エサーガ国からのトンデモない要求に『否』を突き付けた翌日、なのはは不動兄妹の協力を得てリベール全体に広域通信を行っていた――其れも只の広域通信ではなく、空にその光景が投射されると言う最新技術を使っての広域通信なのだ。


『突然の広域通信で驚かせてしまった事を、先ずは詫びよう。
 私はリベールの王、高町なのはだ――我が国は先日エサーガ国より到底承認する事の出来ない不平等条約を突き付けられ、其れを拒否した場合はリベールに戦争を仕掛けるとまで言って来たのだが、当然その不平等条約を私は拒否した――故にエサーガ国と我が国は近く戦争状態に入るだろう。
 だが、安心して欲しい。
 前回のライトロードとの戦いの時同様、リベールは絶対に負けず、一人の犠牲者も出さないと誓おう!そして戦う力を持っている者達は今回もまた国を守る為に其の力を発揮して欲しい!戦う力を持っていない者達を守る事に力を貸して欲しい!』



突然の広域通信、それもなのはの姿が空に映し出されたのだからリベールの民は驚いたが、其れ以上に驚いたのがなのはの話の内容だった――『エサーガ国がリベールに宣戦布告して来た(要約)』と言うだけでも驚きだったのだが、なのはが手にしていたエサーガ国からの書簡の内容は驚きを通り越して呆れてしまうモノだった。
明らかにリベールに戦争を仕掛ける口実を作る為だけの書簡に、リベールの民は全員が憤慨したのだった。
革命によってデュナン政権が終わり、新たになのはが王となってリベールを治め始めたと思った矢先に起きたライトロードの襲撃、其れを撃退してようやく平和になったと思ったら今度はエサーガ国からの宣戦布告と来た……しかもエサーガ国は『リベールが要求を断ったから』と戦争の理由は手にしたモノの其の戦争に大義は無いと来ているのだから当然だろう。


「戦争か……其れは絶対に嫌だけど、ぶっちゃけた話クローゼ王妃が精霊召喚したら其の時点で即終了するんじゃないかって思うんだけど、如何かしらヨシュア?」

「其れはそうかも知れないけど、エサーガ国だってリベールの戦力が如何程かは調べている筈だから何らかの対策はしてくるんじゃないかな――王妃の精霊の攻撃は魔法攻撃だから、例えば『魔法攻撃無効』の障壁なんかで防ぐ事は出来ると思うし。」

「エクゾディアの攻撃を防いだら防いだで、周囲に散らばったエクゾディアの魔力を王が集束して、『魔法攻撃無効の障壁、なにそれ美味しいの?』と言わんばかりの極悪集束砲が放たれる訳だがな。」

「もしもの時の為に遊星と遊里に頼んでパテル=マテルを強化改造して貰おうかしら?」

「ちょっと待てレン、お前その超兵器を如何強化改造して貰う心算だ?」

「あら、決まってるじゃない京。
 搭載火器をより強力なモノにして、目からもビームが出るようにして貰って、新たに『リミッター解除』、『Y-ドラゴン・ヘッド』、『Z-メタル・キャタピラー』、『魔法除去細菌兵器』のカードを仕込んでもらうのよ。」

「レン、お前は一体パテル=マテルをどんな最終兵器にしようとしているんだ?」


最早エサーガ国との戦争は避ける事は出来ないが、そうであるのならば徹底抗戦あるのみなので、各地の遊撃士や武闘家、其れ以外の『戦う力を持つ者達』は何時戦闘が始まっても良いように準備をするのであった。
特にリベール一の過剰戦力との呼び名も高いロレントでは、ブライト三姉妹、京、ヨシュアがこんな会話を行っており、其処には余裕すら感じさせるモノだった――二度の大きな戦闘を経験しているからこそなのだろうが。
同じ頃、ロレントの自警団である『BLAZE』も緊急ミーティングを行い、其処でリーダーである志緒が『リベールの一大事だ、気合入れろよテメェ等!』と言ってメンバーを鼓舞していたのだった。
そして其の日の内にレンは不動兄妹に連絡を入れてパテル=マテルの強化改造を行って貰い、タダでさえ超スペックのパテル=マテルは最終兵器を超えた終末兵器と言うべきオーバースペックになったのだった……リベールにおける真の最強は、こんな魔改造をサラッとやってのける不動兄妹なのかもしれない。











黒き星と白き翼 Chapter74
『戦争前には色々と準備が必要なのです』










広域通信を行った数時間後、なのははクローゼと共にレイストン要塞にやって来ていた。
エサーガ国が何時攻めて来ても良いようにどの様な迎撃態勢を整えておくべきかをリシャールと打ち合わせるためにやって来たのだ――そして、その司令室ではリベールの地図がモニターに映し出されていた。


「リシャール、エサーガ国がリベールに攻め入って来るとしたらどのルートで来るのが一番可能性が高いと考える?」

「リベールとエサーガは海で隔てられているので、海路でゼムリア大陸まで来た後に陸路を来るか、空路で直接乗り込んで来るかの二択になりますが海路と陸路を併用した場合、海路は兎も角として陸路はエレボニアかカルバートの何れかを経由しなければリベールに入る事は出来ないので其方はまず無いでしょう。
 海路でルーアンから直接乗り込むと言う手もありますが、ルーアン周辺の海は戦艦が入るには浅く座礁する可能性が高いのでその線も考え辛いかと――矢張り、空路で来る可能性が最も高いと考えます。
 其れ以外だと、転移魔法を使って直接乗り込んでくると言う事が考えられますが、先のライトロードとの戦いを見ても、召喚士であっても召喚魔法で一度に呼び出せる数が二桁であった事を考えると、数百人は居るであろう一部隊全てを転移させるのは不可能ではないかと考えますよ。」

「ふむ、実に正確で分かり易い。」

「流石は情報部の隊長、見事な推測です。」

「そう言って頂けるとは光栄の極み。」


其の地図でエサーガ国が何処から攻め込んで来るかを予測して対策をしていたのだが、リシャールの予想では『空路で来る可能性が最も高い』との事で、其れはなのはも予想してた事であったので、空の防衛を強化する事になった。
そして空の防衛強化だけでなく地上部隊にも王国軍の精鋭を各地に配置して何処から攻め入られても対応できる体制を整え、同時に民の避難場所も各地に指定し、其処には『光の護封剣』のカードによる絶対防御を張る事を決定した。民の安全は何よりも守るべきモノであるのだから此れは当然と言えるだろう。


「悪魔将軍とアーナスにも此の事を伝えて早急にリベールに来てくれるように要請する……将軍とアーナスの力が加われば、リベールはより隙の無い布陣を敷く事が出来るからな。」

「悪魔将軍さんとアーナスさんの力を借りる事が出来るのならより安心出来ますね。
 ……ルガールさんは魔界に帰らずにテレサ先生の所で暮らしているみたいですから、魔王全員がこのリベールに集結する訳ですか……普通に考えるとトンデモナイ事ですよね此れ。」

「此れもまたなのは王の人脈と人柄がなせる業と言うモノでしょうが……」

「将軍、アーナス、ルガールの三人に関しては父の遺言が大きいがな。」


更になのはは悪魔将軍とアーナスにも援軍を要請する心算であった。
魔王の一人であるルガールは魔界に帰らずにルーアン近郊のテレサの孤児院に居候している状態なので、悪魔将軍とアーナスが出張れば、なのはを含めて全ての魔王がリベールに集結する事なり、なのはが新たな王となってから周辺国と比べると明らかにぶっ飛んだレベルの戦力を有しているリベールが更に強化されるので、其れこそエサーガ国がどれだけの戦力を持って来たとしても圧倒出来るだけの戦力がリベールに揃うのである。

そんな感じで会議は終わり、なのはとクローゼは城に戻った後にヴィヴィオと一緒に夫々のドラゴンに乗ってエルモ村を訪れて温泉を堪能していた――此れもまた、戦闘前の英気のチャージと言う奴だろう。
親子で露天風呂を堪能して英気を養った後はグランセル城に戻ってなのはとクローゼは王室親衛隊隊長のユリアと隊員数名と共に民の避難先への食料の供給、風呂やトイレは如何するのかを話し合い、食料に関しては王都の巨大マーケットとボースのボースマーケットに『光の護封剣』、『攻撃の無力化』のカードをセットし、その二つのマーケットと避難先を『亜空間物質転送装置』で繋いで食料を送る事になり、風呂とトイレに関しては急ピッチで公衆浴場と公衆トイレを建造する方向で決まった。
可成りの突貫工事になるのは間違いないが、アルーシェの従魔や不動兄妹の精霊に手伝って貰えばそう難しいモノではないだろう。


「なのは、此れ。エサーガ国からの新たな書簡が届いたみたい。」

「レオナ……エサーガ国からか……まぁ、内容は読まずとも想像出来るがな。」


そんな中でレオナがエサーガ国から届いた新たな書簡をなのはに渡し、なのははペーパーナイフで封を切ると中身を取り出して其れを読む。


「……何時攻め入るかを通知して来るとは、一応戦争を仕掛ける際の礼儀は弁えているようだな。」


その書簡の内容は――


『此方の要求を拒否されたので、通告の通りリベールに対して宣戦を布告する。
 ○月×日、午前九時、エサーガ国はリベール王国に対しての攻撃を開始する。

                                       エサーガ国王』



とのモノだった。
其れを読んだなのはは妖絶な笑みを浮かべると、広域通信で王国軍と各地の遊撃士協会に此の事を伝えて、戦に向けての体制を整えて行く――その結果としてリベール各地の防衛戦線は完成し、各地方で都市に侵攻させないための布陣が敷かれていた。
特にリベールでもトンデモナイ戦力が揃っているロレントとルーアンの防衛は強固であると言えるだろう。
更にそれから数時間後にはなのはの要請を受けた悪魔将軍とアーナスが、夫々配下である魔族と従魔を引き連れてリベールに降り立ち、悪魔将軍はボース、アーナスはツァイスの防衛に就いたのだった。


「しかし、予想していたよりも宣戦布告をしてくるまでに時間が掛かったな?私はあのふざけた書状に返事をしてすぐに宣戦布告して来ると思っていたのだが……」

「若しかしたら、エステルさん達が連れ去れた際に乗っていた船の修復に思いのほか時間が掛かったのではないでしょうか?
 艦内でドラゴンを呼ぶ笛を使って、呼び出したドラゴンが船の装甲を突き破って現れたとの事でしたし……遥か上空で船に穴が開いたら、其処から風圧で装甲が持って行かれる事は少なくありませんから、突き破られた以上のダメージを受けてしまった可能性は高いと思います。」

「だとしたらエステルは良くやったとしか言いようがない……おかげさまで、こうして迎撃態勢を完璧に整える事が出来たのだからな。
 ククク……此方は準備は出来ているから何時でも来いエサーガ国、否ドクターとプロフェッサーよ……そして、思い知るが良い自分達が一体誰に対して喧嘩を売ってしまったのかと言う事をな。
 リベールは貴様等程度には屈しない……貴様等には私とクローゼの理想を実現する為の踏み台になって貰うぞ!」


全ての準備を整えたなのははその背に神魔の証である白い翼と黒い翼を展開すると、クローゼもそれに呼応するように背に光の翼を現出する――そしてなのはは掌に桜色の魔力を、クローゼは空色の魔力を展開すると、背中合わせに立って其れを握り潰して、魔力を一気に爆発させた。
神魔の王と聖女の王妃が爆発させた魔力の余波は、風に乗ってリベール全土に伝わり、各地の防衛戦線の士気を高揚させるのだった。



そして、其れから数日後――エサーガ国がリベールに攻め入るとした日時に、リベールの領空近くには空を覆う程の巨大な空中戦艦……或は『移動空中要塞』とでも言うべきモノが現れたのだった。










 To Be Continued 







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