「う…」

 「目が覚めたか?」

 「…カヅト…」

 ネギが目を覚ますと、其処は総督府ではなくグレートパル様号の内部。
 闇の魔法の侵食で気を失い、千雨達の手でこの船に運び込まれたのだ。

 「闇の魔法の侵食――相当に重そうだな?
  見たところ重度の魔素中毒に似た症状が出ている…早急に何とかしないと命に係わるぞ?」

 「ソレは…うん。
  だけど何とかする方法はあると思う。エヴァンジェリンさんが何も考えないで僕に此れを教える予定だったとは思えないから。」

 闇の浸食を受けてもネギは変わらない。
 侵食されている事実に絶望せずに、押さえ込み使いこなす為の事を考えているようだ。

 だが、ネギの侵食と同レベルに問題なのが稼津斗だ。
 殺意の波動と暗黒パワーの2つを宿している稼津斗はその2つを押さえ込まねばならない…並大抵の事ではないだろう。

 「だろうな、取り敢えずブリッジに行くぞ…アスナをはじめとしてお前のパートナー達が心配しているからな。」

 「僕の…うん、直ぐ行くよ。」

 尤も稼津斗はそんな事を態々言わないが。



 ネギは直ぐに着替えてブリッジへ。
 ただ、1つだけ……ラカンが最後に言った『アスナは偽者』の一言が、消えずに頭の中に残っていた。










 ネギま Story Of XX 104時間目
 『勝利の鍵を求めて』











 ネギが目覚めた事は誰もが嬉しく、同時に信じてもいた。
 だから誰もさほど驚く事無く、事態についていく事ができた。

 そんな中で、のどかが敵から得た情報を皆に伝えている。

 何時また戦闘になる変わらない事を考えれば、今この場での情報公開&共有は必要不可欠だろう。


 「造物主の鍵か…なんとも面倒な代物だな?」

 「はい、造物主の鍵は大きく3つに分類されます。
  先ず戦闘用の簡易タイプである無数のマスターキー。
  簡易タイプとは言っても、此れを持つ者に魔法世界人は如何足掻いても勝つ事は出来ません。
  次により造物主の力を高度に再現した7本のグランドマスターキー…魔術師デュナミスから強奪した此れです。
  そして最後に1本のグレートグランドマスターキー――此れは正に造物主の力其の物といえる世界の鍵です。
  此れの力を用いれば、消えてしまった人達を元に戻せるはずなんです。」

 だが、何たる宮崎のどか。
 如何に高性能のアーティファクトを有するとは言え、これほどの情報を引き出すとは驚きの一言だ。

 現に真名までもが想像以上の性能に目を丸くしているのだから。

 加えて7本のグランドマスターキーのうち1本は此方にある。
 此れだけの情報を引き出して尚且つ敵方の切り札を1本強奪したのどかは総督府での戦闘におけるMVPと言っても過言ではない。


 更にこの情報提供は嬉しい誤算を生んでくれた。


 「よーするに其の鍵とやらを手に入れれば万事解決ハッピーエンドでしょ?
  簡単じゃん!私等3−Aに敵は居ないって教えてやろうぜ!」

 「本より彼等の暗躍、跳梁を認めるわけには行きません!」

 3−Aの面子のみならず高音もやる気充分。
 総督府で目の当たりにした『人が消される』と言う悪夢の様な光景は忘れられない。
 だが、其の消された人々を元に戻せるとなれば俄然やる気も出る。
 総督府でアレだけ好き勝手やってくれた連中にキッチリ借りを返さないと気が済まないと言うのもあるだろう。

 「当然、そう来るだろうな…一応確認するが、如何する担任殿?」

 「決まってるよ、此処で引き返す事なんてしない!
  全力前進、皆で、僕達の手で全てに決着を付けましょう!」

 「「「「「「おーーーーーーー!!!!」」」」」」

 ネギの号令を合図に、3−A&アリアドネー乙女騎士団&高音と愛衣の思いは1つに!
 元々団結すれば天下無双の3−Aに、更に戦力が加わったこのパーティに隙はない。

 突入には下準備が必要なためマダマダ時間が有る。
 最終決戦に向け、各々先ずはダイオラマを使って身体を休める事にした。








 ――――――








 とは言え看過出来ない事案もある。


 言わずもがな稼津斗の殺意の波動&暗黒パワーと、ネギの闇の魔法の侵食だ。

 どちらも一朝一夕で何とかなるものではない。
 故にダイオラマ球を使って、時間を稼いで何とかするつもりだ。

 其の傍ら、稼津斗は…アキラと一緒に居た。
 『話がある』とアキラに誘われたのだ。


 「話ってのは?」

 「………稼津斗先生、私と契約してくれないかな?」

 「…何?」

 して、其の話の内容はなんともトンでもない物だった。
 稼津斗との契約は=人である事を辞める事に他ならない。

 アキラとてソレは充分に知っている筈だが、ソレを知っていて尚、契約を持ちかけるとは如何言う事であろうか?

 「私は…何も出来なかった。
  ルガールに捕まってエネルギーを吸い取られて、トサカさんに庇ってもらって……何も出来なかった…何も…
  もっと言うなら、稼津斗先生が『死んでしまった世界』でも、私は何にも出来なかった…そんなのはもう嫌だ!
  力が欲しい…親しい人、大事な人を護れるだけの力が!…だから契約して欲しいんだ、稼津斗先生…!」

 「大河内…だが、俺との契約は…」

 理由は充分だった。
 アキラの言う事は良く分るが……だからと言って簡単に契約できるかといえば否。

 稼津斗は『人の生を奪う』事はしたくない。
 人である事を奪ってしまう己との契約には慎重なのだ。

 だが…

 「好きなんだ、稼津斗先生のことが!
  何時からかは分らないけど…裕奈達に負けないほど好きなんだ!
  稼津斗先生が死んでしまった世界では凄く悲しかった……もう、目の前で誰かが消えるのは嫌だよ…」

 「大河内…いや、アキラ――良く分った。」

 契約を望む者の『本気』を聞けば契約を交わす事には吝かではない。
 アキラの訴えには其の本気が見て取れた、其の瞳には強い意志が感じられた。

 「だが、俺と契約を交わすという事は=人としての生を失うということだ――本当に良いんだな?」

 念を押すように最終確認。

 「うん…私は先生と――稼津斗さんと歩みたい。」

 本当に迷いは無い様だ。
 いや、散々迷ったが総督府での一件で決意が固まったというべきかも知れない。

 「ふぅ…如何にも俺は幸せ者だな――此れだけの人に慕ってもらえるとは…。
  了解だ。早速契約…と行きたいところだが其の前に……其処でこっそり見ている4人、そろそろ出て来い。」

 「え?」


 「あっちゃ〜〜、やっぱバレてたか。」

 「稼津斗にはバレると言っただろう?」

 「流石は稼津さんや、気配察知に隙が無い。」

 「カヅトだしね〜〜。」

 物陰から出てきたのは、裕奈、イクサ、亜子にクスハ。
 如何やら事の成り行きをこっそり覗いていたらしい。

 因みにクスハは言わずもがな子狐モードで亜子の頭の上である。
 久しぶりになので堪能しているようだ。


 「覗き見は、余り良い趣味とは言えないぞ?
  まして、人の大事な決意や告白の場面なら尚の事な。」

 「ひ、酷いよ皆!」

 「ゴメン!でも、気になってさ……アキラがメッチャ決意の表情だったから。」

 「悪いと思ったんやけど、やっぱ友達の事は気になってまうんや…堪忍してや?」

 で、覗いてた事を注意されて裕奈と亜子もアキラにゴメンナサイ。
 イクサとクスハも詫びは入れている。


 「で、契約するのだろうが…その、殺意の波動と暗黒パワーの影響はアキラに及ばないのか?」

 「及ばない――と言うか、影響が出るなら既に契約してるお前達に影響が出ている。」

 「ソレもそうだな。」

 殺意の波動と暗黒パワーの影響も心配したが契約には問題ないようだ。
 尤も問題があるなら稼津斗も契約を是とはしなかっただろうが。


 なんにせよ、アキラの願いと決意と思いは伝わった。
 すぐさま契約魔法の準備をして、後は契約を成すだけだ。

 「じゃあ、行くぞアキラ?」

 「うん…」

 「大河内アキラを、此れより我が従者とする。
  優しき心に、友を護るための力を宿し、ソレを持って契約と成す…契約!!」


 ――カッ!!


 契約魔法陣が展開され、契約の文言と共に光が溢れ――そして契約完了だ。
 完了だが…

 「あ、あれ?此れって…」

 「うそ、マジで?」

 「これ…『真契約』カードやん!!そんだけアキラの思いは強かったんか…」

 「確かに、あの異常な未来では私達と同じ位に感情が爆発していたからな――ある意味当然か。」

 出てきたのは『仮契約カード』ではなく、裕奈達と同じ『真契約カード』。
 稼津斗ですら此れが出るとは思って居なかった。

 それだけアキラの思いは強くなっていたと言う事だろう。
 決意と覚悟を決めた優しい少女の意志が形となって現れた結果だ。


 「まさか、ソレが出るとはな…正直驚きだが、お前の思いの強さは伝わったよアキラ。」

 「えと…その、これからも宜しくお願いします。///

 紅くなるアキラがなんとも初々しい。


 さて、新たに契約したとなれば最早お約束なのが、

 「と言う訳で毎度お馴染み、俺の特製ダイオラマ登場。
  例によって例の如く、アキラには俺と一緒にこの中に入ってオリハルコンを馴染ませる2年間を過ごしてもらう。」

 「あ、やっぱし出た……で、今回の時間は如何程?」

 「1年を1分。」

 「ドンだけチートな時間圧縮やソレ…」

 稼津斗の特製ダイオラマ球。
 オリハルコンを馴染ませるための2年間の修行なわけだが、修行を積んだ結果、時間圧縮が更に強化されたらしい。


 「じゃ、じゃあ行って来るね?」

 「あぁ、2年間…私達から見たら僅かに2分だが――頑張って来い。」

 そしてそのまま速攻ダイオラマ内部へ。







 ――2分後






 「ただいま、2年ぶり!」

 「こっちでは2分だっての…けど、オリハルコンは馴染んだね?」

 「うん、変身も出来るよ。」

 修行を終えたアキラは稼津斗ともに帰還。
 元々が結構強かっただけに、修行中にXXへの覚醒もなったようだ…尤もあの異常な未来での感情爆発が既に覚醒の素養を作ってはいたのだろうが。


 「で、稼津斗の方は如何だ?2年間で殺意の波動と暗黒パワーは…」

 「ダメだな……思った以上に押さえ込むのが難しい。
  両方を押さえつけようとすれば、反発してきて中途半端になるし、どちらかだけを押さえ込もうとすれば抑えられてない方が暴れようとする。
  結局、根本的な解決ができるまでは互いに鬩ぎあって貰うほうが都合は良いみたいだ。」

 だが稼津斗のほうは2年間を経ても殺意の波動と暗黒パワーを抑えるには至らなかったようだ。
 それだけ其の2つの力は強いと言う事だろうが、全く無駄な2年間だったと言うわけでもないらしい。

 「だが、押さえつける事は出来ないとは言え、ある程度なら暗黒パワーと殺意の波動の技を使えるようにはなった。
  使いすぎは危険だが、必要な時に使うくらいなら問題ないはずだ。」

 押さえつけられずとも、ある程度の力の行使は出来るようになったとの事。
 無論使いすぎは禁物だが、あの凶悪な力を限定的にでも使えるのは戦力面でも大きなプラスだろう。

 何れにせよ、最終決戦に向け戦力が強化されたのは間違いない。


 《スマナイ、少し良いかい稼津斗にぃ?》

 《真名…如何した?ネギと一緒に行ったはずだが…》

 《少し…いや、大き目の問題が発生してね――来てもらって良いかな?》

 《問題?…分った、直ぐに行く。》

 そんな折、ネギと行動を共にしていた真名からの念話通信。
 なにやら問題が起きたらしいのだが、一体何が起きたのだろうか?


 すぐさま稼津斗達はネギの居る場所へと瞬間移動。


 して其処に有ったのは、両手を縛られているあすなの姿と困惑顔のネギ達だった。

 「取り敢えず、何でこんな状況になっている?」

 「稼津斗にぃ…いや、ネギ先生が、ジャック・ラカン氏が消える直前に『今居るアスナは偽者だ』と言ったと…
  其の言葉が真実だとすれば、彼女は偽者で――最悪フェイト一味のスパイと言う可能性がある。
  だから、拘束したうえでのどかのアーティファクトで心を読んだんだが……」

 「結果はアスナさんなんです、紛れも無く。」

 「なんとまた…面倒な案件が出てきたものだな…」

 ラカンが消える直前に言った『アスナは偽者』と言うのを確かめていたらしい。
 抵抗されてもと言う事で、両手を拘束した上でのどかのアーティファクトによる読心を試みたのだが、結果はシロ。
 思考形態も何もかも、完全にアスナであるのだ。

 「変身魔法だとしたら相当に高度で、僕達じゃ…ソレでカヅトに頼みたいんだ。
  カヅトの『同調』なら、或いは…」

 「成程な…分った、やってみよう。……失礼するぞアスナ。」

 故に稼津斗に助っ人を頼んだのだ。
 稼津斗の『同調』なら、解析が出来るし、『同調・解』ならば変身を解く事も可能だろう。

 あすなの頭に触れ、解析開始。
 己の気を同調させて、あすなを解析して行く……だが、稼津斗の表情は固い。
 如何やら結果は宜しくないようだ。


 「参ったな、解析してもコイツはアスナで間違いない。
  もしも変身魔法だったら、此処まで完璧にやられると本人がアスナだという以上は解を使っても解くのは難しいな。」

 結果は本当に良くなかった。
 稼津斗の同調ですら、あすなはアスナと言う結果なのだ。

 「いっそ人に化けた魔物の正体を暴く退魔弾でも撃ち込むか?」

 「いや、バイオレンス思考はやめてくれよ龍宮…つってもどうすんだ?
  此れじゃあ埒があかねぇ………ん?そういやネギ先生、仮契約ってのは同じ主従でもう1度行うことって出来るのか?」

 「え?…いえ、無理です。僕がアスナさんの従者になると言う相互仮契約なら兎も角、主従が変わらずに二重契約は出来ませんよ?」

 「それだよ。
  其のアスナと先生が契約すれば分るんじゃねぇか?
  ソイツが本物のアスナなら契約不能で終るし、そうじゃなければ契約が成立するはずだぜ?」

 正に八方塞と言う状況の中で、冴えていたのは千雨だった。
 ふとした疑問から、誰も傷つかない安全な解決策を見つけ出してしまった。

 或いは物事を一歩引いて見る事の出来る千雨だから出来た事なのかもしれない。

 「確かに…冴えているな長谷川、良い判断だ。」

 「流石です千雨さん!其の方法なら手荒い事をしなくても済みます。」

 「ま、戦闘以外のバイオレンスは極力避けてぇからな。」

 ならば其の手段を使わない手は無い。
 ネギはすぐさま仮契約の魔法陣を展開し、己とあすなを包み込む。

 「ネギ?」

 「例え貴女が偽者であろうと、貴女が僕にとって大切な人なのは変わりません。
  でも、だからこそ僕は貴女が本物のアスナさん…僕の姉さんかを確かめなきゃならない。
  貴女の真の姿を示す事で、契約をなす!仮契約!!!」


 ――カッ!!!


 契約魔法独特の光が弾ける。
 そう、『契約完了』を示す光が。


 ソレはつまりあすなはアスナで無いと言うことに直結する。

 同時に契約魔法は、仮契約であっても主従の魂を繋ぐ魔法に他ならない。
 そうである以上は、契約がなれば仮初の姿は、少なくとも契約完了時には保っていられない。

 「貴女は…」

 契約がなり、その場にあすなの姿はもうない。
 代わりに其処に居たのはくすんだ金髪と尖った長い耳が特徴的な亜人の少女。

 「ネギ…さん…」

 フェイトの従者が1人、栞が其処に居た…














  To Be Continued…