一応の目的を果たした稼津斗達は、ダイオラマから現実世界に帰還。
都合5時間が経過した訳だが、現実世界でも進展はあったのだろう。


「おかえり稼津兄、ネギ君!」

「待たせたな。状況はどうだ?」

「色々分かったよ?でもそれはあとで――取り敢えずオスティアから通信が入ってるさね。」

「オスティアから?」

待っていたのはオスティアからの通信。
総督府での一件以来、まるっきり状況不明のオスティアから通信とは、タカミチが何やらやらかしてくれたのあろうか?

『やぁ、ネギ君、稼津斗君…丈夫…か…
 …るいね、周囲の魔素が…ていで……通信状況が…まり…くなくて…整中だ。』

画面の向こうに現れたのはタカミチ。
通信状況はあまり宜しくないのか、言葉は途切れ途切れだが、言わんとしてることを理解できるレベルなので問題はないだろう。

「無事だったかタカミチ…ん?後ろに居るのは…」

其れよりも気になったのはタカミチの後ろにいる人物。
特徴的な髪形に、これまた特徴的なコートは…

「クルトさん!?」

『…不本意ながら協力して事に当たることになりました…』

クルト・ゲーデルである。
よく見れば、クルトもタカミチもボッコボコである…文字通り『拳で語り合った』のだろう。

『多くを語らずとも、そこに居る君達なら、連中が何かを始めたのがわかるでしょう?
 観測される魔力の総量から推定できるのは…20年前のアレの再現とみて間違いない。
 先程の君達と私の話では、10年あるいは100年単位の危機でしたが、これは数時間から数十時間単位での危機の話。
 この事態に対し、連合、帝国、アリアドネ―全ての戦力が手を結び、混成部隊を編成してそちらに移動中です。
 ありていに言って
――此れは世界の危機です。』

そして発せられたのは、予想していたが…その予想の中でも最悪の状況を決定する一言であった。










ネギま Story Of XX 111時間目
『最終目標攻略計画』











『世界の危機――ですが君達には既にお気づきでしょうが、ごく一部を除いて我々の戦力は彼らに全く歯が立ちません。』

更に最悪なのは、純然たる『地球出身者』以外は連中に対して一切無力であると言う事。
『造物主の掟』を有する完全なる世界に、魔法世界の住人は全く無力なのだ。

『アノ』ジャック・ラカンが塵芥同然に葬られた事を考えれば其れは容易に想像できるだろう。

『先行している君達は、『我々』の貴重な戦力です――言っている意味はお分かりですね?
 …虫が良いと思うでしょうが、力を貸して頂きたい、稼津斗君、ネギ君
――この通りです。』

本当に如何しようもないのだろう。
画面の向こうのクルトは、稼津斗達に向かって頭を下げる。

其処に、総督府で見たような偽悪的な態度は感じられない。
あるのは、真にこの世界の行く末を憂い、そして救いたいと思う、魔法世界の総督の姿だけだ。


『騙されるなよ稼津斗君、ネギ君。
 コイツが殊勝な態度に出るときは、決まって何か裏があるに決まってるんだ。』

『黙れタカミチ!この期に及んで裏をかく意味があるか!!』


其処にタカミチの鋭い突込みが入るが、クルトもそれに脊髄反射的に反応。
タカミチとクルトも、古い付き合いらしくガチで仲が悪いわけではなく、腐れ縁の幼馴染と言った間柄なのだろう。

「…分かった、だが少し時間をくれるか?」

「僕達は、そもそも夏季休暇を利用して旅行中の学生の集団で、この世界の住人でもないんです。
 もっと言うなら、ゲートポートの事故に巻き込まれて此処に居る人達も一緒なんです。
 ちゃんとした説明も同意もなく、全員を巻き込むことはしたくない……皆に説明する時間をいただいていいでしょうか?」

事の重大さは重々承知故、その協力要請を断ることはない。
偽悪的な仮面を脱ぎ去った、クルトの態度も大きいだろう。

だが、だからと言って即刻突入と言うのも憚られる。
蒼き翼の面々は兎も角、桜子、まき絵、夏美の3名は巻き込まれただけに過ぎない。
しかもその3人は何がどうなってどんな状況なのかは恐らく良く分かっていないだろう。

また、説明に加え現状確認と行動指針を決定する意味でも皆に話をする時間は必要なのだ。

「…良いでしょう。」

クルトも『ノー』とは言わない。
如何に稼津斗達が強くとも、全員の意志が纏まってなければ意味はないのだから。








――――――








「と、言う訳で――総督附の脱出から、知らない間に何やら極めて面倒な事態に発展しているらしい。」

話が済み次第また連絡すると言って、一度クルトとの通信を切り、稼津斗とネギは一行をグレートパル様号の甲板に集め、事態の説明をした。
あまり時間は無いので、要点を掻い摘んでのザックリとした説明ではあったが『兎に角大変な事態』と言うのは分かっただろう。

「ですが、僕達の目的はあくまでアーニャの救出と『造物主の掟・最後の鍵』の奪取にあります。
 何より『最後の鍵』の奪取は、結果として敵の野望の阻止に繋がりますし、何よりも消されてしまった人達を取り戻す事が出来ます。」

だが、あくまで目的は捕らわれた仲間の救出と『鍵』の奪取であると言う事は変わらない。

因みにアーニャ1人に限定したのは、ルーナが再び『あすな』に変身しているからである。
此れは『あすな=ルーナ』を知らない者達に余計な混乱を与えないようにするため。

結果としては時間がない現状で面倒な説明を省けることになったので良かっただろう。


「ええんとちゃうか?恩人助け出して、その序でで世界救っても罰は当たらへんやろ?」

目的を改めて浮き彫りにしても何も問題はない。
結局やることは変わらないし、それをする事が世界の危機を救うと言うのならば、小太郎の言うように罰は当たらないだろう。

それに何より、事に当たるのが麻帆良の、其れも女子中等部3−Aがメインなのだ。
怯える?引き下がる?そんな事がある筈がない!

「けど、遂に来たね?来ちゃったね『世界の危機』〜〜!!」

「正直シャレになってないけど、魔法世界大冒険ストーリーのラストにはピッタリの展開!!
 突入して仲間助けて盗るもの盗って、ラスボス倒して世界の危機救って、皆で地球に帰還のエンドが待ってるっての!!」

シャレにならない状況とは重々承知しても、其れは其れとしてテンションが上がるのがこの面子!
そもそも、危機に直面したからと言って、焦って堂々巡りの問答繰り返しても何も解決等しない事を皆知っている。
『悩む暇があるならまず行動しろ!』此れが3−Aの基本行動方針なのだ。


「でもさ、何で『今』なんだろう?タイミング悪いよね?」

だが、それでも疑問は有る。
狙ったようなこのタイミングは、最悪レベルの悪さだ。

その答えは簡単なのだが……説明は出来ない。
アスナが敵の手に落ちた事を知っているのは、このメンバーの中でもダイオラマ内であすなの変身が解けたのを見た者だけなのだから。

「良く分からねーが、悪の組織とやらにも色々事情があんだろ!
 そんな事より、今大事なのは本題だ、茶々丸頼む!」

「はい。」

其れを知ってる千雨が、半ば強引に話題を本題に切り替え、全員の意識を其方に集中させる。
見事な誘導の仕方だ。

「和美、早乙女、説明を頼む。」

「OK稼津兄、この5時間の全力の観測の結果を見てよ。」

超製の光学モニターが起動し、そこに和美とハルナの5時間の観測の成果が映し出される。
敵の本拠地である墓守の宮殿と、最終目的地である廃棄されたゲートポートと旧オスティア市街地の拡大図。

そして、現在の自分達との位置関係が正確にそこに映し出されている。

「アーニャちゃんのバッジの反応があるのは此処『墓守の宮殿』よ。
 敵の幹部連中も多分ここに居る――要は私達の最終攻略目標ね。
 で、目的果たしたら皆で一緒にゲートポートからトンズラって寸法よ!」

「そら分かりやすいけど…パル姉ちゃん、旧オスティアとゲートポートと宮殿全体を覆ってる白い膜はなんやねん?」

その映像で気になるのは目的地全体を覆っている白い光の膜。
まぁ、適地を覆う光の膜となれば大体の場合予想はつくのだが…

「此れ?
 膨大な魔力で編まれた、超広域、超高密度の積層多重魔法障壁――まぁ、平たく言えばバリアーよ。」

「「「「「「バリアー!?」」」」」」

「計算したところ、連合艦隊の主砲も効きません。
 稼津斗先生とリンフォースさんが変身して、覇王翔哮拳とスターライトブレイカーを放ったとしても破壊には至らないかと。」

其れは予想通りバリアーであった――其れも恐ろしく頑丈な。
XXに変身した稼津斗の覇王翔哮拳と、イクサのスターライトブレイカーの同時照射でも破壊不可能とは恐るべき頑丈さだ。

だがそれは同時に、侵入不可を意味するものでもある。
最強が放つ最強の一撃でも破壊できないとなると、打つ手はないだろう。



普通ならば。


「…その件ですけれどもパルナさん、その一番上の部分からするっと入り込めますわよ?」

「へ?此処?」

進入路を提示したのはあすな、基ルーナだ。
姿こそアスナになっているが、思考や人格はルーナのままなのだ。

「そこは台風の目のように魔力が凪いでいるので障壁もないのです。本来は極秘事項ですが。

それ故に入り口はバッチリ分かる。
フェイトガールズ『だった』ルーナを無自覚とは言え落としたネギの功績は大きいだろう。

だがしかし、あすな=ルーナを知らない連中からすれば『何でアスナがそんな事知ってるの!?』と言う事になる。
事実、まき絵や夏美なんかは訝しげな視線をあすなに送っている。

コラ…ちょっと…

「ひぇ?あ、はい、すいません。」

協力してくれるのは良いけど、完全に怪しまれてるわ…変わるわよ?

「スイマセン、つい。」

でも良いの、言っても?極秘事項なんでしょう?

「其れは悩んだ末の結論ですので…今変わりますので暫しお待ちを…」

そんなルーナにちょっとお説教かましたのは、アーティファクトで作られた『アスナの人格』。
怪しまれてるから変われと言うが、これまたちょっと妙な光景になっている。

アスナの人格とルーナは話しているのだが、アスナの人格の声はルーナ以外には聞こえないのだ。
そうなるとそれを見ている者には、あすながぼそぼそ誰かと話しているようにしか思えない訳で…

「アスナさん…?」

「ちょっ、大丈夫…?どなたとおしゃべりを…

頭がおかしくなったかと心配してしまうのだ。

「…何でもないわ、大丈夫よ。
 真上からなら入れるけど、乱流で危険だから注意して…其れから宮殿には上からよりも下から入ったほうが安全らしいわ。」

程なく人格交代がなされたが、今の流れは痛い。

「でんぱなの?」

「電波じゃないわ。確かな筋からの情報よ。

完全に『でんぱ』扱いされていた。
そうではないのだが、さっきのアレはどう見てもそうにしか思えないのだ。

「嘘つけ〜〜!明らかに妖精さんと会話してたじゃん!!」

「アスナがおかしくなっちゃった〜〜!!」

「おかしくなってないわよ?」

「いえ、その妖精さんの情報は信頼できます。」

「「「マジで!?」」」

「大マジです。」

小規模な暴走が起きたが、それを止めたのはネギ。
やや強引ではあるが、目元に『キラン』と音がしそうなくらいの真剣な表情で言われては、其れは信じるしかないくらいの説得力がある。

「少々、アスナがトリップしたようだが、今のをまとめるとこうなる。
 1.バリアを突破して神殿に突入
 2.警備の薄い下層から神殿内部に侵入
 3.アンナ・ココロウァの救出
 4.『最後の鍵』の奪取
 5.ゲートポートから脱出して地球へ
 難易度は低くないが、やる事は至ってシンプルだし、このメンバーならやってできない事じゃないだろう。」

更に稼津斗がそれを簡潔にまとめる。
確かに決して低い難易度ではないが、攻略できない訳でもない。

「でもこうしてみると漫画やアニメぽいな〜〜?死亡遊戯とかそんな感じや〜〜。

「それだぁぁ!!」

そして此処で更にテンションを上げる一言が木乃香から。

「きっとこんな感じで待ち受けてるに違いないわ!!」

其処から発展してハルナが映像に、想像図を追加。
それによると…

第一の部屋:時空ノーパンコンビ(暦&環)
第二の部屋:殺人音波娘&爆炎短気娘(調&焔)
第三の部屋:ヘンタイ人斬りメガネ(月詠)
第四の部屋:強いおっさん(デュナミス)
最上階:フェイト&セクスドゥム


と言う予想。

「おいコラいくらなんでもベタ過ぎるだろ!!ガチで死亡遊戯かよ!!ブルース・リー連れて来いってか!?

「いや、以外にあるかも知れんぞ?経験から言って…

取り敢えず全く無いとも言えないようだ。

「その予想は兎も角として、状況が状況だ――全体を4つの隊に分ける。」

其れは其れとして、作戦会議は続く。(状況説明は終わったので作戦会議と言っていいだろう。)

「1.比較的安全な空域で待機するジョニーさんのフライマンタ。
 2.宮殿周辺で滞空し、脱出路を確保するグレートパル様号。
 3.宮殿突入隊A。作戦目標其の一『アーニャの救出』。
 4.宮殿突入隊B。作戦目標其の二『最後の鍵奪取』。
 メンバー構成は配ったプリントの通りです――意見や要望があれば言ってください。」

「作戦は30分後…総督殿との通信後すぐだ、各自準備をしておいてくれ。」

そして決まった行動方針。
残るは最後の号令のみ!!

「そいじゃあ稼津兄、ラストバトルに向けてバッチリ決めてくれっかい?」

「俺が?」

「やっぱここは一番の年長者が決めるべきでしょ?」

「成程な。」

その号令は和美からの指名で稼津斗に。
確かにこの面子の中で一番の年長者である稼津斗の号令が一番効果があるだろう。

指名された稼津斗も、一息吐き…

「This is The Final Battle!
 この戦い、必ず勝つ!勝たなきゃならない!!俺達の全力を連中に叩き込む――行くぞ!!」

「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」」

今ここに、最強の一団が完成した。








――――――








「説明は終わった、全面的に協力するぞ総督殿。」

――其れは良かった…では、具体的な作戦連携について……』

ブリッジでは、総督府との通信で、協力すると言う事をクルトに伝えていた。

また他の場所でも、作戦を前に皆思い思いに過ごしている。


そんな中で表情がすぐれないのはアリアドネ―乙女騎士団のベアトリクスだ。
矢張り不安が拭えないのだろう。

「大丈夫だよビー。」

「ええ、きっと成功するです。」

そんなベアトリクスにコレットとユエもはっぱをかける。
其れにベアトリクスも少しばかり気分が楽になったようだ。


「きっと上手くいくよ…だからさ、此れが全部終わったら委員長も連れて日本に行こうよ?
 その時は案内してね、ユエ、ノドカ?」

「!!…はい、必ず。」

コレットも作戦の成功を信じて前を見ている。
其れを微笑ましく見ているのどかだが…


――ゾクリ…


「!?」

唐突にとても嫌な悪寒を感じた。


――ゴゴゴゴゴ…


その原因は月詠。

何処から現れたのか、甲板の柵に立ち狂気の笑みを浮かべている。

いや――『狂喜』と言うべきだろうか?
その顔に浮かぶのは、誰に咎められる事もなく、己の殺人欲求を満たせる事への悦びがありありと浮かんでいる。

「コレットさん!!」

「木偶から送りまひょか…♪」

のどかが叫ぶが遅い。

月詠とコレットの距離はあまりにも近いのだ。
のどかが全力を出しても、月詠がコレットを斬り捨てる方が早いだろう。


――バキィィン!!


だが、凶刃がコレットを斬り付ける刹那、その刀が砕け散った。

「!?」


――ガシィィ!!


「アガ…!!」

其れを行ったのは稼津斗だ。
突如現れた月詠の『濁った気配』を感じ取り、瞬間移動でやってきたのだ。

「あ…がぐ……」

刀を砕き、更には月詠の首っ玉を掴んでの片手絞首吊り。

「俺の仲間に手出しはさせん…と言うか何処から湧いた、殺人狂が…」

月詠の奇襲は失敗。
だが月詠が現れたと言う事は、つまり敵の一派もいると言う事になる。


予想していたよりも可成り早いが――魔法世界最終決戦の幕が上がったようだ。
















 To Be Continued…