燃え盛る村、鼻を突く血の臭い……そして、身体中を貫かれた士郎と美由希。
既に瀕死の二人を、ライトロードの騎士は持ち上げ、そしてその命を狩る為に、その首を――


「止せ……止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
 ……はぁ、はぁ……夢か。十年経った今でもあの時の事を夢に見るとは……クローゼをリベリオンに迎え入れてからは見る事がなかったが、其れだけに堪えるモノがあるな?……久しぶりに、最悪の気分の目覚めだ。」


撥ねられる直前で、なのはは目を覚ました。今の光景は全て夢だったのだ。
ライトロードによって父の士郎と、姉の美由希が殺されて以来、なのはは幾度もその光景を悪夢として見て来た……そのせいで、此の十年間、なのはが熟睡出来た回数など、数えるほどしかないだろう。
其の悪夢も、クローゼと再会してからは見る事が無くなっていたのだが、今日は久しぶりに見てしまったらしい。其れは、朝から最悪の気分にもなるだろう。



――コンコン



「なのはさん、朝から良いでしょうか?何時もより起きるのが遅いので心配だったのですけれど。」

「その声はクローゼか?……寝坊してしまったのか私は。なに、少しばかり夢見が悪かっただけの事だから心配はいらない。入って来てくれて構わないぞ。」

「では、失礼しますねなのはさん。」


ドアをノックする音が聞こえ、扉の向こうからはクローゼの声が聞こえたので、なのはは『入って来てくれて構わない』と応え、其れを聞いたクローゼも主の間に入ったのだが、其処には予想外の光景が広がっていた。


「な、なのはさん!?如何して何も着ていないんですか!」


ベッドで身体を起こしたばかりのなのはは、一糸纏わぬ姿で居たのだ……主の間にやって来たのが女性であるクローゼだったから良かったようなモノの、此れが野郎だったらきっと恐ろしい事になっていただろう。主に野郎の方が。


「如何してって……私は寝る時は何時もこうだぞ?服も、こうして一瞬で構成出来るしな。」


其のなのははと言うと、魔力で何時もの服を構成し、これまた魔力で作ったリボンで髪をサイドテールに結って着替え(?)を完了。一糸纏わぬ姿から、一瞬で服を着た状態になってしまうとは、魔力で構成されている服と言うのは中々に便利である。


「なのはさん、寝る時は何時もこうって……パジャマ持ってないんですか?」

「持っていない。と言うかそもそも布で出来た服は一着も持っていないんだ私は。
 十年前、お前から貰った金を使って食料や風呂は何とかなったが、服となると話が別でな……レイジングハートに収納すれば良いから量は兎も角、洗濯の手間、成長に合わせて買い直す手間を考えた時に、『いっそ魔力で構成すれば、一番楽なんじゃないか』と思ってな。
 何より、自分の魔力で作れば完全に自分好みの服に出来るという利点もある。」

「なら、パジャマも魔力で作りませんか?」

「昔は作っていたんだが、どうせ誰も見てないし、寝るだけだから何時の頃からか面倒になってしまってね……少なくとも、五年は寝る時に何も着ていない生活をしている筈だ。
 まぁ、流石に寝起きに尋ねて来たのが男性ならば服を構成してから中に入れるが、同性ならば別に構わないだろう?」

「いや、其処は構いましょう。なのはさんは、女性から見ても魅力的な方なのですから、人によっては欲情してしまうかもしれませんよ?そんな事になったら、流石に如何かと思うのですが。」

「その時は速攻で撃退するから問題無いぞ?……まぁ、その相手がお前であればまた話は別だがなクローゼ?」

「え?あの其れは……」

「さて、如何言う事だろうな。」


服を纏ったなのははレイジングハートを手に取ると、クローゼの頬にキスをする……此のところ、なのははクローゼの頬にキスを普通にするようになり、クローゼも其れを普通に受け入れるようになっていた。……頬へのキスは、挨拶みたいなモノだから一々気にするでもないのだろう。


「改めて、おはようクローゼ。」

「はい。おはようございます、なのはさん。」


悪夢を見て、朝から最悪の気分だったなのはだが、クローゼと会った事でその最悪の気分はもうすっかり吹き飛んでしまっていた――クローゼをグランセル城から連れ出したのは、クローゼだけでなく、なのはのメンタルにとっても良い事だったのは間違いないだろう。










黒き星と白き翼 Chapter9
『Gehen wir die Hexe sehen』










なのはとクローゼは一緒に朝食を摂ると、リベリオン内部の訓練場を訪れていた。(ヴァリアスも朝食のステーキを平らげ、なのはの肩に停まって一緒に移動だ。)
訓練場は、二十四時間オープンで、誰が何時でも使えるようになっている――そして、この訓練場は、完全防音処置が施されているので、訓練の音が外に漏れる事と言う事もなく、何時でも使用出来るのである。
そんな訓練場では、現在恭也とサイファーが戦っている。
恭也は小太刀二刀流を、サイファーは長剣の二刀流を使っての戦闘だ……この試合は、恭也のリハビリも兼ねており、医務室から出たばかりの頃は、身体が思うように動かせずに苦戦していたのだが、五日目になる本日はサイファーと互角に戦えるまでに回復していた。
『昔取った杵柄』ではないが、十年間も映し身の鏡の異空間に囚われて大分訛って居たとは言え、逆に言うと記憶と肉体は十年前のままだったので勘を取り戻すのにそれほど苦労しなかったみたいである。


「ちぃ、同じ二刀流でもお前が相手だとやり辛いな恭也……!!」

「俺に言わせて貰えば、身の丈ほどの長剣での二刀流を難なく使い熟す貴女も大概だと思うけどな……そんな馬鹿デカい武器、小太刀の間合いになれば封殺出来ると思っていたのだが、こうして対処しているんだから驚いているよ。」

「ふ……なのはも強かったが、兄であるお前も相当だな?魔族でも神族でもない、只の人間に私と遣り合える奴が居たとは驚きだ!」


打ち合いは更に激しさを増し、絶え間ない剣戟の音が訓練場に鳴り響く……神族、魔族、人間と全ての種の血を引き、特に魔族の血が特に色濃く出ているサイファーと互角に戦う事が出来ている純血の人間である恭也は中々に強いと言えるだろう。――純血の人間は、如何したって魔族や神族との混血の人間と比べると身体能力で劣る部分だあるのだから。
なので、サイファーがこの様に言ってしまうのも仕方ないだろう。


「サイファーさんと遣り合える只の人間……カシウスさんだったら、互角に遣り合うだけでなく圧勝してしまう気がします。」

「魔王であった父さんも、カシウス・ブライトの事を大層評価していたが……其れはつまり、父さんが其の力を認めたと言う訳であって、父さんが力を認めたと言う事はカシウス・ブライトは父さんと戦って其の力を認めさせるに至ったと言う事だよな?
 父さんが負けたとは思えないが……痛み分けと言う結果だったのかも知れん――魔王と痛み分けとか、カシウス・ブライトは本当に純血の人間か?」

「人間だと思います……アウスレーゼ家は、遡ると始祖様は天界から下天した神族に行き着くらしいのですが。」

「下天した神族……神族である事を捨てて人間になった存在だったか?
 ……お前の巨大な魔力を考えると、その話は王族の威厳を誇示する為の作り話ではないのだろうな……元は神族であったからこそ、其れだけの魔力を有していると言う訳か。
 ……其れは其れとして、デュナンとお前に同じ血が流れていると言うのは、絶対に嘘だと思いたいがな。」

「お父様の弟である叔父様が、どうしてあぁなってしまったのか、マッタク持って謎です。」


サイファーのセリフを聞きながら、二人はカシウスは本当に人間なのか、と語り合っていた。
尤も、ロレントにはカシウスだけでなく、京にブライト三姉妹、ヨシュア、自警団『BLAZE』のメンバーと言った、『純血の人間でありながら、神族や魔族と互角以上に戦える人間』が居るのだけれどね。
其れはさて置き、試合は更に激しさを増し、恭也が逆手二刀による、『左右二択一瞬六斬』の攻撃を仕掛ければ、サイファーも長剣を逆手に持って其れを的確にガードしたのだが、激しい連続攻撃によって腕が少しばかり痺れてしまった。
その隙を恭也は逃がさず、サイファーに肉薄すると掌底で顎を打ち抜く!恭也は、剣術だけでなく無手の格闘戦も強いのだ。

此の一撃を喰らってもすぐさま立ち上がったサイファーは大したモノだが、完璧に顎を打ち抜かれた事で脳が揺れ、立っているのがやっとと言った所だ……神族と魔族の血を引いていても、脳を揺らされると思ったように動けなくなるのは人間と変わらないようだ。


「其処まで。この勝負、兄さんの勝ちだ。」

「なのは、私は未だ……」

「立っているのがやっとの状態で、どうやって戦う心算だ?此れが本物の戦闘であったら、お前は首を落とされてゲームエンドだぞサイファー?」

「……心臓さえ無事なら、頭を落とされても私は再生する事を忘れたかお前?寧ろ頭を落としてくれれば、頭が再生し、再生した頭の脳は揺らされてないから、寧ろ有利になるぞ。」

「……魔族であっても、頭まで再生出来る奴はいないのだが、此れも神族と魔族と人間の全ての血を引いている故の事か?ある意味でバグキャラだなお前は。」


此処でなのはが試合終了を宣言して、この試合は恭也の勝ちとなった。――恭也は、ほぼ完全に嘗ての実力と実戦の勘を取り戻したようだが、此れはなのはにとっても嬉しい事だろう。頼りになる戦力が増えたのだから。


「時にクローゼ、兄さんは十年前のままで、其れはつまり今の私と同じ年と言う事になるのだが……同い年の兄の事をどう呼ぶべきだろうか?しかも、誕生月は私の方が早いのだが……」

「其処は、なのはさんの呼びたいようにで良いのではないでしょうか?」

「なら、此れまで通り兄さんと呼ぶか。」


……十歳も年上だった兄が、同い年になってしまうと、呼び名で困るらしい。双子でもなければ、同い年の兄妹と言うのは存在しないからね――双子以外で同い年となると親の再婚相手の連れ子が同い年でなければならないからね。
因みに、なのはは恭也の事をプライベートでは『お兄ちゃん』と呼んでいるのだが、クローゼ以外の誰かが居る時には『兄さん』と呼ぶようにしていた……一組織の長たる者が、兄の事を『お兄ちゃん』と呼んでいたら、威厳もへったくれもないので仕方ないと言えば仕方ないのだけれどな。

訓練場での試合を見届けたなのはとクローゼは、リベリオンの拠点の最上部にある展望台にやって来た。
此処からの眺望は絶景の一言であり、気温の低い日には雲海が、気温の高い日には蜃気楼が拝めると言う希少な場所なのである……本日は、気温が低めだったので見事な雲海が広がっている。


「プレシア・テスタロッサさんの事をセスさんに依頼してから五日ですが、まだ何も連絡はありませんか……余程、難しい案件だったと言う事なのでしょうか?」

「恐らくな。
 五百年を生きて来た魔女を探し出すと言うのは並大抵の事ではないのだろうさ……だが、私達もセスからの報告をただ待っているだけではダメだ。己の手でも戦力を増強せねばならないからな。
 と、言う訳で此れを吹いてみないかクローゼ?」


そんな場所で、なのははレイジングハートからドラゴンよ呼ぶ笛を取り出すと、其れをクローゼに『吹いてみないか?』と言って差し出した――ドラゴンの力は、正に一騎当千なので、ヴァリアスだけでなくもう一体、出来ればクローゼと同じ聖なる属性のドラゴンを戦力に加えたいと思ったのだろう。
尤も、『だったら、其れで手当たり次第にドラゴン呼びまくれば即戦力増強ではないか』と思うかもしれないが、『ドラゴンを呼ぶ笛』で呼び出したドラゴンは、基本的に己を呼んだ者と其の者よりも大きな魔力を持った者の言う事しか聞かないので、余りに高位のドラゴンばかりを呼び出しても管理が難しくなってしまうのだ。序に、縮小魔法で小型化しても、其れなりに餌は食べるの餌代も馬鹿にならないのである。


「吹いてみても良いんですか?」

「あぁ、お前ならばきっとヴァリアス以上の高位のドラゴンを呼び出せる筈だ。」


笛を渡されたクローゼは、少し戸惑いながらも、しかし笛を吹く事を拒んではいない……なのはが闇属性の黒竜を呼び出したのならば、自分ならばどんな竜を呼ぶ事が出来るのか興味もあるのだろう。
なのはから笛を受け取ったクローゼは、其れに口を付けると――



――~~~♪



なのはが吹いた時とは異なる、軽やかな音色を奏でた。
なのはが奏でた笛の音が『黒き星の輝き』であるとすれば、クローゼが奏でた笛の音は『白き翼の飛翔』と言った所だろうか?闇と光、其の存在を其のまま笛の音にした感じであった。
そして、クローゼの笛の音に呼応して現れたのは……


『グルル……』


純白の白き巨躯に青い眼が特徴の龍だった。


「此れが私が呼び出したドラゴン……アナライズで調べてみたら、『青眼の白龍』と言う光属性のドラゴンですね?……なのはさんのヴァリアスとは対になるドラゴンと言った所でしょうか?」

「其れは名前と属性で言えばだろう?
 ヴァリアスも相当に高位のドラゴンではあるが、コイツの力はヴァリアスを遥かに上回る。まさか、此れほどのドラゴンを呼び出すとは……お前の魔力は、私と同じくオーバーSであるのは間違いないんじゃないか?」

「そうかも知れません。
 因みに、アナライズで調べると、対象の簡単な説明もされるのですが、其れによると此のドラゴンは『高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。』との事です。」

「成程。因みにヴァリアスは?」

「ヴァリアスは、『真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす』ですね。」


クローゼが、『ドラゴンを呼ぶ笛』で呼び出したのは、なのはのヴァリアスをも上回る光属性のドラゴンであった……その身から発せられる圧倒的な力は、神にも匹敵するレベルであり、新たな戦力としては申し分ないどころか、お釣りが来るレベルだと言えるだろう。


「まぁ、取り敢えず……ミニマム。」


だが、このままでは拠点内には入れないので、なのはが縮小魔法を使って小さくすると、白龍はクローゼの肩に停まる……己を呼び出したクローゼの事を、主だと認めたのだろう。
神聖な生き物とされるドラゴンを、こうも簡単に手懐けてしまったなのはとクローゼは、何か特別なモノを持っているのかも知れないな。


「ふふ、何だかジークを思い出しますね。」

「ジーク?」

「親衛隊のユリアさんが飼っている白ハヤブサで、私の友達です。親衛隊の間では、通信傍受をされない通信手段としても使われていました……ジークの本気の飛行速度は時速300㎞を突破しますから。」

「亜音速で飛行するハヤブサと言うのも凄いな……其れよりも、そいつに名前を付けてやったらどうだ?個体を識別する名前はあった方が良いだろう?」

「そうですね。
 ……では、『アシェル』と言うのは如何でしょうか?」

「アシェルか、良い名だな。」


クローゼが呼び出した龍の名前も決まったようだ。


『Master.Communication from Mr. Seth.(マスター、ミスターセスから通信です。)』


此処で、レイジングハートからセスからの通信が入ったとの連絡が……レイジングハートはなのはの相棒の武器であるだけでなく、通信機としての機能も備えていると言うマルチデバイスなのだ。
アーティファクトの持つ力と言うのは正に無限大だと言っても過言ではないだろう。


「繋いでくれ。……セスか。お前から連絡があるとは、プレシア・テスタロッサの情報を掴んだのか?」

『いや、プレシア本人の情報を掴む事は出来なかったが、彼女の関係者と思われる人物の情報を得る事は出来たよ。』

「プレシアの関係者、だと?」


セスは、プレシア本人の情報を得る事は出来なかったが、プレシアの関係者と思しき人物の情報を得るに至っていたようだ。
なのはが詳しく聞くと、プレシアの情報を探っている時、マッタク一切何も掴む事が出来ずにいた際に、『ミッドチルダ』と言う場所で、三人の女性を見掛けたとの事……其れだけならば大した事ではなかったのだが、其の三人の女性の内、茶髪でショートヘアーの女性が金髪の女性と青髪の女性に『フェイトとレヴィが選んだ物ならば、どんな物でもプレシアは喜びますよ』と言って居たとの事だった。


「成程……プレシアと言う名前はそれ程ある名前ではないから、プレシア・テスタロッサの関係者である可能性は極めて高いが、確証が欲しい所だな?」

『そう言うだろうと思ってね、街頭インタビューを装って彼女達に声を掛けてみたんだよ……茶髪の女性と金髪の女性は少しばかり警戒していたが、青髪の女性は全くの無警戒でな、名前を聞いたらアッサリと『レヴィ・テスタロッサ』と名乗ってくれたよ。
 更に、『おかーさんに、みどりやのシュークリームをかっていってあげるんだ!』とも言っていたよ。……テスタロッサ姓を名乗る女性の親がプレシアな訳だ。』


「……そう言えば、ミッドチルダに翠屋の商品を卸している店があったな。
 ふむ……確かに、姓も名も一致するのであれば、プレシア・テスタロッサの関係者――少なくともレヴィと名乗った女性は娘である可能性は極めて高くなるな?何とかその女性とコンタクトを取りたい所だが……」

『悪いが、彼女達の所在までは聞き出す事が出来なかった……ただ、ミッドチルダには良く買い物に来るんだそうだ。』


セスの情報は可成り有益なモノではあったが、プレシア・テスタロッサ本人に至るには、まだ足りないと言った所だろう。なのはの言うように、プレシアの娘であると思われるレヴィと名乗った女性とコンタクトを取る事が出来れば道は開けるのだろうが。


「なら、私達もミッドチルダに行ってみては如何でしょうかなのはさん?ミッドチルダに数日滞在していれば、若しかしたら会えるかもしれませんよ?」

「クローゼ?……いや、確かにその方法はありかもしれないな?此方からコンタクトを取るのが難しいのであれば、向こうから現れてくれるのを待つと言う訳か。
 ミッドチルダ全体にサーチャーを飛ばしておけば、件の女性が現れるのを感知するのも難しくはないからね……ならば、早速ミッドチルダに行ってみるとしよう。
 セス、お前もミッドチルダで待っていろ。現地で合流したら、行動開始だ。」

『了解だなのは。』


其れもクローゼの提案で、アッサリと解決した。
ミッドチルダに良く買い物に来ていると言うのであれば、ミッドチルダで張り込むのが最も効率よくかつ確実にレヴィ他二名とコンタクトを取る方法であると言えるのだからね……向こうから来てくれるのを待てば良いとは、正に逆転の発想と言えるだろう。


「ミッドチルダに赴く事で、私とお前の事がデュナンに感知される危険性はあるが、プレシア・テスタロッサとコンタクトが取れるのであれば、寧ろ利の方が大きい。
 早速準備をして、ミッドチルダに向かうとしよう。」

「はい、そうしましょうなのはさん。」


其処からのなのはの行動は早く、リベリオンのメンバーに『ミッドチルダに行く』と言う事を伝えると、同行する者を募った――そこで真っ先に手を上げたのは稼津斗だ。
なのはがプレシアの事を探している以上、プレシアと面識のある自分が行かないと言う選択肢は無かったのだろう……五百年振りとなる友との再会を果たしたかったと言うのもあるのかも知れないが。

なのはも稼津斗の同行には異論はなかったので、其れに同意したが、次に手を上げたのは一夏だった。


「お前も来るのか一夏?」

「カヅさんが行くなら、俺が行かない理由はないぜ!
 俺はカヅさんに育てられた鬼の子だ。魔女の子供に会うって言うなら、鬼の子供も行った方が良いんじゃないのか?――本音を言うのなら、刀奈達も一緒に行きたいけど、大人数での行動ってのは動きが重くなるから、俺が代表で付いて行かせて貰うぜ。」

「鬼の子供達の代表としてか……良いだろう、お前も来てくれ一夏。」

「おうよ!」


一夏の言ってる事は、若干意味不明な部分ではあるのだが、『子供同士の方が話が合うかも』とかそう言う意味合いがあったのだろう多分。単純に、己の育ての親であり師でもある稼津斗の友人であるプレシアの顔を見たかったと言うのもあるだろうが。


「あ~~、ずるいわよ一夏!私達も連れて行きなさいな!」

「一人だけで行くなんてダメ。」

「連れないな一夏……稼津斗さんの友人にして稀代の魔女たるプレシア・テスタロッサ女史に会いに行くのに私達を連れて行ってくれないとは。」

「其れに、人数が多ければ観察の眼も多くなりますからメリットもありますよ?」

「ま、ぶっちゃけて言うと私等も行きたいってだけなんだけどね。」


だが、此処で一夏の恋人達である刀奈、簪、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィンも一緒に行くと立候補!
ハーメル村がライトロードによって滅ぼされてから十年もの間一緒に居たと言うだけでなく、恋人同士と言う事もあって、一夏が何処かに行く時には此の五人は必ず一緒だったりする……普通に考えると、一夏に依存している様に感じるかも知れないが、ライトロードによって家族を奪われた彼女達にとって恋人である一夏は命と同じ位大切なモノであり、それ故に一夏が出掛ける時には一緒に居ないと不安になってしまうのだ……また、大切な存在が居なくなってしまうのではないかと。
理不尽に家族を奪われたら、そう言う心理状態になってしまうのも当然と言えるだろう。寧ろ、なのはの様に『喪う事』に恐怖ではなく、怒りと憎悪を覚える事の方がレアケースと言えよう……此れも、人間と神魔の違いなのかも知れないが。


「ふむ……ならばお前達も一緒に来い。現地でセスと合流しても十人だからな、其処まで大人数と言う事でもあるまい。
 私はクローゼと、一夏は刀奈達五人と、稼津斗とセスは単独行動をするようにすればフットワークの重さも解消されるし、十人で固まって動くよりも効率が良いと言うモノだからね。」

「ならばなのは様、私も同行させて頂けませんか?」

「クリザリッド、稼津斗だけでなくお前まで一緒に来てしまったら、拠点の戦力が著しく下がるから今回は留守番を頼む……見つかり難い場所であるとは言え、賊が迷い込む可能性はゼロではないからね。
 私の不在時を安心して任せる事が出来る存在の筆頭はお前だ……拠点の警護を任せたぞ。」

「なのは様……そう言う事でしたら。」


なのはは、刀奈達の同行を了承すると、クリザリッドに拠点の警護を任せ、そしてミッドチルダへと向かって行った……クローゼをお姫様抱っこして。
クローゼは『アシェルに乗って行けば良いんじゃないですか?』と言っていたのだが、なのはが『ミッドチルダの郊外に降りるにしても、其れは流石に目立つ』と言う事で却下し、なのはがお姫様抱っこしていく事になったのだ。
まぁ、アシェルはクローゼの肩に停まり、ヴァリアスはなのはの頭に停まってるのだが。


「ヴァリアス、何で頭の上なんだ?」

「主の頭の上に乗ると言うのは、若しかして……」

『ピカチュウ。』

「嘘吐けぇ!」


ミッドチルダまでの空の散歩では少しばかり愉快な遣り取りがあったが概ね平和であった――ミッドチルダを目前にして、空中型の魔獣の襲撃に遭ったが、其れはヴァリアスとアシェルをフルサイズに戻す事で余裕だったからね。
ヴァリアスが放つ火炎弾と、アシェルの放つブレスの前では魔獣如きは粉砕!玉砕!!大喝采!!!される以外の選択肢などなかった訳である。
そして、なのは達一行はミッドチルダの地へと降り立ったのだった。








――――――








・時の庭園


時の庭園……其処はプレシア・テスタロッサによって作り出された、外界とは隔絶された特殊空間だ。
その隔絶された空間には枯山水の庭があり、錦鯉が泳ぐ池が存在し、そしてワビサビの風情が満点の家屋が……って、何でだよ!何だって、東方の国独特の文化が此の場所に展開されてるのか謎だわ。


「……何か、大きな力が動こうとしているみたいね。」


その家屋の一室、畳張りの茶室で、この時の庭園の主であるプレシアは、抹茶を点てながらそんな事を言っていた――『ザッツ魔女』な出で立ちのプレシアが、茶室で正座をして抹茶を点てていると言うのは何ともシュールな光景である。


「大きな力、ですか母さん?」

「えぇ、とても大きな力よ……其れこそ、私の魔力よりも遥かに大きいわ。そして、其の力は世界に大きな影響を与える事は間違いないでしょうね。貴女達も用心しておきなさいフェイト、レヴィ。」

「はい、心に留めておきます母さん。」

「あ~っはっは!なにがおきても、僕とヘイトがいればたいてーのことはなんとかなる!僕とヘイトのタッグはさいきょーだー!どこからでもかかってこーい!」


プレシアは、娘のフェイトとレヴィに『用心しておけ』と言ったのだが、フェイトの方は普通に其れに応えたのに対して、レヴィの方は些か思考がぶっ飛んでいるみたいだった。
そして、其れだけはなく、レヴィは茶室の壁をぶち抜いて行ってしまったのだから相当だろう――直後にフェイトが追いかける羽目になったのだが。


「リニス、私は時々レヴィの事を途轍もない大物だと思う事があるのだけれど……」

「其れは多分気のせい……だと思いたいです。」


その場に残されたプレシアとリニスは、レヴィについての意見交換をしていたが、レヴィが大物であると言うのはまず間違いないだろうね――パワーとスピードにステータスを全振りしてしまった愛すべきアホの子が大物じゃない筈がないからね。

でもって、時の庭園を飛び出したレヴィとフェイトはミッドチルダへと向かって行った……此れは、なのはにとっては『良い意味での予想外』になるのかも知れないな。









 To Be Continued 







補足説明