リベリオンの拠点から飛び立ったなのは達一行は、ミッドチルダの近郊に着地してから、ミッドチルダ本土へと向かって行った――『ドラゴンがやって来た』と同じレベルで『人が空から降りて来た』ってのは、大注目になってしまうので、近郊に降りたと言う事なのだろう。

ミッドチルダに向かう際に、なのははクローゼの手を取り、手を繋いでミッドチルダに向かったのが、其の手の繋ぎ方が所謂一つの、五指を絡めた『恋人繋ぎ』だったのには突っ込んではいけないのだろう。
逆に言えば、なのはもクローゼも、無意識下で互いに友情以上のモノを感じているのかも知れない。


「此処がミッドチルダ……魔女の子供達が現れる場所か。私が思っていた以上に都会であるみたいだな?」

「これは、グランセル、ボース、ルーアンをも上回る都会であるかも知れませんね。」


其れは其れとして、一行が訪れたミッドチルダは、リベールでも三本の指に入る都会である、グランセル、ルーアン、ボースをも上回る大都会だった……道路が整備されているだけでなく、空中に建設された高速道路まで存在しているのだから、技術レベルの高さも相当だろう。

……尤もミッドチルダの技術レベルは、リベールのツァイスに住んでいるラッセル博士と、その弟子である『不動兄妹』によって開発されたモノが元になっていたりするので、独自の技術と言う訳ではないのだが。


「さてと、先ずはセスと合流だが……」

『Master.Communication from Mr. Seth.(マスター、ミスターセスから通信です。)』

「……ナイスタイミングと言った所だねセス?なのはだけれど、ミッドチルダに到着した。今何処に居る?」

『お、中々良いタイミングだったみたいだね?駅前の広場に居る。そこで落ち合おう。』

「了解だ。」


先ずはセスと合流しようと考えていた所で、セスからの通信が入り、先ずは駅前の広場で合流する事に――ミッドチルダに到着したのを狙ったかのようにセスの方から連絡があると言うのもタイミングが良すぎる気がするが、なのはとセスは其れなりに長い付き合いなので、連絡を入れるタイミングなんかが割と分かる部分が有るのだろう。

一行は指定された駅前の広場へと移動を開始したのだが――


「……何だか、注目されている気がするんだが……気のせいか?」

「確かに、視線を感じますね……大人数なので目立つのでしょうか?」

「其れもあるかも知れないけどさ、俺達の見た目も要因の一つかも。」

「ふむ、如何言う事だ一夏?」

「いや、俺の彼女達は当然として、なのはさんとクローゼさんも凄く美人だろ?
 其れだけでも充分注目されると思うんだけど、その美人軍団と一緒に居る野郎二人は顔に大きな傷があるってんだから余計に注目されてるんじゃないか……良い見方をすれば良いトコのお嬢様達とその用心棒、穿った見方をすればそっち系の野郎が美女侍らしてるように見えてるのかも。」

「実際に美女を侍らせているのはお前だけだがな、一夏よ。五人の恋人が居るとは、お前は一体何処のハーレムモノ小説の主人公なのか……」


道行く人々に注目されている様だった。
その理由は一夏が言った事で略間違い無いのだが、実は一番注目されていたのはなのはとクローゼだったりする……此の場に居る七人の女性達は、誰もが『絶世の美女』と言えるのだが、なのはとクローゼは纏っているオーラが違うのだ。
魔王と熾天使の血を引くなのはと、リベール王国の王族として正統な血統を受け継いでいるクローゼは、其処に居るだけで圧倒的な存在感を周囲に感じさせてしまうらしく、其れで注目されているのだ……なのはは左手にレイジングハートを持ち、クローゼは腰にレイピアを差していると言ると言う事と、なのはは頭に、クローゼは肩に小さなドラゴンが乗っている言うのも要因の一つかも知れないが。
そして、なのはとクローゼと同じ位に注目されているのが稼津斗だ――顔の傷もさる事ながら、この一団の中では一際大きい185cmと言う身長は注目を集めるらしい。

とは言え、注目されているだけで特に害はないので、なのは達は駅前の広場へと足を進めて行った……その途中、何人かの通行人に『写真を撮らせて下さい』とお願いされたが、其れは丁重に断った。
写真を撮られる事よりも、その写真が流出して自分達が何処に行ったのかをデュナンに知られる事を嫌ったのだ……ミッドチルダに来る事で、デュナンに存在を感知される危険性は考えていたが、だからと言って自らその危険性を高める必要はないのだから。










黒き星と白き翼 Chapter10
『Begegnung mit den Töchtern der Hexe』










十分後、なのは達一行は駅前の広場に到着し、セスと合流していた。


「此れは此れは、随分と大所帯で来たモノだね?」

「人数が多ければ、その分だけ魔女の娘達を見つける為の目が多くなるからな……チーム分けをしてミッドチルダの各所に散らばればフットワークが重くなると言う事もないだろう?」

「確かに其の通りだね。」


そして早速、『魔女の娘達』と接触するべく行動を開始。
先ずはチーム分けだが、此れは迷う事無く即決した――なのはとクローゼ、更識姉妹、ロランとヴィシュヌとグリフィンがチームとなり、稼津斗と一夏とセスは単独行動と言う事になった。
女性陣が二人または三人組なのは、ナンパとかされた時に一人よりも対処が容易になるからだ――一般人ならば、其れでも危ないかも知れないが、なのは達はそんじょそこ等のナンパ野郎如きは何人来た所で余裕でぶっ倒せるので問題ないのだ。
十年間牙を研いでいたなのは、鬼に育てられた刀奈達は言うに及ばず、クローゼもリベリオンの一員となってからは急速に其の実力を伸ばしているのだからマッタクもって問題無いのだ……尤も、クローゼをナンパしようとしたらその時は、問答無用でナンパ師になのはの直射砲撃が炸裂するかもしれないが。


「それじゃ、この前撮った『魔女の娘達』の画像を全員の端末に転送するぞ?」

『Image data received.(画像データ、受信しました。)』

「こっちも受信出来たぜ……魔女の娘達って双子だったんだ。」

「一卵性だと、二卵性の私と簪と違って瓜二つね?違うのは髪の色位だわ。」


続いてセスから、なのはのレイジングハートと、クローゼ達の携帯通信端末に『魔女の娘達』の画像が送られ、此れで『魔女の娘達』の容姿も全員が把握出来た。
因みにクローゼ達が使っている携帯通信端末は、ツァイスに住んでいる不動兄妹の発明だったりする。此れが発明されるまでは、通信手段は有線の電話か手紙だったのだが、無線通信技術の開発に成功した事でこうした携帯通信端末を作る事が出来るようになったのだ――その無線通信機能がレイジングハートには備わっているので、アーティファクトが存在していた太古の昔には、今以上の文明が発展していたのかも知れないが。
其れでも、この携帯通信端末は極薄で、片手で操作出来る程の大きさでありながら、電話通信だけでなく写真を撮ったり、メッセージを送ったり出来るのだから驚きである。

セスから画像を受け取った後は、夫々がミッドチルダの色んな場所に散らばって『魔女の娘達』が現われるのを待つ事になった。
そして、待つだけでなく、なのはは自身が展開出来るサーチャーの最大数である50基をミッドチルダに展開して索敵の目を増やす……ミッドチルダは、可成り広いので50基でも足りないかも知れないが、其れでも目が増えると言うのは其れだけ『魔女の娘達』を発見する確率が高くなるので展開しておくに越した事はないのだ。
其れでも見つからない時は見つからないが、元より張り込みと言うモノは成果が出るまではじっくり待つのが基本なので、『魔女の娘達』がミッドチルダに現れるその時までは兎に角我慢するしかない。張り込みに必要なのは忍耐力なのである。


「ではなのはさん、私達は何処に行きましょうか?」

「そうだな……ミッドチルダには、翠屋の商品を卸している店があるから其処で張り込む事にしよう。確か、カフェスペースのある店だった筈だから張り込みをしていても怪しまれる事はないだろうからね。
 多少長居しても『女性二人のお茶会』ならば、店に長居するのは珍しい事ではないからな。」


そんな中で、なのははミッドチルダにある翠屋の商品を卸している店で張り込む事にしたようだ。
カフェスペースのある店で、『お茶会』を装って張り込んで居れば、確かに怪しまれる事もないだろう。――コーヒー一杯で何時間も居座ると言うのであれば極めて迷惑な客だが、適度に注文をして長居するのであれば何も問題はないからな。


「此処か。」

「何だか良い雰囲気のお店ですね。」


駅前の広場から歩く事五分程で目的の店に到着。
店の名前は『アクロスカフェ』。何処かレトロな雰囲気が漂う良い感じの店だ。基本的にはコーヒー豆や紅茶、スウィーツなんかを販売しているのだが、カフェコーナーも併設されており、淹れたてのコーヒーや紅茶、作りたてのスウィーツやスナックが味わえる店になっているのだ。

店に入ったなのはとクローゼは、テラス席へと移動してその一角に腰を下ろした――窓際の席よりも、更に広く周囲を見渡せると言う事でテラス席を選んだのだろう。


「ご注文は?」

「キャラメルミルクティーとクリスピーチキンバーガーのハバネロホット、其れから翠屋のシュークリームで。」

「エスプレッソとローストビーフサンド、其れからチーズケーキでお願いします。」

「畏まりました。」


ウェイトレスに注文を出し、なのはとクローゼは少しリラックスした雰囲気だ。ヴァリアスとアシェルも椅子の下で大人しくしている。
張り込みと言うのは普通は緊張感をもって行うモノだが、今回の張り込みは重篤な犯罪を犯した犯罪者を張り込む訳ではないので、其処まで緊張する必要はないと言う事だ――寧ろ必要以上の緊張は邪魔になると言っても良いだろう。

注文を出してから約五分後には、注文の品が届けられ、ウェイトレスが『ごゆっくりどうぞ』と言って去って行った。


「クリスピーチキンバーガーのハバネロホットは兎も角、キャラメルミルクティーとシュークリームと言うのは少し意外でした……なのはさんなら、エスプレッソやブラックコーヒー、スウィーツもティラミスやビターのガトーショコラだと思ったのですか。」

「思いの他子供っぽかったか?
 確かに子供っぽいかも知れないが、キャラメルミルクティーとシュークリームは私にとっては母さんの味でね――特に此処のシュークリームは、母のシュークリームを再現した翠屋のモノだから頼まないと言う選択肢はないよ。
 子供の頃は、母さんはよくおやつの時間にキャラメルミルクティーとシュークリームを用意してくれたんだ……只、なぜか何時もシュークリームの数は奇数だったので、最後の一つを巡って妹とじゃんけん勝負をしていたよ。
 結局、何時も相子が続いて決着がつかないので、最終的には母さんが平等に半分こにしてくれたのだけどね。」

「お母様の味ですか……其れは確かに、頼まないと言う選択肢は無いですね。」

「そう言う事だ……お前も一口如何だクローゼ?母さんのシュークリームは天下逸品だからな……母さんのシュークリームを一度食べたら、二度と他のシュークリームを食べる事は出来なくなるぞ。」


『シュークリームは母の味だ』と言う事を言いながら、一口大にカットしたシュークリームをクローゼに勧めると、『では、失礼して』とクローゼは其れを口にする……普通に『あ~ん』をしているのだが、女性同士であるのならば羨望や嫉妬の視線は向けられまい。
そして、シュークリームを口に入れた瞬間クローゼの表情が驚きのモノに変わった――其れが『翠屋のシュークリーム』の味のレベルの高さを示していると言える。


「……確かにそうですね。このシュークリームを食べたら、他のシュークリームを食べる事は出来ないかも知れません。
 シュー皮の上にパイ生地を重ね、更にその上に薄くクッキー生地を重ねて異なる三種の『サクサク感』を演出した皮の中には、絶妙な甘さの生クリームとカスタードクリームが詰められていて、そして生クリームにはバニラの、カスタードクリームにはキャラメルの風味が加えられていて、とても味わいが深くなっています。
 何と言うか、お口の中が幸せです。」

「ふ……母さんのシュークリームは最強だ。」


そして、なのはが注文したシュークリームは、なのはの母である桃子のレシピを完全再現したモノであるらしく、その味は舌が肥えてるであろうクローゼが賞賛するレベルであった――アクロスカフェの一番の売り上げとなっているスウィーツは、このシュークリームだったりするのだ。

その後、なのはとクローゼは追加の注文をしながら張り込みを続けた。――追加注文では、ピザを頼んだのだが、クローゼが『クアットロチーズ』と注文したのは可成り攻めた注文であると言えるだろう。
『クアットロチーズピザ』とは、つまり『四種のチーズピザ』なのだが、此の店のクアットロチーズピザにはゴルゴンゾーラを使用しているとメニューに表記されていた訳だからね……ゴルゴンゾーラと言うのは最高級のブルーチーズなのだが、ブルーチーズはクセが強く万人受けするモノではないのだ。


「ふむ、ゴルゴンゾーラ特有の風味が良い感じのアクセントになっているな?ワインが欲しくなるピザだな此れは。」

「ゴルゴンゾーラは、この独特の風味が良いんですよね。あ、そう言えばリベールにはゴルゴンゾーラのカマンベールチーズがあるんですよ。」

「其れはとっても美味しそうだな。」


しかし、そのブルーチーズの独特のクセも、なのはとクローゼには何のそのだったみたいだ――寧ろブルーチーズの味が分かる時点で、その舌は相当に越えた大人のモノであると言っても過言ではあるまい。因みにカマンベールのブルーチーズは絶品である。

そんなこんなで、なのはとクローゼはカフェでの一時を満喫していた。
スウィーツを互いに食べさせあう光景には、他の客が赤面していたりしたのだが……同性であっても、極上の美女が其れをやるって言うのは可成りの破壊力があったと言う事なのだろう。
其れに加えて、二人が連れていた小型のドラゴンがスウィーツを美味しそうに食べていたと言うのも客の注目を集めていたけどね。――取り敢えずアクロスカフェのチキンナゲットは、ヴァリアスもアシェルも気に入ったみたいだった。

そんなカフェタイムを満喫していたのだが――



――チリンチリン



此処で、来客を告げるベルが鳴り、なのはとクローゼも其方に意識を向けたのだが、入って来た人物を見て思わず固まってしまった――何故ならば、店に入って来たのは、セスから受け取った画像データの『魔女の娘達』だったからだ。


「彼女達は……」

「あぁ、間違いない。如何やら此処は当たりだったみたいだな。」


そして、今日ミッドチルダに『魔女の娘達』が現れたと言うのは嬉しい誤算だったと言えるだろう……最悪の場合は、数週間の張り込みを覚悟していた身とすれば、張り込み初日でターゲットを見つけたと言うのはとてもラッキーな事であるのだからね。
先ずは怪しまれないようにあまり其方を見ずに様子を覗う事にし、自然な感じでお茶会をする事に。


「ん?おー!みてみてへいと!ちっちゃいけどドラゴンがいるぞ!すっごいなー、僕ほんもののドラゴンなんてはじめてみた!この子たちって、君達のドラゴンなの!?」

「ちょ、行き成り失礼だよレヴィ!す、すみません妹がイキナリ!!」


と思っていたら、青髪の女性――レヴィがヴァリアスとアシェルを見て突撃して来た!更に、そのレヴィを追って金髪の女性もやって来た!
まさか、相手の方から接触してくると言うのは予想外の事だったのか、なのはもクローゼも少しばかり反応が遅れてしまった……いや、行き成りこんな感じで『グワ!』っと来られたら、大抵の場合は怯んでしまうモノだと思うが。


「いや、良いさ。
 ドラゴンは神聖な生き物で、一生に一度出会えるかどうかと言うレアな生き物だからね……サイズは小さいとは言え、ドラゴンが二体も居れば興奮する人も居るだろうさ。
 何故か、今の今までこうしてやって来た人は居なかったがな。」

「そう言えば何ででしょうか?」

「私とお前が美人過ぎて、其れに圧倒されて声を掛ける事が出来なかったと言うのは如何だ?あながち間違っては居ないと思うぞ私は。」

「むむ、じぶんでじぶんのことを美人というとは、そーとーに自信があるんだなおまえ!よっしゃー、あとで僕としょーぶしろ!!」


其れでも、直ぐに再起動して対応したのは流石と言うべきだろう。
その対応で、更にレヴィが盛り上がってる訳だが。


「こらこら、初対面の人に失礼だよレヴィ?初対面の人には、まずちゃんと挨拶をして名前を名乗ってから話をしないとダメだって、お母さんにも言われたでしょ?」

「へいと、それっていつの話だっけか?」

「何時のとか、そう言う問題じゃないの。其れから、ヘイトじゃなくてフェイト。」

「ふむ……ファフィフフェフォと言ってみろ。」

「ふぁ、ふぃ、ふ、へほー!」

「……『フェイト』と呼ばせるのは諦めた方が良いかも知れん。
 此れはマッタク持って私の予想であり失礼を承知で言わせて貰うのだが……彼女は頭があまり良くないと思われるのでな?名前を正しく呼ぶ事が出来ないと言うのは中々にヤバいぞ?」

「レヴィは、頭脳と引き換えに凄まじいパワーと圧倒的なスピードを手にしているんですよ。
 改めて、行き成りすみませんでした。私は、フェイト・テスタロッサと言います。」

「僕はレヴィ・テスタロッサだよ!いえーい!」

「いや、気にしなくて良い。私は高町なのはだ。」

「クローゼ・リンツと言います。」


其処から自然な流れで会話をして、金髪の女性の名前が『フェイト・テスタロッサ』であると言う事が判明した――特に狙ってやった訳ではないのだが、自然と欲しい情報を得てしまうと言うのも中々に凄い事と言えるだろう。
そして、この間もなのはは念話でレイジングハートに指示を送り、稼津斗達に『ターゲットと接触した、アクロスカフェに来られたし』とのメッセージを送らせているのだから抜かりもない。


「そう言えば、此のドラゴン達は私達のドラゴンなのかと言っていたが、答えはYesだ。
 黒い方が私のドラゴンで、名はヴァリアスと言う。」

「そして白い方が私のドラゴンで、名はアシェルと言います。」

「ばりあすと、あせるか!」

「ヴァとシェもダメなのか?」

「基本的に小さい字が付くのはダメみたいです。だから、こう言う場所でメニューを注文する時が大変なんです。フィッシュバーガーはヒッスバーガーと言う感じになってしまいますので。」

「其れはまた何とも……時に二人は今日はどんな用事で此処に?」

「今日は母からお使いを頼まれてやって来たんです。其れで、母へのお土産に此処で売ってる翠屋のシュークリームを買って行こうと思って――前に一度買って帰ったら、すっかり気に入ったみたいで。」

「ほう、其れは嬉しい話を聞いたな?此の店にシュークリームを卸している翠屋は、私がオーナーを務めている店でね。
 自分がオーナーを務めている店のシュークリームのファンが居ると言うのはとても嬉しい事だ……デリバリーだけでなく、契約した店に商品の卸しをすると言う事をした甲斐があったと言うモノだな。」

「貴女が翠屋のオーナーなんですか!?」


更に自然な流れで話をして、自分の方にペースを持って行くと言うのも中々に見事であると言えるだろう――或は、なのはは魔族の血を引いている影響で『嘘を吐く事が出来ない』故に、口から出る言葉は全て真実だからこそ、己のペースに引き込みやすいのかも知れない。真実のみを口にしているのならば、何もやましい事はない訳で、常に堂々としていられる訳だから、ペースも握り易いだろう。


「えっとね、僕はチキンカレーをちょもらんま盛りで!それがごはんで、おかずはチキンナゲット15ぴーすとフライドポテトのえるさいずとそーせーじで!のみものはかヘおれで!!」

「す、凄い量ですね……」


そのすぐ横では、レヴィが物凄い量の注文をしてクローゼが若干引いていた――並盛の五倍の量となるチョモランマ盛りのカレーを注文しただけでなく、更にチキンナゲットの15ピースと、ポテトのLサイズってのは相当だろう。
レヴィは、見た目は細身なのだが、実は可なり食べるらしい……痩せの大食いと言う奴なのだろう。

そんなレヴィに呆れつつ、フェイトも『エビカツサンドイッチとカプチーノ。其れと、テイクアウトで翠屋のシュークリームを四個』と注文をしていた――レヴィが突撃した事でテラス席でなのは達の隣になった訳だが、此れはなのはにとっては嬉しい誤算だと言えるだろうね。


「時にフェイトよ、プレシア・テスタロッサと言う名に聞き覚えはないか?お前もテスタロッサと名乗っていたので、気になったのだけれど。」

「!?」


此処でなのはは直球の弩ストレートでプレシアの事をフェイトに聞いた。
魔族の血を引いているが故に嘘を吐く事が出来ないなのはだが、其れは抜きにしても細かい駆け引き等は得意ではないので、こうして真正面からストレートに切り込む事にしているのだ。


「プレシア・テスタロッサは、私とレヴィの母ですが……母に何か用ですか?」

「そう警戒するな。私にはある目的があってね、その目的を果たす為に五百年を生きる魔女であるプレシア・テスタロッサの力を是非とも貸して欲しいと思っている。私達をプレシア・テスタロッサの所まで連れて行っては貰えないか?」

「……貴女の目的とやらを教えてくれるのならば。其れを聞いた上で判断します。」

「ふ、賢明な判断だ。」


『母に何や用か?』と聞いて来たフェイトに、なのはは『目的を達成する為に力を借りたい』と言うと、己の目的に付いて包み隠さずに全てを話した――復讐すべき相手に復讐はするが、その先には種の垣根を越えて、誰もが平和に暮らせる世界を作りたいと思っている事を、そしてその始まりの地として考えている場所がリベール王国であると言う事まで包み隠さずに全てをだ。


「種族が違うと言うだけで差別や偏見が生まれると言うのは、実に下らなく、そして哀しい事だとは思わないか?魔族も、神族も、そして人間もその命の重さに違いはない筈だろう?
 ならば、全ての種が種の垣根を越えて平和に暮らす事が出来る世界が必要だろう?そうは思わないか?」

「其れは確かに……お母さんも言ってた。『種の垣根など下らないわ』って。
 ――でも、だからこそ貴女の言う事も理解出来る。いいよ、お母さんの所に案内してあげる。」

「ふ、其れは助かるな。」


其れがフェイトに通じたのだろう、割とアッサリとプレシア・テスタロッサの元を訪れる事になったのだが、此れは此れで嬉しい誤算だと言えるだろう――最悪の場合、数日の張り込みと高難易度の交渉を考えていた訳だからね。








――――――








・リベール王国 レイストン要塞


「クラリッサ君、ハーメル村の方の調査は如何なっているかね?」

「ハーメル村には、もう誰一人も居ない状態になっていましたが……其の数日前に、女性の三人組がハーメル村に向かって行ったと言う証言は取れています。
 そして、其の三人組の女性の一人は、菫色の髪をショートカットにして、腰にレイピアを差していたと言う事も複数の人物から聞いています――その女性は、十中八九クローディア殿下ではないかと思うのですが……」

「その可能性は極めて高いと言えるだろうね。」


リベール王国のレイストン要塞では、情報部のトップであるリシャールと、副官のクラリッサがハーメル村の調査結果について話し合っていた――其処で、クローディア殿下と思しき人物が目撃されていたというのは無視出来ない事だった。


「……クラリッサ君、此れより君に特別任務を与える。君は此れより、リベール通信のナイアル君とコンタクトを取って、ハーメル村の事を徹底的に調べ上げて欲しい。
 其処から、殿下の足取りを掴む事が出来るかも知れないからね。」

「ハッ!了解いたしました!」


なので、リシャールはクラリッサにハーメル村で何があったのかを徹底的に調べる事を命じ、そして程なくしてハーメル村に住んでいたらしいと言われた『鬼』と『鬼の子供達』がハーメル村から姿を消したと言う事を知るに至ったのだ。


「(ハーメルに居ると言われている『鬼』と『鬼の子供達』が姿を消した?……クローディア殿下、貴女はもしや『鬼』と『鬼の子供達』を仲間にしたと言うのですか?)」


そして、リシャールの考えはあながち間違ではない――『鬼』と『鬼の子供達』を仲間にしたのはなのはだが、其れは同時にクローゼの仲間になったと言う事でもある訳だからね。


「良い調査結果だったよクラリッサ君。――時に君のその眼帯はなんなのかね?」

「この眼帯は、右目に宿った魔を封印する力が込められているので、おいそれと外す事は出来ないのですよリシャール大佐。
 この目を開放する事は、早々ないと思いますが。」

「……そうか。」


其れは其れとして、副官のクラリッサは、若干中二病を拗らせているみたいだった――だが、其の能力はとても優秀なのでリシャールの副官になっているのだけどね。
中二病思考は、時として確信を突く事もあるので、無碍にする事も出来ないのかも知れないな。

何にしても、リベール王国でも水面下での動きは其れなりに大きくなっている――クローゼが挙兵をしたその時は、リシャール率いる情報部と、嘗ての『王族親衛隊』のメンバーが配属された部隊が味方になってくれるのは間違いないだろう。

そして其れは同時に、今の国王であるデュナンに不満を持っている者が軍内部にも多いと言う事の証だと言えるだろう……軍からの支持を得られないとか、デュナンはマジで終わってるだろう。
軍の支持を得られない国王は、軍事クーデターが起きて倒されると相場が決まっているからね。


「クローディア殿下、貴女が立ったその時は、私は全力で支援しますよ。」


だがリシャールは軍事クーデターには踏み切らず、クローゼがリベールに、デュナンに戦いを挑むまでは待つ事に徹するようだ――尤も、其の時が来たら遠慮なく本気を出すのだろうけどね。

リベール王国では、水面下で改革の時が来た時の為の準備が着々と進んでいる様だった――









 To Be Continued 







補足説明