怪しさMAXと言うか、怪しさしかない依頼を受けた結果、エステル、アインス、ノーヴェ、ヨシュア、京の五人は、ヴァレリア湖の湖畔の一角に存在していた、これまた怪しさ抜群の巨大施設にやって来ていた――と言うよりも、依頼主に案内されている最中に霧が発生し、アインスが魔法で霧を吹き飛ばしたら依頼主の姿はなく、目の前にこの巨大施設が現れたと言った方が正しいだろう。


「そういや思い出したがよ、デュナン時代に『リベールでなにやら怪しげな実験が行われてる』ってまことしやかに噂されてた時期があったよな……アレって実は只の噂じゃなかったのかも知れないぜ?
 あくまでも俺の推測だが、あの噂は実は本当の事で、その怪しげな実験とやらが行われてた施設ってのが此処だったんじゃねぇのか?」

「そう言えばそんな噂あったわねぇ……結局なんの実験が行われてたのかまでは分からず仕舞いだったけど。」

「だけど、もしもそうだとしたらこの巨大施設の中には危険な魔獣や兵器の類が残っている可能性は充分にある……居なくなってしまった依頼主の事も気になるし、兎に角調べてみよう。」


デュナン時代の噂を思い出した京は、『その実験が行われていたのが此処ではなかったか?』と推測し、ヨシュアもその可能性があると肯定し、取り敢えず先ずは此の巨大施設の内部を調べてみる事に。
とは言え、デュナン時代のモノであり、使われなくなってから長い年月が経過していたとなれば建物其の物は廃墟と化していなくても、扉やらなにやらは錆び付いて動かなくなっている可能性は十二分にある訳で、案の定正面入り口の鉄扉はロック解除用のカードリーダーが経年変化で壊れており、扉其の物も錆び付いていて動きそうにはなくなっていた。


「こりゃ完全に錆び付いてやがる……中に入るには無理矢理ぶっ壊すしかなさそうだが、さて如何したモンだろうな?」

「此処は私に任せてくれ。
 毒属性の魔法を応用して扉を溶解させる。」


錆び付いているとは言え分厚い鉄製の扉を殴り破るのは力持ちのエステルでも、京が十拳を持ってしても難しかっただろうが、此処はアインスが『毒属性魔法』の『ヴェノムラ』を応用し、『鉄を溶解させる毒』を使って鉄製の扉を見事に溶かし開けて見せた。
アインスはどんな戦い方も隙が無いオールラウンダーだが、魔法とアーツに関しての知識は特に深く、複数の魔法やアーツを融合したオリジナルの技を作り出すのも得意としていた――今回の毒魔法も『バイオラ』と言う毒魔法に、即死魔法の『デス』を合わせて作ったモノだったりするのだ。


「エステルさんの姉ちゃん凄いっすね。」

「パワーではアタシが、魔力ではレンの方が強いんだけど、アインスは全てのステータスが高くて隙が無いのよね……因みに解析魔法でアインスを解析したら、ステータスは『HP99999999 MP9999 物理攻撃250 物理防御255 魔法攻撃250 魔法防御255 素早さ255』だったわ。
 序にアタシは『HP63420 MP900 物理攻撃255 物理防御130 魔法攻撃100 魔法防御120 素早さ198』で、レンは『HP32550 MP1300 物理攻撃130 物理防御98 魔法攻撃255 魔法防御100 素早さ200』ね。」

「アインスさん、本当に隙が無いね……」

「ヨシュアは『HP66640 EP890 物理攻撃220 物理防御135 魔法攻撃90 魔法防御130 素早さ255』って所ね。」

「エステル達はMPで僕はEPなのはなんで?」

「アタシ達は魔法とアーツの両方を使えるけど、ヨシュアはアーツオンリーでしょ?其の違いだと思うわ。」


取り敢えず無事に(?)入り口は開ける事が出来たので、一行は施設内に入り、内部の調査を始めるのだった。











黒き星と白き翼 Chapter67
『疑惑の依頼の真相――狙われた最強の力』










入り口の扉は錆び付いていたモノの、内部は意外と傷んでおらず、電源関係も健在だったようで、入り口付近にあった照明のスイッチをオンにしてみたら施設内の照明が点灯してくれた。
そうして明るくなった内部だったが、其処は正に『研究所』や『開発所』と言うようなモノだった。
内部に入って先ず現れたのは大きな部屋だったのだが、其処には多数のベルトコンベアやロボットアームが存在してる場所で、まるで何かを作っていた工場の様な場所となっていたのだ。


「此れは……此処で何かを作ってたのかしら?……機械人形の類かしら?」

「そうかも知れないね……如何やらレーンごとに異なるパーツを作って、そのパーツを組み合わせて巨大な機械人形を――其れこそクローゼ王妃がライトロードとの戦いの時に召喚した『エクゾディア』に匹敵する程のモノを作ろうとしてたみたいだ。
 魔力体である精霊とは違い、物理的に存在してる機械人形だとその大きさでは自重で潰れてしまうって事で計画は頓挫したみたいだけど。」

「だが、小型の奴ならソコソコ完成してたみたいだぜ?」


其処に現れたのは小型の機械人形だ。
施設のセキュリティとして作られたモノだが、施設が放棄された後も其の存在は残されていたので、今でもまだ外部からの侵入者に対して其れを排除する為に施設内を巡回していたのだ。


「つっても、こんなのはアタシ等の敵じゃないですよね……寧ろ、此の程度の相手ならアタシ一人で充分だぜ!」


エステル達を見つけたセキュリティの機械人形は早速襲い掛かって来たが、其れはノーヴェがあっと言う間に全て片付けて見せた。
此の五人の中では最も実力的には劣っているノーヴェだが、其れはエステルとヨシュア、京とアインスが凄過ぎるからであり、KOFの個人戦でベスト8まで勝ち抜いたノーヴェの実力は決して低くはないのだ。
何よりもノーヴェは京から草薙流の手解きを受けているだけでなく、『シューティングアーツ』と言う格闘技も会得しており、草薙流とシューティングアーツを独自に融合させた武術を使うと言う事までやっているのだ――そんなノーヴェが弱い筈がないのだ。周りが凄過ぎるので目立たたないだけで。

ノーヴェがセキュリティの機械人形を一掃した後は、廊下に出て次の部屋を目指す事に。


「内部は意外と無事だって事を考えると、何があるか分からないからな、慎重に行こうぜ。」


そして廊下を進んで行ったのだが、その道中にて――



――カチ



ノーヴェが床のブロックに隠されていたスイッチを押してしまった――隠しスイッチを事前に察知しろと言うのが無理な話なのだが、ともあれ、スイッチを押してしまった事により侵入者用のトラップが発動し、先頭を歩いていたエステルとヨシュアの前には無数の槍が降って来た。
槍が降って来る直前でヨシュアがエステルを抱えてバックステップした事で無事だったが、其のまま進んで居たらモザイク状態になっていたのは間違いなかった。


「ノーヴェ、京が慎重に行こうって言ったばっかでしょうが!!」

「いやぁ、隠しスイッチは分からないですよエステルさん……って、こんな所にもスイッチが……ポチッとな。」


隠しスイッチを踏んでしまったのは不可抗力だが、ノーヴェはこれ見よがしに設置されていたスイッチを見つけると、其れを迷わず押し込んだ!
そして次の瞬間には一向に無数の槍が降り注いだ!!


「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」」」


緊急回避(A+B)


「「「「おぉぉぉっと!!」」」」


ダッシュ(→→押しっぱなし)


「「「「よいっと!!」」」」


緊急回避・後(←A+B)


其れを見事なまでに回避して見せたのは実に見事であると言う以外に他はないだろうが。


「ノーヴェ……何だって妖しさ爆発してるボタン押してんだテメェ……答えによっては破門すんぞコラ……」

「何でって……其処にボタンがあったら、其れはもう押すしかないでしょう!?」

「其れは否定出来ねぇのが悲しいなぁ!!」


取り敢えずノーヴェがボタンを押してしまったのは不可抗力として、一行は施設内を探索して行った――施設内部ではAI制御された生産ラインが生きている場所もあり、其処では新たな兵器が開発され、その新兵器が一向に襲い掛かって来る事もあったが、此の面子の前には其れは大した脅威ではなく、現れた先から略瞬殺されていた――特にエステルとアインスの合体直射魔法砲撃『姉妹かめはめ波』は施設の壁をぶち抜いてしまうほどに強力だった。


「ヨシュア、お互い彼女がめっちゃ強いな。」

「うん、強いね。」

「将来的に京さんとアインスさん、エステルさんとヨシュアさんの間に子供が出来たら夫々の遺伝子を受け継いだ最強レベルのベイビーが誕生しそうですね。」


『雑魚は引っ込んでろ!』と言わんばかりに無双し、時には施設内の装置やら機械やらをも破壊しながら進んで行くと、やがて大きな部屋に辿り着いた。
大小複数のモニターに、多数のコントロールパネルがあるのを見るに、此処は施設のモニタールームだったのだろう……今やモニターは真っ暗でなにも映してはいないのだが、其の内の一つ、最も大きなモニターが突如として起動し、其処に映像を映し出した。


『フフフ、良くぞここまで辿り着いてくれた。君達の到着を待っていた。』

「貴女は……ミスX!!」


モニターに映し出されたのは、今回の依頼の依頼主である仮面の女性『ミスX』だった。
霧を吹き飛ばしたその時には既に姿がなかった依頼主が、こうして施設のモニター越しに現れると言うのは普通ならば有り得ない事であり、同時にその有り得ない事態にエステル達は、『今回の依頼は自分達を誘い出す為のモノだったのではないか』と思い至っていた。


「仮面女、テメェ何が目的だ?」

『私の目的は君達を此処まで連れて来る事だよ草薙京……私はそう命じられただけであり、其れ以上の事は知らない。詳しい事は私に命令を下したドクターかプロフェッサーに聞いてくれ。』

「ドクターと、プロフェッサー……?」


ミスXもまたドクターとプロフェッサーなる人物の部下に過ぎず、エステル達を誘い出した目的其の物は知らされていなかったようだが、更に何かを聞こうとした次の瞬間に部屋の中に何かが噴射された。


「コイツは、催眠ガスか!?……ったく、人の事を誘拐する奴等ってのはやり口も似通ってやがるな?……だが、甘いんだよ!頼むぜアインス!!」

「任せろ京!マイティガード・アルティメット!」


其れは催眠ガスで、エステル達を眠らせようとしたのだが、此処でアインスが複数の防御魔法を複合したオリジナル防御魔法『マイティガード・アルティメット』を使って全員に『属性攻撃無効(1度のみ)、物理攻撃半減、魔法攻撃半減、状態異常無効』のバリアを張って催眠ガスを無効にする。
更に京が属性攻撃が一度だけ無効になるのを利用して部屋に満ちた催眠ガスを大蛇薙で引火させて盛大に爆発させて部屋其の物を吹き飛ばし、モニタールームは一瞬にして見晴らしのいい屋上へと変貌してしまった。


「派手にやったわねぇ京?」

「過去に一度誘拐されてっからな、二度目は御免だっての……まぁ、誘拐されたからこそ、一人っ子だった俺にも齢二十歳になってから兄弟が出来た訳だがな。
 取り敢えず一度戻った方が良いかも知れないな?ロレントに戻ってカシウスさんに相談した方が良いかもだぜ。」

「確かに、父さんに相談した方が良いかも知れないわね……って、なにこれ!?」


モニタールーム其の物を吹き飛ばし、一度戻ろうとしたところでエステル達は床に巨大な魔法陣が現れた事に気付いた。
見た事もない不可思議な文字(?)が描かれた魔法陣は、特徴的な星模様を中心に円形に展開してエステル達を完全に囲い込んでいた――そして魔法陣からは強固な結界が展開されていた。


「此れは、此の魔方陣と結界は!」

「何か知ってるのヨシュア!?」

「昔文献で読んだ事があったんだけど、此れは遥か古代に使われていた結界魔法陣の『オレイカルコスの結界』にそっくりなんだ……文献では、オレイカルコスの結界は色々な効果を内包出来る結界だったって記憶してるよ。
 結界内の味方の強化、攻撃の無効化の他に、転移魔法を内包させる事で移動ゲートとしても使う事が出来たらしいね。」

「なんとも便利な結界だが……其れって若しかして、今回の場合は転移魔法が内包される可能性が高いんじゃねぇのかオイ!だとしたら冗談じゃねぇぞ!何とかならないのかアインス!」

「気付くのが少しばかり遅かったよ京……既に転移魔法が発動してしまっている……こうなっては流石に私でも如何にも出来ないな。」


そして其の結界は転移魔法を発動しており、結界内に居たエステル達は転移魔法によって一瞬で其の場から姿を消してしまったのだった――








――――――








その頃、なのはとクローゼとヴィヴィオは空中庭園で午後のティータイムを楽しんでいた。
なのはとクローゼはカルバートから輸入された東方のお茶を、ヴィヴィオは『ハチミツミルクティー』を飲みながら、これまたカルバートから輸入した東方の菓子をお茶請けにしていた。


「ふむ、此の月餅と言う菓子は東方の茶とよく合うな。」

「みたらし団子も、このあまじょっぱさがクセになる味ですね。」

「水羊羹最高~~♪」


親子水入らずのティータイムを楽しんでいたのだが……



――ブチッ!



そんな中で突然なのはの靴の靴紐が音を立てて切れた。
なのはが纏っている服は靴を含め魔力体なのでそれが自然に損傷する事はまず有り得ないのだが、それにも拘らず靴紐が切れたと言うのは不吉極まりないと言えるだろう――クローゼとヴィヴィオに悟られる前に靴紐を再構築したなのはだったが、靴紐が切れると言う不吉の予兆に、少しばかりの不安を感じていたのだった。











 To Be Continued 







補足説明