リベール王国から海を挟んで遥か遠くにあるエサーガ王国の地下にある施設では、プロフェッサーとドクターが新たなる計画を練ってる最中だった。


「そろそろ彼女達を迎えに行こうと思っているのだが、君は如何考えるねドクター?」

「ククク……私も良い頃合いだと思っていたよプロフェッサー。
 だがしかし、彼女達を攫ったとなれば色々と問題が起きるだろう……その点はどうする心算かねプロフェッサー?」

「其処は抜かりはない……今回はエステル君を利用するとしよう。
 A級遊撃士である彼女を指名して依頼を出すのは不自然な事ではないし、同行者としてアインス君とノーヴェ君を指名すると言うのも珍しい事ではあるが不自然な事ではないので無理がない。
 そうして集めた彼女達を此方が指定した場所まで誘導した上で捕えれば良いだけの事――遊撃士が依頼中に消息不明になると言う事も、事例は少ないが無くはないので、其処まで大事にはならないだろう。」

「成程、よく考えられているようだな。」


そこにあったのはこの世の悪意を凝縮したような思考であり、プロフェッサーとドクターは冗談抜きでトンデモナイ計画を立てていた――普通ならば戸惑ってしまうような事であっても此の二人は迷わずに行う事が出来るようだ。
倫理観が欠如していると言う訳では無いのだが、其れ以上にプロフェッサーとドクターは己の目的の達成や欲望を満たす事を優先しているので、外道な選択をアッサリと行えるのだろう。


「だがプロフェッサー、エステル君とアインス君が来るとなると、ヨシュア君と京君も来る可能性があるわけだが……まぁ、其れは其れで良いサンプルが得られるから問題はないかな?
 略独学で隠形を極めたヨシュア君と、草薙流の正統後継者である京君のサンプルは、是非とも欲しいモノだからね。」

「ククク、そう言う事だドクター。
 そして、彼女達を迎えに行った暁には我等の計画は第二弾段階に移行する……エサーガ王国の国王に、リベールに攻め込む必要性を説かなくてはならないな。」


そして其処にあるのは純粋な悪意でもあった。
こうして人知れずにリベールに悪意の魔手が伸びるのだった……











黒き星と白き翼 Chapter66
『疑惑の依頼――リベールに迫る悪意の断片』










ある日の朝、ロレントの郊外にあるブライト家の庭では、アインス、エステル、レンのブライト三姉妹がカシウスを相手にして模擬戦を行っていた。
あらゆる武術と魔法を使いこなすアインス、近距離メインでありながら魔法も使えるオールラウンダーのエステル、圧倒的な魔力を有しながら近接戦闘も得意としているブライト三姉妹のチームは、其れこそKOFで優勝できるほどの力があるのだが、その三姉妹を相手に回してカシウスはマダマダ余裕と言った感じだった。


「この親父、ドンだけ強いのよ……こうなったら、やるわよレン!」

「そうね、やっちゃいましょう♪」


そのカシウスに対して、エステルとレンは魔力を両手に集中すると、其処から一気に直射の魔力砲を放つ『姉妹かめはめ波』とも言うべき合体攻撃を放ち、更にアインスが追撃に邪王炎殺黒龍波をブチかます!
この姉妹スリープラトンは、喰らったら間違いなく『Go To Hell!!』なのだが、カシウスはあろう事か、ダブル直射砲を弾き飛ばすと、炎殺黒龍波を逆に喰らって能力を底上げした後に目にも止まらぬ攻撃を叩き込んでアインス、エステル、レンをダウンさせて見せた。


「炎殺黒龍波を逆に喰らうとか、我が父親ながらお前本当に人間か?」

「アインス、父さんは実は系図の何処かに悪魔か魔族が存在してるのかも知れないわ……」

「其れは否定出来ないわねぇ……」

「……オイコラ、俺はあくまでも普通の人間だからな?」

「「「信じられるかそんな事!!」」」


カシウス・ブライトは矢張りとんでもなく強かった。
そんな模擬戦の後で朝食を済ませ、エステルはロレントの遊撃士協会に向かったのだが……


「えっと、何で居るのかしら王様?」

「リベール各地に自らの足で出向いて現状を把握しておくのもまた王としての責務だと思っているのでな……優秀な遊撃士と自警団のBLAZE、そして腕の立つ武闘家が多数居る事で、ロレントの治安は安定しているようだ。
 ……八神家の前で奇声と高笑いが聞こえたのが少し怖かったが。」

「あ~~……庵の奇声と高笑いは最早リベールでは日常茶飯事だから気にしない方が良いわね。」


其処にはなのはが居た。
なのははグランセル城で王としての仕事を熟す以外に、時間が空いた時には自らリベールの各地に赴いて現状を其の目で確認すると言う事もしており、其れがリベール国民からは、『民の事を考えてくれる王』として好意的に受け入れられていた。
そしてなのはが行って居る事はデュナン時代では考えらえなかった事であり、だからこそリベール国民の心に刺さるモノがあったのだろう。

なのはが居た事には驚いたエステルだが、気持ちを切り替えると受け付けのアイナに『依頼がないか』を聞くと、アイナは『丁度依頼が来てるわ……其れも貴女をご指名でね』と言って、依頼内容が記載された依頼書を見せてくれた。
その依頼書には依頼人の名前はイニシャルで記載されていたので本名は分からないが、『エステル・ブライト』を指名し、更に『アインス・ブライトとノーヴェを同行させてほしい』と記載され、場所も指定されていた。


「アタシを指名ってのは兎も角として、遊撃士じゃないアインスとノーヴェを指名ってのはちょっと解せないんだけど……何で、此の二人を指名して来たのか、アイナさんは知ってるの?」

「依頼人は帽子を目深に被っていた上にサングラスもしていたから顔は分からなかったのだけど、『A級遊撃士のエステル・ブライト、そしてKOFで見事な活躍を見せたアインス・ブライトとノーヴェも同行する事を望む』と言ってたから、KOFでアインスとノーヴェの実力を知って、同行して欲しいと言ったのかも知れないわ。」

「なんか納得出来るような出来ないような……でも、態々指名されてる依頼を断る事は出来ないから、その依頼は受けるわよアイナさん。」


依頼内容に多少の違和感を覚えたエステルだったが、態々自分を指名してくれた依頼を断ると言う選択肢はそもそも彼女には存在しておらず、その依頼を受ける旨をアイナに伝えると、アイナも依頼の詳細を伝えて行く。
依頼内容は、指定場所から目的地までの護衛と言うよくあるモノであったが、目的地に関しては『依頼を受けて貰った場合に本人に話す』と依頼人が言っていたらしく詳細は分からないとの事だった。
そうしてアイナから依頼内容を聞いている間にヨシュアがギルドにやって来て、エステルが指名された依頼が来ている事を知ると、『僕も同行するよ』と言って来た。
普段はクールであまり感情を表に出さないヨシュアだが、恋人であるエステルに関する事となると感情を顕わにする事も少なくなく、準遊撃士時代に嘗てのルーアン市長のダルモアの汚職を暴いた際には、ダルモアに『その汚い手でエステルにチリほどの傷でもつけてみろ……僕の考え得るあらゆる手段をもってしてアンタを八つ裂きにしてやる』と威圧してダルモアを気絶させた位なのだ。――それだけに、レンには『ヨシュアは何時私のお兄ちゃんになってくれるのかしら?』と言われたりしているのだが。
まぁ、其れは其れとして、ロレントが誇るA級遊撃士二人が出るとなれば依頼人にとっては嬉しい誤算とも言えるだろう。


「遊撃士を指名しての依頼か……ふむ……念のために此れを持って行くと良いエステル。」

「なにこれ……笛、かしら?」

「ドラゴンを呼ぶ笛と言うアーティファクトの一種だ。
 その笛を吹いた者の魔力と属性に応じたドラゴンが現れてパートナーとなってくれると言う代物だ……只の護衛の任ならば必要ないかも知れんが、私の勘が此れを渡しておけと言っているので渡しておく。
 だが、あくまでも貸すだけだから、任務が終わったら返してくれよ?」

「あ、其れは勿論。」


此処で何かを感じたのかなのははエステルに『ドラゴンを呼ぶ笛』を渡した。
なのはの勘は良く当たるので、此れが必要になる事態が起こる可能性は極めて高いのだが、『貸すだけだから、任務が終わったら返せ』と言うのは言外に『生きて戻って来い』とのなのはの願いだろう。

そうしてドラゴンを呼ぶ笛をエステルに渡したなのははギルドを出ると飛翔し、其処でヴァリアスを呼び寄せると、『アシェル、バハムート、ジークと共にリベールの空の監視を強化するように』と伝えると王都に戻り、クローゼとヴィヴィオと共に空中庭園でのランチを楽しむのだった。








――――――








依頼を受けたエステルは、アインスとノーヴェに事情を話すと、アインスとノーヴェは快く同行を引き受けてくれたが、其の場には偶々京も居た事で、『何だか面白そうだから俺も御一緒させて貰うぜ』と同行する事になった。
KOF優勝チームの京、アインス、エステル、A級遊撃士のヨシュア、KOF個人戦ベスト8のノーヴェのチームは護衛としては可成り破格の戦力であると言えるだろう。
余談だが、京の姿を見た庵が参加しようとしたのだが、其れははやてとなぎさが全力で阻止していた……此の件に庵は関わらせるべきではないと考えたのだろう。


そうして一行は指定場所である、ヴァレリア湖畔にある『川蝉亭』までやって来たのだが、其処で対面した依頼主は何とも異様な佇まいだった。
身体つきから女性であるのは間違いないのだが、頭から口元だけが顕わになった仮面を被っていたのだ……仮面から出ている長い銀髪も特徴的であった。


「えっと、貴女が依頼人で良いのかしら?」

「如何にも……訳あって顔と本名は明かせないのだがね……私の事は『ミスX』とでも呼んでくれればいい。」


その依頼人は自らを『ミスX』と名乗り、『ボートでヴァレリア湖畔にある施設まで移動する際の護衛』を依頼して来たのだが、その施設と言うのはリベールの地図上には記載されていない場所だった。
なので、エステル達は怪しんだのだが、ミスXは『此の場所は国が極秘にある研究を行っている場所なので地図にも記載されていない』と言って納得させると同時に自分がその極秘研究に携わっている人間だと言う事を示唆してエステル達に緊張感を持たせていた。

そして一行は船着き場に停泊してたクルーザーに乗り込んでミスXの案内でヴァレリア湖を進んで行ったのだが――


『『『『『『『キシャァァァァァァァァァ!!!』』』』』』』

「魔獣……!」


そのクルーザーを狙って水棲の魔獣が襲い掛かって来た。
普通ならば怯むかもしれないが、このクルーザーに搭乗しているのはロレントでも指折りの実力者だけに怯む事は無く、ノーヴェが得意の蹴り技で魔獣を蹴り倒すと、エステルとヨシュアが『パワーのエステルとスピードのヨシュア』と称される隙の無いコンビネーションを決め……


「おぉぉぉ……喰らいやがれぇ!!」

「此れで……終わりだぁ!!」


最後は京とアインスがダブル大蛇薙で水棲魔獣をこんがりと焼き上げてターンエンド。
そうしてクルーザーは目的地に到着した。


「こっちだ付いて来てくれ。」


クルーザーを降りて、ミスXが一行を先導する為に歩き始めた途端に濃い霧が発生してエステル達の視界を塞ぎ、瞬く間に先を行ったミスXの姿は見えなくなってしまったのだった。


「イキナリの濃霧って……アインス、お前の魔法で何とか出来ないか?」

「霧を祓う位は造作もないよ京……全てを吹き飛ばせ、ダークハリケーン!」


その濃い霧はアインスが使った風属性の魔法で一掃されたのだが、霧が無くなって現れたのは途轍もなく巨大な施設だった――そして、霧が晴れたにも拘らず、ミスXの姿は何処にもなかった。


「えっと、如何しようヨシュア?」

「依頼人の姿はなく、目の前には巨大な施設か……此れは施設を調べるのが上策かも知れないね――この施設を調べる事で何かが分かるかも知れないからね。」

「ま、そうなるだろうな……少しばかり気合入れるとするか!」


消えた依頼人の事は気になるが、一行は先ずは目の前に現れた巨大施設を調査する事になったのだった。











 To Be Continued 







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