神体はリベール以外の各地を転々としながら自作自演の救済劇を行って、神体に対しての崇拝を集め、神体の『崇拝による強化』は着実に進められ、完成直後と比べると大きく其の力を増す事になっていた。


「神体の完成から僅か三日程だが、其れでも完成直後の倍の力を神体は有するに至った……崇拝され、神格化される事でこうも簡単に力を増す事が出来るとは、少しばかり人々の信仰心と言うモノを軽く見ていたようだ。」

「ククク……だがこれは我々にとっては嬉しい誤算だろうプロフェッサー?
 信仰心と崇拝によって神体は強化されたが、逆に言えば彼等にとって神体は正に神……万が一にもあり得ない事だが、リベールがこの神体を倒した場合は、リベールは彼等にとって『神を殺した逆族の国』となり、最悪の場合は攻め込まれる事になるだろうさ。
 いずれにしても、我々にとっては好都合でしかない訳だ。」

「マッタクだねドクター。
 しかし、なのは君とクローゼ君とヴィヴィオ君……この神体の力の源であり生体バッテリーとも言うべき彼女達は、果たして今どのような夢を見ているのだろうね?……まぁ、神体が健在である限りは彼女達にも死は訪れず、永遠に神体と共に生きる事が出来る訳だがね。
 尤も、百年も経てば彼女達もまた完全に神体の一部となるだろうが。」

「其の百年の間に、世界は我々によって作り変えられるのだけれどね。」


ある意味で神体は『人の心の力』によって強化されたとも言えるのだが、其の強化は例えば『大切な誰かを思って』、『仲間の為に』と言ったモノとは異なる『崇拝』と言う、すがる思いの力であり、他力本願とも言える思いの力で、実は非常に脆いモノだったりする。
崇拝や信仰による力は、其れが健在であるうちは絶大なモノがあるが、一度それが崩れてしまえば一気にその力を失ってしまうリスクもある――神体の強化も、崇拝や信仰によるところが大きいので其の御多分には漏れないだろう。
此れまでの救済劇が全て自作自演だと言う事が明らかになれば、一瞬で其の力は霧散してしまうのだが、ワイスマンとスカリエッティは自分達の自作自演である事が証明される事はないと考えているのか、神体が弱体化するなどとは微塵も思っていないようである。


「ドクター、次の国ではもっと派手にやってみては如何かな?確か戦車や戦闘機に複数の悪魔を融合したモノがあっただろう?アレに襲わせると言うのは中々に面白いとは思わないかね?」

「良いアイディアだプロフェッサー……アレを使えば多くの人々が死ぬだろうが、犠牲が多ければ逆に救済された時の安堵も大きくなり、神体を崇める気持ちも大きくなると言うモノだ。
 ククク……派手に行くとするかな次は。」


それどころか更なる神体の強化の為に、また碌でもない事を考えている始末……腐れ外道とは、正にこの二人の為にある言葉なのかもしれない。
ともあれ其の悪辣極まりない計画は即実行に移され、実に胸糞が悪くなる話ではあるが、神体は更にその力を増すのであった……










黒き星と白き翼 Chapter82
『王の象徴を奪還せよ~レイジングハート~』










ルガールの準備も整い、ルガールと鬼の子供達は『四輪の塔』の一つである『紅蓮の塔』にやって来ていた。
此の紅蓮の塔は、以前に小規模ではあるが悪魔界化していた事があり、其の時はダンテが閻魔刀で強引に悪魔界と人間界の繋がりを断ち切ったのだが、一度悪魔界と繋がった場所は、繋がりが断ち切られてもまた悪魔界と繋がる可能性が高くなる――要は、悪魔界と繋がり易くなってしまうのだ。

其れは本来は非常にありがたくない事なのだが、此れから悪魔界へ向かうとなれば話は別――寧ろ繋がってくれた方が都合が良いのである。
とは言っても何の切っ掛けもなしに悪魔界と繋がると言う事は中々ないのだが……


「右手にテレサ先生が手塩にかけて育てたハーブ、左手に魔界で育った魔草マンドラゴルア……この二つを握り潰した後に調合すれば、其処には小規模だがカオス空間が出来上がり、そのカオス空間は人間界と悪魔界を繋げる鍵となる!
 我が手の中に顕現せし混沌よ、悪魔界と人間界を繋げよ!!」


ルガールがハーブと魔草を調合して小規模な混沌を発生させ、そのカオスの力で強引に悪魔界と人間界を繋いで見せた――ルガールの準備とは、魔界から魔草を持ってくる事だったのだ。
だが、これにより可成り強引ではあるが紅蓮の塔の頂上が悪魔界と繋がり、ルガールと鬼の子供達は悪魔界へと進むのだった。


「此処が悪魔界?……紅蓮の塔の頂上を鏡写しにしたようにしか見えないけどな?」

「其れは此処がまだ悪魔界の入口に過ぎないからだよ一夏君。
 悪魔界の入り口は、繋がった場所を鏡写しにしたような景色となるのだ……そして、その鏡写しの景色にある扉、或いは階段を上るか降りるかした先にあるのが真の悪魔界と言う訳だよ。
 今回の場合は、頂上から下層へと降りる階段の先が悪魔界と言う事になるね。」


紅蓮の塔を鏡写しにした景色である悪魔界の入り口から階段を降りると景色は一変した。
其処は一夏達が良く知っている紅蓮の塔の内部ではなく、無機質な石の地面に生き物の筋肉や臓腑を思わせるモノが融合した不気味で異質な空間が広がっていた……此の異質な空間こそが悪魔界なのだ。


「不気味どころの騒ぎじゃないわねこれは……こんな場所に迷い込んだら、一般人は即発狂して廃人になってしまうんじゃないかしら?……それ以前に、悪魔界の瘴気で即死かしらね?」

「瘴気で死なずに廃人になり、そして瘴気に晒された事で人でなくなった存在と言うのはあり得そうな気がするね――だが、そうならない私達は、悪魔界の住人にとっては招かれざる客らしい。」


そして悪魔界に踏み入ると同時に大量の悪魔が一行に襲い掛かってきた。
其の悪魔は人間界では等身大の人形を依り代にしなければ存在する事も出来ない最下級の悪魔なのだが、それでも悪魔界ならば人間界よりも本来の力を発揮する事が出来る上に、徒党を組んで数の暴力で襲い掛かれば大抵の相手は制圧出来るだろう。

だが、今回襲い掛かった相手は魔王の一人であるルガールと、鬼に育てられた鬼の子供達と、相手が悪かったどころの話ではなかった。


「手厚い歓迎には謝意を示すところだが、生憎と強引な歓迎は私達の望むところではないのでお帰り願おうか?ジェノサイドカッター!!」

「雑魚はどいてろよ……電刃波動拳!!」


徒党を組んで数の暴力で襲い掛かったにもかかわらず、其れはあっと言う間に全滅するに至った――鎧袖一触とはまさにこの事であり、ルガールと鬼の子供達は襲い来る悪魔を難なく撃破して先に進んで行った。
無論彼等の実力が高いのは勿論だが、戦い方の巧さもあった。


「行くわよヴィシュヌ……氷結波動拳!!」

「了解です刀奈……灼熱波動拳!」


その中でも刀奈とヴィシュヌの合体技は凄まじい威力だった。
刀奈の絶対零度の氷結波動拳と、ヴィシュヌの鉄をも溶解させる灼熱波動拳をぶつける事で発生する『対消滅』の力は凄まじく、二つの波動拳の射線上にいた悪魔は当然として、対消滅が起きた場所にいた悪魔は跡形もなく――それこそ各種オーブに姿を変える事もなく完全に消滅してしまったのだから。


「スパーリングの時に偶々私の氷結波動拳とヴィシュヌの灼熱波動拳がぶつかったらとんでもない大爆発起こしたから、其れを技として昇華してみたのだけれど、ヤバいわねこれ。」

「完全に同じ威力にしなくてはならないとは言え、此れは破壊力だけならばなのはさんのブレイカーをも上回ると思います。」

「うむ、今のは実に素晴らしい技だな。私もぜひ習得したいモノだが……これほどの女性達が恋人とは、君は人生勝ち組だな一夏君?」

「恋人が五人も居るって言ったら千冬姉が真っ白になったけどな。」


一夏達は普通の人間であるが、『鬼』に育てられたと言う事で可成り人外の戦闘力を身に付けており、上級悪魔とも互角以上に戦う事が出来るのは、先のリベール革命の際に証明済みであり、だから下級悪魔程度では準備運動にすらならないのだ。
其のまま進んで行くと、氷を操り、氷の身体を持つ中級悪魔や、目が退化して音を頼りに手当たり次第に電撃を放って襲ってくる中級悪魔なども現れたが、氷の悪魔はヴィシュヌの炎の波動で瞬殺され、電撃を放つ悪魔は其の電撃を一夏に吸収され、逆に威力を底上げした雷の波動を喰らってショートした後に自爆と、なのはとクローゼがエサーガ国で人造悪魔相手に戦った時と同様、出て来る悪魔は出て来た瞬間に倒されてグリーンオーブやホワイトオーブと言う回復アイテムに姿を変えるだけの存在になり果てていたのだ。


『ギョワァァァァァァァァァァァァ!!!』

「ヤギの化け物か……邪魔だ、どけ。」


更に進んで行くと、ヤギの頭をした巨大な悪魔『ゴートリング』が現れたが、其れは夏姫が遊星が魔改造したガンブレード『ライオンハート』の弾丸を炸裂させる事で刀身をエネルギーで巨大化する『プラグディングゾーン』を使って一刀両断して見せた。
悪魔界は本来人が立ち入る事の出来ない場所であり、だからこそワイスマンとスカリエッティはレイジングハートを悪魔界に転送した訳なのだが、リベールには悪魔界に立ち入れる人間が思いの他多かったのが彼等の誤算と言えるだろう。


「一夏、一曲如何かな?」

「その誘いには乗らせてもらうぜロラン。」


岩の身体を持つ一つ目の蜘蛛の悪魔『サイクロプス』も一夏とロランが挟み撃ちにして無数の蹴りと拳で攻撃した後に、一夏が『真・昇龍拳』を、ロランが上昇式の『竜巻旋風脚』を叩き込む合体技『ラストシンフォニー』で岩の身体を砂に変えてしまった。
そうして、遂にレイジングハートが転送された場所にまで到達する事が出来た。


「レイジングハート……アレを取り戻せばなのはさんを覚醒させる事が出来るんだよな?」

「そうだが……そう簡単には行かないみたいだぞ兄さん。」


だが、其処にはルガールが予想した通りの番人が存在していた。


「ムワァ~ッハッハッハァ!こぉこまで辿り着くとぅわぁ……かぁなしいかな、悪魔程度ではきぃさま等を止める事はでぇきなかったようどぅあ。」


特徴的な喋り方と共に闇色のオーラがレイジングハートの前に集い、其れはやがて人の形を成してその存在を明らかにしていく――そうして現れたのは、サイコパワーを操る魔人『ベガ』だ。
赤い軍服の上着の裾はコートのように長くなり、髪は此れまでとは異なり白くなっている――が、その力は以前にルガールと戦た時よりも更に増しているようである。


「悪魔如きで私達を止める事が出来ると思っているのならば些か甘く見られたと言わざるを得ないが……己が作り出した人造悪魔を自らの手で倒すとは、なんともイカレタ出来レースではないかな?
 そんな出来レースの結果をもって『神』を名乗ろうなどとは……愚かにもほどがある。恥を知れと言わざるを得ない。」

「ムハハハハ……人とは、じぃつに愚かな存在よ。
 滅びの寸前にぃ、あぁらわれた救いの存在をぉ、ぜぇったい的に信じてしまうぅ……故にぃ、かぁみの存在を信じさせるのは、じぃつに容易であるのだ。」

「成程……だが、今はそんな事は如何でも良い。
 私達は、其処にある其れを返してもらえば何も文句はないのだがね?」

「レェイジングハァートだな?
 どぅあぁが、貴様等が此れを手に入れる事はでぇきぬぁい!なぁぜならぶぁ、此処に此のベェガ様が居るからどぅあ!!」


ルガールとベガは少し芝居がかった遣り取りをしながらも其の闘気は高まっていき、其の闘気に当てられた悪魔が狂暴化するほどのレベルだ――尤も、狂暴化したところで『鬼の子供達』の敵ではないのだが。


「嘗て私に二度敗れながらも、今こうしてまた挑んでくるとは、其のチャレンジャー精神は評価するに値するが、其れでも君では私を倒す事は出来ん。
 此の悪魔界が君の死に場所だ……魔人には相応しい死に場所に相応の墓標を建ててくれる!」

「その首ぃ、搔っ切る!」


レイジングハート奪還のラストステージは、魔王と魔人の三度目の激突と相成り、一夏達は狂暴化した悪魔を撃滅して行くのだった――そして、ルガールとベガの三度目の戦いは、ともすれば悪魔界に凄まじい影響を与える戦いになるのは間違いないだろう。
同時に此の戦いは、リベールの未来を左右する戦いでもあったのだった。










 To Be Continued 







補足説明