飛び交う魔法に気功波。
 交錯する拳と蹴り。

 稼津斗の精神世界での戦いも、世界トップレベルの超バトルの様相を呈していた。


 「く…流石にこの力は…強烈でござるな…!!」

 「純粋な力やから……加減も何もないからやな…!」

 だが、意外にも稼津斗達は少々押されていた。
 いや、正確に言うならば楓と亜子がだ。

 如何にXXに変身したとは言え、相手は稼津斗でも手を焼く闇の力なのだ。
 其処にある『差』は誤魔化しきれるものではないだろう。

 だからと言って退く事などはありえない。
 彼女達だって、稼津斗の指名を受けて此処にいるのだ……むざむざ負ける気など無い。

 「稼津斗殿、契約執行を!!」

 「契約執行…成程な!特殊契約銀閃華執行1800秒!稼津斗の従者、長瀬楓、和泉亜子!!」

 今のままで敵わないのならば能力を底上げすれば良い。
 稼津斗からの契約執行を受け、超えられないまでもこれで互角。

 「ほう…此れならば死合うに値もする…

 「だが、勝利など容易い…!」

 それでも殺意と暗黒は余裕綽々。
 既に宿主を喰らい尽くす気なのだろう。

 だが、此度の宿主を喰らい尽くして乗っ取るのは、早々簡単でもないようである。










 ネギま Story Of XX 108時間目
 『闇と鬼を飼い馴らせ!』











 特殊契約がなされ、楓は暗黒パワーと対峙し…

 「稼津斗殿直伝、虚空穿!!」

 「ハッハ!!烈風拳!!」

 タイマンに持ち込もうとしていた。
 能力が略互角ならば出来ない事ではない。

 「ちぃ…生身の人間ならこれで終わりなんだが…エネルギー生命体には効果が無いか…」

 「我等は人の姿を取っているに過ぎぬ…経絡を攻撃しても無意味と知れい!!

 「だろうな…だが、俺の空手と爺さんの暗殺拳はこんなものじゃない!」

 稼津斗と殺意の波動のバトルも更に白熱状態だ。
 もしこの戦いが現実世界で行われていたら、都市1つが壊滅状態に追い込まれて居たかも知れない。


 ……稼津斗とその従者恐るべし。



 此れだけならば、拮抗した戦力で泥仕合になるのは目に見えているが、ソレはあくまで人数が同じであればだ。
 稼津斗と楓には、殺意と暗黒には無いものが有る。


 「精霊融合『氷の精霊(シヴァ)』!凍てつけや…ダイヤモンド・ダスト!!」


 後方支援担当の亜子だ。
 近接戦闘は得意ではない亜子だが、精霊と融合して放つ多種多様な無詠唱魔法はトップレベル。
 いや、魔法世界の全魔法使いの中でも確実にナンバー1と言っても過言ではない。

 援護射撃どころではない。
 全てが一撃必殺レベルの魔法なのだ亜子の精霊魔法は。
 それが、全く予期せぬタイミングで飛んで来るのは恐ろしい事この上ないだろう。


 「小娘…うむ、面白い…!!

 其れに刺激されたかの様に、殺意の波動は大きく飛び上がり亜子を強襲!
 殺意の波動の奥義が一つ『禊』だ。

 幾ら不死のXXとは言え此れを喰らえば大ダメージは免れない。
 …あくまで『喰らえば』。


 「上の、更に上や。」

 「なに?

 「頭上注意だ。」

 「!!

 その更に上から稼津斗が殺意の波動に猛襲!
 亜子を狙った殺意の波動を強襲した『逆禊』だ。

 「ある程度は殺意の波動の技も使う事は出来る……甘く見るなよ?
  俺だけじゃない、楓と亜子の事もだ――態々連れてきたんだ、只の女の子じゃない事は分るだろう?」

 「うぬ……確かにその小娘達も死合うに値する者……だが、我はウヌの軍門には下らぬ!!

 ギリギリで逆禊を避けた殺意の波動は、阿修羅閃空で距離を取るが其処には既に稼津斗の姿が!
 残像を残す移動術も、瞬間移動には遥かに及ばない。

 稼津斗から間合いを外すのは並大抵の事ではないのだ。

 「ぬぅ…滅殺!!

 「でりゃぁぁ!!」

 其れに超反応した殺意の波動のアッパーカットと、稼津斗の回転踵落としがかち合いスパーク!
 超人同士の戦いは、兎角凄まじい。




 そしてソレは楓と暗黒パワーもまた同様。
 此方にも亜子の援護魔法は飛んできているが、此方は此方で凄い事になっている。


 「カイザー…フェニィィックス!!」

 「極大気功弾の光速連射…!ならば、天鎖嵐龍翔でござる!!」

 光速で飛来する無数の極大気弾を、蛟を展開してその全てを叩き消していく。

 更に其処から互いに間合いを詰めての蹴り、突き、肘撃ちとクロスレンジの格闘もハイレベル。
 格闘技ファン垂涎の闘いと言っても過言ではない。

 「いやはや、流石は最強クラスの闇の力、正直凄まじいでござるよ。」

 「君も中々だな忍者ガール。だが、氷薙稼津斗の身体はこの暗黒パワーが貰い受ける!」

 「ソレは流石に是と出来ぬでござる!!」

 互いに一歩も譲らぬ一進一退の超攻防。
 亜子の援護がある分、稼津斗と楓の方が有利だろうが、それでも決定打が与えられない辺り、矢張り2つの闇は並大抵の相手ではない。


 だが、此れだけの接戦ともなると、どうしても予期せぬ隙は生まれてしまうもの。
 その隙が先に出来たのは、稼津斗達の方だった。


 如何に強いと言えど、其処は生身の人間、精神世界の戦いであろうとも疲労が溜まるのは当然の事。
 戦闘を始めて数時間…否が応でも疲労は溜まって然り。

 その疲労が、僅かに、本当に僅かに一瞬だけ足を止めることになったのだ。

 「疲れたか?…無理もない。

 「だが、ソレが君達の敗北の理由だ!」

 そしてソレを見逃す殺意の波動と暗黒パワーではない。
 一瞬で間合いを詰め…

 「一瞬千撃…

 「死ね!!」

 「「!!!」」

 瞬獄殺とギガンテクプレッシャーを叩き込む。



 ――バガァァッァァァァァ!!!



 凄まじいエネルギーのスパークと爆発!
 此れは大ダメージ必須だろう。

 「我こそ…拳を極めし者…

 「勝利など容易い…!」

 最大の一撃を決め、勝ったと思ったのだろう。
 残る亜子も、同時に攻撃すれば間違いなく押し切ることが出来るのだから。


 だが…

 「マダ終りやないで?稼津さんも楓もソレ位でやられるわけないやろ?」

 「「なに?」」


 亜子は2人がやられたなどとは微塵も思っていない。



 当然だ。
 攻撃が決まる刹那の瞬間、亜子は『地の精霊』と融合し、稼津斗と楓に対して防御魔法を発動してのだから。


 「良いタイミングだ亜子…」

 「ぶっちゃけソレがなかったらアウトでござった…感謝でござるよ。」

 そして2人は無事!
 無傷ではないが、それでも最大の一撃を喰らったにしては、考えられないダメージの少なさだ。
 目に見える傷も、精々顔や腕の擦り傷きり傷と、衣服が所々破けたり裂けたりしている程度に留まっている。


 「ウヌ等は…!

 「何処まで足掻くというのか…!」


 「当然だ…俺の身体は俺の物……お前達の存在を否定する心算はないが、だからと言って身体をくれてやる道理はないからな。」

 「拙者も…拙者達も稼津斗殿の身体を御主等に渡すのは嫌でござるからなぁ?」

 「稼津さんは稼津さん…アンタ達には代わりは勤まらへんで?」

 何よりも心が屈していない。
 稼津斗とそのパートナー達の真の強さは正に其処にあるのだ。

 オリハルコンによって得た、超人的肉体の強さ以上に心が強い……ソレこそ鋼の如く。
 相手がなんであろうとも決して屈せず諦めない、それが更に強さに磨きをかけているのだ。


 「仕切り直しだ――第2ラウンド開始と行こうじゃないか?」

 「望むところ…滅してくれる…!

 再び戦闘開始!
 精神世界での超バトルは、マダ決着には時間が掛かるようだ。








 ――――――








 「あ…う…僕は…?」

 「あ、ネギ君!!」

 「目が覚めたんだ!大丈夫!?」

 「まき絵さん、桜子さん!!」

 現実世界では、ネギが目を覚ましていた。
 起きて、イキナリまき絵と桜子が居た事に驚いたのは、まぁ仕方が無いだろう。


 「…そうか、僕は闇の魔法の侵食を抑えようとして……!!!あ、あのスイマセンでした!!」

 「「へ?」」

 そして起きてイキナリ謝罪!
 まき絵と桜子もこれには『?』状態だ。

 「その、理性をなくしていたとは言え、御2人に襲い掛かってしまって…本当にスイマセンでした!!」

 不幸にも暴走中の記憶は確りとあるらしい。
 暴走した自分が、2人に襲い掛かったと言う記憶もバッチリ残ってしまっているらしい。

 結局は寸止めで済んだのだから、それほど気にする事でもないだろうが、マジに捉えてしまう辺りが生真面目なネギらしいという所か。


 「あはは、良いよネギ君、タイミングが悪かっただけだから♪」

 「其れに被害受けたわけじゃないしね〜〜無問題。」

 尤もまき絵も桜子もそんな事は全く気にしない。
 ネギが暴走しているのは分ったし、結局は被害がなかったのだから。

 「ですが…!」

 「其処までだよネギ君?ネギ君は留まったじゃない……だから大丈夫。」

 「寧ろあんまし謝られちゃう方が、私等としては不本意かにゃ〜〜♪」

 『軽い』と言うなかれ。
 まき絵も桜子も、実はネギが必要以上に深く捉えないようにしようと必死なのだ。

 「まき絵さん、桜子さん……」

 「私達は…ネギ君はきっと大丈夫だって信じてるよ?」

 「だから大丈夫。きっとネギ君は、闇の力だって完全に自分の物に出来るって♪」


 そしてその効果は絶大。
 ネギの表情が、不安から一変してやり遂げる意思の炎を其処に宿した。

 仲間が居るというのは、矢張り何よりも頼りになるものであるらしい。


 「そう…ですね――いえ、自分の物に出来なければ、僕に付いて来てくれてる皆さんに失礼千万です。
  約束しますよ、必ず闇の魔法の暴走を抑えて、闇を真に僕の物にするって…!」

 「「そう、その意気!!」」

 決意新たに、ネギは闇の克服を誓うが……今は休んだ方が良い。
 疲労と被ダメージを回復する為に、ネギは再びベッドにバタン。

 まき絵と桜子も、再びネギの手を取ってやる。
 此方は此方で、それほど大きな問題は発生していないようである。



 因みに、まき絵と桜子は、本音を言うとネギと仮契約したかったのだが、この場は保留と言う事にしたらしい。








 ――――――








 「覇ぁぁぁぁぁあっぁぁ!!!」

 「ムゥゥゥン…!

 「忍…!!」

 「オォォォォォォォォ…!!」



 一方の精神世界では激しいバトルがマダ続いていた。
 稼津斗と楓の疲労は、亜子が隙を見て『回復ドリンク』を投げ渡す事で解消。

 故に終わりなきエンドレスバウトの様相を呈しているのだ。

 だが、こうなると逆に何時決着が付いてもおかしくない状況でもある。
 互いに削りあいの戦い…


 金剛裂爪斬!!

 爆炎鋼龍陣!!



 「滅殺…ぬぅぅりゃぁぁ!!!

 「カイザー……デストロイヤーーー!!!


 大技だって中々決まらない。

 そして、この状況を冷静に分析していたのは、援護担当の亜子だ。


 ――互いに決定打はない…つまりは最大の一撃を入れればそれで終る筈や。
    やけど、中々その機会がない…私の魔法でも決定的な隙を作り出すのは難しい…
    せめて動きを止められれば………!!そうや、その手が有った!!
 「精霊融合『風の精霊(シルフィード)』!!」


 何かを思いついたのだろう、今度は風の精霊と融合。


 「覇ぁ!!!!」


 ――ゴォォォ!!!


 強烈な烈風を放った次の瞬間、殺意の波動と暗黒パワーの動きがピタリと止まってしまった。

 「な、馬鹿な…!」

 「ぬぅ…此れは…!

 「同じ強さの追い風と向かい風をアンタ等2人にぶつけさせて貰ったで?
  押し出す力と押し戻す力が同じ言う事は、ソレがぶつかる場所にあるモノは一切の動きを封じられる言うことや!」

 考えたのは不可視の拘束術。
 目に見えぬ『風』の特性を最大限に利用した見事な一発。

 此れも精霊と心を通わし、精霊から絶大な信頼を得ている亜子だからこそ出来た事だ。


 因みにこの追い風と向かい風は、共に風速300m――ソレだけの力に抑えられたら逃げるのは不可能だ。
 そしてこの絶対の好機を逃す稼津斗と楓ではない!


 「覇ぁぁ!これで決めるでござる!絶技…紅蓮八双拳!!!」

 楓が暗黒パワーに己の最大攻撃をぶちかまし、

 「おぉぉぉ……これで終りだ!!」

 稼津斗も殺意の波動との間合いを詰め、其処から目にも留まらぬ蹴りと拳の雨霰!
 殴る殴る殴る!蹴る蹴る蹴る!!

 タコ殴りの見本の様な連続攻撃!
 合計24発の攻撃を加えた稼津斗は、しかし其処では止まらない!

 天地…覇王拳!

 連撃の〆に、必殺の正拳突きをブチかまして吹き飛ばし、更に!

 「覇ぁ!!!」


 ――バチィィ!!!


 XX2ndに変身し、能力底上げ。
 同時に両の手に莫大な気が集中している。

 覇王……翔哮拳ーーーー!!!!

 ダメ押しとばかりに放たれた極大の気功波。
 ソレは精神世界の高層ビル群までも巻き込み、粉砕しながら殺意の波動を…否、暗黒パワーまでをも打ち据える。

 しかも其処で止まらず、気功波は『文字通り』全てを飲み込み粉砕していく。



 ――ドガァァァァァァァァアァァァァァン!!!!



 練り上げられた気が炸裂し、爆発した事で漸く気功波はその姿を消した。

 だが、ソレが収まった後に残ったのは、さながら核爆弾爆発の爆心地の如く、何もない景色であった。


 「はぁ、はぁ…やったでござるか?」

 「如何だろうな……手応えはあったが…」

 「これで倒せてなかったら…如何なるん?」

 「一度現実世界に戻って、作戦練り直しだな…」


 濛々と漂う土煙はマダ晴れず、殺意の波動と暗黒パワーがどうなったかは分らない。
 今ので決まればそれで良いが…決まって居なかったら再挑戦必須状況だ。

 土煙に覆われた結果は、マダその姿を現そうとはしていない…













  To Be Continued…