神体の内部にレイジングハートが打ち込まれ、其れによって神体に取り込まれていたなのはは目を覚まし、目を覚ましたなのははレイジングハートを一閃して同じく神体に取り込まれていたクローゼを助け出したのだが、クローゼは昏睡寸前まで消耗していた。


「此の木偶人形に魔力を強制的に吸い上げられていたのだから致し方ないが、私はお前を死なせたくはないぞクローゼ。」


そんなクローゼを見たなのはは唇を少し嚙み切ると其処から溢れた血を口内に貯めるとクローゼに口付けてその血を飲ませる――魔族としても神族としても最高の血筋を受け継いでいるなのはに流れる血に含まれている魔力は大きいので、その血を飲むと言うのは瞬間的に魔力を回復する事が出来ると言う事でもあるのだ。


「う……なのはさん?此処は?」

「あの巨大な木偶人形の内部だ。
 私達は取り込まれてしまったが、だからと言って取り込まれて終わりではないだろう?……私とお前が目を覚ました所で、第二ラウンドの始まりと言うところだクローゼ。
 此処にはヴィヴィオは居ないみたいだから、此処から脱出するのはヴィヴィオを取り戻してからになるがな。」

「なのはさん、ヴィヴィオを取り戻すのは当然ですが、此処から脱出するのは、教授とドクターを倒してからですよ……外道には然るべき鉄槌を下すべきでしょうなのはさん?」

「クローゼ……確かに、お前の言う通りだな。」


クローゼも回復したところで神体の内部に居るであろうヴィヴィオを助け出し、更にワイスマンとスカリエッティも倒す事でなのはとクローゼの意見は一致したのだが、其れでも最優先にすべきは娘の奪還なので先ずはヴィヴィオを探す事に。

そしてなのはとクローゼが神体内部で目を覚ましたころ、外では新たにヴァリアス、アシェル、バハムートが戦線に加わっていたのだが、ヴァリアスとアシェルは其の外見が大きく変わっていた。
神体内部でなのはとクローゼの魔力が混ざり合い、更にクローゼはなのはから直接魔力入りの血を飲まされた事で『闇属性』が入った事で、夫々のドラゴン達が進化したのだ。


『グゴォォォォォォォォォ!!』
流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン:ATK3500


『ギョガァァァァァァァ!!』
ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン:ATK4000



ヴァリアスは漆黒の鋼鉄のような身体から闇色の身体に赤い筋が入った様な身体となり、全身に灼熱の炎のオーラを纏い、アシェルは新たに闇の力を得て其の攻撃力を更に高め、全身を希少鉱石であるミスリルで固めたかのような外見となっていた。
なのはとクローゼを取り込む事で完成した神体だが、其れはなのはとクローゼが目を覚ました際は夫々を強化し、更には夫々のドラゴンを強化する結果となったのだった。









黒き星と白き翼 Chapter86
『王と王妃の覚醒~神体内部での戦い~』










目を覚ましたなのはとクローゼは神体内部を移動しながらヴィヴィオを探していたのだが、神体は現在進行形でリベールの精鋭達と交戦中であり、激しく動くので内部は大きく揺れていた。


「オイ、揺らすななたね!」

『そうは言われましても、自称神様の相手は中々に大変なんですよ姉さん。』

「……其れもそうか。」


其れに対してなのはは『揺らすな』と言うも、なたねに『自称神様の相手は楽ではない』と言われては、多少揺れるのは仕方ないと考えるしかないだろう。
其れは其れとして、神体の内部はなんとも不気味なモノとなっており、まるで悪魔界のようだったのだが、この神体は魔力で作った外装に、無数の悪魔を詰め込んで作られたモノであり、詰め込められた悪魔は神体内部で混ざり合って疑似的な悪魔界を形成していたのだ。
普通の人間ならばその瘴気であっという間に死んでいるだろうが、神魔であるなのはと、先祖返りで神族の血に覚醒し、更には闇属性も宿したクローゼには瘴気は何の問題にもならず、なのはとクローゼは神体内部を進んで行き、そして暫く進むと開けた空間に出た。

その空間は幾つかの段差で構成されており、先ず訪れた一段目には幾つかのマス目が存在し、そのマス目のスタート地点にはなのはを模した等身大の人形が存在していた。
また、マス目の色は『白』、『青』、『黄色』、『赤』、『紫』と色分けされ、中央では巨大なダイスが其の場で回転していた。


「此れは……?」

「ダイスゲーム、だろうな。
 ご丁寧にルールも記載されているが……『望む道は上を見た時を狙え』か――夫々のマスの説明もあるな?『白は平穏』、『青は祝福』、『黄色は道の短縮』、『赤と紫は災厄』か……うん、大体のルールは分かった。
 望む道は上を見た時に狙えと言うのは、出したいダイスの目が上を向いたときにダイスを攻撃すれば其の目が出ると言う事だろう。
 そしてマスの説明は、白いマスは特に何も起こらず、青いマスは回復、黄色は別の黄色のマスにワープ、赤と紫は敵が出現と言うところか……ならばまずは回復をしたいので、三の目だな。」


説明を読んだなのはは直ぐにルールを理解し、先ずは三の目を出して自身を模した駒を青いマスに進めると、大量のグリーンオーブとホワイトオーブが降り注いでなのはとクローゼの体力と魔力を完全回復してくれた。
続いて意味ありげな黄色のマスの前にある門に最短で行くために、一マス先の黄色のマスにコマを進めるためにダイスの目の一が上に来たところでレイジングハートで殴りつけて一の目を出すと、駒は黄色マスに移動し、其処から門前の黄色マスにワープし、そのまま駒は門に吸い込まれたのだが、その瞬間に周囲の景色が一変した。
悪魔界の様だった神体の内部から、闘技場を思わせる景色となり、其処には騎士型の人造悪魔が無数に存在していた。


「ダイスゲームをクリアし、そしてクリア後に敵を倒す事で次の階層に進めると言う事か……そうであるのならば逆にやりやすい――現れた敵を全て倒せば最終的には先に進む事が出来るのだからな。」

「ですが、この程度の戦力で私となのはさんを止める事が出来ると思ったのであったら、其れは些か私となのはさんを侮っていたと言わざるを得ませんね。」


騎士型の人造悪魔はワイスマンとスカリエッティが作り出した人造悪魔の中では最高傑作であり、其の力は悪魔界に存在している中級~上級の悪魔に匹敵しているのだが、なのはとクローゼにとっては大した相手ではなく、なのはの直射魔法砲撃とクローゼが神体に取り込まれた事で新たに会得した全体攻撃魔法『アルテマ』で纏めて撃滅!
そして第二階層へとやって来たのだが、此処でもなのはがダイスを自在に操って回復した後にショートカットを使って駒を門に送り、今度はマルガ鉱山付近を模した荒野で、『炎獄の魔王』と恐れられている『ベリアル』との戦闘になった。
とは言え、此のベリアルは神体内部に再現された存在であり、本物と比べると可成り力が劣っているのでなのはとクローゼの敵ではなく、クローゼの水属性の最上級アーツで炎の鎧を剝がされたところになのはがディバインバスターをブチかましてターンエンド――と同時に巨大なグリーンオーブとホワイトオーブが現れたので、其れで体力と魔力を回復して第三階層へと向かい、体力と魔力は充分だったので、五の目を出して駒を黄色マスに進めてワープさせると其処から一マスだけ進めて門に到達させると、今度は周囲を森に囲まれた平原に出され、其処に現れたのは『森の女王』たる悪魔の『エキドナ』だった。
エキドナはキメラシードと呼ばれる寄生型の悪魔を生み出しながらも自身を竜の姿に変えて攻撃してくる難敵だが、エキドナ自身は『植物の悪魔』であるので炎にはめっぽう弱く、クローゼが放った最上級の炎属性のアーツで焼かれた後に、なのはが周囲に展開した『アクセルシューター・ファランクスシフト』によって全身を貫かれてハチの巣になって消滅したのだった。
続く第四階層は最初の黄色マスがスタートから七マス目にある上に、その間の六マスは全て赤か紫のマスだったのだが、なのはは五番目の赤いマスに駒を進めると、現れたのは黒い霧上の瘴気で身体を包んだ『メフィスト』と其の上位種である『ファウスト』と言う悪魔だった。
瘴気に包まれている間はあらゆる攻撃を受け付けないが、その瘴気は攻撃する事で剥がす事が可能で、メフィストとファウストが現れた瞬間にクローゼが指を鳴らすと、空間の上部から無数の魔力の剣が降り注いでその瘴気を強引に引き剥がした――『シルバーソーン』と言うアーツをクローゼがアレンジしたオリジナルアーツだが、その威力はオリジナルのシルバーソーンを遥かに上回っていた。
瘴気を剥がされたメフィストとファウストは悪魔界でも力の弱い蟲になり果てるため、瘴気が回復するまで逃げ回るだけの存在となるのだが、其れはなのはもクローゼも許さず、なのははアクセルシューターの鬼弾幕、クローゼはこれまた神体に取り込まれた事で会得した新たな氷属性魔法『ダイヤモンドダスト』を使ってメフィストとファウストを滅殺!
其れから駒を一マスだけ進めて黄色マスに到達させると駒は門へとワープし、今度はゼニス王立学園が舞台となり、現れたのは巨大なカエルのような悪魔であるバエルかダゴン……身体の色的にはバエルだろう。


「カエルか……お前と出会う前には生きるために食った事もあるが、こうもデカいと流石にアレだな?」

「食べた事あるんですかなのはさん……因みにどんな味だったかうかがっても?」

「見た目からは想像出来ないかもしれないが、食感と味だけならば鶏肉だ。調理して出されたら言われないと分からんぞアレは……尤も、コイツを食う気にはならないがな!」

「其れは同感ですね。」


外見があまりにもアレなので少しばかり引いたが、クローゼがバエルの弱点である炎属性のアーツを放って怯ませると、更に其処に炎属性の禁術魔法と言われている『七星魔炎葬(ナパーム・デス)』を叩き込んで燃やす――なのはは兎も角として、クローゼは神体に取り込まれた結果、ヴィヴィオの魔力を受け、更になのはからは直接その魔力を受けた事で超強化されているようである。


「此れで終わりだ。」


トドメはなのはがレイジングハートビットを展開してのフルバースト!
これによりバエルは粉々になり、やって来たのは最上層である第五層。
此処のダイスゲームは青マスと黄色マスのみで構成されており、逆に言えばこの第五層の門の先に居るのは此れまでとは比べ物にならない強敵と言う事になるのだろうが、なのはは先ず回復マスに駒を進めて体力と魔力を充分な状態にすると、其処から黄色マスに駒を進めて門までワープさせ、今度は景色がグランセル城の空中庭園に変わる。
だが其処に敵の姿はない。
なのはもクローゼも敵の姿を探すが、どこにも見当たらなかった――だがしかし、次の瞬間に庭園に影が射した。
そしてその陰の正体はグランセル城の一番高い部分に現れた黒騎士『ネロ・アンジェロ』であり、ネロ・アンジェロは空中庭園に降りて来ると、巨大な剣でなのはとクローゼに斬りかかって来た。
ネロ・アンジェロは魔帝の手駒と化していた頃のバージルなのだが、その剣技は『伝説の魔剣士』であるスパーダの剣技を自分流に磨いて昇華させたモノなので非常に強力であり、ダンテであっても一筋縄では行かない相手なのだが、其れはあくまでもネロ・アンジェロが本物であった場合ならばだ。
決して弱い相手ではないが、『再現された』程度では本物には遠く及ばず、なのはとクローゼの付かず離れずの攻撃には其の剣技も真価を発揮出来ず、遂にはなのはのバインドによって動きを封じられてしまった。


「刀奈さんの氷の波動拳と、ヴィシュヌさんの炎の波動拳がぶつかった時に凄まじい対消滅反応を起こしたのを見て、其れをアーツで再現する事が出来ないかと思っていたのですが、神体に取り込まれて魔力が大きくなった事で其れがやっと出来るようになりました。
 右手に絶対零度の魔力を、左手にマグマの魔力を……其れを合成!
 遥か昔に此の合成魔法を編み出した大魔導士が存在していたと言う事は本で読んだ事があります……そしてその大魔導士は、その合成魔法をこう名付けたそうです――究極の対消滅魔法『メドローア』と!」


其処にクローゼが同じ威力で炎属性と氷属性の魔力を合成して生み出された対消滅の魔力を放ってネロ・アンジェロを完全に消し去る――歴史にその名を残す大魔導士が編み出した究極魔法を会得してしまったクローゼは凄まじいと言えるのだが、此れもまた神体に取り込まれたから出来た事だ。
ワイスマンとスカリエッティは己の目的を達成するためになのはとクローゼを神体に取り込んだのだが、その二人が目を覚ました際には強烈な強化をしてしまうアシストをしてしまったようである。


「氷と炎の対消滅でこの威力とは……光と闇の対消滅ならば、果たしてどれほどの破壊力が生まれるのだろうな?」

「その答え、ある意味ではなのはさんのスターライト・ブレイカーではないのでしょうか?」

「魔族の父と神族の母から生まれた私は存在そのものが対消滅の力を宿していると言う事か……私となたねは存在自体が奇跡なのかもしれないな。」

「そうであるのかもしれません。其れは兎も角、此れでダイスゲームは全てクリアした訳ですが、次は何処に行くのでしょう?」

「知らん。
 だが、どこに行ったとて私達のやる事は変わらないだろうクローゼ?ヴィヴィオを取り戻して外道達を討つ……其れだけだ。」

「なのはさん……そうですね。」


神体内部に戻ってきたなのはとクローゼは、最終層の階段を上ると門に張られていた幕を切り裂いてその先に進み――


「「ヴィヴィオ……!!」」


進んだ先の空間は、悪魔界其の物の景色だったが、其処にはヴィヴィオが『生体培養ポッド』のような器官に囚われて神体の一部となって存在していたのであった――










 To Be Continued 







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