「何処から入り込んだかは知らないが、奇襲は失敗に終わったな月詠。」

何処からともなく現れた月詠の奇襲を妨害し、更にそれを片手絞首釣りにしている稼津斗はあくまで冷静だ。
だが、その内心は穏やかではない。

己の仲間を『木偶』と呼んで斬り殺そうとしたその行為は万死に値するのだ。
自然と、月詠の首を掴んでいる手にも力が入る。


が、結構呼吸が苦しくなっているにも拘らず月詠の顔には更なる『狂喜の笑み』が浮かんでいた。
この場に最強の相手が、最も斬り甲斐のある相手が現れた事が嬉しくて仕方ないのだ。


――来ましたな稼津斗はん………斬魔剣・弐の太刀!!


自由の利く腕で、剣を回転させる形で弐の太刀を放ち稼津斗の腕を切断するとするが――稼津斗は無傷!

いや、正確には無傷ではない。
上着の袖はバッチリ斬られている……が、腕は何ともない。
完全切断を上回るスピードで斬られた部分が再生しているのだ――恐るべきオリハルコンの再生能力である。

「その程度の技で俺を斬る心算か?…悪いがお前の剣などクルトの剣の半分の威力も無いようだな。」

正に圧倒的。
『人を斬り殺す』事に特化した月詠の剣も、稼津斗の前にはマッタク無力であるようだ。










ネギま Story Of XX 112時間目
『突撃せよ、その宮殿に』











だが、其処は日々人を殺す事だけを延々と考えている月詠。
剣が効かないと分かるや否や、今度は勢いよく膝を持ち上げ、其れを稼津斗の肘に叩き付ける。

「!!」

如何に稼津斗と言えど、鍛えても鍛えようのない関節をダイレクトに攻撃されれば一瞬力は緩むし、当然肘には強打した時特有の強い痺れが起こる。
そしてそれこそが月詠にとっては絶好の好機。

「神鳴裂蹴斬・弐の太刀!!」

僅かに緩んだ拘束から抜け出すと、鋭い蹴りを放って稼津斗を甲板の端にまで蹴り飛ばす。
そして最も手近にいたユエを引き寄せ、刀を顔のギリギリまで寄せる――要するに人質を取ったような格好だ。

「流石ですなぁ稼津斗はん――京都の時以上の強さや。
 やけど、ちょっと甘いんちゃいますか?私を絞首釣りにした瞬間に首へし折ってれば、こないな事にはならなかった筈です〜〜。
 アンタは確かに強いけど、鬼になりきれんようですなぁ?いっそ『殺意の波動』とやらを暴走させたらどうです?
 うふふふ…それともこの子を斬れば出してもらえますやろか?…生身の人間斬るのも『向こうに送る』目的やったら許可されてますからなぁ?」

一瞬の逆転が巧く行った事で、月詠は『1人くらいは斬り殺せる』と思ったのだろう。
だが、其れは大きな間違いだ。

「其れが出来ると思うのか?」

「ユエは斬らせません――ううん、ユエだけじゃない。
 この船とジョニーさんの船に乗ってる私達の仲間を、誰1人として貴女なんかに斬らせはしません!!」

蹴り飛ばした筈の稼津斗が何時の間にか背後に移動してきており、更にはのどかまで背後に。
蹴り飛ばされはしたものの、軽量級の月詠のとっさの蹴りなど稼津斗には大したダメージにはならない。

残像が残るほどのスピードで月詠の背後に移動したのだ。
勿論のどかも、それに合わせるように月詠の背後に――正に以心伝心である。

「何時の間に…!!」

「遅い!!」

とっさに振り向くが、その動きは雷化したネギのスピードと比べれば止まっているようなモノだ。
先程の礼とばかりに、月詠の手首に手刀を喰らわせて、その手から刀を放させる。

そしてその刀をのどかが拾い――

斬岩剣!!

神鳴流の技を一閃!!
のどかは自身のアーティファクトと、遺跡で手に入れた魔法具の効果の併用で如何なる技でも一度見れば完璧にコピーする事が出来る。
元々、麻帆良では日常的にネギ達と一緒に修行していたが、故にその際に刹那が使った神鳴流の技は一通り覚えている。

覚えているならば、必要な武器さえあれば其れを使用することなど造作もない事だ、のどかにとっては。


「馬鹿な…!!」

「戦闘中に余所見とは随分と余裕だが――その隙は死と敗北に繋がると言う事をその身をもって知れ。」

其れでも己が使うのと同系の技だったので月詠もぎりぎりで躱すが、のどかの攻撃を躱したとてそれとは別に稼津斗が居る。
回避行動後の一瞬の隙を見逃さずに掌底でボディを打ち抜く!

余りの威力に月詠の身体は『くの字』に折れ曲がるが、其処では終わらず今度は背後に回って裏拳一閃!
更に、回し蹴り!水面蹴り!!龍より実戦の中で教わった中空二段蹴り『尖爪』!

この連続攻撃で、月詠の身体は大きく浮き上がり――そして今度は重力に従い落ちてくる。

「覇ぁぁぁぁ……無闇神楽!!」

その落下途中に最大級の一撃が炸裂!
落下途中で受け身も防御も出来ない月詠は、其れを喰らって宛ら弾丸の如き勢いで吹き飛んでいく。

その勢いたるや、周囲に点在する浮遊岩を1つ、2つ、3つ、4つ貫通してもまだ止まらない。
5つ目の小島程度の大きさの浮遊岩に激突して漸く止まったほどだ。

「……京都の時に実力差は教えてやった筈だが――分かってなかったみたいだな。
 いや、それ以前に人を斬り殺す享楽に溺れ、魔道と下道に落ちた狂人相手に一般論など通じる筈もなかったか。」

自身もその浮遊岩に瞬間移動し、月詠を見下ろす。
此れだけの力の差を見せつけられたにも拘らず、満身創痍で月詠が浮かべているのは恍惚とした笑み。
或は常時精神が肉体を凌駕した状態にでもあると言うか――満身創痍とも言える状態ながらその眼の狂気と狂喜は依然薄れていない。

「あはは…素敵ですわぁ稼津斗はん…セクスドゥムはんが執心するのも納得ですえ〜〜…それにこの強さも…
 アカン…稼津斗はんとの本気の殺し合いを想像するだけでウチ――はぁん…もうたまりまへん。
 きっとネギ君も『美味しそう』に育ってるんでっしゃろうな〜……そして、刹那先輩もきっと…」

「あくまで人斬りである事は変わらないか……まぁ、人を殺すことに享楽を覚え、相手との実力差を無視している奴はどの道長生き出来ん。」

稼津斗は止めを刺すつもりだったのだろうが、その気も失せたらしい。
目の前の『此れ』は態々手を汚す価値もない――何れ何処かで、殺人享楽に溺れた末の末路が待っていると実感したのだろう。

だが、月詠はそうは考えない。
自分の相手は刹那、セクスドゥムの相手は稼津斗、フェイトの相手はネギと、そう割り切ったようだ。

「そうそう、セクスドゥムはんから伝言や――『宮殿で待ってる』との事ですえ?
 良いですなぁ稼津斗はん、モテモテで…少し妬けますわぁ〜〜…とは言っても其処に辿り着けるかどうかは、また別問題ですけどなぁ?」
――造物主の掟!!


「なに!?」

不意打ちと言うなら、正に不意打ちだろう。
陰陽術の転移符でも使ったのだろうか?月詠の手には『造物主の掟』が!
其れもフェイトとセクスドゥムがラカンを下したのに使ったのと同じ『グレートマスターキー』だ。

「ほな、生きてたら宮殿で会いまひょ――億鬼夜行!!」


――ドドドドドドドドドド…!!!


その能力にモノを言わせて行ったのは、正に『億』とも言える物量の大量の魔物の大召喚!
完全ある物量作戦!常軌を逸した人海戦術!!質より量ですがななにか?と言わんばかりの数の暴力による総攻撃だ。

其れに紛れる形で月詠は姿を消してしまった。
追跡は可能だが、今は其れをしている場合ではない。

《稼津斗、如何した!?》

《敵方の奇襲だイクサ!とんでもない数で来てくれた……兎に角こいつ等を片付けない事には神殿にも入れない――予定よりもだいぶ早いがやるぞ!》

《了解だ。》

念話で連絡を取ってきたイクサに状況を伝え、即座に戦闘態勢に。
いや、恐らくはグレートパル様号でもフライマンタでもこの膨大な数の敵の出現は感知しているだろう。

その証拠に…

「いやぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」

「どぉっせい!!!」

「撃ち貫け!」


楓、裕奈、イクサの3人が先発隊宜しく敵の迎撃に乗り出し、真名と亜子は2隻の船に張り付いて固定砲台として敵を殲滅開始!

同時にネギも雷天双壮を展開し、敵に対抗!

「全てを相手にしようとするなネギ!進行の邪魔になる奴だけ潰せ――撃ち漏らしは楓達が処理してくれる。」

「カヅト…うん、分かった!!」

億鬼夜行――その名に恥じない物量は、如何に稼津斗とネギでも全てを捌ききれるものではない。
だが、だからと言って焦る事もない。

撃ち漏らしは頼れる、そして信頼する仲間が処理してくれるのだから。
あくまでも目的は仲間の救出と鍵の奪取であり、その為には何が何でも『墓守の宮殿』に突入せねばならない。

逆に言うなら、突入すれば『何とかなる』のだ。
だから、全ての敵は倒さない――進路が確保できればそれでいいのだ。


其れで問題はない。
稼津斗とネギの撃ち漏らしは、楓達と、烏族を解放した刹那が処理するし、其れを掻い潜った者は、船に張り付いて戦って居る者に倒されるだけだ。


尤も、グレートマスターキーは1本だけとは言え此方にあるのだから、其れを使えばいいと思うだろうがそうも行かない。
1本しかないから使うに使えないのだ。

確かにグレートマスターキーを使えば、この大量の魔物を露と消すことは可能だ。
だが、此れだけの物量を相手にした場合、撃ち損じた魔物にそれを奪われる可能性はゼロではない。

其れを避けるために、敢えて使わないのだ。
まぁ、使わずとも『どうにか対処できる』メンバーだから出来る事ではあるだろう。








――――――








だが、如何にこの2隻が無双状態だろうとも、クルト達はそうではない。

「数…最低でも50万だと!?…く、半数以上が魔法世界人で構成された混成軍では勝ち目が薄い…!」

「あぁ…しかもこの光景はまるで20年前の――クルト、僕は表に出て可能な限りの迎撃を行う。
 君は全ての艦隊に一斉攻撃の指示を!!」

「其れしかない…頼むぞタカミチ、少しでも奴らを潰してくれ――近接戦に持ち込まれたら艦隊は崩壊だ。」

「ふ、任せておけ!」

半数が魔法世界人である、この混成艦隊では造物主の鍵の簡易版を持つ魔物には対抗手段がない。
タカミチが甲板に出て、居合拳で潰したとしても全てを撃墜することは不可能だ。


だがしかし!!


『ども〜〜!!こちら蒼き翼の早乙女ハルナっす!!
 此れから我がグレートパル様号と、フライマンタ・ジョニー号は、敵の本拠地に向けて突撃予定!!
 つきましては、そちら自慢の艦隊主砲の一斉照射お願いしても良いですかね〜〜!?このままだと突入に時間かかりそうなので!!』


最強の協力者がいるのだ。
その協力者からの通信――言っていることは無茶苦茶だが、何と頼りになる物言いだろうか?

言われた通りにして巧く行く確証など何処にもないが、それでも『やる価値あり』と思わせるだけの勢いと強さが其処にはあった。


「敵の本拠地に――分かりました、君達の案に乗りましょう!
 聞いた通りです、テオドラ皇女、セラス総長、リカード議員――奴らに一泡吹かせてやりましょう。」

『ふ…いいじゃろ!妾は新しき世代の言葉を信じる!総員に告ぐ、全艦隊主砲発射用意!!』

『いいねぇ…嬢ちゃんの言葉、乗らせてもらうぜ!!』

『それに、現状を考えて
――それ以外の策はないでしょうし。』


其れこそ、オスティアの提督、ヘラスの皇女、アリアドネ―の総長、メガロメセンブリアの元老議員を突き動かすまでにだ。


「ハルナと言ったか?ネギと稼津斗によろしくの。」

『了解っすよ、皇女様!!』

「うむ!…全艦隊照準!目標、敵魔物群!!全艦隊、主砲――てぇぇぇ!!!!」


テオドラの号令と共に放たれた、100に近い艦隊の主砲一斉掃射!!
其れはまるで極太の光の砲撃ともいうべき一発!!

凄まじい威力は、召喚された魔物を飲み込みそして消していく。
稼津斗とネギが無視し、艦隊戦闘組から逃れた者も、此れでTHE ENDだろう。


「うっしゃーーー!突っ込むわよぉ!!!」

その一瞬――魔物が消えた刹那の瞬間をハルナもジョニーも見逃さない。
アクセル全開で一気に加速し、最上部から神殿への突入を試みる――が、此処で最大級の魔物出現!

此れにかまけていたら、その間に新たな魔物が出現して行く手を阻むだろう――並の連中なら。


「邪魔だ…覇王翔哮拳!!」

雷華崩拳!!

あいにくとこの一団は常識なんてものを宇宙の彼方に置き去りにしてきた連中の集まりだ。
最終ダンジョン前の中ボスなど、試し斬りの相手にもならない。

稼津斗の最強気功波と、ネギの最強拳打をまともに喰らい、巨大魔物もダウン!寧ろ粉砕されて消滅だ。


「早乙女、そのまま突っ込め!突撃の衝撃は俺とネギで抑える!!」

『そのまま?合点だい!!皆確り捕まっててよ?いっくわよぉぉぉ!!!!』


流石に超巨大サイズを連続多量召喚は出来ないのだろう。
その僅かなタイムラグを狙って2隻は迷わず特攻!!

如何に凪いだ状態のようだとは言え、最上部の魔力もまた濃い。
凪いでいるどころか、バリアーがないだけで、最上部付近も濃密な魔力が暴風の如く吹き荒れている。

「絶気障!!」

其れに破壊されないように稼津斗が気の障壁を張り、2隻を包み込む。
だが、障壁では吹き荒れる魔力の風の流れを殺すことまでは出来ない。


「ハルナ、此処から先は迎撃用の石杭が雨あられと降って来るわ。」

「アスナ!?…にゃろ…稼津っちが防いでくれてるとは言え――えぇい、どの道まともに着陸なんかできねーんだから、このまま不時着よ!!」


――ドドドドドドドドド!!


更にあすなの言う通りに発射される石杭。
稼津斗の絶気障を貫く強さはないが、それでもその衝撃で機体制御は難しくなる。

『防御陣に包まれているから』と割り切り、殆ど墜落に近い不時着を選択したハルナの決断は、或は英断としてもいいかもしれない。


事実、この特攻とも言える突入での怪我人はゼロ。
予定と違い、ジョニーのフライマンタまで此処に来てしまったが、予想していた『安全な宙域』がない現状ではある意味で良かったかもしれない。


「取り敢えず入り込んだが――早乙女、船の状況は?」

『結構きついかも…こりゃ再起動に40分はかかるね。』

『こっちも似たような状況だぜ。』


だが無茶は無茶であった。
如何に機体は無事とは言っても完全ノーダメージではない。
まして、防御陣に包まれているからと言って常識無視の突撃を敢行したのだ、船に不具合が出ても不思議ではない。


「分かった――だが、あまり時間はないから、俺達は予定通り宮殿内に入る。」

とは言っても時間がない。
此処は予定通りの人員で、宮殿内部に入るのが得策だ。


なので稼津斗組選抜の真名、イクサ、楓、裕奈、のどか、クスハと、ネギ組選抜のあすな、刹那、木乃香、千雨と小太郎と夏美は宮殿内に。
この面子ならそうそう負ける事もないだろう――と、そう思っていたのだが…


――カラン…


「む?止まれ!!!」

突入で崩れた下層の入り口の瓦礫に、人影が――其れを見た真名はすぐさま迎撃態勢だ。


「待ってください龍宮さん!!」

「なぜだネギ君?敵の本拠地である以上、此処で会うのは敵しかいないだろう?」


全く持ってそのとおりだ。
此処は敵の本拠地――救出対象でなければ、現れるのは極論を言えば全て敵であることに他ならない。

非情と思うだろうが、甘かった故にやられたのでは笑い話にもならないのだ。
だから、真名のこの行動は間違いではない。


だが、この場合はネギがとめたのは正解だったようだ。
なぜなら、瓦礫の向こうから現れたのは、この場の3−Aメンバーなら全員が知っている人だったのだから…


「お久しぶりですね、稼津斗先生、ネギ先生…」

「レイニーデイ!?」

「ザジさん!?」



現れたのは、無口・無表情に定評のある外国人生徒――ザジ・レイニーデイその人であった。

















 To Be Continued…