リベール王国とエサーガ王国の戦争は、エサーガ国が兵を退いた事でリベールの勝利となったのだが、其れは表面上の事で、リベールはなのはとクローゼの娘であるヴィヴィオを奪われると言う、『戦争に勝って勝負に負けた』とも言うべき状態となっていた。


「リベール側の人的損害はゼロ……此れは喜ぶべき事なのだが、ヴィヴィオが奪われてしまった状況では手放しで喜ぶ事は出来んな――戦局を此方に持って来る為にはヴィヴィオの力が必要だったのだが、戦場に連れて来たのは間違いだったかも知れん。」

「果たしてそうでしょうか?
 仮にヴィヴィオをグランセル城に残して来たとしても、その場合はグランセル城に直接やって来てヴィヴィオを攫って行ったのではないではないかと思いますよなのはさん。……詰まるところ、ドクターと教授は最初からヴィヴィオが狙いだったんだと思います。」

「クローゼ……確かにその可能性は否定出来んな。」


それ故にエサーガ国を退けた満足感はなく、ヴィヴィオを奪われてしまった悔しさの方が大きかった。
そしてクローゼが言った事は恐らくは正解と見て良いだろう――なのはとクローゼを確実に誘き出す為の餌として先ずはヴィヴィオを確保する、其れこそがワイスマンとスカリエッティの真の狙いであったと、そう思えるのだから。


「ですが陛下如何なさるおつもりですか?王女殿下が攫われたのは略間違いなく陛下と王妃殿下を誘い出す為の罠だと思うのですが……」

「だとしても娘が人質にされている以上は無視は出来んだろうユリアよ……私とクローゼで、その罠を吹き飛ばしてヴィヴィオを連れ戻す。其れ以外の選択肢は最早存在していないからな。」

「ですが……!」

「大丈夫ですよユリアさん。いざとなったらエクゾディアを召喚すれば事足りますから。」


ヴィヴィオの身柄が向こうにある以上は、向こうの要求に従うしかないのが、其れでもなのはとクローゼに不安はなかった。
神魔のなのはと、先祖返りで神族の血が覚醒したクローゼの魔力は無尽蔵である上に最強クラスであり、なのはの直射砲と集束砲、クローゼの最上級アーツは一撃で都市を壊滅させる事が可能な程の破壊力を有している上に、クローゼには最強無敵の精霊である『エクゾディア』があるので、普通に戦えば先ず負ける事はないのだ――仮にエクゾディアの攻撃で倒し切れなかった場合でも、エクゾディアの魔力の残滓を吸収したなのはがエクゾディア以上の一撃をブチかますので問題ないのである。


「と言う訳で少しばかり留守にするが……私とクローゼが留守の間、リベールを任せたぞユリア、リシャール。」

「はい、お任せを!」

「陛下に武運があらん事を。」


こうしてなのはとクローゼは指定された場所に向けてリベールを発ったのだった。
王と王妃が不在と言うのは些か不安があるが、其処は王室親衛隊と王国軍がキッチリ仕事をしてくれるだろうし、今やリベールに定住状態となっているルガールだけでなく悪魔将軍とアーナスもなのはとクローゼが戻ってくるまではリベールに残ってくれるとの事なので、国防面に関しては問題はないだろう。










黒き星と白き翼 Chapter79
『奪われた聖王~誘き出された神魔と聖女~』










リベールを発ったなのははクローゼをお姫様抱っこした状態で目的地に向かっていた――クローゼは未だ飛行魔法は使えないのだが、『なのはとクローゼだけで来い』と言われた以上、クローゼがアシェルに乗って移動するのもNGだと思って此の移動になったのだ。
そして十五分程でエサーガ国の領空内に入ったのだが、其処で待ち受けていたのはトワイライトロードの兵と、空戦型の人造悪魔だった。
クローゼをお姫様抱っこしている状態では可成りのハンデになるのだが――


「此の程度で私達を止められると思っているのか?だとしたら私達を舐め過ぎだ。」


なのはは右腕のみでクローゼを抱え直すと、クローゼもなのはの首に腕を回して落ちないようにし、迫りくる敵に対してなのはは遊星が新たにレイジングハートに搭載してくれたビット十二機を展開して多角的攻撃とアクセルシューターによる三次元攻撃、一撃必殺の直射砲を駆使して戦い――


「清廉なる水の力、今此処に集いて不浄を清めん。全てを押し流せ!アラウンドノア!」


クローゼは最上級アーツを使って敵を一気に鎧袖一触!
王妃と聞くと守られるお姫様を連想しがちだが、クローゼは守られるだけのお姫様ではなく、自らも戦場に出て戦う姫騎士なのだ――なのはの手でグランセル城から連れ出されたあの日から、クローゼは己が戦場に出る事は厭わなくなったのだ。

そんな感じで防空部隊を全て蹴散らして指定の場所に降り立ったなのはとクローゼだったのだが、降り立った其の場所には一切の人の気配がなかった――多数の民家が存在しているので、人が暮らしていた事は間違いないのだろうが。


「人の気配がありませんね……」

「あぁ……だが、化け物の気配はあるみたいだがな。」

『『『『『『『『『『ガァァァァァァァァァァァァァァ!』』』』』』』』』』


其処で襲い掛かって来たのは犬型の人造悪魔と爬虫類型の空を飛ぶ人造悪魔。
空を飛んでいる方は身体を剣に変えて突撃し、当たれば大ダメージだろうが、此の程度の攻撃はなのはとクローゼには通じず、なのははレイジングハートのビットから十二方向に向けてビーム上の魔力砲を放って迎撃し、クローゼは空属性の最上級アーツ『テンペストフォール』で迎撃し、人造悪魔は体力回復のグリーンオーブと魔力回復のホワイトオーブへと其の姿を変えたのだった。


「人造悪魔か……其れが平然と跋扈していると言う事はこの街は既に人が住んでいないロストタウンと言う事か……或は人造悪魔の性能を試す為にロストタウンにさせられてしまったのか……何れにしても人が住める場所ではないのは間違いないな。」

「もしも後者だとしたら、教授とドクターは一体何を成さんとしているのでしょう?私には彼等の最終的な目的が全く想像出来ません。」

「奴等のような人間の最終目的など想像出来る奴の方が少ないだろうな。
 だが此れだけは確実に言える……アイツ等は此れまで私が出会って来た如何なる外道や悪党を遥かに凌駕する存在であるとな……だからこそ必ずやヴィヴィオをこの手に取り戻さねばならん。
 私達を誘き出す餌だとして、奴らがヴィヴィオをそれだけで終わらせるとは思えんのでな。」

「そうですね……ヴィヴィオのママとして、絶対に助けないとですね。」


其のまま廃墟と化した街を進んで行ったなのはとクローゼは襲い来る人造悪魔をモノともせずに蹴散らして行き、暫く進んだ所で小高い丘の上に一際目立つ大聖堂の様な建物を見付けた。
その建物は御丁寧にこれ見よがしに巨大な魔力を放出しており、暗に『ヴィヴィオは此処にいる』と知らせて来ていた――となればなのはもクローゼも当然その建物に向かうのだが、その道中には此れまでよりも強力な人造悪魔が現れた。
地中を進む剣の様な背ビレを持つ人造悪魔なのだが、なのはは地中から現れた其れを強引に掴むと、其れをブーメランのように投げ付けて他の悪魔を切り裂き、其処にクローゼがアークプロミネンスを叩き込んで人造悪魔を焼き魚にして見せた。
此れだけの戦闘を行っていながらも、人造悪魔が倒された際に現れるグリーンオーブとホワイトオーブによって体力も魔力も充実している上に、極稀に現れる体力の上限を上げるブルーオーブと魔力の上限を上げるパープルオーブも手に入れていたので、現在のなのはとクローゼはリベールを発った時よりも3割増しで強くなっていた。
そしていよいよ大聖堂に到着……と言うところで最後の門番とも言うべき人造悪魔が現れたのだが――


「なのはさん、なんですか此れ?」

「悪魔……なのか?そもそも生き物なのか此れは?」

『あwせdrftgyふじこlp;@』


其れはなんとも形容しがたいモノだった。
ゲル状の身体には人間の髑髏を思わせるモノが浮いており、一応はなのはとクローゼを敵として認識しているらしく襲ってくるのだが、動きは緩慢で大凡其の攻撃は届く事はないのだが、ゲル状の攻撃は物理攻撃も魔法攻撃も吸収してしまうと言う何とも厄介な存在だったのだ。


「エクゾディアで吹き飛ばす事は出来るでしょうが、アレにエクゾディアを使いたくはないのですが……」

「私もアレにブレイカーを使う気にはなれんが、倒さねば先に進む事は出来ん……だが、身体がゲル状で一切の攻撃が効かないのであれば、攻撃が効くようにしてしまえば良いだけの話だとは思わないかクローゼ?」

「なのはさん?……其れは、確かにその通りですね。」


だがなのはの意図を読み取ったクローゼは『コキュートス』を使ってゲル状の相手を凍り付かせると、なのはがディバインバスター+ビット射撃で其れを粉砕!玉砕!!大喝采!!!してターンエンドして、なのはとクローゼは建物の中に。


「此れはまた何とも荘厳な造りだな?グランセル城もビックリだ。」

「建物全体が希少な鉱石で作られているようですね?……この金耀石の柱、一本で十億ミラは下らないですよ?エサーガ国は随分と財力に恵まれた国であるみたいですね?」

「その財力が果たして正しい方法で得たモノであるのかは些か疑問ではあるがな。」


建物内部にも複数の人造悪魔が存在してはいたが、そんなモノはなのはとクローゼにとって『体のいい回復アイテムドロップ君』に過ぎず、現れた瞬間に滅殺されていた――『お前何しに来たんだ?』、『なのはとクローゼを回復しに来ました。』、『来るな、帰れ!』と言う遣り取りすら成されそうな状況であり、人造悪魔を数え切れないほど倒した先になのはとクローゼは建物の最上階に到着していた。

最上階には天井がなく、フロアの中央に巨大な人型の石像のようなモノが存在していた。
其れは人型ではあるモノの、その造形は極めて簡素で頭は球形で、身体も『棒人間』に肉付けをした程度のモノだったのだが、その人型の頭上に存在していたモノが問題だった。


「「ヴィヴィオ……!」」


その簡易な人型の像の頭上には、十字架に両手足を縛り付けられているヴィヴィオの姿があったのだった……










 To Be Continued 







補足説明