ユエは目の前で起きた事に思考が付いて行く事が出来ないでいた。

 自分を庇って、そして消えてしまったエミリィ。
 何時も憎まれ口ばかりだったが、実は自分の事を気にかけてくれていたエミリィ。

 ソレが目の前で跡形もなく霧散したと言う事実に、ユエは茫然自失の状態だった。
 だが、だからと言って敵の侵攻は止まらない。
 動かないユエに対しても攻撃は続けられる。

 「ユエ!!」

 其のユエを護るように、コレットが前に出る。
 だが、ユエは動かない……否、何かを思案している…


 ――私だけが無事…?何故?
    委員長は新世界、魔法世界の出身……私は旧世界、現実世界の……!!!
 「ダメですコレット!!」

 其の思案が何かに辿り着いた其の瞬間、ユエは覚醒!
 逆にコレットを護るように前に出て、敵ユニットを一刀両断!

 「コレット、貴女は下がってるです!」

 「でも、ユエ!!」

 コレットの制止は聞かない、そして効かない。
 覚醒したユエの感情を占めていたのは紛れもない怒りと悲しみ。

 「フォア・ゾ クラティカ ソクラティカ!!」
 ――委員長!!


 目に涙を浮かべて始動キーを詠唱。
 そしてもう1人…

 「ミンティル・ミンティス・フリージア!!」
 ――お嬢様…!!


 エミリィの付き人であったビーことベアトリクスも、エミリィの消失に感情が爆発していた。


 ――雷撃武器強化(コンフィルマーティオー・フルミナーンス)!!

 ――氷結武器強化(コンフィルマーティオー・グラキアーリス)!!


 もしも敵ユニットに感情が有るならば、自らの誤算を知った事だろう。
 即ち『人の心の触れ幅』を軽視していたということに気が付いただろう。

 親しい人、大切な人を失った少女の心は爆発し、それは今この瞬間絶対の怒りとして転化した。

 現実世界出身の2人の少女は、怒りによって潜在能力が解放され雷撃と氷結の魔導剣士として覚醒したのだった。










 ネギま Story Of XX 103時間目
 『全力前進突き抜けろ』











 覚醒した2人の魔導剣士少女は正に一騎当千と言うに相応しい強さだった。
 2人が通った其の場所に、敵ユニットは1体たりとも存在していない。

 ベアトリクスの一撃が敵を凍らせ、ユエの一撃がソレを粉砕し霧散する。
 そして恐らくは無意識なのだろうが、此れが絶妙の連携となっていた。

 ベアトリクスは兎に角剣での攻撃をメインに行い、ユエは剣と魔法をバランス良く使い分ける。
 剣ではベアトリクスが、魔法ではユエが夫々少しだけ上回る故に、この戦闘スタイルの組み合わせがガッチリかみ合っているのだ。


 「す、凄い…」

 見ているコレットも此れには驚きを隠せない。

 が、同時に疑問もある。
 自分達の攻撃は一切効かなかったのに、何故あの2人の攻撃はこうまでも効いているのか?

 恐らく其の答えが出ることはないだろう。
 だが、答えは出なくとも、この2人の攻撃が有効なのは間違いない。

 この2人なら或いは…とも思ったが、其処は流石に付け焼刃のコンビネーションの脆さが出てしまう。
 前に前に進んでいた2人の背後から、新たな敵ユニットが!

 しかも速い!…回避は不可能だ。

 「ユエ!!」

 ダメか?
 そう思った瞬間、其の敵ユニットを数発の銃弾が撃ち抜いた。

 言わずもがな真名だ。
 敵ユニットの殲滅を行っていた彼女がユエ達を助けたのだ。

 「怒りは力を与えるが判断を曇らせる。
  怒るのは結構だが、ソレに飲まれず使いこなせ…戦場ではクールにな綾瀬夕映。」

 「え、あの…貴女は?」

 「ん?あぁ、記憶が適当に無くなってるんだったか?
  まぁ、友人……と言うほどに深い付き合いじゃないな、クラスメイトだよ。」

 記憶を失っているユエには真名が誰なのか分らない。
 状況が状況なので、簡単にソレを説明しながら攻撃の手が一切緩んでいない真名は流石だろう。

 「ヤレヤレ、落ち着いて話も出来んな……取り敢えず落ち着け綾瀬、念話妨害が晴れたのでな、のどかから伝言だ。」

 「のどか…?」

 「お前の親友だよ。こっちは私の友人でもあるがな。
  良いか、よく聞け『復活の方法はある、誰かが消されても諦めないで』だそうだ。」

 「!!!」

 衝撃の事実。
 其の言葉を信じるならば、今この場で消えた、消された人達を取り戻す方法は有るのだ。

 「あののどかが此処まで断言するんだ、確かな証拠を掴んだと見て良い――怒りで自暴自棄になるには未だ早いって事さ。」

 「宮崎のどか……私の…親友?」

 「だと思ってたんだが……違ったか?」

 瞬間、ユエの脳裏に記憶がフラッシュバックしてきた。
 完璧ではないが、『綾瀬夕映』として麻帆良で生活していた頃の親友と紡いだ日々の記憶が…

 「!!」

 「どうかしましたか、ユエ?」

 「いえ、なんでもないです。大丈夫です。」

 ベアトリクスからの問いはそれとなく誤魔化し、しかしユエの顔には希望が少し浮かんでいる。
 いや、復活が可能と聞いたベアトリクスもまた落ち着きを取り戻した表情だ。

 「友を信じるなら私について来い。
  アスナ、離脱するぞ!高音さん達も脱出したほうが良い、会場の客は全部外に逃がした。
  仕上げに会場を爆破してこいつ等を纏めて制圧する!」

 「ちょ、龍宮さんそんな事をしたら大事ですわよ!?」

 「稼津斗にぃとネギ先生が総督をブッ飛ばした時点でどうせ私達はお尋ね者だ、精々派手にやらせてもらう。」

 「……確かにとっくに大事になっていましたね…分りました、行きましょう!」

 で、真名は真名でトンでもない最終手段を用意してくれていた。
 恐らく戦闘中にプラスチック爆弾でも彼方此方に貼り付けておいたのだろう。

 破壊的勝つ暴力的な一手だが、四の五の言っては居られない。
 高音も腹を括って、敵ユニットの殲滅を出口方向への一本に変更。

 「さて、出口まで走るぞ?其の途中の敵は…やれるな、綾瀬?」

 「は、はい!」

 「そちらの人間のお嬢さんも。」

 「は、ハイッ!」

 「良い返事だ…行くぞ!!」

 銃弾、雷撃、氷結、影槍が駆け抜け、出口まで一本の道を作り出す。
 其処を全員が駆け抜けて外に出たのを確認すると…

 「ゲームオーバーだ。」


 ――カチリ……ドガァァァァァァァァアッァァァァァァン!!!


 スイッチを押し込み、舞踏会場、大・爆・発!!!
 木端微塵の大粉砕、会場内に居た敵ユニットは全滅だろう、南無阿弥陀仏。

 「此れは見事つーか、やりすぎじゃねっすかね…?」

 「知らん、敵襲を予測していなかった総督府が悪い。
  もっと言うなら、こうしなければこっちが危なかったんだから、助かるための非常措置だよ、私に非はない。」

 「え〜〜〜…」

 確かにそう言える状況ではあったが、美空はちょっと納得行かなかった。

 「まぁ、最悪の場合は敵ユニットが壊したって事にすれば良い。
  早乙女の船が来る場所まで走るぞ!」

 「はい!」

 とは言えまだ戦場真っ只中。
 一刻も早く脱出する必要が有るので、船が停泊する予定の場所に向かう。

 戦闘の混乱で、第二合流地点に停泊は困難と言う事が念話通信で皆に伝えられたのは其の後直ぐだった。








 ――――――








 「う……此処は?早乙女の船の中…とは違うな?」

 稼津斗は少し小さめの部屋で目を覚ましていた。
 乗り物で移動する際の独特な振動を感じるので、飛空挺に乗っているのだろうという事は予想が付くが、ハルナの船でない事も分る。


 「稼津斗…目が覚めたのか?…良かった…」

 「リインフォース?……そうか、俺はルガールに暗黒パワー植えつけられて……スマナイ、また心配をかけたな。」

 「良いさ、お前がそう簡単にくたばるとは思っていないからな。
  だが、ソレよりも……一体何時になったら、私を『イクサ』と呼んでくれるんだ?」

 「え?」

 「折角お前に賜わった名前なのに、お前が呼んでくれないのは少し寂しいぞ?」

 目が覚めた稼津斗に安堵したリインフォース――イクサだが、如何にも貰った名で呼んでくれないことに不満が有ったらしい。
 今まで言わなかったが、ちょっと限界を迎えたようだ。

 「リインフォースの名も大事だが、私はお前にはお前から貰った名で呼ばれたいんだ……ダメか?」

 「いや…そうだな、折角送ったんだからな…悪かったなイクサ。」

 「あぁ♪」

 満足そうである。
 とは言え、ホノボノしている状況でもない。
 稼津斗はすぐさまベッドから起き、枕元に置いてあった上着を羽織る。
 背中の文字は何時も通りの『武』……安心だ。

 「状況は如何なっている?
  それからこの船は?早乙女の船じゃないだろう?」

 「この船はフライマンタ、裕奈達が私達と合流する前に世話になったトラック運転手の船だ、偶々居合わせて手伝ってくれた。
  状況は…お世辞にも良いとは言えないな、巨大な召喚魔まで現れて、沢山の人が敵ユニットに消されてしまった…」

 即座に現状確認。
 状況は、成程相当に悪い――だが、最悪じゃない。

 何故ならイクサの表情に絶望が見て取れないから。

 「だが、打開策はあるんだな?」

 「あぁ、のどかが消えた人々を復活させる方法を知った、現状は…この総督府を離れる事が出来れば万事OKだ。」

 「ソレを聞いて安心した!」


 ――轟!


 やる気なのだろう、稼津斗はXXに変身。
 殺意の波動が暴走した直後だというのに、ソレを感じさせない強さだ。

 「待て稼津斗、今は…!」

 「今は大丈夫だ、不幸中の幸いと言うか、ルガールに送り込まれた暗黒パワーが殺意の波動と鬩ぎあって互いに力が弱くなっている。
  少なくとも今は暴走する事はないさ。」

 心配するイクサにそう告げ、瞬間移動で船の屋根(?)に。
 当然イクサも一緒だ。


 『稼津君、無事!?』

 『良かった〜〜、心配したよ稼津兄。』


 其の瞬間にブリッジから通信が。
 通信相手の裕奈と和美も安心したらしい。

 「あぁ、心配をかけたが、今はこの通り大丈夫だ。
  どうやらこの船に武装は無い様だからかな、俺とイクサがこの船の武装になる。
  だから、一切減速しないで目的地まで飛ばせ!」

 『言ってくれるね兄ちゃん!…良いぜ、魔法世界のトラック野郎の心意気を見せてやるぜ!!』

 急加速!
 エンジン全開とても速い!実際速い!
 後続の敵ユニットは追いつく事ができない。

 だがしかし、敵は前方にも現れる。
 戦闘装備皆無のこの船には辛いが、其の為に稼津斗とイクサが外に出ているのだ。


 「消えろ!」
 ――高めた気に暗黒パワーを纏わせ、最後に殺意の波動で包む…そうすれば…


 気功波の構えをとりながら、稼津斗は現状打開の一手を思いついたようだ。
 集中した気が色を変えながら高まり激しくスパーク。

 「咎人達に滅びの光を、星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け閃光!」

 イクサの両の手にも凄まじい魔力が集束している。
 そして、

 雷神覇王翔哮拳!!

 スターライトブレイカー!!

 極大気功波と集束砲一閃!
 宛ら二門の主砲を同時発射したかの如き一撃に、前方の敵ユニットは壊滅。
 大型の魔物も消し去ってしまったようだ。

 尤もこの2人の前に敵などそもそも居ないのだ。
 次から次へと現れる敵を撃滅!
 フライマンタは貨物船ながら凄まじい戦果を上げていた。

 いやフライマンタだけではない。


 「艇長、高度と標的との距離を維持してください。
  ターゲットロックオン…『空とび猫(アル・イスカンダリア)――発射!」


 ――キィィィン……ドォォォォォン!!


 グレートパル様号でも茶々丸が自身のアーティファクトを初展開し、それでもって巨大召喚魔を一撃粉砕!
 守護龍ブリクショ・ナーガシャを一撃で砕き、帝国艦隊の精霊砲すら無力であった敵をだ。


 ソレに驚いたのはこの状況を夫々の持ち場で見ていた連中だろう。

 「アレはネギの仲間の船じゃ…何と言う…」



 「やるじゃねぇかお嬢さんがた…助かったぜ…」



 「『蒼き翼』と言ったわね……これは、この力は若しかしたら本当に…」


 テオドラも、リカードも、セラスも只驚くばかりだ。
 だが、其の驚きは悪い意味ではない。


 「あの紅き翼の再来…いや、それ以上じゃ。
  もしや…若しかしたら、彼等なら本当にこの世界を救ってくれるかも知れぬ…!」

 絶望的状況で見えた一筋の光…正しく希望だろう。


 其の一筋が光となって突き進むか、それとも闇に飲まれるか。
 2つに1つの状況……だが、蒼き翼の面々には最初から選ぶ方は決まっている。


 障害は砕いて進む。
 其の心意気が、奇しくもこの世界に僅かながらの希望を与えるに至ったようだ。














  To Be Continued…