「しかし、魔法世界の真実が此れとは…クルト総督が難儀するわけですね。」

 「確かに…此れは解決不可能問題です…一見すれば。
  ですが僕はこの世界に解決できない問題は無いと思っています…必ず解決策は有りますよ。」

 闇の魔法の侵食を抑える為に修行を開始したネギだが、其れより前に魔法世界の真実は重いと実感していた。
 だが、今は其れよりも侵食を抑えるほうが先決だ。

 其れにネギは解決不可能問題の解決策は必ずあると信じている。
 ならば、きっと答えは見つかるだろう。


 「まぁ、ソレはソレとして、今やらなきゃならねぇのはアンタの侵食を食い止めることだ。
  コピーとは言え、エヴァンジェリンなら其の方法を知ってんだろ?…開けるぜ此れ。」

 「千雨さん…はい、お願いします!」

 そして闇の侵食…それも開発した本人に対処法を仰ぐのが一番手間がない。
 闇の魔法習得時に使ったあの巻物――其の中にはコピーのエヴァンジェリンが居るのだ。
 其れに聞けば一番早いのだ。

 なので、千雨は迷わず巻物を開いたのだが…


 「「「「!?」」」」

 「〜〜〜♪」

 現れたのは全裸でレトロゲームを楽しむブロンドの幼女であった…










 ネギま Story Of XX 106時間目
 『Suppuration-core-』











 「何してんだアンタはぁぁ!?全裸でソファーに寝転がってポテチ食いながらレトロゲームとは良い身分だなオイ!

 「ぬおわ!?居たのか貴様ら!?」

 なんともアレである。
 てか、このコピーエヴァは巻物の中で生活しているのであろうか?
 …恐らくはしているのだろう。


 そうでなければ此れだけフリーダムな事は出来るはずがない。


 尤も誰も来ないだろうと油断していたらしいので驚きはしたが…


 「行き成り巻物を開けるな……だが何の用だ?
  ラカンには勝ったのだろう?ならば今更これを開けずとも…」

 「そうもいかねぇんだ…先生が闇の魔法の侵食喰らってるんでな。」

 「む…成程、ソレは確かに見過ごせんな。」

 短いやり取りだが、コピーエヴァも事が重要なものだと即座に看破。
 魔力で服を作り、ネギ達の前に。



 そして、簡単に千雨が現状を説明。
 このダイオラマの外では何が起きているのか、何が起きたのか…其の全てを明かしたのだ。


 「成程な…ラカンが逝ったか…」

 「あんまし動揺しねぇのな。」

 「生憎死など見飽きているのでな…まぁ、寂しくはあるがな。」

 其の中でラカンが逝ったと言うのは少々感慨深いモノがあったようだ。
 とは言え感傷には浸らない。

 それ以上に大事な事があるのだから。

 「まぁソレはソレだ。……問題はネギだ。
  闇の魔法はそもそも私専用の魔法であり、普通の人間が使う事は想定していない。
  故に習得しても暴走と侵食は分っていたのだが……我が本体もソレを考えないで基盤を作っていたとは思わん。
  だが、何れにせよ侵食が進めば残された道は2つだけだ。」

 「2つ?」

 ネギの侵食を知り、しかしコピーエヴァは本体のエヴァンジェリンが何も考えていなかったはずは無いと言う。
 だがそれでも侵食が進むと残された道は限られてくるようだが。

 「1つは最も分り易い『死』だ。…侵食が進めば闇に喰われて命を落す。
  そしてもう1つは…死ぬ事はないが人ではなくなる…私と同じになるのだ。」

 「「「!!!」」」

 其の2つはなんともとんでもない物だった。
 方や死亡、方や人間外生物化である。

 マッタクもって恐ろしい、流石は闇の魔法と言ったところだろう。

 だが…

 「僕が死ぬ確立は低いですよね?」

 「む、何故そう思う?」

 ネギは少なくとも自分が死ぬとは思っていない。
 それにはコピーエヴァもやや訝しげだ。

 「闇の魔法と僕の相性は極めて良いと思います…この馴染み方を見ても。
  ソレを踏まえると、侵食が進んだからといって僕が死ぬ確立は極めて低いでしょう?」

 「だが、そうなると残りは魔物への道だけだが?」

 「それならそれで…ソレにソレはエヴァンジェリンさんと同じになると言うことでしょう?
  だったらソレも良いかなって。僕はエヴァンジェリンさんのこと好きですから。」

 そしてぶっちゃけた。
 盛大にぶっちゃけた。
 ネギは別に魔物化は気にしていない……どころかエヴァンジェリンと同じなら別に良いやと言った感じ。
 どうにもこうにもネギとエヴァンジェリンの絆は激強であるらしい。

 流石は千雨公認夫婦である。


 此れを聞いた千雨が『さっさと結婚しちまえ…』とぼやいたのはきっと仕方ないだろう。仕方ないはずだ。



 「くはははは!本当にとんでもない奴だなお前は…我が本体が気に入るはずだ。
  うむ、其処まで解っているならば話は早い。
  そうだ、お前が死ぬ確立は極めて低く、私と同じになる確立の方が格段に高い。
  まぁ、人でなくなると言っても、ある意味此れは生物としてより上位の存在になるとも言える。
  これからお前が成そうとしている事の大きさを考えれば、逆に良いのかも知れん。
  と、言う訳でだ…」



 ――グアシ!!!



 「!!?」


 コピーエヴァはネギの答えに満足したようだが、しかし突然ネギの頭を掴み、そのまま地面に倒し押し付けた。
 ソレもただ倒しただけではない、なにやら…外部から何らかの干渉的な事を行っているようにも見える。


 「オイ、何してんだアンタ!?」

 「なに、意図的に暴走を起こしているのだ。
  恐らくはネギは深層心理では如何すれば良いのかを理解している……が、それだけでは足りん。
  頭で理解するだけではなく、身体で覚えて暴走を飼いならさなくては意味はない。」

 そうしている間にもドンドンネギの身体は黒く染まり、魔物の様に変貌して行く。
 コピーエヴァが手を放せば其の瞬間に暴れだすだろう。

 「暴れるのを抑えるのが私達の役目…」

 「私も稼津斗からソレを頼まれて此処にいるからな。」

 「そう、貴様等の役目はソレだ。
  だが覚悟しておけよ?暴走状態のコイツはRPGで言うならラスボス前の最後の中ボスクラスより強い。」

 程なく暴走状態が完全に出来上がり、真っ黒なネギの完成だ。
 理性を失った瞳と、漆黒に染まった身体は正に魔物そのものである。

 「――――――!!」

 そして野獣の如き咆哮1発!
 と同時にイクサの身体が吹き飛んだ。


 「!?」
 ――速い!!此れが稼津斗も反応できなかったスピードか……確かに強いな。


 ――バチィ!!


 だが其処は流石にイクサ。
 今の一撃で暴走ネギの力を見極めてXXに変身。

 刹那もまた烏族状態を解放して事に当たる。


 「あの手の相手に一発は効かない。逃げ場が無いくらいの『面』での波状攻撃を仕掛けないと攻撃すら侭ならないぞ。」

 「その様ですね……しかし此れは、烏族解放でないととても捕らえきれない…!」

 「まぁ、此方にも良い訓練にはなるさ。…撃ち貫け、フォトンランサー・ジェノサイドシフト!!」

 暴走ネギの『治療』は、如何やら世界でも類を見ないほどの『荒療治』となる事は間違いなさそうだ。








 ――――――








 一方室内に残った面々はと言うと…

 「栞ちゃん?ルーナちゃん?どっちで呼べばいかにゃ?」

 「あ、いえどちらでも…」

 「いやいや、呼び名は大事やで?」

 「やっぱり本名で呼ぶべきなのかな…?」

 運動部3人が何故かルーナと和気藹々状態。
 ルーナが特に此方に敵意を持っている訳ではないのが大きいのだろうが、ホノボノし過ぎである。


 「……始まったな。」

 「あぁ、世界一の荒療治がね。」

 ソレとは別に稼津斗と真名は外で『治療』が始まったのを感じ取っていた。
 いや、裕奈達もソレは感知しているが。


 「あの、この強大な魔力は?ソレとネギさんは何をしに…」

 だが、事情を知らないルーナにとってはイキナリ巨大な魔力を感じた事しか解らない。
 序でに言うとネギが何をしているのかも気になるだろう。気になるのだ仕方ない事だが!

 「ソレはお前には関係n「ネギ君が自分の力を制御しようとしてるんだよ〜♪」裕奈、お前!!」

 『関係ない』と切って捨てようとした真名に被る形で裕奈がバッチリばらしてくれた。
 何と言うか、もうホントにフリーダムである。

 稼津斗が声を殺して笑っているのを見る限り、別分咎める気は無い様だが。

 「え〜〜?だってフェイト達の目的は判ったんだし、ルーナちゃんだって現状でフェイトに連絡とる手段はないっしょ?
  それに、此れが終わればネギ君は天下無敵の最強モードになるわけだからバラしたって問題ねーでしょ?」

 「ソレはそうかもしれないが、相手方にあまり情報を漏らすのは如何なものかと思うぞ?」

 「大丈夫、栞ちゃんはキッチリとネギ君が落としたから無問題や。」

 「流石は英国紳士〜〜♪」

 「…ソレもそうか。」

 納得してしまった。
 無自覚一級フラグ建築英国紳士よ恐るべし。何度も言うが恐るべし。


 「まぁ、今更何がどうなろうと成るように成るし、成るようにしか成らないだろう。
  最終的に勝つのは俺達だとしてもな。
  だが、ルーナ此れは…少々個人的な質問と言うか疑問なんだが、フェイトは消すという行為は本位ではないソレは解った。
  『体の良い性質の悪い死神』と言うのも、まぁ的確な表現と言えなくもないが……理解は出来る。
  だが、それだけで如何してお前はフェイトが自身の行いを本意でないと思えたんだ?」

 此処で切り込むのは矢張りと言うか稼津斗だ。
 さっきのルーナの話から、フェイトが所謂『リライト』で魔法世界の住人を『消す』のが本意でないと言うのは聞いた。

 だが、だとしてルーナは何を持ってしてソレを知ったのか?
 フェイト自身が言ったという『体の良い性質の悪い死神』と言う一言だけで本意を掴むというのは無理があるように思えるのだ。

 「…私は、私達は戦災孤児ですが、少し特殊なんです……直接的に戦争で家族や村を失った訳ではありません。
  戦後の混乱期に……民族間の軋轢や因縁で故郷を失った者達なんです。
  私もまた、私達の種族を快く思わない者達によって住んでいた村を焼き払われ、多くの村人が死にました。
  ですが――私には姉が居たのですが、その姉を消したのは…完全なる世界の一員でした…」

 「なにっ!?」
 「なんやて!?」
 「そんな!!」
 「マジすか!?」
 「うそ…!」


 そして明かされたのは予想だにしない事実だった。
 ルーナの家族は、あろうことかフェイトの所属する『完全なる世界』の構成員によって消された――リライトされたと言うのだ。
 尤もその姉も既に瀕死で、村を焼かれた状態では助かる可能性も無かったのだが…


 だがそれならそれで余計に疑問が残る。
 何故ルーナは己の姉を消した完全なる世界に属しているのだろうか?

 「私も、直後に同じ運命を辿る――その筈でした。
  ですが姉を消した者を、フェイト様が倒し、逆に其の存在を消してしまわれたんです。」

 「なんとね…」

 「私は他の4人と違い、実は可也前から面識は有ったんです。
  其処は割愛しますが……フェイト様は姉が淹れるコーヒーを大層気に入っておられました。
  だからかもしれませんが…姉が目の前で消えたフェイト様は只一言…『あのコーヒーはもう飲めないね』と、本当に寂しそうに呟いたんです。
  ソレを聞いて私は理解しました…『この人は本位でこんな事をしている訳じゃない』と。
  だからこそ私はフェイト様の従者となったんです、あの方が一体何を成さんとしているのかを見届けようと。」

 「成程な…」

 なんとも複雑かつ様々な事情が有ったようだ。
 今の話を考えると、つまりルーナがフェイトの従者第1号と言うことにもなる。

 だがしかし――

 「矢張り解せんな。」

 「え?」

 矢張り稼津斗には別の疑問が生じたようだ。
 此れも年季のなせる業か、ソレは判らないが、何れにせよ今のルーナの話の中にはトンでもない『矛盾』があるのだ。

 「ルーナ、お前の言う事は真実なのだろう…ソレ位は判る。
  だが、奇妙なのはフェイトの行動だ。
  其の行動は…言うなれば完全なる世界と言う組織への反逆行為に他ならないよな?」

 「「「「「「「「!!!」」」」」」」」

 確かにその通りだ。
 ルーナの話が真実ならば、フェイトの行った事は組織への反逆行為でしかない。
 だとするならば、普通に考えて、フェイトは処分されて然るべきである。

 だがしかし、フェイト・アーウェルンクスは今この時もマッタク健在なのだ。
 組織運営の観点から考えると途轍もなく奇妙な事この上ない。

 「…此れはあくまで俺の推測として聞いてほしいんだが、フェイトは、恐らくはセクスドゥムも組織の長への忠誠やら何やらが設定されてないんじゃないか?
  ジャックが言うにはあいつ等は『アーウェルンクスシリーズ』って事だから人造の存在なんだろう?
  そうなると目的やら何やらが最初に設定されてる可能性は極めて高い。
  だが、フェイトとセクスドゥムには『自由意志』が持たされていたとしたら?
  それなら、このおかしな矛盾行動にも納得が行くし、処分されてない理由も何となく予想が付く。」

 凄まじい観察眼と洞察力と言うなかれ。
 最強戦士氷薙稼津斗、伊達に800歳を越えているわけではないのだ。

 「処分されない理由って…何だい?」

 「此れも予想だが、自由意志を持たせた者が如何動くか観察しているのかもしれないって事さ。
  ソレを観察した上で何を如何するかまでは、流石に解らないけどな。」

 完全なる世界にも如何やら複雑な事情が色々有るらしい。
 矢張り事は一筋縄で行くものでもないようだ。

 「まぁ、その辺は連中と会えば解る事だろう。
  さてと…俺も何時までも殺意の波動と暗黒パワーの鬩ぎ合いだけでバランスを取っている訳にも行かないな。
  其の双方を『己の意思』で自在に使えるようにする必要が有るからな…闇の魔法の巻物で自分の深層世界に行くとするか。」

 で、稼津斗は稼津斗でやる事がある。
 何時までも鬩ぎ合いの打ち消し効果だけでバランスを取るのは良くないし、ソレにだって限界がある。
 ダイオラマデの2年では抑えられなかったが、ならば最終手段として自分の深層意識にダイブし、2つを直接叩いて従わせるのが一番だ。

 少なくとも稼津斗はそう考えたようだ。


 だが、ソレを聞いてパートナーが黙っている筈がない!有り得ない!


 「ちょっと待った稼津君!1人はなしだっぜ!連れてける限界まで私等も連れてって貰うよ?」

 「置いてけぼりは嫌でござるからなぁ?稼津斗殿に及ばなくとも、拙者等も戦力にはなるでござろう?」

 即刻同行の意思表示!
 まぁ、当然の反応だろう。


 「無論、俺1人で2つの闇エネルギーを従えるのは容易じゃないから付いて来て貰おうとは思ったさ。
  同行者は2名が限界だろうが…そうなると、亜子と楓だな。
  悪いが、他のメンバーはルーナの相手をしていて欲しい……頼めるか?」

 「任せなって!」

 「まぁ、稼津斗にぃの頼みなら断る理由もないさ。」

 「大丈夫、任せて。」

 「頼まれました稼津斗さん♪」


 勿論稼津斗も1人で行く等考えてはいない。
 此れだけの強大なエネルギーを1人で押さえ込むのは無理だと、既に知っているのだから。

 だから同行者として、武闘派の楓と補助系の亜子を選んだのだ。
 まぁ、此れは残りのメンバーでルーナの監視には真名が、裕奈、アキラ、のどかがルーナの話し相手として適しているという判断だが。


 「まぁ、其れを行うのはネギの方が一段落してからだがな。」

 小屋の外、其処では世紀の『人外決戦』が展開されている真っ最中であった。








 ――――――








 さて、其の人外決戦の地に足を踏み入れた者が居る。


 「やっほ〜〜、来たよネギ君〜〜♪」

 「此れはホントに南国だね〜〜♪」

 現在唯一の未契約者であるまき絵と桜子である。
 彼女達もダイオラマを使って休息しようと来ただけで他意はない。

 だが、あまりにもタイミングは悪いとしか言いようがない。


 「穿てスターダスト・ミラージュ!」

 「神鳴流…百花繚乱!!」

 ネギの荒療治はまだ続いているのだ。


 イクサの分身特攻と、刹那の退魔の剣が炸裂して海を割り、巨大な水柱が!


 「「!?」」

 此れにはまき絵も桜子も吃驚。
 入った途端にこれでは驚くのが自然だ。


 だが、2人の驚きはそれだけではない。


 「え?」

 「ネギ…君?」

 「ウゥゥ……………


 2人の前には魔物と化したネギが佇んでいた。
 野獣そのものの唸り声を上げながら…













  To Be Continued…