・リベール王国 ロレント市 草薙家


「ふわ~~……少しばかり寝坊しちまったな――此れも、真吾の奴が夜な夜な『アドバイスください』ってメールして来やがったせいだ。ったく、武闘家としての覚悟はないクセになまじ才能があるってのが面倒だよな。」


少しばかり遅めの起床をした京は、愚痴りながら着替えると座敷に向かう――本日の京の服装は、ブルージーンズに中割れした十字模様の入った黒いシャツに白いジャケットと言うモノなのだが、此れは嘗て謎の組織に拉致られた際に、其処から逃走する際に組織内からパクったモノだったりする……京は京で中々にハードな人生を送っているようだ。
因みに、その謎の組織はなのはの最側近であるクリザリッドを作り出した組織だったりする。――何と言うか、妙な縁がなのはと京にはあるみたいである。


「おはよう京。少し寝坊だぞ?」

「真吾の奴がメールで煩くて遅くまで起きてたんでな……って、何してんだアインス?つか、何時もの格好にエプロンってのは中々に破壊力があるな?」


其れは其れとして、座敷で京を待っていたのは、エプロンを着たアインスだった。あの独特な服(劇場版の騎士服)にエプロンの組み合わせと言うのは破壊力がハンパないらしく、京も思わず見惚れてしまったらしい。


「ふふ、アインスさんは私に料理を習いに来て居るのですよ京。貴方の好みの味を知りたいって言って来たのです……健気で良い人を見つけたようですね京?」

「お袋、からかうなっての。ま、確かにアインスは俺には過ぎた彼女かもしれないけどな――美人で格闘技も強くて、料理も上手いからな……この時点で、既に八神に勝ってるな俺は。
 ……まぁ、アインスが居るのは良いとして親父は?昨日の夜飲みに行ってなかったっけか?午前様になるのは間違いねぇと思ってたけど、帰って来てねぇの?」

「えぇ、帰って来ていませんねぇ。」


それはさて置き、京は座敷に柴舟が居ない事に気付き、『帰って来てないのか』と母の静に尋ねると、静も『帰って来ていない』と答える……普通ならば、心配するモノなのだろうが、柴舟が突然居なくなる事は此れが初めてではないので京と静は『またか』と言った感じだ。
『息子と妻なら心配しろよ』と言うなかれ。柴舟が外出して家に戻らなかったのは此れが初めてではない上に、最大で二年と言うトンでもなく長い間家に帰ってなかった事があるので、柴舟が家に帰って来てないとしても『またか』と言った感じになってしまい、最早『心配するのがバカクセェ』と言うレベルにまで達しているのだ。
家に戻って来なくても、妻からも息子からも心配されない親父……其れは親父として如何なのだろうか。


「こんな事聞くのは如何かと思うんだけどさ、お袋は何で親父と結婚したんだ?親父は特別イケメンでもねぇだろ?」

「私とあの人は見合い結婚ですが……草薙の次期頭首の見合い相手に選ばれた時点で人生決定なのですよ京。」

「……お袋、なんかごめん。」

「若干、草薙家の闇を見た気がするが、そうなると私と京の様に男女交際をしていると言うのは可成りのレアケースと言う事になる訳か……そう言う意味では、自由恋愛を認めてくれた柴舟さんに感謝かな?」

「其処だけは、親父に感謝だが……俺の世代で草薙家も変えて行かないとかもな。」


そして、草薙家には若干の闇がありました……古くからの家故に跡取り問題があるのだが、草薙家の場合は『確実に草薙の血を残さなければならない』ので、養子縁組は行われず、嫡子が男児ならば嫁を、女児ならば婿を取る事で其の血を繋いできた歴史がある。
なので、草薙の血を絶やさぬために望まぬ結婚をした男女も多く、静もその一人なのだが、柴舟への愛はなくとも京への愛は持っている――妻としてはアレでも、母としては最高なのだ静は。

その後は京、静、アインスの三人で朝食を摂った……アインスが手伝った本日の草薙家の朝食は、ご飯、味噌汁、ホッケの一夜干しの炭火焼きと言ったメニューで、焼き魚が大好きな京としては大満足の朝食だった。
味噌汁は少し味が濃かったが、其れもアインスが作ったと言う事を聞いて納得……慣れていなかったので、少しだけ味が濃くなってしまったらしい。――其れに気付けたのは京が毎日静の料理を食べていたからで、そうでなかったら気付く事は出来まい。

取り敢えず、平和な朝食タイムだったのは間違いないだろう……今この場に居ない柴舟が、何者かに連れ去られたと言う事を、京達は知らないからこその平和ではあるのだが。










黒き星と白き翼 Chapter8
『Nächstes Ziel und Zweck』










・リベリオン拠点


アーティファクト『映し身の鏡』によって生み出された偽恭也をぶちのめし、十年もの間鏡に閉じ込められていた本物の恭也を開放したなのはは、拠点に戻ってくると、リベリオンの医療チームに連絡を入れ、到着した医療チームに恭也を預けて即治療を施すように指示。
クローゼがリヒトクライスで回復させたとは言え、十年間も鏡の中の異空間に閉じ込められていたのだから、完全に回復していない可能性は充分にあるので、この指示は的確だったと言えよう……実際に、恭也は未だ意識を取り戻していないのだから。


「ミニマム。」

『ギョワ?』


医療チームに指示を出した後は、『ドラゴンを呼ぶ笛』で呼び出した黒竜に縮小魔法を掛けて、小型の猛禽類サイズにしてから拠点内部に入って行く……呼び出した黒竜の大きさは全長約10m、両翼幅約15mの大きさなので、小さくしないと中に入れる事が出来ないのだ。
外に置いておくにしても、入り口を隠している結界からはみ出してしまうので小さくして拠点内部に連れて行くしか黒竜をリベリオンで面倒を見る方法はないのである。


「縮小魔法……確かに、此れなら中に連れて行く事も出来ますね。」

「此方の都合で呼び出したのだから、責任を持って世話せねばならないからな。
 其れに、ドラゴンは自然界に於いては頂点に君臨する生き物である上に、上位種が放つブレス攻撃は上級魔族や上級神族の攻撃にも匹敵するからな……戦力として見た場合にも心強い。」

「闇属性のドラゴンを従えた、反逆者達のリーダー……ふふ、何だかとてもカッコいい気がします。」


黒竜を小さくし、クローゼと話をしながらなのはは医務室に向かうと、医師から恭也について、『衰弱しているが命に別状はない』と聞いて取り敢えず胸を撫で下ろした。
だが其れも、クローゼのリヒトクライスがあったからだろう――リヒトクライスで失われた体力を全部ではないにしろ回復したからこそ、『衰弱しているが命に別状はない』状態で済んでいたのであり、リヒトクライスでの回復がなかったらもっと急を要する状態になっていたかも知れないだろう。


「兄さんが目を覚ましたら教えてくれ。色々と話さねばならない事があるからな。」

「承知いたしました。」


其れだけ言うと、なのははクローゼと黒竜と共に最深部の主の間……に向かう前に、食堂に寄って『ワンポンドステーキ用のステーキ肉』を一枚貰ってから主の間に。
このステーキ肉は黒竜の餌だろう。


「私の都合で呼び出して悪かったな。お前が何を食べるのかは分からないので取り敢えず肉だが、此れで良かったか?」

『グルゥゥ……!』



――ボッ!!




「上手に焼けました~~……と言った所でしょうか?」

「生肉ではなく、ステーキがお好みだったか……恐らくだが、此れまでも獲物は今の黒炎で葬ってから食していたのだろうから、生肉よりも火の通った肉の方が好みと言う訳か。」

「そうみたいですね。」


その肉を黒竜に与えると、黒竜は口から黒炎を発射して肉を良い感じに焼いてから食した……黒竜には黒竜の拘りと言うモノがあるらしい。因みに、黒炎によって焼かれたステーキ肉は、表面はこんがり、中はジューシーと言う見事なレアステーキになっていたりする。黒い炎の温度がドレほどかは分からないが、少なくともレアステーキを良い感じに仕上げる事が出来るのは間違いないだろう。
本気の黒炎は、レアステーキでは済まず、対象を消し炭にするだけの威力があるのだろうが。


「そう言えばなのはさん、其の子に名前は付けて上げては如何でしょう?アナライズで解析した所『真紅眼の黒竜』と言うドラゴンである事は分かりましたが、其れはあくまでも種族名であり、個体を識別する名前ではありませんので。」

「……確かに名前は必要だな。ふむ……『ヴァリアス』と言うのは如何だろうか。」

「ヴァリアス……良いと思います。」


其れは其れとして、クローゼの提案を受けて、なのはは黒竜を『ヴァリアス』と命名した……矢張り、個体を示す名は合った方が愛着も沸くと言うモノだろう。人も魔族も神族も、己の子やペットに名前を付けるのは、其れによって識別しやすくなるからであると同時に、愛着が沸くからだ。
実際に『ペットに固有の名前を付けた場合と付けなかった場合では、愛着が異なる』と言う実験結果も存在していたりするのだ……只単純に名前が思い付かないから猫を『猫』と呼んでいた場合と、『こいつは猫って名前だ』って決めて『猫』と呼んでいた場合には愛着度がまるで違うと言うのだから、名前と言うのは矢張り大事なモノなのだろう。


「其れでなのはなさん、お兄さんは助け出す事が出来ましたが、此れから如何しましょうか?」

「事情を話せば兄さんは力を貸してくれるだろう。
 兄さんは、一流の剣士であり武人であった父さんの事を誰よりも尊敬していたから、その父さんがライトロードによって殺されたと知ればライトロードを許しはしないだろうからな……兄さんは、兎に角曲がった事が大嫌いだったからね。
 だが、其れは其れとしてもう少し戦力を増やしたい所だな?ヴァリアス一体で、並の兵士百人に匹敵するだけの力はあるが、国一つ、そしてライトロードを相手にするにはもう少し戦力を増強したいと言うのが本音だ。」


黒竜に名を与えた後は、今後の方針だ。
戦力面で言えば、リベリオンの戦力は可成り充実していると言えるのだが、デュナンが治めているリベールと、復讐対象であるライトロードと遣り合うには数の上の不安があるのもまた事実――ドレだけ優秀であっても、数の暴力には勝てない事もあると言う事をなのはは十年前に、圧倒的な力を持っていた父の士郎がライトロードと村の住民と言う数の暴力の前に屈したと言う事から、嫌と言う程理解しているのだ。
なので、質だけでなく量も揃えたいと思うのは致し方ないだろう。



――コン、コン



「俺だ。稼津斗だが、入っても良いかなのは?」

「お前か……あぁ、構わん。」


此処で、稼津斗が主の間を訪れ、ノックした後に、なのはからの了承を得て主の間に入って来た。――態々、此処に来たと言う事は、稼津斗にはなのはに対して何かしら重要な事があったのかもしれない。五百年以上生きてきた『鬼』だからこそ、出来るアドバイスもあるのかもね。


「失礼するぞ。
 なのは、お前は己の目的を達成する為に仲間を探していると言っていたが……プレシア・テスタロッサに接触した事はあるか?」

「無いな。そもそも、プレシア・テスタロッサとは何者だ?」

「プレシア・テスタロッサ……聞いた事がない名前ですね?どの様な方なのでしょうか?」

「魔女だ。」

「「え?」」

「だから、魔女だ。」


そんな稼津斗の口から告げられた『プレシア・テスタロッサ』と言う名前に聞き覚えのないなのはとクローゼだったが、稼津斗が口にした『魔女』と言う言葉に少し驚いた様子だ……『魔女』などと言う存在は、御伽噺の中だけに存在してるモノだと思っていたらしいなのはとクローゼだが、その『魔女』が存在していると言われたら驚くのも当然と言えば当然の事だろう。
加えて、稼津斗の性格から嘘や冗談でそんな事を言うとも考え辛い。なのはの目的を知り、その目的を達成する為に仲間を探している事を知っているのだから。


「俺が封印される前に、其れなりの回数会っていてな……その時は未だ人間だったが、『何れ師から魔女としての力を継承して、新たな魔女になる。』と言っていたのを思い出したのだ。
 彼女が魔女になっているのであれば、戦力として申し分ないと思うぞ?人間であった頃ですら、彼女の魔力は上級の魔族や神族に匹敵するモノがあったからな。」

「其れが本当であるのならば、是非とも仲間にしたい所だが……お前が封印される前に会ったと言う事は最低でも五百年前の事だ。流石に生きてはいないだろう?」

「いや、魔女となった者は『魔女の力』を他の誰かに継承させない限り死ぬ事が出来ないらしいから生きている筈だ。『私が新たな魔女となったら、最低でも千年はこの力を他の誰かに継承させる心算はない』と言っていたしな。」


しかも、『魔女は魔女の力を他の誰かに継承させない限り死ぬ事はない』とまで言い、五百年以上経った今でも生きていると言うのだ……だとしたら、其れはなのはにしてみれば喉から手が出るほど仲間にしたい存在だと言えるだろう。
不死と言う時点で相当だが、魔女になる前から上級の魔族や神族に匹敵するだけの魔力があったと言うのであれば、魔女となった現在ならば魔王クラスの魔力と実力を備えているのは略間違いないし、五百年以上生きて来た中で蓄積された経験と知識と言うモノも魅力であると言えるだろう。


「プレシア・テスタロッサ……確かに仲間に出来るのならば仲間にしたい存在だな?『鬼』の推薦と言うのも大きい。
 しかし、魔女と言うと如何しても御伽噺のイメージから、黒いローブを纏って尖がった帽子を被った老婆の姿を思い描いてしまうのだが……」

「御伽噺の魔女は、例外なくその姿で描かれていますからね……其の、プレシアさんと言う方は容姿はどのような感じなのでしょうか稼津斗さん?」

「魔女となった時点で身体の老いは止まると言っていたからな……俺が最後に会った時からそれ程経たずに魔女になったのだとしたら三十代半ばと言った所だが、外見的にはもっと若く見えるだろうな。
 黒目黒髪の美人だったよ……杖を変化させた鞭を持つ姿は、魔女と言うよりも女王様だったがな。」

「「うわ~~……」」


稼津斗から聞いた事をイメージし、なのはもクローゼも若干引いてしまったが、其れが逆にプレシア・テスタロッサへの興味を大きくし、なのははプレシア・テスタロッサとコンタクトを取る為に、今何処に居て、何をしているのかを調べるために、レイジングハートの通信機能を使ってセスに連絡して、プレシア・テスタロッサの居場所を探すように依頼する……この行動の速さもなのはの強みの一つと言えるだろう。


「しかし、五百年以上も一人で生きて来たと言うのは、流石に孤独で過ぎるのではないだろうか?」

「其れに関しては大丈夫だろう。
 魔女の力を継承して新たな魔女となるには、魔女の使い魔となる存在が必要らしいのでな……少なくとも使い魔と一緒なのだろうから一人ではなかった筈だ。」

「詳しいですね?」

「彼女は、『鬼』となった俺の事を恐れず、普通に接してくれた数少ない存在なのでな……彼女の事を、無意識の内に知りたいと思って、色々と聞いていたのかもな。」

「もしや、惚れていたとか?」

「さて、其れは如何だろうな?」


其処からは暫し他愛のない話をする流れに。
その中で『稼津斗は弟子は取らなかったが、『勝手に見て居ろ』と言った相手が多く居る』、『一夏もまた殺意の波動をその身に宿しており、五人の恋人の存在が、その力が暴走する事を抑えている』、『なのはの服は己の魔力で構成した魔力体であり、実は実体の布は全く纏っていない事』、『クローゼはホラーとサスペンスとミステリーが好きだった』と言った事が明らかに……なのはの服の真実と、クローゼの好みが大分衝撃的ではあった。サスペンスとミステリーは兎も角として、ホラー好きの女子と言うのは相当に珍しいと言えるだろう。
其れを聞いたなのはが、『尤も好きなホラー作品は?』と聞けば、『エルム街のナイトメアと、十三日のフライデーです。』と答えたのだから、可なりのガチホラー好きと言っても過言ではあるまい……人に悪夢を見せる顔が崩れた鉄の爪の男と、不気味なマスクを被って鉈で人を惨殺する殺戮者ってのは、ホラー界の二大トラウマキャラであるのに、其れが登場する作品が好きってのはマジだからね。
因みに好きなサスペンスは『羊達のサイレンス』で、好きなミステリーは『金田一ボーイのミステリーファイル』だった。



――コンコン……



そんな話をしていた所で、扉をノックする音が。


「なのは様、医療チームリーダーの磯野です。恭也様が目を覚ましました。」

「!!……そうか。分かった、直ぐに行く。」


ノックしたのは医療リームのリーダーであり、『恭也が意識を取り戻した』と言う事を伝えに来たのだ……リベリオンの医療チームもまた、『知識は蓄えていたが、貧しさ故に医療免許取得の試験を受けられなかった者』、『医療ミスの責任を押し付けられて医師の道を閉ざされた者』、『医師教授に否定的な意見を言った事で、試験は満点だったにも拘らず医師免許を取得する事が出来ずに、無免許の闇医者として生きて来た者』と言う、この世の理不尽と不条理によってその才能を潰された者達で構成されている……この世は、マジで理不尽と不条理で満たされていると言っても過言ではあるまい。

それはさておき、『恭也が目を覚ました』と言う事を聞いたなのはは、即医務室へと向かって行った。








――――――








「(此処は、何処だ?)」


目を覚ました恭也が最初に思ったのは其れだった。
『目が覚めたら知らない天井だった』と言うのは、小説などでよくある展開だが、恭也はまさか己が其れを体験するとは思っていなかったのだろう……体験すると思えってのが可成りの無茶振りではあるが。


「目が覚めたか、兄さん?」


其処で、部屋に入って来た女性から声を掛けられて恭也は驚くと同時に警戒を強める……目の前に現れた、栗毛をサイドテールにして黒衣を纏った女性の事を、恭也は全く知らなかったからだ。――しかも、その女性が己の事を『兄さん』と呼んだのならば尚更だ。恭也の記憶では、こんなに大きな妹は存在しなかったのだから。


「兄さんだと?俺には、貴女の様な妹は居ない!
 美由希は大人だったが、其れでも貴女と比べればまだ子供だったし、なのはとなたねは其れこそ十にもならない子供だったからな…一体何者だお前は?」

「十年も経っていれば分からないか……私は貴方の妹のなのはだ。貴方の記憶とはだいぶ異なって居るだろうがな……生きていてくれて、良かったよお兄ちゃん。」


疑問を持つ恭也に対して、なのはは自分が恭也の妹である『なのは』だと告げると、恭也に抱き付いた――今や唯一の生き残りである家族との再会に、『リベリオンのリーダー』の仮面を脱ぎ捨てて、恭也に抱き付いたのだ。
『兄さん』ではなく、『お兄ちゃん』と呼んでいるのが、その証と言えるだろう。


「なのは、なのかお前は?……それに十年って、一体如何言う事だ?」

「其れは、此れから説明するよお兄ちゃん。」


そして、其処からなのはは恭也に全てを話した。
恭也は『映し身の鏡』によって鏡像を作り出されて、映し身の鏡の中に十年間も囚われていた事、偽恭也がライトロードを手引きして士郎と美由希を殺した事……そして今、自分は復讐を考えながらも、復讐の果てに『種族の垣根を越えて、全ての種が平和に暮らす事が出来る世界を作りたい』と言う事を恭也に話した。


「俺の偽物が、ライトロードを手引きして父さんと美由希を殺し、逃げ延びたお前となたねは生き別れてしまったとは……魔族の血を引くお前は嘘を吐く事が出来ないから全て真実なんだろうな。
 父さんと訪れたアンティークショップで、こんな事が起きたとは驚きだが……そう言う事であるのならば、俺は父さんと美由希、そしてお前となたねに対しての贖罪をしなくてはならないだろう――偽物とは言え、俺が父さんと美由希を殺し、お前となたねから家族を奪ったのは俺だからな。
 俺の力で良ければ存分に使えなのは。お前の理想の実現の為ならば、俺は此の力を思い切り揮おうじゃないか。――妹の役に立つ事が出来ると言うのは、兄として最高の喜びでもあるからな。」

「そう言って来ると思っていたよ、お兄ちゃん――否、兄さん。其の力、私の目的成就の為に揮って貰うぞ。」

「ふ、是非もない。」


其れを聞いた恭也は、迷う事無くなのはに力を貸す事を決めた――復讐は兎も角として、『種族の垣根を越えて、全ての種が平和に暮らせる世界を作りたい』と言うなのはの目指す理想を聞いたからだろう。
その理想は、士郎と桃子が抱いていた理想であり、なのはは其れを実現させようとしていたのだから、血は繋がっていないとは言え『兄』として力を貸さないと言う選択肢は存在していなかったのだろう。


「父さんの後を継いだのか……今のお前は、正に魔王だななのは?」

「父さんだけでなく、母さんの力も継いでいる……私は魔王ではなく、神魔だよ兄さん。」


更に此処で、なのはは恭也に背を向けると、その背に魔族の証である漆黒の翼と、神族の証である純白の翼を顕現させて見せた――その姿は、魔族と神族の混血でありながら、魔王も上級神族をも超越した存在だった。
其の力は圧倒的であり、士郎と言う魔王の強さを知っている恭也ですら、若干気圧される程だったが、其れを見て恭也は笑みを浮かべていた。十年前は守るべき存在だった妹が強く逞しく成長した事が嬉しいのだろう。
同時に、その圧倒的な力を放つなのはの横に平然と立っているクローゼにも頼もしさを覚えて居た……なのは自身が強くなっただけでなく、仲間にも恵まれたと言う事も兄としては嬉しい事だったのである。


「しかし、お前と共に戦うにしても十年間もアーティファクトの中で眠っていたのなら相当に鈍って居るだろうから、先ずは戦いの勘を取り戻さないとだな。」

「其れならば大丈夫だ。此処にはトレーニング相手は幾らでも居るからね。
 剣士に武道家、槍使い、暗殺術の使い手に喧嘩屋、果ては改造人間に鬼まで……自分で言うのも何だが、よくもまぁ此れだけ集めたモノだと思うよ。」

「確かに凄いな……だがまぁ、今日は大人しくしているとしよう。目覚めたばかりで無理をして、倒れてしまっては本末転倒だからな。」

「其れが良い。其れじゃあ、また後で来るね?これから、子供達の勉強時間だから失礼するよ。」


其れだけ言うと、なのははクローゼと共に医務室を後にし、子供達の待つ勉強部屋へと向かって行った。


「頼れる仲間を、ゲット!ですね、なのはさん?」

「あぁ、兄さんの剣士としての腕は、頼りになるからな。」


恭也と言う新たな戦力を得た事でリベリオンの戦力は底上げされたが、だからと言って、戦力の増強が終わった訳ではなく、マダマダ次の新たな戦力を欲しているのが今のリベリオンだ。
戦力はあるに越した事はないのだからね。








――――――








・リベール王国 ルーアン市郊外


ルーアンは、リベール王国でも三本の指に入る都市であり、同じく三本指に入る都市のボースが商業で栄えている都市だとしたら、ルーアンは観光と漁業で栄えている都市と言えるだろう。
だが、その繁栄の裏では街道に現れる魔獣と悪魔が問題になっているのだが……


「ハッハー!この程度かい?これじゃ、おやつにもならないな。」


ルーアン周辺に現れた魔獣も悪魔も、赤いコートを纏った銀髪の男の前では赤子同然に葬られてしまい、其の力を発揮する事は出来ていなかった――と言うか、此の男は文字通りの無双をしており、ルーアンで其の名を知られている、嘗ては半グレ集団、今は街の自警団になっているレイヴンですら入り込む隙が無かったのだ。


「やれやれ、相変わらずお前さんは凄いねぇ?ギルドの依頼を受けて来たんだが、俺は要らなかったか?」

「おぉっと、少しばかり遅かったなカシウス?粗方、俺が食い散らかしまったぜ――とは言え、まだ少しばかり残ってるから手伝ってくれや……魔獣と悪魔が凶暴化してるってのも気になるからな。」

「其れは、俺も感じていた事だが……その原因は分からん。だが、狂暴化した魔獣や悪魔と言うのは危険極まりないからな――殲滅するぞダンテ。」

「Oh Yes!伝説の遊撃士様とこうして出会えた上に、共に戦える!こんな幸運、滅多にあるもんじゃないからな……其れじゃあ、少しばかりイカレタパーティを始めようじゃないか?
 但し、此処からはR指定のライブだがな!」


そして、其処にカシウスが現れ、其処からはダンテとカシウスによる、いっそ魔獣と悪魔の方に同情したくなるほどの蹂躙劇が展開された……カシウスが棒術で滅多打ちにした所に、ダンテがエボニー&アイボリーの超連射を喰らわせてからスティンガーをぶちかませば、スティンガーからのミリオンスタブ→ハイタイムのコンボを決めた所にカシウスが通称『親父フェニックス』を叩き込んでターンエンド。


「オイオイ、もうお終いかい?未だ足りないぜ?」

「俺と戦うには、マダマダだったな。」


そして、最強のオッサンと親父は魔獣と悪魔を滅して勝利のポーズ!ダンディな、オッサンと親父ってのも中々に絵になるモノだな。


「マダマダだが、魔獣は兎も角悪魔の力が増してやがる……何か、トンデモナイ事が起きる前触れじゃないと良いんだがな。」

「其れは、お前さんの杞憂である事を願うしかないだろうな。」


だが、其れとは別にダンテもカシウスも悪魔の力が増している事に気付いており、其れが大事が起きる前触れではないのかと危惧していた――が、その危惧は良い意味で現実になると言う事は、ダンテもカシウスも予想していなかった。









 To Be Continued 







補足説明