地獄絵図…この舞踏会場を称するにはそれ以外に無いだろう。

 召喚された魔物、魔獣が暴れ狂い、その攻撃を受けた人は即座に消滅しているのだから。
 消滅していないのは3−Aの面々位だろう。

 その彼女達もまたこの状況には黙ってられないが…

 「罪無き人々を消す?……拙者はそんな事は認めぬでござるよぉぉ!!!」

 「お前達は…人と言う存在を何だと思っているんだ!!!」

 ある者は無差別に人々を襲う連中に激昂し、

 
 「稼津斗にぃから上書きされた任務のみをこなす心算だったが気が変わった。
  お前達は欠片すら残さずに殲滅する事にしたよ…」

 ある者は仕事人としてではなく、殲滅者として対峙し、


 「トサカ兄ちゃん…アンタ、アキラを護って…!
  アンタは口悪いけど本当は良い奴だった…ソレを…ふざっけんなぁぁぁぁ!!!!

 ある者は友を護ってくれた者が消された事に憤慨。


 ――轟!!


 そして彼女達は共通してその力が膨れ上がっている。
 皮肉にも、この地獄の光景が彼女達の更なる力を引き出したのは、間違いないようだ…










 ネギま Story Of XX 102時間目
 『魔法世界…消滅?』











 第二合流点へと向かう通路。
 其処で行われているローブの男との戦闘。

 真っ先に攻撃を仕掛けたのは和美だった。
 意外と思うかもしれないが、和美は稼津斗のパートナーの中で、最も稼津斗の空手を覚えている。
 基本バックス故に、見つかった時には近接戦闘必須と考え、必死に空手を習得したのだ。

 故に和美は近接戦闘なら楓にすら匹敵する実力者なのだ。
 おまけに稼津斗の気功系の技を自己流にアレンジした技まで使いこなす。

 バックスで有りながらその戦闘力は侮れない。


 そしてソレはのどかと亜子にも言える。
 この2人は、特にのどかは格闘戦が得意ではない。

 だがソレを補って有り余る魔法が2人にはある。
 宇宙魔法と精霊融合魔法は間違いなく最強レベルの魔法技術。

 ソレを無詠唱で放てると言うのは大きなアドバンテージになる。


 事実、ローブの男はこの前衛後衛コンビネーションに反撃の糸口をつかめないで居る。
 障壁を張って攻撃を防ぐのがやっとの状況だ…障壁が破壊されていない所で評価すべきなのかもしれないが。


 「私等の仲間を…返せ、このヤロォォォォォ!!」

 「むお!?」

 だが幾ら防いでも、攻撃の余波の衝撃波までは防ぎきれない。
 ダメージ無しとは言え、強烈な余波は体勢を崩してくれたりする。
 ソレでも強烈なボディバランスで立て直してくるのだが…実は倒す事が目的ではない。


 狙いは男が持つ鍵型の杖。
 この杖が大きな力を持っているのは疑いようも無い事だ。
 だが、逆を言うなら杖さえ男から引き剥がしてしまえば……



 そう、本当の目的は鍵の奪取。



 魔法世界の住人を一瞬で消し去るこの鍵がフェイト陣営に大きなアドバンテージを与えているのは間違いない。
 この鍵が何本有るのかは分らない。

 だが1本でも自陣に持つ事が出来れば、フェイト達の目的も含めて大きな情報アドバンテージを得られるの確実。
 だからこそ実は激しいながらも『牽制』的な攻撃が多いのだ、ソレを悟らせはしないが。


 「………」

 「む!?」
 ――この気の強さ…来るか!


 同時に戦いは常に心理戦の側面も持ち合わせている。
 牽制ながらも激しい攻撃を続けてきた和美の両手に、強大な気が集中すれば大技と思うのは必然。

 ローブの男も即刻障壁を張るが、ソレよりも和美の動きの方が僅かに速かった。

 「そりゃ!!」


 ――パッチィィィン!!


 「なに!?」

 繰り出されたのは攻撃ではない。
 高められた気を纏った両手を男の目の前で打ち合わせた――早い話が『猫騙し』を使ったのだ。

 しかもこの猫騙しは只の猫騙しではない。
 高められた気を手拍子で炸裂させた事で、猛烈な破裂音と閃光を伴う超意表技!

 無論喰らった方は堪らない。
 超至近距離でこんな物を喰らえば嫌でも動きは止まってしまう。

 だが、戦いの中で1秒でも動きを止めるというのは自殺行為だ。
 まして今戦っている面子にとって1秒は極めて大きな時間なのだ。

 「此れ、頂戴するで?」

 「!!!」

 「ネギ君の雷天大壮には及ばへんけど、雷の精霊(イクシオン)と融合したウチのスピードも中々やろ?」

 現実に動きを止めた男から、雷の精霊と融合した亜子が、光速で鍵を強奪。
 更にその鍵をのどかにパス。

 鍵を受け取ったのどかは即座にソレを解析し使い方を熟知!


 「成程…創造主の鍵ですか。
  能力は創造と消滅、そして再生と転送……よ〜〜く分りました…亜子、和美さん!!」

 「了解!取り敢えず、此れでも喰らっとけ!魔天…葬送華ぁぁぁ!!!」


 ――ごがぁぁぁ!!!


 「むおぉぉ!?」

 今までとは比べ物にならない、和美の本気の本気の一撃が炸裂し、魔導師はぶっ飛ぶ。

 「リロケート!宮崎のどか、朝倉和美、和泉亜子!!」

 その一瞬で、のどかが鍵の能力を使い3人纏めて転送!


 だが、ネギ達は?

 ソレも心配はない。
 のどか達の姿が変わったのを見た千雨が、『居ても邪魔になる』と別ルートで第二合流点に向かっていたのだ。

 その際にクスハもネギ側の戦力として同行している。


 そのネギ達のほうでも異変は有った。


 「ぬおぉあぁぁぁ…!!!」

 「ラカンさん!?」

 「オッサン!?」


 突然、空間を砕くようにしてラカンが目の前に飛び出してきたのだ。

 「よう…坊主に千雨嬢ちゃんか…最期に会えて良かったぜ…」

 「な…ちょっと待てよ、最期ってどう言う事だオッサン!!」

 だがこのラカンはなんと言うか…『存在感が薄い』感じがした。
 あの自身たっぷりのチートバグとは思えないほどに存在が希薄で弱いのだ。


 更に…


 ――パリィィン…


 「!!フェイト、セクスドゥム!!」

 ソレを追う様にフェイトとセクスドゥムも空間を砕いて現れる。
 ラカンと2人のアーウェルンクスの戦いは未だ続いていたのだ。

 「あら?」

 「ネギ君?…此処に空間を開いたのは貴方の意志か、ジャック・ラカン…」

 「あぁ?知るかよ、偶然じゃねぇのか?
  まぁ、如何でも良いじゃねぇかそんなこたぁ……まだケリは付いてねぇんだからよ!!」

 ラカンの闘志はソレでも消えていない。
 斬艦剣を呼び出し、ソレを全力で投擲!……したが届かなかった。

 ぶち当たる直前で、バターが溶けるように消え、逆にフェイトからの反撃!

 その反撃もラカンの右肩を吹き飛ばすに留まったが。


 「如何した?効かねぇぞ?」

 「…やれやれ、頭を狙ったんだけれどね…本当に如何なって居るんだい貴方は?
  いや、そもそも此れを喰らった時点で普通は即死で此処まで持つ事はありえないんだけど?」

 「あぁ?決まってんだろ、んなモンは気合だ気合!世の中、気合で大抵は何とかなる!!」

 「…そう、なのかいネギ君?」

 「いや、其処で僕に振らないで欲しいかな?」

 「アンタも律儀に対応してんじゃねぇよ…」

 会話だけを見ればバカバカしい事この上ないが、状況は切迫している。
 気合で何とかなってるラカンも、吹き飛んだ右腕を新たな武装で補完し攻撃態勢。

 ソレは大戦期に城ごと破壊する目的で作られた巨大な機械手甲だ。


 「貴方には似合わない無様な装備だな…何故そうまでして戦う?
  気付いていた筈だ貴方は、この世界の無慈悲な真実に、元老院がひた隠しにする真実に。
  全ては無意味と知って、何故そんな顔で戦う事が出来るんだ?」

 「は?…んだよ、てっきり分ってると思ったんだが違ったか?
  決まってんだろ、真実も意味も、そんな言葉は俺様の生にはなんの関係もねぇんだ……よ!!」

 飛び出した瞬間にフェイトの石槍とセクスドゥムの水刃が放たれるが、ソレは当たらない。
 それどころか一瞬で肉薄され近距離の格闘に。

 鍵の力を放つも、ソレも避けられ逆に左の拳が2人に纏めて炸裂するがソレはガード。

 だがソレは本命のための囮に過ぎない。
 ガードで体勢を崩したところに、巨大な機械手甲が炸裂!
 2人纏めて瓦礫に叩きつけてしまった。


 「ラカンさん!!!」

 「あのオッサン…やったのか!!」

 略零距離からラカンの一撃を受けたとなれば無事なはずはない。
 一瞬『やったか?』と誰もが思ったが、中々そうはいかない。


 「此れも無意味よ…なんで分らないの?」

 「無意味ねぇ?…仮にそうだとしてよ…オメェ等楽しんでたんじゃねぇのか?
  俺は此れで終いだろうが…もちっと楽しめやフェイトに嬢ちゃんよぉ?楽しまなきゃ人生損だぜ?」

 次いで押し込まれる機械手甲の破砕機構軌道のためのピストン。
 瞬間、凄まじい爆発が起こり、10m以上のエネルギーの柱が!!


 だが…


 ――シュゥゥゥ…


 ソレを行ったラカンは消え始めていた。
 指先から少しずつ、少しずつ光の粒になって消えてしまっている…

 「ラカン…さん?」

 「時間切れ…か。
  けどまぁ結果が決まってても足掻くだけ足掻ききるってのも悪かねぇモンだ…
  ……坊主、オッサン世代の矜持として、拭き残しはキレイサッパリ拭いたかったが…どうも無理みてぇだ。
  オメェ等に全部押し付ける事になっちまうが…あと頼んだぜ?オメェ等ならきっと…いや、確実にやれるさ…」


 ――パシュゥゥゥ…


 「ラカンさん!!!…そんな、如何して…貴方のような強い人が…!!
  此れは君が…君達がやったのかフェイト!!」

 「…そうだよネギ君…僕達がやった。
  この世界では救われる事のない人形に安息を与える為にね…」

 「!!」

 『人形』……そう、フェイトが言った事でネギの感情は振り切れた。
 大会で死闘を演じ、更には師であるラカンを人形呼ばわりは許せない。

 ソレを抜いても、会場の人々を無差別に襲うこの所業は感化できるモノではない。


 「フェイ…トォォォォ!!!」

 咆哮と同時に闇魔法暴走!!
 その勢いのままフェイトとセクスドゥムに襲い掛かろうとするが…


 『まぁ、落ち着け。』

 ゲンコツ一閃!
 千雨ではない…ならば誰が?


 「へぇ?本当に呆れた男ね?」

 「全く…ふふ、今日は此処までにしておこうネギ君。今の君じゃ楽しめそうに無いからね。」

 「待て!!」

 ゲンコツの正体を見破ったのだろうか?
 2人は面白いモノを見たと言わんばかりにその場から転移。

 今頃は本拠地に戻っている頃だろう。

 「待て!!フェイト、セクスドゥム!!」

 『止めとけ止めとけ、疲労困憊じゃ幾らなんでも勝てねぇよ。』

 「!!」

 その声は間違えようも無い。
 今し方消えた筈のラカンの声に他ならない。

 『よ♪』

 「ラカンさん!」

 「オッサン!!」

 更に光の幻影のような姿でラカンが!
 消えても姿を己の意思で不完全ながら構築できるとは、矢張りトンでもない男である。

 『世界の真実は…見つけたみてぇだな?やったのはのどか嬢ちゃんか?大したモンだ。
  なら、近く連中の目的その他諸々はオメェにも分るだろうよ。
  だが、今の戦いを見て分ったろ?あいつ等は既にソレに連なる力を手に入れている…俺じゃてんで敵わねぇって訳だ。
  だが、逆にお前達ならあいつ等に勝てる、絶対にだ。
  オッサンの尻拭いさせちまってワリィが…頼むぜ――特にアスナをな。』


 「え?」

 『連中があの力を手にしたって事は、姫子ちゃんは奴等の手に落ちた可能性が高い。』

 「ラカンさん!?」

 なんともトンでもない事を言ってくれた。
 今の言葉が真実ならばアスナは……

 『おう、千雨嬢ちゃん!』

 だが、ソレには答えず、今度は千雨に話しかける。
 時間が無いのだろう、全てを伝えるつもりなのだ。

 『今の暴走を見てのとおり、コイツはマダマダ不安定だ。
  此れも押し付けるようで悪いんだが、お目付け役を頼むぜ?エヴァ除きゃ、嬢ちゃんが一番こいつを見てるからよ…』

 「ちょ、待てよオッサン!ふざけんな、そんな遺言みてぇな!!!」

 『遺言か…間違っちゃいねえかもな。
  只最期に…今お前達の傍にいるアスナは替え玉の偽者だ…恐らくな。
  いや、偽者とは言えねえか…俺や、この世界のように…
  へっ……じゃあな坊主…闇に喰われるなよ?
  後ろじゃなくて前を見て歩け!前を向いて歩き続ける奴には、必ず未来は微笑んでくれるからよ!!』


 ――ざぁぁぁあ…



 それだけ言って、今度こそラカンは消えた。
 最大のヒントと、そして漢の生き様を見せ付けて。

 「そんな…ラカンさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 「うそ…だろ?…アンタがやられて消えるとか…そんな訳…
  …なん、だよ…ソレ…チート無限のバグキャラじゃなかったのかよ、オッサンよぉ…
  何やられてんだよ馬鹿野郎…嘘だって言え…嘘だって言えよ、オッサァァァァァァァン!!!!」


 千雨の瞳からも涙が溢れ出てきた。
 どうしようもない馬鹿で、自由奔放なラカンだが、色んな意味でその存在は大きかった。
 何時の間にか仲間として居るのが当然になっていた。

 その仲間の消滅……

 ネギと千雨の慟哭は、只虚しく魔法世界の夜空に響き、そして消えていった…








 ――――――








 「のどか、和美、亜子!!」

 「3人とも無事でござったか!」

 一方、鍵を奪取したのどか達は第二合流地点に転移していた。
 既に楓とリインフォースはこの場に到着していたようだ。

 同様に小太郎と夏美もこの場に到着している。

 「はい!それからとても重要な物を手に入れました!
  此れがあれば、消された人達を救う事が出来るかもしれません!!」

 「マジで!GJだぜのどか!!」

 召喚ユニットは略殲滅。
 後はハルナの飛空挺が到着し次第それに乗って離脱するのみだ。


 「ソレは良いけど稼津兄は大丈夫!?」

 「多分…つーか流石にわかんねぇ!殺意の波動と暗黒パワーとかもう何がなにやら…」

 倒れている稼津斗の事は矢張り気になる。
 まぁ、不死身ゆえに死ぬ事は無いのだが。


 「…やってくれたな小娘…!」


 だが、もう少しで脱出という局面で、ローブの魔導師も此処に転移してきた。
 恐らくはのどかに奇襲を掛けるつもりだったのだろうが、その奇襲はギリギリで避けられてしまった。

 「よもや創造主の鍵を奪うとは……返してもらおうか?」

 「嫌です。」

 「返すわけ無いやろ、普通に考えて。」

 「有り得ないさねソレは。」

 男の目的は鍵の奪還だが、早々巧くは行かないようだ。
 と言うか殆ど不可能ではないだろうか?

 鍵を奪取した3人に加え、今度はこの場に稼津斗のパートナーの中でも屈指のアタッカーが加わっているのだ。
 特にパートナー最強のリインフォースが居るのは大きすぎる。

 ハッキリ言ってローブの魔導師の技量が如何程であろうともリインフォースには足元にも及ばない。
 と言うか、この場の戦闘要員には誰にも勝てないだろう。

 「ふむ…新たな世代か…成程な。
  此れは楽しめそうだが此処では些か興が乗らぬ…何れまたな。
  鍵もその時までは預けておこう……尤も次に会う時が貴様等の最期だろうがな…」


 ――シュゥゥ…


 微妙な言葉を残して転移。
 矢張り追撃は難しいだろう。

 だが、それでも良い。
 少なくとも連中の戦力の一端は自陣に入れることが出来たのだから。

 何よりものどかが言った『消えた人達を救えるかもしれない』の一言が皆に希望を与えていた。








 ――――――








 だが同じ頃、新たな悲劇も起きていた。

 舞踏会場にて戦闘を行っていたユエ達だが、一瞬の隙を付いて放たれた一撃を委員長ことエミリィが、ユエを庇って受けたのだ。

 「委員長!?」

 「く…全くトロイですわね…世話の焼ける…」


 ――ドン…!


 そんな2人を更なる攻撃が貫く。


 ユエは無事だ。
 貫かれた腹部の服が破けただけで身体に異常はない。

 だが、エミリィは…


 「委員長…?」

 その瞬間に光の粒に…

 「ユ……エ…」


 ――シュゥゥゥ…


 そしてそのまま消滅。





 フェイトもローブの男も転移した…だが、戦いは未だ終っていない。














  To Be Continued…