ネギとの仮契約によって其の正体を現した偽アスナこと栞。
 如何見ても『完全なる世界』の一派である事は疑いようも無いだろう。

 「『完全なる世界』の構成員だな?…知っている事を話してもらおうか?」

 「…………」

 得られる情報は有るだろう――此れまでよりもずっと多く。
 其れを得ようと、真名が半ば脅しに近い形で銃を向けて問うが、栞は顔を背けて沈黙するだけ。
 話す気は無いと言うことだろう。

 「貴様…」

 「待て真名。」

 それにカチンと来た真名が実力行使に出ようとするが、ソレは稼津斗に止められる。

 「稼津斗にぃ?」

 「詰問や拷問は有効手段の1種だが、全てが強硬手段に出れば良いってモンでもないだろう?
  時には、平和的に歩み寄るのも有効って場合があるんだ。」

 稼津斗は余り力や恐怖で人を縛るのを好まない。
 無論話し合いの通じない相手が居る事は理解しているし、そう言った輩には最初から力を行使するのも厭わない。

 だが、相手が現状戦う力を持たず、只沈黙しているだけならば強硬手段をとらずとも策はある。


 「…ルーナさんですね?
  僕達は貴女に危害を加える心算はありません……ですが、本物のアスナさんが何処に居るのか、其れを知りたいんです。」

 「!!……え、あ………その、完全なる世界の本拠地…討ち捨てられた『墓守の宮殿』。
  …其処にアスナ姫は居ますわ…私達が捕らえた彼方のもう1人の仲間と共に。」

 「墓守の宮殿か…」

 「厄介ですネ…」

 そして、其れを証明するが如く、ネギが栞――ルーナを攻略。
 まぁ、この場合はネギの平和的解決法よりも別の要因が関係して居るのだが…


 取り敢えず、アスナは敵の手中に落ち、アーニャも其処に居る…ソレは確定事項であった。










 ネギま Story Of XX 105時間目
 『籠の中の姫巫女と…』











 その、本物のアスナは、件の『墓守の宮殿』の一室に、アーニャと共に軟禁状態だった。
 尤も其れで不便している訳ではない。

 部屋にはベッドもシャワーも完備されているし、食事だってちゃんと運ばれてくる。
 此れが半分朽ちた宮殿でなければ正に王族の暮らしといっても過言ではない優遇生活だった。


 だが、だからと言って快適ハッピーかと言えば其れは否。
 アーニャは特にだ。

 大人ぶって強がる彼女も、所詮は10歳の少女。
 仲間と、ネギと離れ離れになって敵の本拠地になど、不安で仕方ないだろう。
 アスナの存在が無ければとっくに泣き喚いて、そして心を閉ざしていたかもしれない。


 「ゴメンねアスナ…こんなんじゃ、私、ネギに笑われちゃうね…」

 「ネギはそんな事しないわよ…大丈夫。」

 そんなアーニャは、すっかりアスナが心の拠り所になっていた。
 幸いにも放り込まれたのは同じ部屋……或いはフェイトがアーニャが暴走しないように考慮したのかソレは不明だが。

 兎も角、同室であったのはありがたかった。

 同室であるが故に、アーニャはアスナに寄りかかる事が出来るのだから。


 「うん、ありがと………ねぇアスナ、あいつ等が言ってた事ってホントなの?
  この世界…魔法世界は何時か滅びる……ソレは最悪明日かもしれないって…」

 「…ソレは本当よ。」

 尤も、どうにも見過ごせない事がフェイトから告げられていた。
 ソレは『何れ魔法世界は崩壊して滅びる』と言うこと。

 フェイトはアスナに其れを再認識させるのが目的だったのか、多くを語らない。
 只漠然と『魔法世界は滅びる』と言うことと『其れによる解決不可能問題がある』と言うことを伝えただけだった。


 「何で?」

 「魔法世界は元々が、火星を媒体に其処に被せる形で造られた人造異界なの。
  出来た当初は余り人も多くなく、旧世界――地球と繋がるゲートの数も少なくて世界は安定していたのよ。
  けど、月日が経つに連れ人は増え、ゲートも増加して地球との行き来も多くなり……地球に人造異界のエネルギーが少しずつ流出し始めた。
  ソレはとても少しだから、影響はないと思われてたわ……数百年の間もね。」

 「違ったのね?」

 だが、アスナは真実を知っている。
 フェイトに再認識させられずとも知っている……知ってしまっているのだ、生まれながらにして。

 「魔法世界が造られた世界でなければ多少のエネルギー流出は問題なかったのよ。
  けれど、此処は人造異界……其れを維持するためのエネルギーが絶対必要になるのは解るでしょう?
  にも拘らず魔法世界のエネルギーは地球に流出するだけで補充されなかった。
  幾ら微量とは言え、補充されずに流出を続けたら…」

 「何時かは無くなっちゃうじゃない!!」

 「そう。そしてそうなれば造られた世界は消滅して、魔法世界の人々は不毛な火星の大地に投げ出される事になる。
  凡そ人が生きる事なんて不可能な場所にね。」

 「なら助けなきゃダメじゃない!」

 「そうね…でも、どうやって?」

 「ソレは……」

 更にアスナから聞かされた事にアーニャは驚き、当然の反応として助けなければと言うが方法を問われて答えに窮する。

 当然だろう。
 魔法世界の全住人はその数実に12億を超える。
 それら全てを救済するなど現実的に不可能だ。

 「12億もの難民を地球で受け入れるのは不可能でしょ?
  メガロメセンブリアの人口6700万人ですら受け入れる事は…まぁ、不可能と見て良いわ。」

 「ちょっと待ってアスナ。
  何で其処でメガロが出てくるの?助けるならやっぱり全員助けなきゃダメじゃない。」

 奇しくもアスナが言ったのはクルトの弁と同じ事。
 何故メガロメセンブリアの人口6700万人がこうも関係してくるのだろうか?

 「つまりは其処なのよ……だからこそあいつ等は私を使おうとしているの。
  私の黄昏の姫巫女としての力を使って魔法世界を書き換えて封じる…つまりは今居る人達を消すのよ全て。」

 「な!!皆殺しにするって言うの!?冗談じゃないわ!!」

 「皆殺しって言うのとは違うかな?
  私の力によって書き換えられた世界に移り住ませるのよ。
  永遠の園、アンフェアな不幸のない楽園――『完全なる世界』に……それがあいつ等の目的。」

 「けど、なんでそんな…」

 「其れしかないからよ…現状での打開策が。」

 聞けば聞くほどトンでもない事を計画しているものだ。
 アーニャは既に堪忍袋が限界ギリギリ状態まで来ている。

 計画の内容もそうだが、何より其れをアスナにさせようと言うのが腹立たしい。


 アスナと共にこの部屋に軟禁されてからと言うもの、アーニャにはアスナが唯一の仲間だった。
 敵の本拠地と言う事もあるだろうが、不安は大きかった。
 だが、言葉少なくてもアスナが何時も励ましてくれていたから大丈夫だった。
 クールに気丈に振舞うアスナの姿が勇気を与えてくれていた。
 知らず、アーニャはアスナの事を実の姉の様に慕うようになっていた……本人は無自覚だが。

 そのアスナに事実上の世界抹殺をさせようなど憤懣やる方ないだろう。

 「打開策がない?」

 「れっきとした『人間』であるメガロメセンブリアの市民と違って、それ以外の魔法世界人は現実には『居ない』のよ。」

 「へ?アスナ、それって…如何言う事?」

 「…魔法世界と魔法世界人は『同じ物』で出来ているの。
  魔法世界が消え去る時、魔法世界人もまた消え去る。
  メガロメセンブリアの市民以外の魔法世界住人は――ジャックを含め、全て幻想なのよ。」

 「な!!」

 「此れがこの世界の最後の真実にして、解決不可能問題よ…」

 「そんな……」

 絶望的状況とは正にこの事だ。
 つまりはクルトもこの真実が故に12億全てを救うと言えなかったのだ。

 だが、アスナは違う。

 「でも解決不可能だったのは今までの事よ。
  多分、ネギと稼津斗もこの真実に辿り着くわ……そうなればこの問題は解決不可能じゃなくなる。
  あの2人と、そして3−Aの皆が力を合わせればきっとね…」

 『神楽坂明日菜』として生きた麻帆良での日々。
 其の中でも最高最強の仲間である3−Aの面々。
 そして稼津斗とネギの存在……それがこの解決不可能問題を解決してくれる。
 アスナはそう予感――否、確信していた。








 ――――――








 「この魔導書に記された内容は全て真実です…」

 「矢張りそうか…」

 グレートパル様号に設置されたダイオラマ球内部では、のどかがクルトから得た情報が真実であるとルーナから告げられていた。
 奇しくもソレは墓守の宮殿でアスナがアーニャに語った内容と全く同じであった。

 「成程、此れは確かに解決不可能だ…合点がいったよ、魔法世界が纏まらないわけだ。」

 真名も此れには納得。
 魔法世界が一つに纏まらず、どこか歪んでいる理由は正に其処にあったのだから。

 ネギも他のメンバーも驚愕で声も出ないようだ。
 余りにも無慈悲な真実であるが故に仕方ないかもしれないが。

 只1人、稼津斗だけはこの『真実』を聞いて何か考えているようだが。


 「けど、君は良いのか?此れは大事なことなんだろう?」

 余りにもアッサリと話したルーナにアキラは問う。
 此れだけの重要情報は、少なくとも敵方に簡単にバラして良いものでもない。

 「良いんです、私は時間稼ぎが目的でしたので。」

 「つまりは使い捨てか…良くある話だな。」

 ルーナは其れに問題ないと答えるが、真名は其処に噛み付く。
 現実主義者の仕事人を続けてきた真名に言わせれば、ルーナの役目は『捨て駒』以外の何者でもないのだ。

 が、そう言われてルーナが黙っているかと言われれば其れは否。
 己を捨て駒と評した事にではなく、フェイトを馬鹿にされたように感じたのだ。

 「フェイト様はそんな方じゃありません!貴女に何が分ると言うのです!彼の崇高なる目的が…」

 「崇高?要は面倒だから全部消して終りにだろう?お世辞にも崇高とは思えんな。」

 ルーナが噛み付けば真名も其れに対応する。

 真名とて安い挑発をしたわけではない。
 前の契約者とNGOのメンバーとして世界を回った真名は、悲惨な世界と言うものを知っている。
 故に全てを消して終りにするという短絡発想が受け入れられないのだ。


 だが、悲惨な世界を知るのは戦災孤児のルーナとて同じこと。
 だからこそ彼女は紛争や不幸のない世界に人々を送るフェイトの目的に加担しているのだ。


 「違います!此れこそが弱き者、祝福されぬ者の魂を救う唯一の方法なのです!」

 「ほざくな反吐が出る。
  お前達の様に中身のない綺麗事を口にする奴ほど、結果として多くの人を不幸にするのさ。」

 「何と言うことを…!
  では貴女は、父を知らず、飢えて死に行く少女を!母を知らず、武器を持って戦場に出る少年を見捨てろと言うのですか!?」

 「見捨てろとは言わないさ。だが、考えが余りにも短絡的だと言っているんだ。」

 共に悲惨な世界を知っているが故に一歩も退かない、退く筈がない。
 凄まじい言葉の応酬のみならず、2人の間に火花が散って見えるのは気のせいではないだろう。


 「その辺にしておけ真名。」

 「む、稼津斗にぃ…」

 其れを止めたのは稼津斗。
 まぁ、稼津斗でなければ真名を黙らせる事は出来ないだろう。

 「今此処でコイツを責めてもどうにもならん。
  ならんのだが……矢張り解せんな。」

 真名を止めた稼津斗だが、しかし解せない事があると言う。
 ソレは何なのだろうか?

 「解せないって…如何言う事だよ先生?」

 「いや…此れに記されている事が真実として――何故有効な対応策が何もないんだ?」

 「!!…そういやそうだな…」

 稼津斗が考えていたのは其れだった。
 何ゆえこの滅びに対する有効策がないのか?其れが気になっていた。

 「人が増える、交流を持った世界との行き来が増える…此れは予想して然るべき事だ。
  もっと言うなら人造異界の維持に必要なエネルギーも、いざと言う時の補充機構を備えておくべきだろう?
  だが、それが無いと言うのは流石に解せん。
  此れじゃあまるで、この魔法世界は最初から『滅びる事が前提』で造られていたとしか思えない。」

 「確かにそうだな、言われてみると。」

 極論だろうが、滅びる事が前提の世界…否定するデータがないのも事実だ。
 一切の救済措置も、最悪への対応が考えられて居ないと、ソレは大惨事へと発展することもあるのだ。


 「正直、連中の真の目的やらは俺には分らん。
  だが、滅び行く世界を救済せずに全てを造り直すと言う考えは、正直看過できないな。」

 そしてリアルに『世界の崩壊』を目の当たりにした稼津斗に、生ける人々を犠牲には出来ない。
 心に冷えた闘気を宿し、しかし燃え盛るような闘気も同時に宿す。

 こんな無慈悲で一方的な『救済』を認める訳には行かないのだ。


 「何にしても、面倒な案件が追加されたのは間違いない――これ以上の追加は無いだろうが。
  只一つだけ答えてくれルーナ……フェイトも全てを消す以外の方法は無いと考えているんだな?」

 「カヅトさん?…はい、フェイト様も他の方法は知りません。
  と言うか誰も消えずに済む方法があったらな其れを選ぶと思います。
  フェイト様とて好き好んで消している訳ではないのです……過去に御自身を『体の良い性質の悪い死神』と言っていましたし…
  消してしまわれるというのは、決して本意ではないと思います。」

 「そうですか…」

 ネギも其れを聞いて考える。
 もしこの方法がフェイトの本意でないのならば、代案を示す事で或いは戦闘を回避して平和に事を済ませられるかもしれない。

 しれないが…


 「ネギ、代案を考えているな?…だが、奴が其れを素直に聞き入れる筈は無いって思ってるんじゃないか?」

 「ソレは…うん。
  僕とフェイトは似ている部分があるからね……特に『こうだ』と決めたら絶対に折れない頑固さはソックリだと思う。」

 其れをフェイトが素直に受け入れるかと問われればソレは否。
 セクスドゥムも素直に受け入れることはないだろう。

 「けど、だったら如何するかは決めているんだろう?」

 「勿論!話が通じないなら、拳で分らせる。
  僕の本気と力を示した上で、代案をアイツに示す…其れが一番面倒くさくない。」

 だが、ネギも考えていた。
 話が通じないなら拳で分らせる……実にシンプルな答えだ。

 尤も其の為には、より効果的な代案を作る事が前提だが。


 「マジで?てか其れってなのはの最終奥義じゃねぇの?」

 「あぁ、あの子の最終手段『O・HA・NA・SHI』だな。」

 だが、其の手段は何処ぞの白き魔王様の最終奥義である。
 何時ぞや其の彼女と共闘した事のある裕奈と、其の世界に己のオリジナルが居るイクサは少々苦い顔だ。


 「まぁ、ソレは良いとしてネギよ…やる事があるんだろう?」

 「うん。――千雨さん、アクア、刹那さん少し良いですか?」

 ソレはソレとしてネギにもダイオラマでやらねばならぬ事が有る。
 言わずもがな『闇の魔法の侵食の治療』だ。

 其れを行うのだ――一筋縄では行かないだろうが。

 「待てネギ……イクサも連れて行け。
  暴走した場合、お前を完璧に抑えられる存在は必要不可欠だろう――良いか?」

 「あぁ、其の任を承ろう。」

 稼津斗も最悪の事態を予想して、イクサに同行を命じる。
 ネギも其れを断る理由はない。

 只一言『宜しくお願いします』とイクサに告げて、建物の外に。


 行こうとした所でルーナに服の端を摘ままれた。
 まるで『まだ行かないで』と言わんばかりに。


 「あ、あの…」

 「…話しにくい事を色々話してくれてありがとうございます。
  後でもう少し詳しい話を聞かせてもらっても良いですか、ルーナさん?」

 「は、はい喜んで…あの、後でとは何時?///

 ルーナの顔は紅い。
 真っ赤だ!良い感じに茹でられたタコや海老よりも真っ赤だ。

 「何時?えぇ、また直ぐ戻りますよ?」

 「そう、ですか…お待ちしていますわ…///

 耳まで真っ赤。
 此れはもう確定だろう。


 「稼津斗殿、よもや彼女は…」

 「あぁ、『落ちた』な。恐るべし英国紳士…」

 そして、ルーナが如何なってしまったのかはネギを除いて全員が看破していた。


 何たる英国紳士、ネギ・スプリングフィールド。


 何時ぞやアスナが言った事は、シッカリハッキリ現実になったようだ。

 「この一級フラグ建築士が…つーか嫁が居んだから、ちったぁ自重しろよ英国紳士…」

 そして千雨の呟きは、矢張りネギとルーナ以外は全員が思った事でもあった。














  To Be Continued…