ネギの治療はまだ続いている。
果たして今までにどれだけコピーエヴァに氷漬けにされたのか、最早数えるのも面倒になるほどだ。

だが、それだけの事をして尚、ネギは闇の魔法の暴走を抑えるに至っていない。


――ネギよ…そろそろタイムアップが近いぞ?まだ見つけられんのか答えを…!
   このままではお前は心無き化け物に成り果ててしまう――そんな事は私も、我がオリジナルも望んではいないぞ…!


自然とコピーエヴァにも焦りが生まれてくる。
このままではネギは真に化け物となり、そして戻れなくなるだろう。

そんな事は誰も望んでいない。
だが、時間はそろそろ限界に近付いている。

ダイオラマが使えるのはあと2日。
ネギならば抑えるはずだと信じていても、残り時間が少なくなれば不安が大きくなるのもまた事実。

『もしも』『まさか』を考えてしまうのは仕方のないことだ。

「ガァァァァァァァァ!!!」

「ちぃ!!」


――カキィィン!!


残り時間は少ないが、又しても暴走ネギを封じ込めた氷の柱が一丁上がりであった。










ネギま Story Of XX 110時間目
『闇の力を制御せよ!』











「此れは、純粋な治療以外にも別の一手が必要かもしれん…」

取り敢えずネギを抑えたコピーエヴァは、闇を抑えるには強制暴走での戦闘以外にも別の手が必要だと言う事を痛感していた。

恐らくネギも、深層心理では闇を抑える方法を理解しているだろう。
だが、表層意識でそれを認識していない、出来ていないと言う極めて面倒で難儀な状態なのだ。

正直、深層心理の感情を、表層意識に理解させるのは簡単ではない。
そうなるとそれを意識させるための別の一手が必要なわけで…

「ふむ…或はこれは起爆剤になるかも知れんな。
 おい、椎名桜子、佐々木まき絵、貴様等ネギと仮契約しろ。」

「「は!?」」

それは予想の斜め上を行く方法であった。

「ネギは自分が護るべきものが多ければ多いだけ、その力を増す奴だ。
 貴様等と契約すれば、ネギの力は更に強くなり、或は其処から闇を制御する術を見いだせるやもしれん。
 それにだ、貴様等とてネギとの仮契約は吝かではないのだろう?特に佐々木まき絵よ。」

「!!!」

更にその矛先に晒されたまき絵は瞬間沸騰!
まき絵もまたネギに惹かれている1人だ。

仮契約を持ち掛けられて断る選択肢はないのだろう。

「ふははははは!!分かりやすい奴だ!まぁ、ネギが魅力的な奴だと言う事には諸手を挙げて賛成してやる。
 だが、忘れるな……ネギの正妻の地位は我がオリジナルのモノであると言う事を!!」

だが、それをして尚、釘を刺すのは忘れない。
エヴァンジェリンのネギ愛は相当に深いらしい……まぁ、千雨が『さっさと結婚しちまえ』と言うほどだから相当だろう。

まぁ、ネギが復活したら仮契約となるのは先ず間違いないだろう。








――――――








同刻、墓守の宮殿の一室で、フェイトとセクスドゥムは、何と言うか『ボケ〜〜』っとしていた。
この2人のこんな姿はハッキリ言って珍しい…と言うか今までなかった事だ。

心此処に在らずと言うのか、兎に角、覇気が感じられないのだ。

「「……………」」

2人の胸に去来しているのはラカンの言葉だ。
『真実なんざ俺には何の意味もねぇ。』『だが楽しかったろ?もちっと楽しめや。』…数々の言葉が胸に突き刺さっていた。


――ドスッ!


其処に突き立てられる刃。
フェイトの首ギリギリの位置に、柱に突き立てれた刃……言うまでもなく月詠の仕業だ。

「…何か用かな月詠さん?」

「貴女みたいのと話す気分じゃないんだけれどね…」

「いやなぁ、大事な作戦の前や言うのに、御二人とも随分と腑抜けているように見えたんで、ちょっと興味……いえいえ心配になりましてなぁ?
 千の刃のジャック・ラカンとの戦闘で何やあらはったんですか?」

「「…………」」

沈黙。
答える気がないのか、それとも答えを持ち合わせていないのか…だが、其れも月詠には如何でも良い事だ。

今の彼女にとって大事なのは、フェイトとセクスドゥムが自分の琴線に触れたと言う事だけだ。

「何事にも興味のなさそうな御二人が…『人形』の言葉に心でも動かされはったんで?」

「…悪いけどそういう話なら私達は…」

「うふふ…戦いの技も腑抜けていなければ――えぇんですが!!」


――バキィィイン!!



一閃!
フェイトの首、セクスドゥムの胴を両断するように柱に刺した刃を振り抜く。
2人ともそれを避ける事はしないが…


――ゴトリ

――パシャン…



跳ばされた筈のフェイトの首は石像であり、セクスドゥムは大量の水へと姿を変えた。
月詠の攻撃の前に、既に身代わりと入れ替わっていたのだ。恐ろしいまでのスピードである。

「何を勘違いしてるか知らないけど、私達も彼と同じ人形よ。所詮は計画を進めるための駒――心などないわ。」

「そうおすか?」

瞬時に間合いを空け、しかし月詠の顔はすでに恍惚としたものになっている。
斬り甲斐がある獲物を見つけた――そう言わんばかりの顔だ。

「今まで見たこのない表情ですえ?ウチ好みの心の揺れ…フフフ自分で気づかりまへんか?
 ウチ…初めて御二人に興味持ちましたわ――木偶人形やったら切ってもしゃーないけど、今のアンタ等は別、斬り甲斐ありそうや♪」

更に異常快楽殺人者の証とも言うべき瞳の反転…間違いなく月詠はヤル気だ。
本より彼女に仲間意識などない――フェイト達に協力しているのも自分の快楽殺人欲求を満たすためだけなのだ。

「快楽殺人者とはよく言ったのもだわ…でもいいわ、付き合ってあげる。」

「どうせ作戦の最終段階まで僕達は暇だからね。」

瞬間、飛び交う無数の石の剣。
普通ならこの物量だけで切り裂かれ、貫かれて終わりだろうが、そこは魔道に堕ちても退魔の神鳴流。
難なく全ての石の剣を粉砕だ。

「神鳴流は鉄をも斬ります、石が得意なフェイトはんとは相性悪いんと違います?」

返す刀でフェイトを斬り付けるがそれは大量の砂に阻まれる。

「僕は『地』のアーウェルンクス。ジャック・ラカンは微妙に間違えて覚えていたけど…得意が石だけとは思わないことだ。
 加えて僕は1人じゃない…まぁ、僕と彼女が他のアーウェルンクスに先駆けて覚醒させられたのはこの辺もあるんだろうけど…」

「『地』と『水』は相性が良いのよ?」

「!!」

そして今度はその砂が、セクスドゥムの水と混ざって土砂となって月詠を襲う。
砂は斬れず、土砂は刀を飲み込み破壊する…

水と地の属性は合わさると恐るべき強さを発揮するのだ。

「ハハハ!確かに砂は斬れへんし、泥や土砂を無理に切ろうとしたら刀は折れてしまいますわ。
 けど…やっぱり幾らかムキになってますなぁ?隠してもウチには分かりますえ?心がない?ウフフフフ…素直になったほうがえぇんと違います?
 フェイトはんはネギ君、セクスドゥムはんは稼津斗はんおすか?」

「「…………」」

その問いには答えない。
代わりに打ち出されるのは無数の石の剣と水の槍。
それは月詠を貫くが…


――ポンッ


それは身代わりの人型。

「ほぉら、やっぱり図星や♪」

次の瞬間、フェイトの左腕とセクスドゥムの右腕が斬り飛ばされた。

「ふぅん…それなりに実力はあるわけだ…」

「斬魔剣弐の太刀…我が剣の前には如何なる防御も無意味ですえ?
 それに執心を誤魔化しても無駄ですえ?ウチの大好物…見逃すはずがない。」

「執心?」

「あらあらあら…可愛らしいこと。自我の芽生えた幼子を愛でる慈母の気持ちや。
 まぁ、えぇです。そう言うことでしたら――ネギ君と稼津斗はんはウチがもらいます…かまへんでしょう?」

全てを見透かしたような月詠だが…それは禁句であった。

「月詠さん、それはいけない…」

「それは認められないわ…」

「へ?」


――轟!ドガバァァァァァァァァァァァァン!!!


息つく暇もなく、部屋の…否、神殿の塔の一本に亀裂が走り吹き飛んだのだ。
やったのは言うまでもなくフェイトとセクスドゥム。

2人の周囲には石の剣と水の槍が展開されている。

「彼とは僕がやる…」

「氷薙稼津斗は私の相手よ…」

其処にあるのは強い意志だ。
2人ともお目当ての相手との戦いは他の誰にも譲る気はないらしい。

「フフフ…漸く素直になりましたなぁ?そう、それや。人間素直が一番ですえ?
 なんにしても腑抜けが治ってなによりや。そっちのほうが、ウチは好きや…ほな♪」

何がしたかったのか一切不明だが、取り敢えずは満足したのだろう。
陰陽術を使って月詠はその場から離脱。

残されたフェイトとセクスドゥムは…

「よく分からない奴ね、相変わらず…」

「あぁ…でもある意味では彼女の言う通りかもしれない。
 僕達は主の夢想を叶える道具だが…僕にとってはネギ君との戦いが、君にとっては氷薙稼津斗との戦いこそが最大の望みだ。」

「そうかもしれないわね…」

奇しくも月詠によって、自らの望みが浮き彫りにされていた。



尚、騒ぎを聞きつけたフェイトガールズがこの場に駆けつけ、腕が切り落とされた二人を見て一騒動あったのは言うまでもない…








――――――








時の流れの異なるダイオラマでも、そろそろタイムリミットが近づいていた。
ネギの治療は相変わらず続いているが、其れとは別に、この間にまき絵と桜子が新たにネギの従者になっていた。

浜辺では2人が自身のアーティファクトの性能を試しているところだ。

また、それと並行して、

「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


――轟!!


稼津斗が仮にではあるが支配下に置いた2つの闇パワーを使いこなすための訓練をしていた。
激しくスパークするエネルギーに浅黒く染まった肌と真っ赤な髪と眼。
殺意の波動に目覚めたときの姿が其処にはある。

「…支配下に置いても、力を使うとこの状態になるわけか…」

だが、理性を失っていないあたりで制御しているのだとわかる。
尤も、それで居て尚、鬼の如き外見への変化は止めようがないらしいが。

「まぁ、完全に制御下に置けば此れも何とかなるだろうが…ネギのほうは大丈夫か?」

自分のほうは取り敢えずは何とかなったが、ネギは未だ難しいようだ。




「ガァァアッァァァァァ!!!」

「雷天大壮か…その新技術はいくら賞賛しても褒め足りないが、其れも獣の心で使っては意味がないな!」

魔獣と化したネギは、自身の最強戦術をもってして挑むも、コピーエヴァには通じない。
全てが読まれ、そして迎撃されてしまうのだ。

「ぐぅぅぅ!!」

更に『巨神ころし』を放って攻撃の機会を作ろうとするが其れも通じない。
山一つを吹き飛ばす威力だが、コピーエヴァは余裕綽々。

「やれやれ…残念だがタイムリミットだ。
 我がオリジナルは、どうやら読み違えたようだな…お前に闇の制御は不可能だったようだ…」

ついにタイムリミット。
だが、実はネギは暴走状態にあって…深層心理にはネギの本来の心が生きていた。


――そうだ…これじゃあダメなんだ。
   この力は敵を屈服させるための力だけど…敵って何だ?フェイトは何をしようとしてた?そして僕は?


その考えとは裏腹に、暴走した肉体は本能のままに攻撃を仕掛ける。
無論それは通じず、躱され、いなされて投げ飛ばされるのがオチだ。

それでも雷速瞬動で死角からの攻撃を仕掛けるが、其れも防がれる。


今度は蹴り飛ばされる中で…ネギの頭に思い浮かんだのは仲間達の言葉だ。


――そうだ…


其処で何かに気付いた。
再度雷速瞬動からの一撃が…今度は入った!

其れでも流石のコピーエヴァ。
それにカウンターの投げを決めるが、そこから又しても雷速瞬動からの今度は肘打ち!

其れにも反応して裏拳を繰り出すが、今度は肘打ちも確り入った。
治療を始めて、初となる有効打だ。

そしてそれを皮切りに、ネギの力と速度はドンドン精度を増して強力になっていく。
それに伴い有効打の数も増えている。

「ネギ…これは…」

其れはこれを見ている稼津斗達にも分かるほど。
実際戦っているコピーエヴァは、更にそれを感じていることだろう。

「貴様…」

「………」

攻防はドンドン激しくなり、その余波で海の水が水柱を上げ、山が吹き飛び、林が平地になる。


――僕は…最初から分かっていた!!


「ウオォォォオォォォ!!」

「ちぃっ!!」


――ドガバァァァァァァァキィィィン!!!


最大級の一撃が、互いに炸裂し、水飛沫が!
いや、水飛沫なんてものじゃない…それはもっと細かい霧と言ったほうが適切だろう。

尤もそれは一時的なもので、直ぐに晴れる。

「…見事だ。」

その晴れた先では、コピーエヴァの一撃は、ネギの手の平を貫通するに留まったが、ネギの一撃はコピーエヴァの胸を貫いていた。

ネギは制御したのだ、己の闇を。

「エヴァンジェリンさん!すいません、大丈夫ですか!!」

「心配するな、もとより私は複製品…言うなればプログラムのようなものに過ぎん。
 役目が終われば消えるが通り――其れに私が消えたとてオリジナルには何の影響もない故に心配はするな。」

口から血を流しながらも、しかしコピーエヴァは嬉しそうだ。
ギリギリではあるが闇を制御した…それが嬉しいのだろう。

「だが、制御できたと言ってもそれは一瞬…いつまた闇がお前を喰らい殺そうとするかは分からんぞ?」

「分かっています…如何にもこれを僕1人で抑えるのは無理っぽい…だから僕は前だけ見ていようかと。」

「なに?」

「今この状況で自分で如何にも出来ないことをうだうだ考えたって何も前には進まないないので…暴走しちゃったら其れは皆に任せようかなって。
 カヅトも居るし、蒼き翼の皆ならきっと何とかしてくれますよ。」

で、ネギの出した答えは何ともいい加減極まりないものだった。
要するに丸投げ…目的は果たすが暴走したらよろしくと言う事だ。

だが、コピーエヴァには何とも極上の答えであったらしい。

「あははは!言うではないか!そうだ、それで良い!所詮人が自分1人で出来る事など限界がある。
 それを超えて何かをなす時に必要なのが仲間だ。
 …無責任と言う奴もいるだろうが、お前が自らの目的を達する為に暴走を他者に任せるのは間違いではない。
 フフフ…治療は成功、授業は合格と言う事にしておこう。
 その上で敢えて問う――ネギよ、お前が得た答えは何だ?お前は何をなさんとする?」

その上で問う。
厳しいと思えるほどの視線だが、ネギは逃げずに向き合う。

「父さんを探し出して一発打ん殴る…其れは絶対に譲れない。
 アスナさんとアーニャの奪還と、鍵の奪取も成さなきゃならないことです。
 でもそれ以上にフェイト……アイツとは言葉では絶対に通じない今のままじゃ。
 だから僕は、全力で、ガチンコでアイツと殴り合って、その上で――もっと知りたいんだ、アイツの事を…きっと。」

迷いなき瞳。
少年は、確かな答えを此処に出したのだった。







因みに…

「もっと知りたいでござるか…」

「此処は『僕はフェイトと友達になりたい』って言うほうが良いんじゃねーの?」

「駄目だな。そんな事を言ったら、次元超えて桜色の砲撃がネギに直撃する。」

稼津斗とそのパートナー達がこんなことを話していたとか…


いずれにせよ、此れにて蒼き翼の戦力は暫定だが完全となった。
あとは目的を果たす――其れだけである。


















  To Be Continued…