモードとはよく言ったモノだろう。
おまけに…

「まだだ…」

「まだ貴女方の様な平和を謳歌するお気楽者には…」

「負ける訳にいかない!!」

ドーピングしたフェイトガールズが強化完了!
暦は獣化レベルが上がり、四肢がネコ科の猛獣を思わせるものに変わり、肌も漆黒、瞳も肉食獣の其れの様になっている。

環は今までの竜人とは異なる『完全竜化』とも言える姿だ。
身体も野生のドラゴンの如く巨大化し、或は人語が通じるのか疑いたくなるレベル――元が人であったと言っても誰も信じないかもしれない。

唯一焔だけはドーピング強化前と大差ない姿だが、それでも肌は灼熱の炎を思わせる色に変化し、発せられる魔力も強くなっている。

この局面でこの強化。
ラストステージには進ませないと言う気合がありありと伝わって来るし、事実相当に強くなってるのだろう。

だが、敢えて言おう――相手が悪い。

「お気楽者ねぇ……生憎と、私等3−Aの面子は平穏とはかけ離れた、ぶっ飛んだ日常が普通なんだよね〜〜!
 まぁ、そのぶっ飛んだ日常の9割は自分達の手で起こしてるんだけどさ……だからこそ、この程度じゃ揺るがねーわけよ!!」


――ドォォォォン!!!


飛びかかってきた暦を、先ずは裕奈が的確に迎撃。
いや、迎撃しただけではない――そこから正確無比な射撃を連発し、相手の動きを制限する。

だが、それでも所詮は弾幕攻撃。
強化されたフェイトガールズ3人ならば突破出来ないモノではない。

弾幕の間を抜け、飛びかかった暦は――しかし、アキラに攻撃を止められてしまった。

「此処はやらせない!」

「お前は…何処までも邪魔するにゃぁぁぁっぁ!!」

XXへの変身は、まだ第1段階のみのアキラだが、元々の身体のポテンシャルが高いおかげで、ダイオラマ内での修行で急激に力を伸ばしていた。
其れがこの場で遺憾なく発揮されたのだ。

体格では圧倒的にアキラの方が上回っている故に、力比べになったらアキラに分があるだろう。

其れと同時に、焔にはクスハが、環にはイクサが対処している。
イクサとクスハも基本能力はチートレベルに高い者達だ……此れは、少なくともイクサは環を瞬殺しておかしくないだろう。


「馬鹿な!馬鹿にゃ!!強化を施した、我々が――フェイト様直属の私達が手も足も出ないなど…!!

「認めたくないかもしれないけど、此れが現実なんだ…君達では、私達を止める事は出来ない。」


「オノレ…舐めるな!!…環!!」

――――――


認められない、認めたくない――その感情が爆発し、竜化した環が咆哮を上げたその瞬間に、イクサと環、アキラと暦、クスハと焔の姿が消えていた。
環が、己の能力を駆使し、この3人をそれぞれ別の空間に分断したのだ。

「分断――1対1のタイマン勝負に持ち込んだと言う訳か?…だが、其れでは此処での戦力差が大きくなるだけだと思うが…」

分断そのものは悪い手ではない。
だが、其れはあくまでも力量と人数がほぼ拮抗している場合に限る。

力量も人数も圧倒的に劣る状況で、戦力を分断しても、それは分断されなかった戦力を少数で相手にしなくてはならない者が出ると言う事だ。

現実問題として、月詠が刹那だけを狙っている以上、必然的にデュナミスは残る戦力を1人で相手にしなくてはならない事になる。
確かにデュナミスは相当に強いだろうが、分断されなかった戦力は稼津斗とネギに裕奈と亜子とのどかと楓に古菲。
千雨、まき絵、栞の3人は戦闘員としては戦力外通告だとしても、この戦力差は如何ともしがたいものがあるだろう。


「ふむ…此れは中々に追い詰められたが――適当に攻撃を防ぎ、避けるだけならば難しくはないだろう。
 正直、私は君達を倒す必要は全く無い…計画の発動まで君達を止める事が出来れば、その時点で我々の勝利だ。」

「止められると思っているのか?…だとしたらお前は相手の力を見極められない三流以下だなデュナミス。
 お前に俺達を止める事は出来ない。分断された3人もすぐに戻って来る――お前は既に詰んでいるんだ。」

「なに?ぐほあぁぁ!!!!」

其れでもなんとかなると言うデュナミスに、稼津斗の重い一発が炸裂。
影装の上からでもダメージを受ける程の必殺の正拳突き――影装が無ければこの一撃でKOされていただろう。

無論攻め手は此処で止まらない。
古菲のアーティファクトが凄まじい勢いで伸びて追撃!
更に水の精霊と融合した亜子の極大水属性魔法と、楓の翡翠を使った全方向からの殲滅射撃に裕奈の魔砲攻撃!

「此処は押し通ります!!」

〆の一撃とばかりにネギの雷華崩拳が炸裂!…並の相手なら此れで丸1年は病院のベッド生活は確定だろう。


「…流石に頑丈だな?」

「耐久力には自信があるのでな。」

しかし、此れだけの猛攻を受けながらも、バトルモードのデュナミスはほぼ無傷!
圧倒的な影装の強度と再生能力が、ダメージを限界まで軽減したようだ。

「打たれ強さが自慢か?…なら、その耐久力がどれほどか試すとしよう――覚悟は良いな?」


――轟!!


耐久力を誇るなら其れを上回れば問題ない。
即座に稼津斗は『攻撃特化』の状態に、自身を変える。

XXVの状態から、髪の長さは元に戻ったが、その髪は真っ赤に染まり、肌は茶褐色に変化…そしてその眼は鮮血の如く紅く輝いている。


覚醒させたのだ、内に眠る『殺意の波動』を。
総合能力では兎も角、殺意の波動に目覚めた状態ならば攻撃力だけはXXVをも上回る強さを発揮できる。
この圧倒的攻撃力で突破する心算なのだろう。

「掌握!!」

更にネギも雷天双壮の状態から、更なる二重装填で能力を倍加――どころか二乗する。
最強の盾を貫くための矛は、既に用意されていらしい。








――――――








「フェイト様とセクスドゥム様は祭壇に…計画の成就は間もなく…ここまで長かったものだ…」

時同じくして、管制室では調が計画の発動まで秒読み段階であると言う事を確認していた。

黄昏の姫巫女は強烈な眠り薬で眠らせてあるので、その効果を解かれない限り3時間は眠って居る筈だ。
ならばあとは、計画発動まで凌げれば良い――奇しくも考えている事はデュナミスと同じだった。



「…此処が管制室ですか…」

「!!」

だが、その部屋に突然響く声――焔達ではない。
いや、それ以前に調べにとっては忘れる事など出来る筈のない相手の声…


「お前は…!!」

「お久しぶりですね調さん……貴女は此処で抑えさせていただきます!」

拳闘大会開催前に、街でやり合った読心の魔導師――今は稼津斗と共に戦って居る筈ののどかが、澄んだ瞳で調べを睨みつけていた…




















 To Be Continued…