なのはとクローゼが目覚め、神体の内部を進み、ヴィヴィオが居る場所まで到達したころ、神体は変化が起こっていた。
『黒いエクゾディア』だった見た目は、無機質な白い外見――なのはとクローゼが取り込まれる前の姿に戻っていたのだ……なのはとクローゼが覚醒した事で魔力を吸い上げる事が出来なくなり、覚醒前に吸い上げた魔力のストックも無くなった事で神体は大きく弱体化したのだった。
其れでもその巨体は存在其の物が凶器であるのだが、其れはあくまでも相手が並であればの話だ。


「姿が変わりましたか……そして、力も弱くなったようですね?
 まぁ、クローゼの最強精霊であるエクゾディアを模す事自体がそもそもにして烏滸がましい事この上ない訳ですが……此のまま外と中から破壊しましょうそうしましょう。」

「徹底的にぶっ壊すってか?その提案には乗らせて貰うぜなたね!」

「貴方ならそう言ってくれると思っていましたよネロ。
 時に大丈夫なんですか其の右腕?雷のエネルギーを纏っているのは良いのですが、精密機械に過度な電流は致命傷ではないかと思うのですが?」

「普通はそうなんだろうけど、遊星と遊里が作ってくれた腕はその限りじゃねぇんだ此れが。
 サンダーボルトのカードが組み込まれてたから、耐電性は相当に高く作ってあるんだろうよ……まぁ、そのおかげでグリフィンから得た力も120%使う事が出来る訳だが、ぶっちゃけ前の腕よりも調子いいぜ。」


巨体であると言う事は其れだけ頑丈であると同時にタダの拳打や蹴りでも全てが超必殺技になるのだが、逆に大きい事は其れだけ被弾面積が大きいと言う事であり、相手が小さい場合には動き回られると大幅に不利になるモノだ。
ロレントの精鋭達と、ベルカからの援軍は神体に攻撃を加えて其の侵攻を完全に喰い止めていた――が、侵攻を喰い止める事は出来ても決定的なダメージを与えるには至っていなかった。
ドレだけ攻撃しても神体がダメージを負った様子はマッタクなかったのだ。


「ドンだけ頑丈なのよコイツ……でも絶対にぶっ壊す!喰らえ、爆裂金剛撃!!」


そんな中でエステルが神体のクリスタル状の部分を力任せにぶっ叩き、其のクリスタル状の部分には罅が入ったのだが、其処に罅が入った其の瞬間に神体がグラついた。
実はこのクリスタル状の部分は神体のエネルギーを増幅している部分であると同時に、其処を破壊されるとエネルギーの増幅が出来なくなってしまうと言う弱点でもあった――エクゾディアの姿だった時には隠されていた弱点がエクゾディアでなくなった事であらわになり、偶然ではあるがエステルは弱点を突いたのだった。


「弱点は其処か……攻撃する場所が分かれば、此れほど簡単な事はない……一気に焼き尽くしてやる!喰らえ……炎殺黒龍波!!」

「見せてやるぜ草薙流の真髄!おぉぉ……燃え尽きろぉぉぉぉぉ!!」


そして弱点が分かってしまえば其処を集中攻撃するだけであり、ロレント防衛部隊は神体へのダメージも与える事が出来るようになったのだった――とは言ってもクリスタル状の部分は神体の身体に相当数存在しているので全て破壊するには時間がかかるかもしれないが。
其れでも、弱点が分かった事はこの戦いに於いて大きな事だっただろう。











黒き星と白き翼 Chapter87
『最終ダンジョンでの戦い~目覚める聖王~』










一方で神体の内部。
なのはとクローゼはヴィヴィオが囚われている場所までやって来ていた――ヴィヴィオは『有機培養ポッド』のような器官に囚われており、其れを破壊すればヴィヴィオを奪還する事が出来るのだが……


「そう簡単にヴィヴィオを助け出させてはくれんか……まぁ、予想はしてたがな。」

「今また私達の前に立ち塞がりますか、ゲオルグ・ワイスマン、ジェイル・スカリエッティ!!」


其処には帰天したワイスマンとスカリエッティがやって来ていた。
フィリップとは違い、帰天しても容姿が変わっていないのは其れだけより高いレベルでの帰天を行った証であり、その証拠にワイスマンとスカリエッティは上級悪魔に匹敵する闇の瘴気を纏っていたのだ。


「よもや君達が目を覚ますとは……少々君達を見くびっていたようだ――だが、そうであるのならばまた君達の意識を奪って神体の一部にすれば良いだけの事だ。」

「更にこの神体内部では私達の力は十倍となる……君達でも勝つのは難しいのではないかな?」


ワイスマンもスカリエッティも己の力に絶対の自信があるのか、なのはとクローゼを煽ってくるが、なのはもクローゼも其の挑発に乗る事はなかった。


「其の言葉そっくりそのまま返すぞ。
 此の悪趣味な木偶人形に取り込まれた事で私もクローゼも取り込まれる前よりも力を増す事が出来た――間抜けな事に、お前達は最強の神体を作りながらも私達を強化してしまったのさ。」

「私達に勝つ事は出来ませんよ……貴方達には地獄への片道切符をプレゼントします。」


なのはもクローゼも神体に取り込まれた事で逆に覚醒後は其の力を増しており、特にクローゼは全属性のアーツを詠唱なしで使えるようになっているだけでなく遥か昔の大魔導士が編み出した最強の『対消滅魔法』まで使えるようになっているので、帰天したワイスマンもスカリエッティも脅威の存在ではないのである。


「さて、最終決戦と行こうか!」

「小癪な……捻り潰してやろう!!」


其処から戦闘開始だ。
ワイスマンとスカリエッティは宙に浮いており、なのはも飛行魔法で其れに付いて行ったのだが、クローゼも取り込まれた事による強化で飛行魔法を会得していたので飛行魔法で空中戦に参加していた。

ワイスマンとスカリエッティは小型のビットを展開し、そして自分の周囲にバリアを張って攻撃をシャットアウトしていたのだが、其のバリアはビットを沈黙させれば直接攻撃で破壊する事が可能だったので、先ずはなのはが逃げ場がない位のアクセルシューターを展開してからの一斉掃射でビットを沈黙させ、追撃にクローゼが時属性と幻属性と空属性を合わせたオリジナルアーツ『ブラックホールクラスター』でバリアを破壊する。

そしてバリアが破壊されてしまえば攻撃し放題だ。


「ハイペリオン……スマッシャー!!」

「火属性と地属性を融合……スーパーノヴァ!!」


バリアがなくなったワイスマンとスカリエッティに容赦ない攻撃を加えて果敢に攻め立て一気に戦局を自分達の方に持ってくる。
当然ワイスマンとスカリエッティもただやられはしないで再びバリアを張って仕切り直しを図ったのだが、既にバリアの攻略法が割れている以上は其のバリアは意味を成さず、あっと言う間に破壊され――そして今度はなのはのバインドによって拘束されてしまったのだった。
そして拘束が済むと、なのはは魔力を収束し、クローゼは右手に炎属性の最上級アーツを、左手に氷属性の最上級アーツを宿して其れを合成する。
なのはが独学で編み出した不敗の奥義『スターライトブレイカー』と、クローゼが過去に読んだ文献から再現した対消滅魔法『メドローア』――当たれば一撃必殺の究極魔法攻撃であり、特にメドローアは当たった部分は再生不可能なまでに『消滅』してしまうのだから真面に喰らう事は即ち『死』を意味している。

だが、そんな絶体絶命の状況であってもワイスマンとスカリエッティは焦りはなかった。


「此れは此れは凄まじいモノだね?其れを喰らったら帰天しているとは言っても生存は絶望的だろうが……果たしてそれを放つ事が出来るかな?」

「私とクローゼが今更貴様らのような下衆を葬るのを躊躇うとでも思って居るのか?」

「そんな事は思っていないが、此れを見ても同じ事が言えるかな?」

「何を……ヴィヴィオ!?」

「貴様等……!」


そう、其れはヴィヴィオはまだワイスマンとスカリエッティの手の内にあったからだ。
ヴィヴィオが入っている『有機培養ポッド』のような場所に向かって魔力の剣が無数にセットされていたのだ――ワイスマンかスカリエッティの何方かが攻撃指示を出せば無数の剣はヴィヴィオを貫くだろう。


「攻撃を中断して抵抗を止めたまえ。彼女がこちら側にある以上、君達に最初から勝機などなかったのだよ……さぁ、もう一度神体の一部となってもらうとしようか?尤も、今度は目を覚ます事が無いように、少しばかり痛めつけてあげた方が良いだろうがね。」

「ククク……少しでも抵抗すれば彼女を殺す。なに、すぐに終わるさ。」

「「…………」」


ヴィヴィオを人質に取らてしまったらなのはもクローゼも攻撃を中断する以外の選択肢はなく、なのはは魔力の集束を止め、クローゼも合成した魔力を放たずに霧散させた。
そして次の瞬間、なのはとクローゼにはワイスマンとスカリエッティが放った『悪魔の技』が襲い掛かった。
火球『メテオ』、雷撃『ライトニングボルト』、氷弾『フリッカー』、嵐撃『テンペスト』……全てが上級悪魔が使う攻撃であり、その攻撃は容赦なくなのはとクローゼの身体にダメージを与えて行く。
なのはが自らの魔力で構成している防護服の防御力は相当に高く、クローゼもなのはからプレゼントされたバリアアイテムがあるので相当に強い攻撃でも耐える事は出来るのだが、其れでも連続で強力な攻撃を矢継ぎ早に喰らってはその限りではない。


「ガハッ……て、抵抗出来ない相手を一方的にいたぶると言うのは大層気分が良かろうな……下衆が好みそうな事だ。」

「女性にこのような事が平気で出来るとは……絶対にもてませんね彼等は。」


だが、なのはとクローゼはダメージを受けながらも屈する事はなく、ワイスマンとスカリエッティを挑発するように言うと不敵な笑みを浮かべて見せる――リベールの王として、そしてその王妃として、何よりもヴィヴィオの母親として絶対に屈しないとの不屈の意志の強さがその瞳には宿っていた。


「未だ吠えるか……」

「気に入らんな流石に。」


しかし、ワイスマンとスカリエッティにとってそれはとても面白くない事だった。
泣き叫び、命乞いをしてくれれば満足できたのだろうが、なのはとクローゼは屈せず、その瞳からは闘気も消えていない……少し痛めつけてやれば屈するだろうとの考えは見事なまでに裏切られたのだ。
王と王妃と言う立場であっても、なのはとクローゼは自ら戦場に出て戦う者であり『温室育ちの女性』ではなく、『戦う爪牙を備えた雌獅子』だったのである。
其れでもなのはとクローゼを屈服させるべく、ワイスマンとスカリエッティは更なる攻撃を加えて行く……その攻撃を喰らいながらもなのはとクローゼは悲鳴一つ上げては居なかったのだが。

そして、その不屈の闘志と闘気が奇跡を起こした。


「……此処は?……なのはママ?クローゼママ?」


『有機培養ポッド』のような器官に囚われていたヴィヴィオが目を覚ましたのだ。
ヴィヴィオは今自分がどんな状況にあるのかは分からなかったが、目を覚ましてすぐに目に飛び込んで来た光景に目を見開いた――目の前でなのはとクローゼが痛めつけられていたのだ。
其れを見ると同時にヴィヴィオの中で怒りのゲージが限界を突破して『怒り爆発』となった。


「なのはママとクローゼママを……ママ達をイジメるなーーーー!!」



――バッガァァァァァァァァァァン!!



「なに!?」

「馬鹿な、目を覚ましただと!?」


爆発した怒りは闘気となって弾けて『有機培養ポッド』だけでなく、ヴィヴィオに向けられていた魔力の剣をも粉砕し、ヴィヴィオは虹色の魔力のオーラを纏って戦場に降り立ったのだった。


「此の変態博士、よくもママ達をイジメたな……絶対に許さない……もう謝っても絶対に許さないからなーーーー!!」


その魔力と闘気によってハニーブロンドの髪は逆立ち、サイドテールにした髪も刺々しくなる――神体の最終決戦の場に、古代ベルカの『聖王』が降臨し、ワイスマンとスカリエッティに精神年齢が幼いヴィヴィオだからこそ持つ事が出来た純粋な殺意を向けたのであった。


「此の土壇場で目覚めたか……流石は私達の娘と言ったところかな?」

「根性ならば私やなのはさんよりも上かもしれませんね。」

「其れは否定出来んな。」


そんなヴィヴィオを見て、なのはとクローゼは傷付いた身体を持ち上げてワイスマンとスカリエッティに向き合い直す――ヴィヴィオが目を覚ました以上は人質では無くなったのでもう大人しくしている理由は何処にもないのだ。
ヴィヴィオが目を覚ました事で、神体内部での最終決戦の第2ラウンドのゴングが打ち鳴らされたのであった。










 To Be Continued 







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