ルーアンの郊外にて邂逅したダンテと黒騎士ネロ・アンジェロ。
嘗て魔帝の策略によってマレット島を訪れたダンテの前にも現れたネロ・アンジェロは、其の時はダンテと互角の戦いをした後に敗れて霧散したのだが、改めてダンテの前に姿を現したネロ・アンジェロの実力は其の時よりも上がっていた。


「ハッハー!やるじゃないか?
 だが、本気のバージルには程遠いな?その鎧を着てるままじゃ俺には勝てないぜ?」

「…………」


だがダンテの実力は其れを上回っており、嘗ては苦戦したネロ・アンジェロのパワーにも今は完全に対処出来るようになっており、必殺の居合いをリベリオンで弾き返してカウンターのスティンガーを繰り出し、放たれたメテオはギルガメスを装備してショッキングで相殺、ブロックでガード、リベリオンで弾き返す等の方法で対処する。
分厚い鎧の上からでは銃弾は効果が薄いが、至近距離からのショットガンならばそこそこの効果があり、悪魔界で作られた鎧であっても表面に傷を付ける事は可能だった様だ。


「アンタの実力はそんなモンじゃないだろ?もっと本気で来いよ!……って、あぶねぇ!此れは此れはまた元気なパンダちゃんだなぁ?」

「…………」


此の二人の戦いの闘気に誘われたのか、この付近に出る魔獣としては最強レベルのパンダも現れたのだが、其れに関しては問題なく一蹴して、バトルが再開される。
ネロ・アンジェロがハイタイムで斬り上げれば、ダンテは其れをリベリオンでガードしながら空中に飛び、ネロ・アンジェロの真上からレインストームで弾丸の雨を降らせた後に兜割りを叩き込んで鎧のマスクを半壊させ、破損した部分からはバージルの素顔が覗く。


「アンタ、前にネロの所に行ったんだってな?自覚は無くとも実の息子から自分と同じ力を感じ取ったってか?
 其れとも、ネロの右腕に残ってた閻魔刀の僅かな魔力に惹かれたのか……何れにしても、アンタの目的はコイツだろバージル?コイツは俺にとってのリベリオンと同じ、アンタにとっての親父の形見だからな。」

「!!」


そう言ってダンテは閻魔刀を取り出すとネロ・アンジェロ――否、バージルに見せ付ける。
そして其れを見たバージルは、一気に魔力を増幅させ、その増幅された魔力によって鎧のマスクが完全に吹き飛び、其の素顔が明らかになる――其れはダンテにとっては懐かしいモノだった。


「だが、此れを今のアンタに渡す事は出来ねぇ……つか、もう所有権はアンタの息子に渡っちまってるからな――欲しけりゃ奪ってみな。今のアンタじゃ、無理かもしれないがな。」

「…………」


挑発気味にそう言い放ち、不敵な笑みを浮かべるダンテに対し、バージルは大剣を構えると同時に、自身の周囲に幻影剣を展開した本気モードとなり、其れを見たダンテも不敵な笑みをより深くするのだった。











黒き星と白き翼 Chapter72
『史上最強の兄弟喧嘩と親子喧嘩』










バージルが展開した幻影剣は、近付く敵を攻撃するだけでなく自身を守る盾の役割と飛び道具の役割も担える万能の魔力剣なのだが、其れに対してダンテは『無刃剣ルシフェル』を使って似たような布陣を展開する。
ルシフェルもまた魔力によって生成された剣であり、幻影剣のように中空に停滞させる事が可能なのだ――そしてダンテはバージルを取り囲むようにルシフェルを配置し、其れを一気に放つ。
其れをバージルは瞬間移動『エアトリック』で回避すると、ダンテの周囲に幻影剣を配置してお返しとばかりに放つが、ダンテもまた其れをエアトリックで回避してバージルに接近して閻魔刀で鞘打ち→鞘打ち→居合いのコンボを喰らわせる――此れはバージルが閻魔刀で戦う際の基本のコンボであり、ダンテは見様見真似でやってみたのだが、其れを喰らったバージルの目には光が一瞬だが戻っていた。


「自分の技を使われると、流石に黙ってられないか?なら、今度はコイツは如何だ?」


続いてダンテは高速の居合いで空間を斬る『次元斬』を繰り出してバージルの鎧を破損させ、息を吐く間もなく連続のエアトリックと次元斬を組み合わせたバージルの奥義である『絶刀』を繰り出してバージルの鎧を完全に粉砕し、更に『人と魔を分かつ』閻魔刀の力でバージルとネロ・アンジェロを分離させる――その結果として、バージルには人としての肌の色が戻り、顔に浮き上がっていた模様も消え去り、ダンテとは対照的な蒼いコートを纏った姿でその場に倒れ伏したのだった。


「……く、俺は……此処は何処だ?」

「よう、目覚めの気分は如何だお兄ちゃん?」

「ダンテ!……俺は……そうか、あの時俺は自ら悪魔界に落ちて魔帝に戦いを挑んで負け、奴の操り人形となっていたのか……よもやお前に魔帝の呪縛を解かれるとは思わなかったが、一応礼は言っておこう。」


数分後にバージルは目を覚まし、己の現状を知っていた。


「閻魔刀、貴様が持っていたのか……寄越せ、其れは俺のモノだ。」

「ところがギッチョン、其れがそうも行かないんだぜバージル。
 コイツは確かにアンタのモノだったかも知れないが、今では所有権がアンタの息子のネロに移ってんだ――俺は一時的に預かってるだけだから、俺の一存でアンタに渡す事は出来ねぇんだわ。」

「待て、誰の息子だと?」

「だからアンタだバージル……身に覚えないのか?」

「無くはないが、まさかあの夜の娼婦か?……一夜の過ちと言えば其れまでだが、まさか其れで子供が出来るとは……認めたくないモノだな、若さ故の過ちと言うモノは絶対に。」

「俺としては堅物のアンタがやる事やってた事に驚きだけどよ……逆に言えば其れだけ相手の女性は魅力的だったって事だよな?――分かってる範囲で良いから相手の女性の事教えてくれ!
 アンタが一夜の過ちを犯す程の女ってのは実に興味があるからなぁ?一体どんな美人さんだったんだバージル!」

「黙れ、刺すぞ貴様。」

「げふぅ!?さ、刺してから言うなよオイ。」


久々となる兄弟の会話だが、少しばかり調子に乗ったダンテはバージルに黒騎士の大剣で見事に刺されていた――普通なら致命傷なのだが、ダンテの場合は刺されても吐血はするモノの死なないので問題はないのかも知れないが。


「其れは兎も角、アンタはこれからも悪魔として生きて行く心算なのかバージル?……母さんはそんな事は望んでないと思うぜ?」

「如何だかな?あの日、母は俺の元には現れず、お前だけを匿った……俺は母に愛されてはいなかったのだろう?」

「あ~~……ソイツは違うぜバージル。
 あの日、アンタは公園に読書をしに出掛けてたから母さんはアンタの方にまで手が回らなかったんだよ……俺をクローゼットに押し込めた後で、アンタの所にも向かったんだろうが、その途中で悪魔共に殺されちまったんだ――アンタも、母さんに愛されてたんだ。そうじゃなかったら、殺されるかも知れないのに公園までアンタの事を迎えになんて行かないだろうからな。」


だが此処で、ダンテとバージルが生きる道を違える切っ掛けとなった二人の母である『エヴァ』の死の真相をダンテがバージルに話し、其れを聞いたバージルは驚愕の表情を浮かべていた。
自分は母に捨てられたと思い、同時に己に力があれば捨てられる事もなかったのだと考え、バージルは悪魔として生きる道を選び、只管に力を求めて来たのだが、母親の真の思いを知った今、バージルは自分が母に愛されていた事を実感したのだった。


「何だそれは……結局俺は勝手に一人で勘違いしていたと言う訳か?……その果てが力を求めて悪魔として生きる道を選んだとは、滑稽極まりないな……そうか、俺も愛されていたのか。
 ならば、悪魔として生きる理由はもうないか……だが、其れとは別に閻魔刀を寄こせダンテ。お前との決着だけはハッキリと付けねばならんからな?」

「決着なら付いただろ?
 あん時はアンタが自ら魔界に落ちちまったが、その後は魔帝の部下の黒騎士として俺と戦って負け、今もまた負けたばっかりじゃねぇか?」

「黒騎士の状態では俺の意識は無かったからノーカウントだ――其れに、同じ立場だったら貴様はそう言われて納得するのか?」

「……いや、しないね。」

「つまりはそう言う事だ。
 なに、殺し合いをしようと言うのではない――ただ純粋に、子供の頃にやった取っ組み合いの喧嘩を気が済むまでやろうと言うだけの話だ……子供の頃とは違い止める存在も居ないのだ、遣り甲斐があろう?」

「ま、殺し無しってんなら断る理由もないか……そんじゃ、今この時だけは閻魔刀を返してやるよお兄ちゃん。だが、終わったら返せよ?ソイツはネロから預かってるモンなんだからな。」

「いや、終わったらそのネロとやらに会わせろ。ソイツが閻魔刀を継ぐに相応しいか、俺自らが見極めてやるとしよう――其れが、父から閻魔刀を受け継いだ俺の役目でもあるからな。」

「OK、そんじゃそれで行こう……じゃあ、始めようぜバージル!」

「黒騎士の時のように行かぬと思え。」


其れは其れとして此処からは殺し無しの本気の兄弟喧嘩が始まり、ダンテはリベリオン、バージルは閻魔刀を手に手加減なしで戦う――殺しがNGとなれば普通は峰打ちなのだが、斬られた程度ならば即回復してしまうダンテとバージルは峰打ちではなくガチで斬り合う。
そして其処から互いに決定打を与え与えられを繰り返し、何度目かの打ち合いで、今度はダンテが競り勝った。


「ダンテ選手、一点リード!」

「数え直せ、同点だ。」

「……あのよぉ、こんな事言ったらアレだが、決着なんぞ永遠に付かねぇんじゃねぇか?」

「……かも知れん。
 だが、俺達の勝負の邪魔をする輩は許さん。」

「ソイツに関しては、同感だね。」


ダンテの言うようにこの兄弟喧嘩は永遠に決着が付かないのかも知れないが、取り敢えず血の匂いに誘われて現れた複数の魔獣はバージルが次元斬・絶で、ダンテがパンドラのPF666オーメンで全滅させた。
こうして時々の魔獣の殲滅を来ないながら兄弟喧嘩は延々と続き……何時までダンテが経っても戻ってこない事を不審に思って現場にやって来たネロとなたねによって強制的に終了させられ、ダンテもバージルもネロのアームズエイドに仕込まれた闇の呪縛によって拘束された上で『Devil May Cry』へと連行されたのだった。

そして其処でネロはダンテからバージルを紹介されて本当の父親との初対面を果たし……取り敢えず一発ブッ飛ばしたのだった。
ネロとしては『本当の親父にあったら一発殴ってやる』と思っていたので、其れを実行した訳なのだが、其処から今度は『史上最強の親子喧嘩』が勃発し、Devil May Cryの店内は割と滅茶苦茶になったのだった――なたねが内部に強化結界を張った事で店其の物が壊れる事は無かったが。


「血気盛んなのは良い事だが、少しばかり父親として躾けてやる。」

「テメェのガキの事も認知してなかったクセに偉そうな事言うなクソ親父!」

「……さて、どのタイミングで止めたモノでしょうか?」

「いっそ好きにやらせりゃ良いんじゃねぇか?つか、さっきまで俺とガンガンやってたからバージルの方が先にガス欠だろうな。」


その親子喧嘩は最後の最後でネロがアームズエイドに仕込まれていた『ダーク・アームド・ドラゴン』、『堕天使アスモデウス』、『堕天使ゼラート』を召喚して一気に攻めてバージルに勝利したのだった。
そして其の親子喧嘩を経てネロは『アンタの息子らしいぜ』と言い、バージルも『如何やらそうらしいな』と言い、この親子喧嘩でバージルはネロの力を認めて閻魔刀を継承するに相応しいと判断し、正式に閻魔刀をネロに継承したのだった。

其の後、バージルはこの後どうするかを考えたが、ダンテから『ならここで暮らせば良いだろ?此の国の王様は魔族と神族のハーフで、全ての種が差別なく暮らせる世界を実現しようとしてるらしいぜ?』と言われ、リベール王に興味が湧き、暫くはDevil May Cryで生活する事に決めたのであった。








――――――








其れから数日後、王城の謁見の間にはリベリオン時代から情報面で色々となのはに協力してくれていたセスの姿があった。
セスはフリーのエージェントで、報酬次第でどんな仕事も引き受けるのだが、リベリオンと関係を持ってからは半ばなのは専属の情報屋となっていた――なのはは情報に関しては報酬を出し惜しみしないのでセスとしても有り難い太客なわけなのだが。


「セス、お前が態々やって来ると言う事は、其れだけ重要な情報を掴んだと、そう言う事だな?」

「そして其れは、リベールにとっては有り難くない情報と言う事でもありますよね?リベールにとって良い事であるのならば態々伝える事もないでしょうから……良くないからこそ伝えるべきだと、そう思ったのですよねセスさん?」

「其の通りだぜなのは、姫さん。
 カシウスの旦那の娘さんやそのお仲間から教授とドクターってのがエサーガ国の王を唆してリベールに攻め入る計画を立ててるのは聞いてるだろうが……更にトンデモナイ情報を掴んでな。
 その教授とドクターは、エサーガ国の聖騎士をも手中に収めてそのコピーを大量に作り出してるみたいだ――聖騎士と言えば、国を代表する筆頭騎士だが、ソイツを大量にコピーしてるってのは流石にヤバいだろ?」


そんなセスから齎された情報は、確かにリベールにとってはプラスの情報であるとは言い難い事だっただろう。
ワイスマンとスカリエッティは、打倒したエサーガ国の聖騎士である『アルテナ・ウィクトーリア』のコピーを大量に作り出し『聖騎士』の一団を作り出したと言うのだ……しかも全員に異なるマスクを着用させて正体がバレないようにしてだ。


「聖騎士の一団か……その程度でリベールを落とせると思っているのならば、リベールを舐め過ぎだ。
 リベールの精鋭達の実力は聖騎士を軽く凌駕しているのだからな?聖騎士の一団如きではリベールは揺るがん……何よりも、エクゾディアを攻略しない限りはリベールに勝つ事は絶対に不可能だからな。」

「エクゾディアはもう完璧に制御出来ますので、必要ならば何時でも召喚出来ますよ。」

「クローゼママつよーい!」


聖騎士の一団と言うのは確かに脅威の存在ではあるのだが、其れを聞いてもなのはは余裕の態度を崩さなかった――リベールの戦力ならば聖騎士の一団が相手であっても勝てると確信していたからだ。
つまりは何時エサーガ王国が攻め入って来ても大丈夫なのだが、セストの謁見を終えたのちになのははベルカに通信を入れ、クラウスに『リベールが攻め入られるかも知れない』と伝えた上で援軍を要請し、クラウスも其れを快諾し、即時リベールに自身の側近であるシグナムを隊長にした部隊を結成して送り込むのだった。

こうして、リベールでは何時エサーガ王国に攻め込まれても良いように着々と準備が進んでいるのだった。









 To Be Continued 







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