攫われたヴィヴィオを取り戻すべく指定場所までやって来たなのはとクローゼの前に現れたのは巨大な人型の何かと、その前で十字架に縛り付けられているヴィヴィオの姿だった。
其れはあからさまな挑発行為であり、なのはとクローゼも其れに乗る事は無かったのだが、其れでも愛娘が十字架に縛り付けられている光景には黙っている事は出来なかった。


「娘が十字架に縛り付けられていると言うのは見ていて気持ちのいいモノではないな……取り敢えず、その十字架から解放するか。」

「そうですね……ヴィヴィオが十字架に縛り付けられていると言うのは見るに堪えません。」


なのでなのはとクローゼはヴィヴィオを拘束している十字架を破壊せんと、ビットによる射撃魔砲と単体アーツを放ったのだが、其れは十字架に着弾する前に霧散してしまった……神魔であるなのはと、神族である先祖の血に覚醒したクローゼの強大な魔力がだ。


「此れは……魔力分解の障壁でも張られているのか?」

「如何やらその様ですね……ですが、其れだけの障壁は遠隔展開は難しい筈です――となれば其処に居ますね、ゲオルグ・ワイスマン、ジェイル・スカリエッティ!」

「ククク……私達に気付いていたか……慧眼だねクローゼ君。」


其れは魔力を霧散する障壁が張られていたからであり、そのレベルの障壁は遠隔展開出来ないと考えたクローゼは、ワイスマンとスカリエッティが近くに居ると考えて二人の名を呼ぶと、ヴィヴィオの後ろからワイスマンとスカリエッティが現れた――その顔には悪意タップリの笑みを浮かべてだ。


「逆に君は気付かなかったのかねなのは君?」

「まさか、気付いていない筈が無かろう。
 私は敢えて言わなかっただけだ……クローゼに指摘された貴様等がどんなドヤ顔を下げて現れるのかを拝みたかったのでな……既に勝った気でいる貴様等の下劣な笑顔は中々に見ものだったよ――そして其の笑顔が貴様等の死に顔だ。
 ヴィヴィオを餌に私とクローゼを誘き出した心算だろうが、其れは最大の悪手だったな?貴様等は今此処で私とクローゼに討たれる。其れでゲームセットだ。」

「ヴィヴィオを攫った事に対して、私はとても怒っています……その怒り、思い切りぶつけさせて貰います!」


なのははレイジングハートを、クローゼはレイピアをワイスマンとスカリエッティに向け、同時に魔力を解放してなのはは神魔モード、クローゼは神族モードとなり光と闇の魔力が逆巻く。
だが、其れを見てもワイスマンとスカリエッティは怯む事無く不敵な笑みを浮かべていたのだった。










黒き星と白き翼 Chapter80
『奪われた娘を奪還せよ~外道の真意~』










魔力を解放したなのはとクローゼの力は凄まじかったのだが、今回はヴィヴィオを攫われたという怒りの感情が上乗せされた事で、なのはは栗毛が銀色に、クローゼは菫色の髪が金色になると言う変化を起こしていた。


「此れは此れはなんとも凄まじいが……だが、我等とて君達の力は想定済みだ。
 だからこそ彼女を攫ったのだよ……此の『神体』のコアとすべくね!」


まさかの変化にワイスマンとスカリエッティは少しばかり驚くも、ワイスマンが指を鳴らすと巨大な石像から無数の触手が伸びて来てヴィヴィオに絡まり、そしてヴィヴィオをその内部に取り込んだ――と同時に石像の目が光って形が変わって行った。
簡易的な人型だったのが大きく変わって背中に翼が生えた女性の姿になっていた――其れは何処かなのはとクローゼを思わせる部分があり、石像に取り込まれたヴィヴィオの中での『最強』が表現されているのかも知れない。


「ヴィヴィオ!……ワイスマン、スカリエッティ……貴様等……!!」

「ククク、ヴィヴィオ君を取り戻したのならば、この神体を倒す以外に方法はない――だが、エクゾディアは使えんよ?エクゾディアの一撃ならば、神体だけでなく中に取り込まれたヴィヴィオ君まで吹き飛ばしてしまうだろうからね。」

「更に切り札封じですか……マッタクもって性格が最悪ですね。」

「まぁ、精々楽しんでくれ給えよ!」


ワイスマンとスカリエッティは言いたい事だけ言うと、神体内部に消え、そして次の瞬間には神体からの攻撃が始まった。
エクゾディアに匹敵する巨躯から放たれる拳は、其れだけで必殺の一撃であり、真面に喰らったら仮に受け身をとっても全身骨折は免れないだろう――故に真正面から遣り合うのは得策ではないのだが――


「ハイペリオン・スマッシャー!!」

「ラストディザスター!」


なのははディバインバスターの強化版直射砲『ハイペリオン・スマッシャー』で、クローゼは空属性の直線アーツ『ラストディザスター』を放って巨大な拳の威力を削ぐと、神体の周囲を高速で移動しながら空からは魔法、地上からはアーツで波状攻撃を仕掛ける。
起動した事で神体周辺からは『魔力分解の障壁』が消え、なのはとクローゼの攻撃も有効にはなっていたのだが、神体はその巨躯に見合う頑丈さを備えているらしく、決定打には至らない。
いや、決定打どころか表面に傷すらついていない状況なのである。


「見掛け倒しのデカブツではなく相応の頑丈さはあると言う事か……いや、ヴィヴィオを取り込みその魔力を吸収したのであればこの頑丈さも納得か……暴走したヴィヴィオは恐ろしいほどに頑丈だったからな。」

「ですがあまりにも強力な攻撃ではヴィヴィオもダメージを受けてしまう為使えない……さて、如何したモノでしょうか?」

「現状では完全に手詰まりだ。何とか頭を吹き飛ばして停止させた上でヴィヴィオを中から引っ張り出し、あの外道共に然るべき裁きを下すしかない……問題は如何やって頭を吹き飛ばして此のデカブツを止めるかだ。
 こんな事になるのであれば不動兄妹の誰かから『強制転移』のカードを借りてくればよかったな?其れがあれば半殺しにした人造悪魔と捕らわれたヴィヴィオを入れ替える事が出来たのだからな。」

「……今更かも知れませんがカード万能過ぎませんか?」

「それは私も思った……が、並の攻撃で通じないのであれば直接頭部にドデカイ一発をかましてやるのも良いかも知れん……クローゼ、露払いを頼めるか?」

「なのはさん、何か思いついたんですね?……分かりました、露払いはお任せください。」


此処でなのはは何かを思い付くと一気に魔力を高め、高められた魔力は『桜色の竜巻』の様に逆巻きドンドン強くなっていく。


「レイジングハート!」

『All right.Master.A.C.S.Standby.』

「直射砲が通じないと言うのであれば、私自身が砲撃になったら如何だろうな?
 此れは少しばかり自爆特攻に近いモノもあるが、此れで娘を助ける事が出来るのであれば此の身体がドレだけ傷付こうとも構いはしない……ママの覚悟を舐めるなよ外道共!!」

『Strike Frame.』

「エクセリオンバスター……ドライブイグニッション!」


やがてその魔力はなのはに集束して行き、そして一気に爆発して飛び出し、なのはは一筋の砲撃と……いや、砲撃を超えた『桜色の不死鳥』となって神体に向かって真っ直ぐに突撃して行く。
当然神体はなのはの突撃を阻止せんと拳をふるうが、その拳はクローゼが的確にアーツでカウンターしてなのはには触れさせないようにしていた。
いよいよ頭部まで迫って来たなのはを、神体は両手でガードしようとするも、そのガードはクローゼが幻属性の最強アーツ『アヴァロンゲート』で強引に抉じ開け、なのはは神体の頭部にレイジングハートが展開したストライクフレームの真紅の切っ先を突き刺す。


「ブレイクゥゥゥ……シュゥゥゥト!!」


そして其処から放たれたのはゼロ距離での極大直射砲撃!
なのはの直射魔法は遠距離からでも必殺なのだが、其れが密着状態のゼロ距離で放たれたら其れは間違いなく一撃必殺であり、魔族や神族であっても塵すら残らず消滅するだろう。

砲撃と同時に凄まじい爆発が起こり、なのはもその爆炎に飲まれたのだが……


「マッタクもって呆れた頑丈さだ……ゼロ距離砲撃でも僅かに表面を削っただけとはな。」

「寧ろ攻撃したなのはさんの方がダメージ大きそうですね……防護服がボロボロです。」

「此の程度は魔力で幾らでも再構築出来るから問題ないが……しかしこれでも決定的なダメージにならないとなると流石に参ったな?……現状此れ以上の策が思い付かん。」


此の攻撃も神体の頭部を僅かに傷付けただけに終わってしまい、なのはは心底困ったと言った感じだ。


「クククク……この神体の力、堪能していただけたかななのは君、クローゼ君?この神体を倒す事が出来るのはクローゼ君のエクゾディアしか存在しないが、エクゾディアではヴィヴィオ君も死なせてしまうから使えない……ヴィヴィオ君が我々の手に落ちた時点で君達は詰んでいたのだよ。」

「全ては我々のシナリオ通りだったと言う訳さ。」


しかし此処で身体の中からワイスマンとスカリエッティが出て来た。
その顔は勝利を確信したモノだったのだが、二人が出てきた瞬間になのはは高速飛行でクローゼは風属性のアーツで自身を弾く形で一気に間合いを詰め、なのははレイジングハートをワイスマンの胸に突き立て、クローゼはスカリエッティの背後からレイピアで胸を貫いた。


「勝利を確信して慢心したか間抜けが。」

「神体は無敵でも、貴方達はそうではありませんよね?」


そう、此れまでの全てはなのはとクローゼの演技だったのだ。
ワイスマンとスカリエッティが神体内部に入って行ったのを見た瞬間に、なのはもクローゼも『神体をコントロールしているのはワイスマンとスカリエッティ』と言う事に気付いており、其の二人を神体内部から引き出す為に劣勢を演じた上で究極の切り札も通じなかったと言う状況に持って行って、ワイスマンとスカリエッティが勝ち誇って神体内部から出て来る状況を作り上げたのだ。
正にこの一点に勝機を集約した作戦は見事に決まり、胸を貫かれたワイスマンとスカリエッティは其のまま崩れ落ち――



――ギュルリ……!



「「!?」」


たのだが、其れと同時に神体から触手が伸びて来てなのはとクローゼを拘束した――そして其の拘束力はとても強く、神魔であるなのはであっても拘束を解く事は出来なかったのだ。


「いやはや、狙いは悪くなかったが残念だったね?私もドクターも既に帰天しているので胸を貫かれた程度では死なないのだよ……だが、此れで我々の目的は達成できる。」


なんとワイスマンとスカリエッティは帰天によって悪魔の力を有していたのだ。
なのはとクローゼの狙いは悪くなかったのだが、ワイスマンとスカリエッティが帰天していた事で其れは必殺にはならずに逆に神体に二人を拘束させる結果になってしまったようである。


「聖王の血と、アウスレーゼの血と、不破と高町の血を取り込む事でこの神体は完成する……君達は新たなる世界への礎になるのだよ。」


触手に拘束されたなのはとクローゼは徐々に身体へと取り込まれて行く――身動きが取れないのでは抵抗も出来ないので、なのはもクローゼも胸の辺りまで神体に埋まってしまった。


「ワイスマン!スカリエッティ!!」

「「!!」」


絶体絶命の状況だが、此処でワイスマンとスカリエッティを何かが一閃した。
其れはエサーガ国の聖騎士である『アルテナ・ウィクトーリア』――ワイスマンとスカリエッティに操られ、大量のクローンを作られた彼女ではあるが、先の戦争後に洗脳が解け、改めてワイスマンとスカリエッティを討つ為にやって来たのだ。
その一撃は喉を切り裂き胸を貫いたのだが、帰天した二人には其れは致命傷にならず――


「記憶が戻ったか……操り人形のままでいれば楽だったモノを……」

「君はもう死んで良いよ。」

「ガッ……」


逆に神体の指でアルテナの腹を貫く……其れは間違いなく致命傷であり、アルテナは其の場から崩れ落ちそうになったが、すんでで青い影がアルテナの身を落下から救い出した。


「随分とスゲェデカブツだなオイ?」

「そしてピンチそうですね姉さん。」


その正体はネロだ。
そして少し遅れてなたねも其の姿を現した――なのはとクローゼの二名のみでとの事だったが、なたねとネロはシグナムを通してベルカの『湖の騎士』に『場合によっては転移を頼む』と頼み込んでおり、今こうしてこの場にやって来たのだ。


「なたねにネロか……情けない事にネタ切れだ……だが、このままでは終わらん――次のネタが思い付くまでの間、リベールを頼んでも良いか?」

「はい、お任せください。」


だがしかし、既に首まで神体に埋まっているなのはとクローゼを助ける術はないので、なのははなたねに託すと、クローゼと共に神体に取り込まれ、そして次の瞬間には神体が輝き、その輝きが治まると其処には『背に六枚の翼を持つ黒いエクゾディア』の姿があった。
聖王の血、アウスレーゼの血、不破と高町の血、その全てを取り込んでワイスマンとスカリエッティの神体は、此処に完成したのだった。










 To Be Continued 







補足説明