墓守の神殿に突入した稼津斗達の前に現れたのは、無口な外国人生徒『ザジ・レイニーデイ』。
だが、稼津斗も、そして真名の攻撃を中断させたネギも――いや、この場の全員が同様に思っていた…『有り得ない』と。

普通に考えれば当然だ。
彼女はこのイギリス旅行には参加せずに、麻帆良に残ったはずなのだ。

よしんば個人で来たとしても、ゲートポートはタカミチ到着直後に閉じているので、その前に来ているのならば真名が見逃してはいない。

「外見は――いや、気もよく似ているがお前は何者だ?」

「ポヨポヨポヨ…おかしい事を言うねカヅト先生。」

「何がオカシイ?俺の気配察知の異常さは知っているんだろう?
 お前はレイニーデイ本人じゃない…が、真っ赤な他人でもない……家族、親族の類か?」

「其処まで分かるのか?矢張り侮れないポヨね…」

更に稼津斗の気配察知からよく似た別人であることは明白。
尤もみょうちくりんな喋り方からして怪しさ爆発なのだが。

「この場に及んで、私達のクラスメイトを語る貴様は何者だ?」

「何者でも良いでござろう真名――拙者等の前に立ちはだかるのは敵に他ならぬ。」

「それ以前に、私達の仲間を語るなどそれだけで極刑だ。」


――轟!!


稼津斗組選抜はXXに変身し、クスハも九尾を解放。
ネギも雷天双壮を維持し、刹那も烏族を解放。

墓守の神殿での意外な相手とのファーストバトルは、回避は不可能だろう。
尤も、今の稼津斗達に、立ち塞がる敵を回避して進むかと問えば、その答えは満場一致で『否』ではあるのだが…











ネギま Story Of XX 113時間目
『完全なる世界…?』











「選べ、レイニーデイの偽物。
 今ここで俺達とやりあってボロボロにされるか、其れとも大人しく退いて俺達に道を開けるかをな。」

其れでも最後の選択肢を与えてやるのは優しさか、或はどっちに転んでも負けはしないと言う絶対の自信の表れか。
なんにせよ、この面子に正面切って戦いを挑んでも、勝率は著しく低い――と言うか、限りなく0だ。0.001%でもあれば上出来と言えるだろう。

其れだけの戦力差があるのだ。

にも拘らずザジ(?)は口元の笑みを消さない。

「ポヨポヨポヨ、後者を選ぶはずがないと言うのは、貴方が良く分かっているだろうカヅト先生。
 私は此処を退かない――となれば砕いて進むしかないポヨよ?」

「ま、だろうとは思ったけどさ。
 てか、そっちの方が分かり易くていいぜ!最終ダンジョン攻略前の準備運動ってところよ!来なさい偽ザジ!!」

道を開ける心算は矢張りないらしい……となれば戦うのみ。
一同臨戦態勢をとるが…


「果たして勝てるかな?アーティファクト『幻灯のサーカス』。」

飛びかかるよりも早く、ザジ(?)がアーティファクトを発動し…そして、光に包まれた。








――――――








「?」

眩しい光を感じて、稼津斗は目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光が、顔に当たったのだろう。


――?此処は?


「っはよ〜〜!起きてる稼津兄ちゃん!!」

其処に飛び込んできたのは天真爛漫を絵にかいたような少女だ。

「!!」
――美汐…そんな馬鹿な…!!


その少女は稼津斗には、とても見覚えのある、懐かしい存在でった――そう、もう2度と会う事が出来ない、自分の妹だったのだ。

「どったの稼津兄ちゃん?寝ぼけてる?」

「馬鹿を言うな、俺が寝惚ける筈がないだろう――お前の朝からのハイテンションに、少々中てられただけだ。」

思わず、記憶にある通りの反応を返してしまう。

此れは一体何なのだろうか?
余りにも現実感がありすぎるこの光景――或はこれまでの事が夢だったのか…そう思えてしまうくらいの現実感があるのだ。

「アタシのハイテンションは何時もの事でしょ?
 てかさ、ほら起きて!朝ごはん出来てるから早く食べよう?稼津兄ちゃん、今日は大学1限からだったでしょ?」

「ん?あぁ、そう言えばそうだったな。…着替えていくから先に行っていてくれ。」

「りょ〜〜かい♪」


――一体何が起きたって言うんだ…


分からない。
だが、何かが起きていることだけは理解できる。

その疑問を感じつつ、稼津斗は身支度を終えリビングに。
其処には、食欲をそそる香りを放つ朝食が用意されていた。

そして、其れを作った母の姿も。

「おはよう稼津、よく眠れた?」

「おはよう、母さん――まぁ、疲れが残らない程度には眠れたさ。アレ、親父は?」

「また出かけたわ…今度はどこに行ったのやら…」

「…いつも思うんだが、母さん…なんで親父と結婚したんだ?」

ありふれた日常の風景……だが、だからこそ触れ合いながらも稼津斗の中の疑問と疑念は大きくなっていく。



有り得ないのだこの光景はもう。
滅んだ世界での失われた日常――稼津斗が最も護りたくて、そして守れなかった幸せ、其れが此処にあるのだ。


「其れはあの人に惚れたからよ〜〜♪
 それにあの人と結婚したからこそ、稼津と美汐も此処にいるのよ?そう考えれば何も不思議はないでしょう?」

「あぁ、そうだな……だが、此れは――夢なんだろう?」

瞬間、稼津斗の母と妹は石像めいて固まった。
稼津斗の視線の先にはザジの姿が。

「はい、その通りですカヅト先生。――ですが完全な夢幻ではなく、此れもまた1つの現実…」

「これが…連中の最終目的――消えた魔法世界人が送られる『完全なる世界』だと言う事か…」

「此れは『彼女』のアーティファクトが作り出した幻想であり、ほぼ同じものと言えますが、此れが『完全なる世界』と考えてもらっていいでしょう。」

ザジが『彼女』のアーティファクトカードを掲げると同時に2人の身体がふわりと宙に浮く。
稼津斗は飛行術『無影・疾風』は使っていないし、何より稼津斗を強制的に魔力で強制的に浮かせるとなると半端ではない力が必要になる。
奇しくもこれが、この空間が幻想であると言う事を如実に示していた。

「こんな都合のいい夢が…?」

「只の都合のいい夢ではありません。
 此れは有り得たかもしれない幸福な現実、最善の可能世界、先生の場合は…『19歳の時に謎の組織に拉致されなければ』――こうなります。」

「!!」

そして、幻想世界の真実。
捕らわれた者に対しての『最も幸福な世界』を提供すると言う、ある種馬鹿げたような性能。

だが、馬鹿にも出来ない――この光景は、確かに一度は稼津斗の手からすり抜けてしまった世界なのだから。

「図書館島地下での先生の話からの推測ですが――先生が謎の組織に捕まらなければ、彼等の研究は成功例が出ずに頓挫。
 成功例が出なければ、其処から先の研究も出来ず、ミュータントが世界に溢れ出る事もない。
 そうなれば、世界が滅びに向かう事はなくなり、先生も次元転送装置の影響でこの世界に来ることもない。
 つまりここは先生にとっての敵…『滅び』が訪れない世界。武闘家として己を純粋に高める事のみが出来た世界です。」

「………『俺の場合』と言ったな?矢張り個人で違うものなのか?」

そして『この世界』は『稼津斗の場合』と言うのが気になる。
発動時の光から見て、恐らくは突入者は略全てがこの幻想世界に捕らわれてしまったと考えていいだろう。

だが、そうなると他の仲間は如何なる世界に…

「えぇ、他の皆さんにも体験していただいています…お見せしましょう。」

ザジが指を鳴らすと景色が一変し、其処は稼津斗が住んでいる一軒家の寝室だ。

「俺?と言う事は、俺のパートナーの誰かだが…」


「稼津兄〜〜」

「ん?…和美か…」

幻想の稼津斗が目を覚ます…どうやらこれは和美が見ている幻想であるらしいが…

「「色々と待て!!」」

現実と幻想、2人の稼津斗の声が思わずハモった。
何故か?………それは幻想世界の和美が所謂『裸エプロン』であったから。

「寝ぼけてるのかお前!取り敢えずちゃんと服を着ろ!」

「え〜〜、私と稼津兄の仲じゃん〜〜♪昨日だってあんなに激しく…」

「捏造をするな捏造を!断じて俺は手を出して居ないからな?」



「……なんだこれは、此れが完全なる世界?と言うか和美よ、お前の脳内は意外とピンクなのか?そうなのか?

「すみません、場面が悪かったようです。」

何やらトンでもない物を見た気がするが、此れで個人で見る幻想は違うと言う事は分かった。
景色は再び稼津斗の幻想に戻るが、今度は幻想に捕らわれた者の世界が、至る所に浮いている。

「『完全なる世界』は各人の願望や後悔から計算した、最も幸福な世界を提供します。
 人生のどの時期であるかも自由…死もなく幸福に満ちた暖かい世界――此れは見ようによっては『永遠の楽園』の実現と言えますね?」

「確かにな…だが、此れは矢張り現実じゃない――所詮は中身のない幻想に過ぎないだろう。
 俺は…余りにも多くを失ったが故に、この世界が再生されるのは理解できるが、同時にこれを夢だと認識する事も出来る…」

だが、所詮は幻想は幻想であり現実ではない。
まして、死もなく永遠の幸福な幻想など、其れは時が経てば苦痛の怠惰に成り果てる。
800年超と言う、時を生きてきた稼津斗には、死が訪れないと言う辛さも理解できるから尚更のことだ。

「えぇ、貴方はそうでしょう――そして彼女達もまたこんなものは必要ない。
 此れが仮に彼女達が求めた未来だとしても、其れは『完全なる世界(こんなもの)』が無くても僅かな勇気1つで掴める世界でしょう。」

「…お前は一体…」

其れを知っているかのように、そして抜け出すヒントまで提示するザジに、稼津斗は多少の戸惑いを見せる。
そう、あまりにも知りすぎているのだ。

「其れよりも、良いんですかカヅト先生?
 この世界は、今後貴方がどれだけ願い、力を駆使しようとも二度と手にすることのできない幸福なのですよ?」

だが、その問いには答えずに、逆に『この世界を手放していいのか』と問いてくる。
確かにここで戻れば、この幸福な楽園は二度と手にする事は出来ないだろう――

しかし、稼津斗は黙って首を横に振り『必要ない』と言う意を示す。
既に答えは決まっているのだ。

「俺に、幻想の幸福など必要ない――確かに此れは俺が望み、そして護れなかった後悔から生まれた幻想の楽園なんだろう。
 だが、今の俺にはあいつ等が…亜子が、裕奈が、和美が、アキラが、真名が、楓が、のどかが、イクサが、クスハが居る。
 俺と共に永劫の未来を歩む事を決めてくれた大事なパートナー達…其れだけで充分だ。
 それに――この世界は800年以上も前の事…取り戻すにはあまりにも遠すぎる過去だからな。」

「…強がりを…」

「かもな…だが、1つだけ分かった事がある――人の記憶って言うのは、自分が思っている以上に正確だってな。
 800年以上経ってるにも拘らず、この世界に現れた母さんと美汐は、俺の記憶に残っている姿そのままだったよ。」

「そうですか…」

本当にこの幻想に対する未練はないのだろう。
稼津斗の強い意志を聞いて、ザジもニヒルな笑みを浮かべる――まるで『この人達ならば大丈夫だ』と確認するように。

「では…」

「あぁ…俺は何時だって、立ち塞がる『壁』はこの拳で砕いて来た。
 連中が俺達の前に立ち塞がると言うなら、俺もネギも、いや、この場に突入した全員が其れを砕いて先に進むだけだ。」

「ふふ…成程、貴方が人を引き付ける理由が分かった気がします。
 …外で待つのは私の姉です――姉は手強いですので…気を付けてください。」

「…矢張りあいつはお前の親類だったのか…」

そして現実世界に現れたザジ(?)の正体を告げ、ザジ本人は幻想世界からフェードアウトを始める。

「…麻帆良で委員長さん達と帰りを待っていますよ…カヅト先生。」

「…なら、精々派手な出迎えを期待しているよ、レイニーデイ。」

ザジが幻想空間から消え、残ったのは稼津斗のみ。
その稼津斗も、この世界から脱出すべく気を高める。


――我儘を言うなら親父にも会いたかったが、しょっちゅう『修行だ』とか言って放浪してたからなぁ…流石に無理だったか。
   まぁ良い――母さん、美汐…会えて嬉しかったよ――俺は俺の世界に戻る…今の俺が生きるべき世界に!!


――轟!!!


気が炸裂し、稼津斗はXXに変身。
だが、その姿はXX2ndとも異なる。

銀色の髪は腰のあたりまで伸び、髪形も略オールバックと言って良い状態で、纏う稲妻オーラも蒼と銀が入り混じっている。


進化したのだ、この幻想世界で。
そして――


「覇ぁぁぁぁあっぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!!!!!!」

咆哮と共に光が弾け、幻想世界を包み込んでいった――








――――――








その頃、現実世界では唯一夢に捕らわれなかった千雨が…

「起きろ龍宮!!テメェはプロなんだろ!?こんなもんにやられてんじゃねえ!目を覚ましやがれ!!」

真名を起こそうと、その頬を叩いていた。

世界広しと言えど、其れこそ地球と魔法世界の全人口を合わせても、真名に往復ビンタ喰らわせられるのは千雨くらいかもしれない。

だが、其れでも真名は目覚めない。
いや、真名だけではない――夢に捕らわれた者は誰1人として目を覚ます気配がないのだ。

「無駄ポヨ…此れに捕らわれたが最後、脱出する術はないポヨ。
 尤も、術式の関係上、リア充には聞きづらいのが難点ポヨがね。」

「は?」

事の成り行きを見ていたザジ姉が声を掛けて来るが、その内容に千雨は目が点になった。
リア充には効き辛い、効果が薄い…と言う事はつまり、この状況下で夢に捕らわれていない千雨は『リア充』と言う事になるのだが…

「待てコラ!!それじゃあ何か!?私はリア充ってか?
 っておかしいだろ!!自分で言うのもなんだが、私は世間的に見れば『ガチ引きこもりのネット廃人』つっても過言じゃねえ!
 寧ろ『非リア充』の代表者みたいな存在だ!それが――

「と、思ってるのは本人だけで、実は今の生活は意外と満たされているのではないかポヨ?」

「んだとぉ!?………って、改めて言われると否定できねぇ!!
 こいつ等との異常で非日常的な修行やら何やらの日々は、確かに引き籠りやってた時より満ち足りてる〜〜!!?」

リア充でした。
無自覚恐るべし…だが、ザジ姉に迷いはない。

「まぁ、力ずくで落とすと言う方法もあるポヨ。」

爪を伸ばし、千雨を狩らんとする。
ハッキリ言えばピンチだ。

千雨のアーティファクトは戦闘には全く向かない上に、千雨の戦闘力も決して高くはない。

普通ならゲームエンドの状況だが、千雨の顔には笑みが浮かんでいた。

「力ずくねぇ…悪い手じゃねぇと思うが…お前、稼津斗先生とネギ先生をちっと舐めすぎじゃねぇのか?」

みれば、瓦礫に突っ伏していた稼津斗とネギの姿が無い。


千雨には分かっていたのだ――稼津斗とネギが幻想に捕らわれたままに成る事などありえないと。
無敵の3−A担任と副担任は屈しないと。


「ったく、もう少し目覚め良くしてくれよな先生!」

「すみません千雨さん。」

「少しばかり寝坊したようだ。」


「馬鹿な…!」


稼津斗とネギは幻想空間から戻ってきていたのだ。
ネギは雷天双壮、稼津斗はXXの新たな姿で、それぞれ魔力の剣と気で作った剣をザジ姉に突き付けている。

「…成程、我が妹の手引きか…!」

「らしいな…少なくともレイニーデイは俺達の味方であるらしい!」

ザジ姉の伸ばした爪が2つの剣と交差し、火花を散らす。
雷鳴が轟き、この場はあっという間に戦場に早変わりだ。


「やれやれ…この世界はいずれ滅びる――フェイト達の計画のみが其れを救う唯一無二の手段であると言うのになぜそれを止める?
 君達のしていることは、この世界から救いを奪い去り、絶望を与える行為に他ならないポヨよ?」

「滅びか…何故未来をその1つに限定する?」

「?」

「いや、総督殿の話を考えれば、それ以外の道は無かったんだろうな――今までは。
 だが、和美の計算によれば、その滅びとやらが始まるのは9年と6ヶ月後……それだけあれば十分だ。」

戦いながらも、滅びの道しかないと決め込んでいることに疑問を投げかけるのは忘れない。
だが、稼津斗とネギには滅びからの回避案として『完全なる世界』への封印以外の代替案があるのだ。


そして、9年6ヶ月と言う時間があれば、其れは可能であった。


「フェイト、セクスドゥム、この光景は見ているんだろう?聞け!!」

何処で見ているかもわからない2人のアーウェルンクスに対し、稼津斗は一喝。
その迫力たるや、大気を振るわせるほど強い。

「君達の望み通り、僕はフェイトと、カヅトはセクスドゥムと戦ってやる…だが聞け!!
 全ての元凶は、不可避とされてる『魔法世界の崩壊』の未来にある。」

「だが、俺達には其れを止める手立てがある。」

そしてネギと共に告げられた一言。
其れは唯一無二の手段を否定し、それに代わるより有効的な手段があると言う事の提示であった。



















 To Be Continued…