『完全なる世界』への魔法世界住人の強制送還の代替案。
示された其れに、怒りと言っても差支えない気持ちを覚えたのは、他でもないフェイトとセクスドゥムだ。

下層入口の状況は彼等にも伝わっている。
だからこそ、その代替案があると言う事を知り得たのだ。

「失望したよネギ君…代替案などと…」

「そんな物はありはしないわ…」



2人の怒りのような感情を、稼津斗とネギが知る術はない――ないがこの場が連中に筒抜けだと言う事は分かる。
だからそれを利用して、伝える事だけを伝える。


「だが、こう言ってもお前達は納得しないだろう?…立場が逆なら、或は俺だって納得しないだろうからな。
 だから分からせてやる――太古の昔から続く究極の方法、『口で言って分からない奴は殴って分からせる』と言う方法でな。」

「結局はバイオレンスかオイ!…って、まぁアイツら相手じゃまともな話し合いなんぞ出来る訳ねぇか…」

千雨の突込み通り、選ばれたのは究極至極バイオレンスな『会話』方法。

だが、ある意味でフェイトとセクスドゥムに対してこれ以上に効果のある手段は存在していないかもしれない。

「だから、僕とカヅトが其処に着くまでは大人しく待っていろフェイト、セクスドゥム!」

止めとばかりのネギの一喝。
その迫力たるや、10歳の少年のモノではなく、宛ら歴戦の勇士のソレだ。

其れと同時に稼津斗の気と、ネギの魔力が更に強くなり、2人を中心に地面が割れてクレーターが出来上がる。

魔法世界のラストステージは、手加減無用のアルティメットバトルが展開される事だけはどうやら間違いないようだ。











ネギま Story Of XX 114時間目
『最終ステージ攻略開始』











だが、宮殿内部の敵はフェイトとセクスドゥムだけではない。
その代表格が、飛空艇不時着時に現れたザジ・レイニーデイの姉――仮称『ポヨ・レイニーデイ』だ。

「代替案などとふざけた事を――この世界には滅びしか残されていない…だからこそ魔法世界人を『永遠の楽園』に送る必要があるポヨ。
 にも拘らず、其れを否定しありもしない代替案を示すなど、其れこそこの世界に対する無慈悲な破壊に他ならないポヨ!」

彼女も魔法世界人として、この世界の行く末を憂い――その結果としてフェイト達に与することになった。
ザジが選んだ道とはまるで違うが、彼女にはこれこそが正解の道だったのだろう。

「確かにお前の言う通りかもしれないが…だが、何故魔法世界を救う手段がその1つしかないと決め付ける?
 あらゆる事象がそうだがな、1つの事柄には無限に分岐する『無限可能性』と言うものがある。
 その無限の可能性の中には、幾つもの『成功手段』が隠されているんだぞ?
 其れの発掘を行わずに最も短絡的な手段を行う――果たして無慈悲な破壊を撒き散らしているのは何方なんだろうな?」

「!!」

稼津斗の鋭い突込みにポヨも息がつまる……それだけ稼津斗の指摘は的を射た的確なモノだったのだ。
救済手段の限定化と、其れに固執した『救済活動』…其れを稼津斗とネギが見逃すはずはなかった。

「道を開けろ……お前は相手との力量差を見極める事が出来ない馬鹿ではないだろう?」

「…確かにそうポヨ…だが、矢張り貴方達の代替案は受け入れられない!
 お前達も、今ここで朽ちれば生きる事で発生するあらゆる枷から解放される…消えると良いポヨ!!」

だが、話し合いは予想通りに決裂!
ポヨは隠していた頭部の角を顕わにし、更にアーティファクトとは違う巨大な攻撃用召喚ユニットを展開して来た。

無論この程度の相手の攻撃ならば、稼津斗とネギにとっては準備運動にもならないだろう――但し背後に控える仲間達が居なければだが。

『夢』に捕らわれた仲間達は未だ目覚めていない。
起きていれば防御や回避も出来るだろうが、グッスリ夢の世界に居るのでは其れは不可能だろう。

「聞く耳持たずか?まぁ、期待してはいなかったが……良いだろう、この新たな力の試運転には丁度良さそうだ。」

「ほざけポヨ!!」

放たれた巨大な魔力砲撃!
砲撃の大きさならば覇王翔哮拳に匹敵、破壊力も小型戦艦の主砲位はあるかも知れない。

幾ら稼津斗とネギでも此れほどの攻撃は防御したとしても、まぁ全くの無傷では済まない筈だ。
だが2人に避ける気配はない……当然だ、避けたら攻撃は後ろに控える仲間や飛空艇を直撃してしまうのだから。

防御のために手をかざしたのと、砲撃が着弾するのは略同時!
着弾時の衝撃は凄いが、少なくとも2人が吹き飛んだと言う事は無いだろう。後ろに下がっていた千雨が無事なのだから。

いや、粉塵が晴れると攻撃は稼津斗とネギにまで届いていない。
其れよりも少しだけ手前で止められていた――目を覚ましたパートナー達の手によって!


「皆さん!!」

「やっと起きたか寝坊助。…俺とネギも人の事は言えないけれどな。」

「稼津斗殿、ネギ坊主…遅れてスマヌ!!」

しかもただ目覚めただけではない、稼津斗のパートナー達は全員が総督府で覚醒したXXの第2段階に変身しての御目覚めだ。
形勢逆転、そう言って差し支えないだろう。

「ポヨヨ?先生が目覚めた事でタガが緩んだポヨか…」

「いや…『完全なる世界』、実に恐ろしい術だったよ――幸せと言う麻薬は如何なる脅迫や拷問にも勝るとはよく言ったものさ。」

「…あ〜〜〜、お揚げ美味しかった♪」

まぁ、御多分に漏れず全員それなりに良い夢を見ていたようだ。
刹那の顔が真っ赤になっている理由はきっと聞いてはいけない事なのだろう、そうなのだろう。

其れは其れとして、目覚めたのは彼女達だけではない。
あすなも、そして船に残ったメンバーも全員が目を覚ましている。

「やれやれ、全員目覚めてしまったポヨ――けど計画の邪魔はさせないポヨ。
 まとめて送るポヨ。今度こそは二度と目覚めぬ『完全なる世界』に…」

術は解けたが、だからと言ってポヨも退かない。
その身の魔力を完全開放し、今度は先程よりももっと強力な術を掛ける心算だろう。

解放された魔力の力は並ではない。
肌に物理的振動を感じる程の強さであり、実際彼女の足元の地面はその力の影響で割れている。

「…稼津斗にぃ、此処は私に任せて上層に。」

「真名?」

「ラスボスを倒すのは主役の役目だろう?
 主役のパートナーの…特に私みたいなタイプは、ラストダンジョンの入り口に現れた中ボスを足止めする役が丁度良い。」

そのポヨを止める役に真名が名乗りを上げ、同時に何かのスイッチを作動させ、瓦礫のあちこちから地雷のようなユニットが多数現れる。
跳躍型の地雷壁のようだが何時の間に設置したのか?

兎に角それが降り注いだら流石に堪らないだろう。
ポヨは其れを迎撃するが――


――ミシィ!!!


「ポ……!」

破裂させた瞬間に凄まじい重力が襲い掛かってきた――其れこそ並の一般人だったらペシャンコになるくらいの凄まじい圧力が。

「油断したな?超鈴音特製の重力地雷さ。突入前に渡されてね。
 効果はほんの数秒だが――お前には50倍の重力がかかる!」


――ガン!ガン!!ガァァン!!!


其れは凄まじいまでの重力兵器。
幾ら魔族と言えど50倍もの重力を受ければ動く事は簡単ではない。
まして、重力が地球の40%程度しかない火星の人造異界で生きてきた者には余計にだ。

その隙を逃さずにスナイパーライフルを連射し足元を崩す。

「分かった…任せるぞ真名!」

「あぁ!稼津斗にぃもやる事キッチリやって、ラスボスを倒してくれ。」

其れだけ言うと、真名は足場が崩れて出来た大穴に飛び込みポヨを追う。
稼津斗も『任せる』以外には何も言わない……真名を信頼しているから多くを言う必要もないのだ。

そして真名も稼津斗に任された以上、ポヨを此処から動かす気など毛頭ない。

落下しながらもポヨを捕捉し、正確に弾丸を撃ち込んでいく。

「やるポヨね、巫女スナイパー龍宮真名!
 だが、君は知って居る筈だ、救いのない世界と言うモノを!どんなに頑張っても変えられぬ世界があると言う事を!!
 其れを知って居ながら、なぜお前は彼らに加担するポヨ?現実を知っている君が其れで良いポヨか!?」

「あぁ…確かに私は救いのない世界と言うもを知っているさ――そういう世界で最初の契約主を失ったわけだからね。
 だが、其れを知っている私ですら、稼津斗にぃの言葉は無条件で信じてみたくなるのさ。」

ポヨの言葉にも動じない。
現実を知って尚、信じるに値する理想――稼津斗の、そしてネギの言葉には其れをさせるだけの説得力があるのだ。

理屈ではない。

「其れにだ…自分が惚れた最高の男の言葉を信じずに、一体何を信じろと言うんだ?」

話しながら更に連射!
今度の銃弾は普通ではない――ポヨに着弾する前に不思議な空間が弾ける特殊弾だ。

「此れは学園祭で超鈴音が使った…!」

「強制時間跳躍弾だが、私のとっておきは其れだけではないぞ?」
――全解放は5年ぶりだが…この相手なら不足はあるまい。


其れは時間跳躍弾。
ヒットした相手を数時間先の未来に飛ばすと言う反則ギリギリの効果を持った弾丸だ。

更に真名の切り札は此れだけではない。
左目の魔眼に力を集中すると、その姿が変わり始めた。

XXの第2形態から更にだ。

髪は淡く光った乳白色となり、左目には魔力の白い炎が揺らめき、腰の辺りからは蝙蝠の羽を思わせる翼が生えている。

「その魔眼…その姿…お前はまさか…!!」

「あぁ、半魔族さ。」

解放したのだ、己の中に眠る魔族の血を。
半魔族と魔族が主役の戦闘劇の第一幕にして最終幕の開始である――








――――――








先行した稼津斗達はメンバーが増えていた。
此れはハルナの独断だが、2機の飛空艇に残るのは修理と最低限の戦闘が出来る人員に限定し、残りは突入組に変更したのだ。
結果、稼津斗組は全員が突入組になり、ネギ組からは古菲とまき絵が追加。
更にさよと、アリアドネ―乙女騎士団からユエとビーが追加され、戦力層は更に分厚くなったと言えるだろう。

「まぁ、当初の計画とは違ってフライマンタまで突入した以上は、ある意味で此方の方が理に適った布陣か。
 とは言え、人質救出班は少数で動く必要があるから大多数は俺とネギの『造物主の掟』奪取班になる。
 敵戦力との正面戦闘が予想されるが――

「うん!大丈夫!!」

突入組追加メンバーにも迷いはない。

いざ突撃!

ネギ君、ちょっといい?

「ハルナさん?」

と言うところで、ハルナからカードを使っての念話通信が入った。
何か問題でも起きたのだろうか?

助け出す人質の事なんだけどさ……その中には『本物』のアスナも含まれているのよね?

「!!」

そうではなかった――其れは確認だったのだ。
果たしてどこで気付いたかは分からない…或はハルナだから気が付いたのか…
何にせよ、ハルナはあすながアスナでない事には気が付いているようだ。

「…はい。」

やっぱしね…ま、ネギ君が了解してんならいーや。後で聞かせてよ。ま、気を付けてね♪

だが、だからと言って其れをとやかく言うつもりはない…本当に只の確認だったようだ。
同時にそこに内包された『本物のアスナを助け出してくれ』と言うメッセージもネギは感じ取った。


負けられない理由がまた1つ増えたようだが、今更だ。

本より負ける心算も退く心算もないのだから。

「それじゃあまぁ…行くか!!」

「応!!」

今度こそ突撃!
その先陣を切るのは稼津斗とネギと小太郎の『蒼き翼』の最強野郎衆!

凄まじいスピードで回廊を駆けて行く。
身体能力的に追いつかない者は、亜子がアーティファクトから出した魔力ドリンクで能力を底上げする事で対応している。

「この先に立坑が…」

「ある筈だが、そう簡単に通れるはずもないな。」

その進行方向に現れたのは召喚魔。
しかもその内の1体は『造物主の掟』を装備している厄介な相手だ。

「造物主の掟を!!」

「大丈夫、蹴散らします!!
 ラス・テル・マ・スキル マギステル、魔法の射手・連弾 雷の199矢!!」

其れに対しネギは200近い魔法の矢を放つが、其れはあろうことか掻き消える。
今のネギの魔法がだ。

如何にも造物主の掟を持つ相手に遠距離攻撃は効果が薄いらしい。
が、遠距離が効きにくいなら接近戦で撃滅するだけ。

ネギの魔法の矢と同時に稼津斗と小太郎が敵の懐に入り込み、

爆閃衝!!

剛爆拳!!

重爆近接攻撃で一・撃・粉・砕!!
更に!!

「まだ来るか……覇ぁぁぁぁあぁ!!無闇神楽ぁ!!」

雷華崩拳!!

狗音爆砕拳!!

追加で現れた敵も鎧袖一触!!
余りにも強い。それこそ後ろのメンバーの出番がないほどに。

恐らく億の召喚魔を投入したとて、この一団を止める事など不可能だろう。








――――――








そして、この光景を見ているのはフェイト達だけではない。
捕らわれの身であるアスナとアーニャも、あてがわれた部屋のモニターでこの状況を見ていた。

「あ〜〜〜!!もうネギの奴何なのよ!!カッコいいけど似合わない!
 助けに来てくれるのは分かるんだけど……何て言うか悔しい!そう、悔しいのよ!!何時の間にかあんなに強くなって〜〜!!」


「…幼馴染の感情は複雑ね。」

アーニャは色々と複雑であるようだ。

「はぁ……馬鹿みたい――あいつ、多分もうナギと同じくらい強いわよ。」

「え?」

「アスナも気付いてるんでしょ?…アイツはその力でアスナを助けに来るのよ。
 そんでその序でで世界も救っちゃう心算よ多分。…ナギもそうだったんじゃない?」

唐突なアーニャの言葉。
其れと同時にアスナの脳裏には20年前の事が思い出されていた。

自分を助け出してくれたナギ。
テキトーを絵にかいたような人物であり、事実テキトーで自分では解決出来なかった問題は後の世界に丸投げする気満々だった。

其れでも自分を助け出してくれたことに変わりはない。
そしてその背を追っていたネギ。

何時の頃からか『父親を探し出す理由』が大幅に変わってしまったが、それでも前を向いて走り続けたネギ。

明日菜であった頃は鬱陶しいとすら思ったガキんちょだった。
だが、本来ならばそれでいい筈だったのだ。

其れなのに只只管に前を向いて歩み続け、挙句には闇の力にまで手を出して…

「馬鹿…」

自然と涙が溢れた。

「どれだけ頑張れば気が済むのよネギ……
 マッタク…馬鹿な弟を持つ姉の気苦労を少し位は察しなさい――でも、ありがとうネギ…」

其処までして来てくれるのが嬉しかった。
事実アスナの救出は、ネギにとってフェイトとの決着と同等以上の事柄だ。

もっと言うなら、フェイトを倒せないなら未だしも、アスナを救出できなかったら、麻帆良に戻った際にエヴァンジェリンからお仕置きは確実。


だが、其れを抜きにして、全力を尽くして自分を助けようとしてくれている事が、アスナには堪らなく嬉しかった。


波導掌!!

鶴打頂肘!!


そんなアスナの思いに呼応するかの如く、画面の向こうではネギが稼津斗と共に数十体の召喚魔を葬り去っていた――




















 To Be Continued…