セスからの報告を受けたなのははベルカ皇国だけでなく、同じく同盟国であるカルバートとエレボニアにも有事の際の援軍を要請して何時攻め込まれても対応出来る態勢を整えていた。
エサーガ王国との戦争は最早避ける事は出来ないだろうが、戦争が避けられないのであれば国が戦火に焼かれないように最大限の策を講じるのもまた国王としての務めと言えるので、なのはは其れを遂行していたのだ。
既に悪魔将軍とアーナスには協力を取り付けているので、今のリベールは正に隙なしと言えるだろう。


「は~い、ご飯よクリア、ノワール!」


だが、現状リベールは平和であり、ロレントの郊外にあるブライト家では、エステルが自身とアインスが呼び出したドラゴンに餌を与えていた――勿論、通常サイズではエサ代がトンデモナイ事になるのでミニマム魔法で小型化してはあるが。
エステルは呼び出したライト・エンド・ドラゴンに『クリア』と名付け、アインスはブラック・デーモンズ・ドラゴンに『ノワール』と名付けていた――因みに京はタイラント・ドラゴンに『アグニ』、ヨシュアはダーク・エンド・ドラゴンに『ファング』と名付けていた。
何れも己を呼び出した主には良く懐いており、アグニに至っては勝負を挑んで来た庵に問答無用で炎のブレスをブチかまして勝負前に丸焦げにしてKOしたくらいだ。


「エステルもアインスもドラゴンを持ってるだなんて羨ましいわ。レンも自分だけのドラゴンが欲しかったわ。」

「そうは言っても此ればかりはな……あの時お前も一緒に来ていたら自分のドラゴンを手に入れる事が出来たのかも知れんが、其れは言っても詮無い事だからな?」

「若しかしたらだけど、パテル=マテルは遊星が作ったから案外ドラゴンのカードが組み込まれてたりしているかも知れないからワンチャンあるかも。」

「確かにその可能性はあるわね?だったら試さない理由は無いわ!パテル=マテル!」

『ゴォォォォォォォォォン!!』


レンは姉妹の中で自分だけがドラゴンが居ないと言う事に少し不満があったみたいだが、エステルの一言からパテル=マテルを呼び出すと、その内部にはエステルの予想通りドラゴンの精霊のカードが存在しており、更に不動兄妹が開発した『カードの精霊を実体化する装置』も組み込まれていたので、早速その装置にドラゴンのカードをセットしてみた。


『ゴグガァァァァァ!!』
煉獄竜オーガ・ドラグーン:ATK3000


その結果現れたのは煉獄の力を宿した闇属性のドラゴンだった――死神の眷属であったレンにはピッタリのドラゴンであると言えるだろう。
レンはこのドラゴンを『キリュウ』と名付け、ブライト三姉妹は形は違うが目出度く全員がドラゴンを従える事になったのだった――そして、カシウスは更に上位のドラゴンである古代竜の『レグナート』と知り合いだったりする。
母親以外は全員ドラゴンと関係があると言うのは中々にトンデモナイ事であり、カシウスだけでなくその娘達もエステル以外は血が繋がっていなくとも相当にぶっ飛んでいるのは間違いなさそうだ。











黒き星と白き翼 Chapter73
『強化と平和と宣戦布告とその他諸々』










エサーガ国との戦争は避ける事は出来ないと考えたなのはは、グランセル城の地下にある『封印区画』と呼ばれる場所までやって来ていた――嘗て、リベール革命の際にデュナンとの最終決戦を行った場所だが、其処でなのははサイドテールにしている髪を解き、更に防護服も解除した一糸纏わぬ姿で禅を組んでいた。
封印区画には太古から練り上げられ凝縮した魔力が満ちており、なのはは其れを其の身に取り込むためにやって来たのだ――そして、魔力体の防護服があったのでは其れを十全に取り入れる事は出来ないと考えて一糸纏わぬ姿で禅を組んでいたのである。


「…………」


凡そ一時間ほどその姿勢でいたなのはは、おもむろに目を開くとゆっくりと立ち上がり、そして一気に魔力を解放して防護服を纏って髪をツインテールに纏める。
そして解放された魔力は極めて大きくて強く、この魔力開放によって封印区画の床にはなのはを中心に大きなクレーターが出来上がったのだが、なのはは己の力がより高くなった事に笑みを浮かべていた――いざ戦争となれば、なのはは王であっても前線に出て戦いながら指揮を執る心算だったので、己の力を高めると言うのは当然の事であると言えるだろう。


「まさか朝日の持つ魔力と同等以上の魔力だったとは驚きだ……此れが千年を掛けて凝縮された魔力と言うモノか――質の高い魔力を其の身に取り込む事で己を強化出来るのはリンカーコアを持つ者の特権だな。
 ……ライトロードの戦いの時はブレイカーを放つ為の魔力として集束したが、エクゾディアの魔力をこの身に取り込んだら……いや、あれ程の魔力を一度に吸収したら身体の方が耐え切れずに崩壊するか。」


エクゾディアの魔力をも取り込む事も考えたが、其れだと身体が耐え切れないと考えて断念した。
其れは兎も角として、太陽の魔力と封印区画の魔力を取り込んだ事でなのはの力はリベリオン時代とは比べ物にならないレベルに高まっており、SLBどころかディバインバスターでも都市を簡単に更地に出来るだけの力を有するに至っていた。
一個人が持つ力としては強過ぎるのかも知れないが、一国の王が其れだけの力を持っていれば其れだけでも同盟を結んでいない他国への牽制に繋がるのだ――尤も現在のリベールは王であるなのはと王妃であるクローゼの両名が『単騎で国を落とせる力』を持っているのだが。

封印区画の魔力を取り込んだなのははグランセル城のエントランスに戻ると、其処には城の見学に来ている子供達の姿があった。
なのはがリベールの王となってから行った改革の一つが『子供の教育改革』であり、なのはは其れまで協会の『日曜学校』でしか学ぶ機会がなかった子供達に充実した学びの場を与える為に、リベールの五大都市に教育機関となる学校を設立したのだ。
その学校では座学だけでなく実際に体験、見学する『体験授業』も取り入れており、その一つが『グランセル城の見学』だったりするのだ――子供達はグランセル城で働いているメイドや衛兵に色々な質問をぶつけ、其の答えを聞く事で知識を増やしていく訳だ。


「城の見学に来たのかな?グランセル城は見るべき所も多いから隅々まで残さず見学して行くと良い。」

「ひゃい!お、王様!ほほほ、本日はお日柄も良く……」

「……教師たるお前が狼狽えて如何する……と、王である私が言っても説得力はないか。
 とは言え、こうして会ったのも何かの縁だ……そうだな、今日見学に来た子供達には特別に私に対する質問を受け付けよう。私に聞きたい事があれば何でも聞くと良い――倫理的にアウトな事でなければ全て答えようじゃないか。」


此処でなのはがサプライズで登場して、子供達からの質問を受け付けると言って来た――引率教師は予想していなかった展開にすっかりパニくってしまったが、子供達は『王様が質問に答えてくれる』との事で目がキラキラと輝き、『質問がある子は手を上げて』と言われると次々と手を上げ、なのはに指名された子は全員が真っ直ぐでストレートな質問をなのはにぶつけ、なのはもそれら全てに子供達が納得出来る回答をしつつも時には『君ならば如何考える?』と逆に質問をして子供達の思考力を高めようと務めていたのだった。
そして同時に、この子供達の為にも絶対に国は焼かせないと心に誓っていた。









――――――








子供達との交流を終えたなのはは午後のティータイムとなったので空中庭園にやって来たのだが、其処には既にクローゼとヴィヴィオがやって来ており、ヴィヴィオはミニマム状態のバハムートと戯れていた。


「あ、なのはママ!おそーい、遅刻だよ!」

「スマンスマン。
 封印区画内に存在している太古の魔力を取り込んで終わりにする心算だったのだが、城の見学に来ている子供達が居たのでね……其の子達と交流していたら少しばかり遅れてしまったよ。
 だが、王でありお前の親である私が遅刻すると言うのは如何なる理由があろうとも良くない事だな……なれば、遅刻の詫びとしてお前のお願いを一つだけ聞くとしようかヴィヴィオ?」

「ほんとーに!?
 それじゃーねぇ……何時でも良いからなのはママとクローゼママの時間のある時に、また三人でピクニックに行こう?お弁当はなのはママとクローゼママの手作りが良いなぁ♪」

「……クローゼ、我が娘がとっても可愛い。そして尊い。」

「その意見に関しては全力で同意します。」


なのははティータイムの時間に少し遅れて到着しており、その事をヴィヴィオに指摘され、遅刻の詫びとして『一つだけお願いを聞く』と提案したのだが、ヴィヴィオのお願いはなんともほのぼのとしたモノであったので、思わずなのはとクローゼは親バカを炸裂させてしまった。
其れだけなのはもクローゼもヴィヴィオの事を『娘』として大切に思っていると言う事だろう――ヴィヴィオは身体こそ大人だが精神的はまだ十歳程度と言うのが、余計に二人の庇護欲を刺激するのかも知れない。

其れから程なくしてメイドがお茶とお茶菓子を運んで来て午後のティータイムがスタート。
本日のお茶は東方の大陸の更に海を渡った島国から輸入した『緑茶』と呼ばれるモノであり、お茶菓子もその島国から輸入したモノなのだが、その菓子はリベールでは先ず見る事のないモノだった。
其れは小豆を砂糖と共に煮て作った『小豆餡』を葛粉と呼ばれるモノから作った生地でくるんだ『葛饅頭』と言う菓子に、更に塩漬けにした桜の葉を巻いた『くず桜』と言う菓子だった。


「ふむ……外側の生地の弾力とモチモチ感を併せ持った食感と塩漬けの葉の食感が対照的で、餡の甘さと葉の塩味が絶妙な味のバランスを演出しているか。」

「お茶にもよく合いますね。」

「プルプルモチモチで甘くてしょっぱい!とっても美味しい!」


緑茶とくず桜の組み合わせは最高で、本日のティータイムも和やかに過ぎて行った――ヴィヴィオがくず桜をバハムートに与えようとした際には、五本の首が誰が貰うかを争う珍事があったが。


「なのは様、失礼します。」

「ユリアか……如何した、急用か?」

「はい……今し方、エサーガ国からの使いだと名乗る人物が現れ、此方の書簡をなのは様にと……」

「ほう?」

「エサーガ国からの使い、ですか。」


そんなティータイム中にユリアが現れて、エサーガ国からの使いを名乗る人物から預かったと言う書簡をなのはに持って来た。
なのはは指先に小さな魔力刃を展開して、其れをペーパーナイフ代わりにして封筒の封を切ると、中に入っていたモノを取り出し、そして其れに目を走らせ――思わず失笑を漏らしてしまった。


「なのはさん?」

「なのはママ?」

「読んでみろ、中々に面白いぞ。」


なのはは読み終わった手紙をクローゼに投げ渡し、其れを受け取ったクローゼはヴィヴィオと共に其れを読んだのだが、読み進めていくうちにクローゼの顔からは笑みが消えて行った。
エサーガ国から送られた書簡には、こう書かれていたのだ。


『リベール王、高町なのはに対し以下の要求を行う。
 一つ、リベールはエサーガ国に対して治外法権を認めよ。
 一つ、リベールはエサーガ国との貿易を行う際、如何なる関税自主権も放棄せよ。
 一つ、リベールは持てる全ての天然資源を無償でエサーガ国に譲渡せよ。
 一つ、リベールは持てる全ての技術をエサーガ国に譲渡せよ。
 以上の要求を一つでも拒否、或は書簡が届いてから一週間以内に回答がない場合は我が国はリベールに対して宣戦布告を行い、リベールへの攻撃を開始する。
 リベール王、高町なのはが最も賢い選択を行う事を祈念する。

 エサーガ国王。』



その内容は最早無茶苦茶で、この要求を飲む国は存在しないだろう――詰まるところ此れは、元より拒否される事が前提となっている書簡であり、戦争を始める理由を得る為のモノでしかないのだ。


「なのはさん、此れは……」

「下らん挑発だ……リベールと戦争をしたいのであればストレートに宣戦布告を行えば良いだけだと言うのに回りくどい真似をしてくれる――まぁ、エサーガ国……と言うよりはプロフェッサーとドクターが国として戦争を行う大義を得るためにこの文章を考えたのだろうがな。
 ならば、其れには応えてやるさ……嫌という程な。
 ユリア、エサーガ国からの使いと言うのはまだ居るか?」

「なのは様の返事を聞きたいとの事で、エントランスで待っていますが……」

「そうか……」


其処からなのははメイドに紙とペンを持って来させると、凄まじいスピードで紙にペンを走らせ、最後まで書き切ったところで己の右手の親指を噛んで軽く出血させると、其の血で親指の印を捺した。
記した内容は『一切の要求は拒否する。』と言う事と、『リベールに武力をもって侵攻した際には、此方も武力をもって応える』と言う二点である。
神族と魔族の双方の血を引いた者のみが宿す『翡翠色』の血によって成された血判は、なのはの意思の現れであり、リベールを他国には侵略させないと言う思いの形でもあったのだ。

其れは兎も角として、エントランスで待っていたエサーガ国からの使いには、なのは直筆の書簡が渡され……


「滅殺……!」


其処に殺意の波動を発動した一夏が現れて『瞬獄殺』を叩き込んでエサーガ国の使いを滅殺!――そして其の遺体は返事の書と共にエサーガ国へと転移魔法で直帰するのだった。








――――――








なのはが封印区画で魔力を吸収していた頃、ワイスマンとスカリエッティは、エサーガ国の戦力を整えていた。
トワイライトロードとなった嘗てのライトロードに加え、エサーガ国の聖騎士である『アルテナ・ウィクトーリア』の無数のクローンコピー、そして其れに加えて……


「此れは、なのは王と織斑一夏君には刺激が強過ぎるかなドクター?」

「良いや、此れ位の刺激は良いアクセントだろうプロフェッサー!」


全身装甲の鎧を纏った人物が二人居た――鎧の形状からして女性のようだが、全身装甲だけに詳細は不明……だが、此の二人の全身装甲の騎士はエサーガ国に於ける最大の切り札であるのかも知れない。










 To Be Continued 







補足説明