楓の一撃と、稼津斗の超連続攻撃を喰らった殺意の波動と暗黒パワー。
 願わくばこれで決まって欲しいと思うのは当然の事だろう。

 稼津斗の攻撃で巻き上がった土煙は未だ晴れないが…


 「どうやら決まらなかったみたいなだな…」

 「だからと言って一時撤退も出来そうにないでござるよ…」

 「ホンマに難儀な相手やなぁ…」

 それでも相手が健在であるか否かは判別できる。
 土煙の中から感じる途轍もない闘気と殺気は、今の攻撃で決まらなかった事を意味している。

 「来るか…」

 やがて土煙も晴れ、何がどうなったのかの全容が明らかになる


 「…………滅!

 そこに居たのは、暗黒パワーを屠り、その力を吸収した殺意の波動だった…










 ネギま Story Of XX 109時間目
 『鬼と闇を仮制圧也!』











 「暗黒パワーを喰らった殺意の波動だと……冗談きついぞ…」

 強化された殺意の波動は、見た目も変わっている。
 頭髪は白くなり、肌も浅黒い褐色から、赤黒い褐色へと変化。
 身に纏う胴衣ですら、黒から、限りなく黒に近い紫へと変貌している。


 「我、汝滅殺。

 また話し方も、暴走の影響か漢字のみの独特な物へと変わっている。


 此れには否が応でも緊張が高まる。
 楓と亜子のみならず、稼津斗までもが冷や汗を垂らしている状態だ。


 しかし、だからと言って怯むかと問われればソレは無い。
 予想以上の強化とは言え、予想外ではない。

 戦いの最中に強化されるなど珍しいことではないのだ。

 いや、寧ろ相手が1人になったと言うのは好都合ともいえる。
 稼津斗と楓の波状攻撃を仕掛け、亜子の援護攻撃を入れればそれだけで圧倒も可能だろう。

 とは言え楽観はしない。
 安易な楽観は、逆に敗北を意味するのだから。


 「クロスレンジは俺が引き受ける。
  楓は蛟を駆使してのミドルレンジ、亜子はロングレンジとアウトレンジを頼む!」

 故に、即刻フォーメーションを設定。
 この場の面子を考えると、一番その力が生かせる布陣だろう。

 「了解にござる…」

 「うん、任せてや…」

 「…来るぞ…!!」



 ――瞬



 稼津斗が攻撃の気配を感じ取った瞬間、暗黒殺意の波動が消えた。


 そして、稼津斗に強襲!
 気配まで消したわけではないのでその攻撃は防ぐが、ソレを皮切りに矢継ぎ早の猛ラッシュ。

 稼津斗も負けじと其れに応戦!
 互いに攻防一体の目まぐるしいクロスレンジの乱撃戦!

 しかも繰り出される攻撃全てが、一撃必倒の威力を秘めた物ばかり。
 ソレが目にも留まらぬ速さで繰り出され、互いに皮1枚を切らせる程度の回避を最小限の動きでしているのだから凄まじい。



 だが、ソレを見ている楓は何か違和感を感じた。

 「…あやつ、拙者等の事は認識していないでござるか?」

 「へ?」

 「いや…此れだけ近くに居るのに拙者と亜子殿には目もくれず、稼津斗殿だけを見てはござらんか?」

 「あ…言われてみれば確かにそうやね…」

 そう、ソレが違和感だった。
 先程から、暗黒殺意は稼津斗のみを攻撃し、楓と亜子は放置状態。

 無視とか言うレベルではなく、そもそも視界に入っていない――認識してすら居ないようなのだ。


 「…もしや、殺意の波動と暗黒パワーが融合したことで逆に思考が狭まったのでござろうか?」

 「と言うと?」

 「余分な思考は排除され、彼奴等の最も基本的な意志…『宿主から身体の所有権を奪う』のみが残ったとしたら如何でござろう?」

 「!!ソレならウチ等をマッタク無視して稼津さんだけに攻撃するのも納得や…!!」

 其処から導き出された答え。
 ソレはつまり、強化はされたが思考は単純化したと言うこと。

 だが、それならば逆に好都合でもある。


 「亜子殿、最もパワーのある精霊と融合してもらえるでござるか?
  拙者が翡翠で彼奴の動きを制限するゆえ、其処に最大の一撃を!」

 「了解や!ソレが決まれば稼津さんがトドメの一発喰らわせて、それで終りやからな!」

 あっという間に作戦を立て、ソレを実行に移す。
 この辺のチームワークも中々良い物があるだろう。

 「精霊融合龍の精霊(バハムート)!」

 精霊でも最上級の『龍』と融合し、亜子の姿もまた変わる。
 背には龍の眷属の翼が生え、四肢も龍の眷属の其れに変貌し、正に『龍人』とも言うべき姿だ。

 「いやぁ、迫力でござるな〜〜…しからば!!」
 《稼津斗殿、拙者と亜子殿でソイツに一発かますでござる!稼津斗殿は最強の一撃を!!》

 《楓?…分った、頼むぞ!!》

 念話で作戦を伝え、即時動く。
 四方八方あらゆる角度に翡翠を投擲し、ソレを操って暗黒殺意の動きを制限せんとする。

 勿論、暗黒殺意も本能的に其れに反応し、ソレを叩き落すが数が凄まじい。
 楓の翡翠には射出限界数など存在しない。
 叩き落されたらその倍を更に射出すれば、迎撃は間に合わなくなるが道理なのだ。

 「難儀…!

 「更に3倍射出にござる!!」

 それでも容赦なく射出投擲をするのは、それだけ侮れない相手ということだろう。
 この間も、稼津斗は最大の一撃を繰り出す為に気を高めている。
 XX2ndで更に銀閃華も上掛けした超強化状態でだ。

 「最大同時投擲射出…1万でござる!!」

 「回避不可…!

 楓の最大投擲射出に、遂に暗黒殺意の動きが一瞬止まった。
 その一瞬が最大の好機!

 「捕らえたでござるよ!!」


 ――ガキィィ!!


 其処を的確に、楓が蛟で拘束!
 更に…

 「此れがウチの最大攻撃や…!行くで、龍精霊覇道爆滅砲(メガ・フレア)!!」

 其処に亜子の最大の一撃が炸裂!
 勿論其処で終わりはしない!

 「見事だ亜子…自分の力で散れ…!雷刃覇王翔哮拳!!」

 極大気功波発射!
 しかも、殺意の波動と暗黒パワーを融合した一発だ!

 普通ならこれで消滅だろうが…


 「極滅…!

 相手は最強最悪の暗黒エネルギーの融合体だ、此れでも沈むには至らない。


 「全滅殺!

 逆転を狙った瞬獄殺の構え!

 「そう簡単には行かないか流石に…なら、俺も其れに応えないとな。」

 稼津斗も龍直伝の最強奥義『瞬滅殺』の構え。
 ソレをぶつける心算なのだ。

 つまりは此れが最後の攻防。
 此れの末に立っていた方が=勝者と言う事になる。

 一瞬千撃!

 一閃葬撃!

 そしてぶつかる最強技!
 互いに高めた気が、攻撃と同時に炸裂し、この戦いの中で最大級のスパークを発生させる。
 その閃光の中で響くは打撃音のみ。

 同時に発生した衝撃波も凄まじいものであった。








 ――――――








 その頃現実世界では…

 「如何したネギ、その程度では闇を飼いならす事など出来んぞ!!」

 「うがぁぁぁぁぁぁ…!!」

 今日も今日とて暴走ネギの治療が続いていた。(精神世界と現実世界では時間の流れが異なる。)

 「ぐおぉっぉぉぉぉ…!!」

 「ふん、見事な技だが、ソレも獣の心で放っては糞の役にも立たん!!」

 そして又しても氷漬け。
 コピーとは言え、矢張りエヴァンジェリンの実力は凄まじい。

 尤も、マッタク進歩がないかと言われればそうではない。
 暴走を抑えるには至らないものの、氷漬けにされるまでの時間は長くなっている。

 時間に余裕があれば、何れと言う所だろうが、如何せん時間が無いのが現実。
 ダイオラマで稼げる時間も、後3日しかないのだ。

 「さて、取り敢えずは此処までだ…おい、出番だ。」

 「「はい!!」」

 氷は即座に解かれるとして、暴走ネギの解除はすっかりまき絵と桜子の役目となっている。
 まぁ、これで落ち着くのだから良いことだろう。


 「はぁ…はぁ……ふぅ……す、スイマセンまき絵さん、桜子さん…」

 「良いって、私達が好きでやってることだから♪」

 「そうそう、此れくらいなら何てこと無いから、こう…ぱぱ〜〜っと暴走制御しちゃおう?きっと出来るから!」

 戦えずとも出来る事があるなら全力でやる!
 つまりはそう言う事なのだろう。
 今自分に出来る事はなんなのかを、彼女達もちゃんと理解しているのだ。

 「それから、此れはコピーエヴァちゃんから。」

 「なんですかこれ?」

 「魔力回復の秘薬だって…回復したらまた始めるってさ。」

 「暴走抑える前に、僕の身体もつでしょうか…?」(汗)

 「「ど、如何かな〜〜?」」(滝汗)

 取り敢えず、ネギの地獄のスパルタ『治療』はマダマダ続くようである。








 ――――――








 さて、最強技がかち合った精神世界だが……既に半壊していた街は、今の攻防で全壊に至ったらしい。
 一切のビル群が消え去り、それどころか地面の舗装すら消し飛んでいる。
 現実世界ではなくて良かったと本気で思ってしまうような状態だ。

 「今更ながら、トンでもない人に惚れたでござるな拙者等は…」

 「まぁ、ソレは言わないお約束やろ…」

 そう思うのも仕方あるまい。
 が、大事な事は其処ではない。

 この戦いの行方だ。

 閃光は納まり、砂煙も徐々に落ち着いている。
 ゆっくりと明らかにその結果……


 「見事…

 「俺の勝ちだ…今この時はな。」

 明らかになった結果は、稼津斗が勝利していた。
 最終的に相手を内部から攻撃する瞬滅殺の方が瞬獄殺を超えたらしい。

 「我一時汝従属。我何時汝身体奪取。

 「あぁ、出来るならそうすれば良いさ。
  だが、今は俺がお前に…お前達に力を示した……暫くは従ってもらうぞ?」

 「応。

 そしてソレは一時的にではあるが、暗黒パワーと殺意の波動を自身の制御下に置いたと言う事に他ならない。
 まぁ、何らかの瞬間に暴れだす危険性は残るものの、稼津斗の感情の爆発で暴走する事はないだろう。


 「稼津斗殿!」

 「稼津さん!!」

 そして稼津斗が勝った事を知るやいなや楓と亜子がダイブハグ。
 己の愛する人が勝利したとなれば、嬉しいのは当然だ。

 ソレを確り受け止める稼津斗も流石だ。

 「凄いでござるよ稼津斗殿!アレを制するとは〜〜!」

 「流石は稼津さんや!」

 「なに…お前達が力を貸してくれたからさ。
  其れに、マダ完全に制したわけじゃないからな……尤も暫くは大人しいだろうがね。
  だが、次に俺を乗っ取ろうとしたらその時は再度沈めて完全に配下に置くけどな。」

 決して自分1人の力では無いと言い、2人を抱き締めてやる。
 仮状態とは言え、それでも制御に至ったのは楓と亜子の存在が大きいのは否めないのだ。

 「取り敢えず俺の方は此れで良い、決戦の間くらいは大丈夫だろうからな。
  問題はネギだ…恐らく現実世界はタイムリミットが迫っている頃だ………戻るぞ。」

 「御意に。」

 「了解や!」

 そして、仮状態とは言え目的を果たしたならば精神世界に長居は無用。
 3人とも意識を集中し、自らの意識を現実世界へと浮上させていく。







 「くあ…戻ってきたか。」

 「結構ハードなミッションでござった…」

 「けど取り敢えずは成功や♪」

 そして現実世界で覚醒!

 「おかえり、稼津斗にぃ。」

 「制する事出来た!?」

 「楓さんと亜子もお疲れ様♪」

 現実世界で待機していたメンバーも帰還を喜ぶ。
 矢張り1日半も掛かると心配はするだろう。


 「まぁ、仮状態だがな…これで暫くは力を自由に使える。
  ソレは良いとして、ネギの方は如何だ?少しは進展したか?」

 「あ〜〜〜…まぁ、ミリ単位だけどね。」

 コテージを出てみると、治療の真っ最中なのだろう、雷と氷が弾け、鈍い銀色の魔法攻撃と、神鳴流の剣が降り注いでいる。
 残り少ない時間を徹底的に治療に使うつもりであるらしい。

 「精神世界にダイブする前と比べると動きは良いが…暴走を抑えるには至ってないか…」

 「本来ヴァンパイアが使う秘術ゆえに、抑えるのは簡単じゃないだろうね。」





 「うがぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」

 「ホレホレどうした!タイムアップまでもう時間はないぞ!!」


 ネギの治療は、残された時間の中で、マダ終りが来ないようである…


 だが、だからと言って不安はない。


 何故か?


 この場に居る誰もが、ネギが闇を制すると信じているから。
 必ず制し、そして自分の力の配下に置く…ネギはそう考えているし、コピーエヴァもソレをさせる心算なのだろう。
 だから治療には一切の加減は不要!


 だが、ネギの治療はもう少しだけ時間が掛かるようだ…













  To Be Continued…